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2 骨董屋『縁』

 暎子の助言で簪を売る決意をしたものの、実際どこに持っていけば売れるのかと紗紀は迷っていた。


 町でよく見かけるリサイクルショップで引き受けてくれるのかな。


 しかし、この簪が、そういうところで売れるかどうか分からない。それに、なぜだか分からないが、心のどこかで簪を売ることに躊躇いを覚えているのもあった。


 そんなことを悩みながら二日が経った日、大学の帰りに駅から自宅へと向かう途中のいつもの道が、ガス管工事のため迂回するよう交通誘導係に指示され、紗紀は裏道へと入っていった。

 大通りから一本それたその道は、普段なら絶対に歩かない道で、狭くて寂しい感じもしたが新鮮さはあった。


 へえ、こんなところにお洒落な雰囲気のカフェがある。

 わあ、雑貨屋さんだ。

 今度ゆっくり覗いてみよう。


 気になるお店をいくつか見つけ、胸を躍らせていた紗紀はふと一軒の店の前で歩みを止めた。

 扉の横にかかげられたプレートには、骨董屋『縁』という文字が書かれていた。


「えん? えにし?」

 店の名を呟き、紗紀はガラス越しに店内を覗き見る。

 骨董屋というからには、埃をかぶった古くさい品物がごちゃごちゃ所狭しと並べられ、暗い雰囲気が漂う場所を想像していたが、店内は意外にも洒落ていて、若い人が好みそうな品物も扱っているようであった。


 こういうところで簪の買い取りもしてくれるかな?

 見る限りお客さんはいない。

 入ってみたいと思いつつも、敷居が高そうで躊躇ってしまう。

 誰か一人でも店内に人がいたら入りやすいのに。

 また今度にしようか。


 そう思って通り過ぎようとしたが、なぜか思い直して店の扉に手をかける。

 恐る恐るといったように扉を開け、足を踏み入れる。

 チリンチリンとドアベルが鳴った。

 店内にはやはり人の姿はない。店員とおぼしき者も。


 紗紀は店の中を見渡した。

 西洋アンティークな置物や、照明に小物。年代を感じさせる家具。お洒落な花瓶に陶器、酒器。きれいな柄の着物を着た人形。それに、ため息がこぼれそうなジュエリーなど、店には素敵なものが並べられていた。


「これ素敵」

 紗紀は棚に置かれているアクセサリー類の中から、赤い石が嵌められた指輪の一つに目を止め手にとる。

 いかにも乙女心をくすぐる、アンティークな指輪であった。

「欲しいな。でも、高そう」

 値段を見ると、思っていたよりもお手頃価格で、決して手の届かないものではない。


 こういうのって、お高いイメージがあったけれど、意外にそうでもないのね。もちろん、物にもよるだろうけれど。


「欲しいけど、今は買えないな」

 一人暮らしをしたばかりで、まだまだ何にどのくらい出費がかかるのか把握しきれていないのが現状だ。

 バイトを決め、お小遣いに余裕ができたら考えよう。

 それまで我慢、と思いながら指輪を元の位置に戻そうとしたその時。



 ──のろって……やる



 どこからか、かすれたような声が聞こえ、紗紀はきょろきょろと周りを見渡すが、入ってきた時と同様、店には誰もいない。

「気のせい? ううん、違う」

 気のせいだと思うには、あまりにもはっきりと聞こえた。

 それでも、店には誰もいないのだから、やはり聞き違いだと思うことにした紗紀の耳に、またしてもその声が聞こえた。



 ──のろってやる



   おまえを……のろ、う



 紗紀は顔を引きつらせた。

 今度は確かに聞こえた。やはり、気のせいでも、聞き間違いでもない。



 ──ゆるさない



 突然、脳裏に映像が流れ込む。

 それはまるで目の前に、赤いペンキのような液体が流れ落ち、染まっていくような光景であった。


 いや、その赤は血。

 さらに、違う映像が頭に浮かぶ。血の海に倒れながら、悶え苦しむ女性が叫びながら手を伸ばしている姿を。


 怖い。気持ち悪い。

 吐きそう。頭が痛い。


「やめて……いやーっ!」

 悲鳴を上げながら紗紀はきつく目を閉じ耳を押さえた。

 その場にしゃがみ、頭に浮かんだ映像を振り払うように激しく首を振る。

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