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6 うさんくさい霊能者

 それから恭子が住んでいる町の最寄り駅にあるカフェまで向かい、待ち合わせをすることになった。

 カフェに到着したのは紗紀たちが先であった。

 待ち合わせの時間三十分は遅れて、友人の恭子が現れる。


「ごめーん、遅くなっちゃった。急だったから支度にいろいろかかって」

 支度ねえ、と紗紀は苦笑いを浮かべる。

 というのも、恭子の格好があまりにも、あんまりだからだ。

 髪を後ろでひっつめにし、ノーメイクによれよれのグレーのスウェット。そのスウェットの胸のあたりには何をこぼしたのか茶色いシミがついている。それも、すっかりスウェットにシミが馴染んでいる。

 足元は若い女性がそんなものを履くのか、と突っ込みたくなる茶色のつっかけ。


 大学は休みで、どこにも出かける予定がなかったのに、紗紀に呼ばれたから仕方がなく出てきた。

 まさに、恭子の格好はそんな雰囲気であった。

 彼氏と別れて何もする気が起きないのは分かるが、その姿は酷いとも言えず、紗紀は引きつった笑みを浮かべながら恭子を迎えた。


「ううん、突然呼び出したのは私のほうだから」

 恭子は一空の存在に気づき、驚いたように目を見開いた。

 驚いたのは間違いなく一空の容貌であろう。

 その証拠に、恭子はそわそわしながらぼさぼさの髪を手で撫で、身だしなみを気にし始めた。

 急いで駆けつけてきたとはいえ、適当すぎる自分の格好を恥じているらしい。


 もう遅いから。


 おおかた、霊能者というからには、気色の悪い陰湿なおじさんがやって来る。だから、身なりに気を使う必要はないと思ったのだろう。


 まあ、陰湿なのは当たっているけれどね。


 後で、こんな美形を連れてくるならちゃんと言ってよ、と恭子に怒られそうだ。

「ええと、さっき話した、骨董屋の店長で伊月一空さん」

 紗紀は一空を紹介する。


「ああ、オカルトマニアの店長ね」

「オカルト?」

 一空はじろりと紗紀を見る。

 僕のことをそんなふうに友人に言っているのか、とでもいう目つきだ。


「いや、ええと……あは、気にしないで」

 とりあえず、笑ってごまかす。

「一空さんは霊能者で」

 すると、恭子はふんと鼻息を荒くさせ嗤った。


「霊能者っていうと、テレビでよく見るあれ? 前にも言ったけれど、あたし、ああいうの信じてないんだよね。どうせ、テレビでやってるのもヤラせでしょう? 実際、この間の心霊番組もそうだったじゃない。心霊写真が合成だったってネットで話題になっていた。ああ、そうそう、その番組でうさんくさい霊能者がどこぞの廃村に行って除霊とかしていなかった?」

「ひいっ!」

「ラストで数珠振り回して、おふだを投げたり」


 おふだは投げていないから!


「いい大人が真剣な顔でお経とかあげて、ちょーウケたんだけど。アハハ!」

 紗紀はそれ以上は喋らないでという仕草で激しく両手を振り、恭子を黙らせようとする。


 それ、伊月さん本人だから。


「くっだらなかったけど、その似非霊能者がすっごいイケメンで好みだったから、つい観てた。あ、アイスティーください」

 恭子は水を運んできたウエイトレスに注文をする。

 テレビで観たその胡散臭い似非霊能者が、目の前にいる一空本人だと恭子はまだ気づかない。


「紗紀、この人、すっごいイケメンなのにオカルト好きってのは残念ね」

「ちょっと恭子、やめて」

「ねえ紗紀、イケメンだからって気を許しちゃダメ。目を覚まして。その人に、高い壺とか買わされなかった?」

「恭子!」

 しかし、一空は別に気を悪くしたふうもなく話を切り出した。


 一空の真剣な瞳が恭子に向けられる。

「えっと……」

 美貌の青年に見つめられ、恭子が動揺するのが隣に座っていても分かった。

 しばし、恭子を見つめていた一空の唇が動く。

 一空の口から出た言葉は、オカルト嫌いの恭子の不信感をさらに増長させることになった。

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