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3 縁 出会い

「おい、大丈夫か?」

「やめて!」

「しっかりしろ!」

 頭上から落ちてくる声に、紗紀は目を開け顔を上げる。

 目の前に若い男が立っていた。


 立てるか? と訊ねられ、腰をあげようとした紗紀の腕に、男の手が添えられた。

「すみません……突然、具合が悪くなって」

 紗紀はもう片方の手でこめかみの辺りを押さえる。

 頭痛はおさまったが、目の奥がまだチカチカした。

 そのせいで、少し吐き気がする。


 それにしても、今のは何だったのだろう。立ち上がった瞬間、目眩が起き、頭の中が真っ白になった。

 ふらつく紗紀の身体を支えたのは側にいる男の腕であった。もし、支えがなければ倒れていた。


 男は軽く息をつき、首を緩く振った。

「まともに影響を受けたようだな。歩けるか?」

 怖い。すごく嫌な感じ。

 まだ先程の恐ろしい声が、耳の奥にこびりついているようだ。吐き気を起こしそうな映像が、いまだまぶたの裏にちらついている。


「助けて」

「ああ、大丈夫だ。ゆっくり手を開いて君が握っているその指輪を僕に」

 言われた通り、手を開く。

 開いた手のひらには、きつく握りしめていた指輪の跡がくっきりとついていた。その指輪を男が受け取る。


「もう大丈夫。これで何も聞こえない。何も見えない」

 穏やかな男の声に、落ち着きを取り戻した紗紀の焦点がようやく結び始める。

 怖い声も映像も消えていた。

「はい。もう、大丈夫です……」

 と、言ったもののまだ足元がふらついて、何かにしがみついていなければ、まともに立てない。


 紗紀は男の腕にすがった。

 この人から離れたら、また怖い思いをするのではないかという恐ろしさもあり、相手の腕を放せなかった。

「カウンターの側に椅子がある。そこで休め」

「すみません」

 男に言われるままカウンター近くまで連れて行かれ、椅子に座らされた。


 私、突然どうしたの。何か変。


「今お茶を持ってこよう」

「だ、大丈夫です……」

 と言うが、明らかに大丈夫な顔色ではない。

「いいから座っていろ」

「はい……すみません」




 これが、紗紀と骨董屋『縁』の店主、伊月一空(いつきいそら)との出会いであり、縁であった。

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