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11 鏡は見ていた

「やっぱり、こっちの白い花柄のワンピの方がいいかな。でも、これだと気合い入れすぎのような。だったら、デニムのパンツ? いやいや、確かレストランを予約してくれたって言ってたから、いくら何でもラフすぎるか。普通に紺のスカートにブラウス。ちょっと堅苦しいかな。うーん、何着ていけばいいのかしら、どうしよう悩むわ」

 うー、と唸って頭を抱えたその時、玄関のチャイムが鳴った。

「はーい」

 玄関まで行き、ドアスコープから覗くと、扉の前で宅配業者の男がうつむき加減で立っていた。


 そういえば、実家の母が野菜やお米に缶詰など、いろいろ食材や生活品を送ったと連絡があったことを思い出す。

 おそらくそれであろう。

「いま、開けまーす!」

 和夏は玄関の扉を開けた。すると、荷物を持っていた男は和夏の身体を押しのけ強引に部屋に入ってきた。


「きゃっ!」

 男が手にしていた荷物が足元に落ちる。

「な……っ!」

 叫び声を上げようとした和夏の口を、黒い手袋をした男の手が塞ぐ。

 強い力で鼻と口を押さえ込まれ、息ができず苦しい。空気を求めようとばたばたと手足を動かすと、さらに男は口元を押さえる手に圧力をかけてくる。


 苦しさに涙が出た。

 後ろ手で玄関の鍵をかけた男は、和夏を奥の部屋まで引きずっていき、鼻息を荒くさせ、床に転がし強引に押し倒す。

 やめて、と和夏は目で訴えかける。

 だが、男は非情にも嗤うだけであった。


 男は腰にさしていた鉈を抜き、大きく振り上げた。

「いやーーっ!」

 振りおろされた鉈が和夏の顔を傷つけ、胸や腹を突き刺す。


 痛い……助けて!

 誰か……。


 男は無言で何度も何度も和夏の身体を切り刻む。

 刺した鉈を引き抜くたび、辺りに血が飛んだ。

 もはや意識が途切れても不思議ではないのに、それでも死にたくない、生きたいという彼女の生に対する強い執着心が、残酷にも魂をこの世へと繋ぎ止めていた。

 和夏は渾身の力を振り絞り、のしかかる男を両手で押しのけると、腹ばいになりながらローテーブルの上にある携帯電話に手を伸ばす。


 助けて……。


 突き飛ばされた男は逆上し、さらに和夏の背に鉈を突き立てた。

 引き抜いた鉈から散った血が、側に置かれていた姿見に飛ぶ。

「助け、て――」

 床に倒れ、鏡に映る自分の血まみれの姿を見たのが、彼女の最期であった。

 和夏の息が絶えても、男は鉈を振りおろす手を止めることはなかった。

 その凄惨な惨殺の場面を、鏡はすべて映していた。

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