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5 再び『縁』へ

 紗紀は骨董屋『縁』の前で立ち尽くした。

 まさか、再びここに来ることになろうとは思いもしなかった。

 つい先日、店主である伊月一空に、この店で働かないかと誘われたことを思い出す。


 単純に骨董屋で働かせてもらえるのかと喜んだら、霊能者として自分の弟子になれと、とんでもないことを言い出したのだ。

 無理です、と言い切って店を飛び出し、二度とここへは来るつもりはなかった。


 確かに霊感があり、普通の人にはみえないものを視てしまうことはあるが、それはほんの少しだけ人より感覚が鋭いというだけで、霊能者になれるほどの特別な力なんてないのだ。


 そう、あるわけがない。

 というか、霊能者など目指したくない。

 それどころか、視える体質をどうにかして欲しいくらいだ。


 紗紀はため息をつく。

 できることならここには来たくなかったけれど、困っている友人を放ってはおけない。


 そうよ、友人のことで相談に来ただけ。

 他に頼れそうな人もいないから仕方なく。

 でも、相談料を払えと言われたらどうしよう。

 払うわよ。

 払うけど、思いっきり値切ってやる。


 よし! と決心したそこへ、店の扉が中から開かれた。

 紗紀はびくりと肩を跳ね上げる。

「いつまでそこに突っ立っている」

「え、えっと……」

 一空は腕を組み、口の端を上げにっと笑った。


「中から見ていて、なかなか面白かったぞ」

「面白いって何がよ」

 一空は身体を斜めに傾け、店の中に入るよう促してきた。

「あの……」

「入るのか? 入らないのか?」

「入ります!」

 半ばやけになりつつ、紗紀は店内に足を踏み入れた。


「それで、僕になんの頼み事だ?」

「何で私が頼み事をしにきたって思うわけ」

 一空は肩をすくめる。

「ここへ買い物をしにきたとは考えられない。もちろん、バイトをしにきたわけでも。ましてや、僕の弟子になることを決心したつもりもない」

「ええ、霊能者の弟子だけは絶対に勘弁ですから」

 絶対を強調して言う。

「ならば、僕に何か相談したいことがある。あるいは頼み事か、お願いか。それしか考えられない。それも、僕にしか頼めないこと。つまり、霊的なことだ」


 違うか? と一空は不敵に笑う。

 紗紀はがくりと肩を落とした。

 まさに、その通りだから言い返すこともできない。


「話を聞いてくれますか?」

「だから、店に通した。まさか、世間話をするために入れたわけではないつもりだが」


 はあ……そうですね。

 そうでした。

 っていうか、ああいえばこういう。

 やっぱり嫌な人。すごい苦手。


 紗紀は上目遣いで一空を見る。


 口を開かなければため息がでるくらい、いい男なんだけれどなあ。

 そう、口を開かなければね。


「それで?」

 話を促され紗紀ははっとなって、気まずい表情を浮かべる。

 まるで考えていることを読まれているようで、気持ちが落ち着かない。

 そういえば、霊視って相手の心の中まで読めてしまうのか。だったら、今思ったことも全部筒抜け?


 まさかね。

 超能力じゃあるまいし、いくらなんでも人の心まで読めるわけがないよね。


 ふるふると首を振って、紗紀は姿勢を正す。

「相談したいことというのは、実は、私の友人のことです」

 頭の中で何度も繰り返してきた内容を、一空に話して聞かせた。


 一通り話し終え、息をつく。

 話している間、一空は口を挟むこともなく、腕を組み目を閉じながら黙って耳を傾けていた。

 真剣に聞いてくれている。

「まずいな」

「まずい?」

「はやく対処をしないと、その友人が危険なことになるかもしれない」

 一空はゆっくりと目を開けた。

「危険って、冗談やめてください」


 今の自分の拙い説明で、どこまで友人の身に起きた状況を一空が知ったのかさっぱり分からない。

 それも危ない状況とは穏やかではない。

 一空は世間でも名の知れた、超人気霊能者だ。


 世間の人はあの容貌で人気をとっているだけで、実際は霊感すらない悪徳霊能者だと言っている人もいるが、前回の簪の件を見る限り、彼が似非霊能者ではないことは紗紀も承知しているつもりだ。

 だが、彼の実力を見たのはその一度だけ。

 それだけで、一空が持つ力のすべてを計ることはできない。

 と、長々と考え込んでしまったが、ようは私の話を聞いただけで何で分かるのかだ。


「友人に会えるか?」

「もちろんです。いつですか?」

「今すぐ」

 一空は立ち上がり、思わず紗紀は今すぐですか! と声を出す。

「急ですね」

「友人を救いたいのだろう?」

 救いたいのは、もちろんそうだが。

「何度も言わせるな。さっさとしろ」

 それほど一刻を争う事態なのか。


 それにしても、言い方ってものがあるでしょう。

 あんまりな一空の態度に、けれど文句を言える立場でもなく、従うしかなかった。

「聞いてみます」


 紗紀はバッグからスマホを取り出し、恭子に連絡をとる。

「昨日話した知り合いの霊能者に会ったの」

 と、切り出し、今から会えないか、ということを伝え電話を切る。

 返事はOKであった。

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