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21 因縁の相手

「弁護士!」

 チャラ男はニコリと微笑む。

「そういえば、自己紹介がまだだったね。僕は鴻巣迅矢(こうのすときや)。この通り弁護士だよ」

「ええっ!」

 自分でも驚くくらい、素っ頓狂な声が出てしまった。


「そんなに驚くほどのこと?」

 カウンターに寄りかかった一空は、腕を組み肩を震わせながら笑っている。

「おおかた、おまえのことをホストか何かと思っていたのだろう?」

「う……」

 図星すぎて言葉がでない。

 チャラ男はあはは、と頭を掻いて笑っている。


「顔に出ているよ。紗紀ちゃんは素直だね。でも、そういう顔も可愛いよ」

「すみません……」

「よく言われるから気にしなくていいよ。それと、僕のことは迅矢って呼んでいいよ。それかトキ」


 それ、おばあちゃんの名前……。

 まあ、チャラいが誰かと違って嫌味がない。


 紗紀は睨みつけるように一空を見る。


 そう、あなたとは違ってね!


「ところで、紗紀」

「何ですか」

 すっかり呼び捨てにされているが、今さら指摘する気力もない。

「バイトがまだ決まっていないと言っていたな。なら、僕の元で働く気はないか?」

 途端、紗紀は目を輝かせた。


「本当ですか! 実は私、働くならこういうお洒落なお店で、素敵なアンティークなものたちに囲まれながら働いてみたいと思っていたんです」

 しかし、一空はいやと首を振る。

「誰がこの店のバイトだと言った。僕の手伝いだ。僕の弟子として霊能者を目指せ」


 目が点。


「霊能者?」

「まあ、そのかたわら、店の手伝いもお願いしたいと思っているが」

「はあ?」

「紗紀には霊能者としての素質がある。その力を磨けば寄ってくる霊たちから身を守るすべを身につけられる。一石二鳥ではないか? 子どもの頃から霊が視えたり憑かれたりして困っているのだろう?」

「困っているけど、霊能者の修行は嫌です」

 紗紀はきっぱりとお断りをする。


「前にも言ったが、僕は霊能者だが、あまり目が利かない。だから僕の目になって視てくれたら助かる」

「そんなこと知らないわよ。そもそも、霊能者のくせに霊が視えないとか意味が分からないし」

「紗紀が力を得るまでは、僕が紗紀をそういった霊たちから守ってあげよう。それに、バイト代は弾むよ。そうだな……時給はこれで、さらに店にいる間は食事付き」

 一空は電卓を叩いて紗紀に見せた。


「えっと……」

 見せられた金額に気持ちが揺らいだ。しかし、慌てて心の中で首を振る。

「やりません!」

「あは、いっくう、断られたね」

「とにかく、ここには二度と来ませんから!」

 そう言って、紗紀はふいっと一空に背中を向け店から出て行った。もちろん、簪を持ち帰って。







 逃げるように店から出て行く紗紀の姿を、一空と迅矢は見えなくなるまで見送っていた。

「嫌われちゃったね、いっくう。追いかけて口説かなくていいの?」

 愉快そうに笑う迅矢を横目に、一空は肩をすくめた。

「どうせ、近々この店に来ることになる」

 へえ、と迅矢は眉を上げた。


「まさか、本当にあの子を霊能者として育てるわけ? 今まで弟子にして欲しいって言ってくる輩はいたけど、いっさい相手にしなかったのに、なぜ?」

 一空は腕を組み、不敵な笑みを浮かべる。

「彼女の素質は間違いない。育てれば、強力な霊能者となれる」

「でも、それだけじゃないよね?」

 一空は無言で迅矢を見る。


「もしかして、待ち望む相手を見つけた? 縁に引き寄せられ現れた、あの子がいっくうを殺すかもしれないし、救うかもしれない運命、いや、因縁の子?」

 さあな、と言って一空は、静かに笑うだけであった

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