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20 チャラ男の正体

「やあ、いっくう! もしかしたら旅行から帰ってきているかな、と思って寄ってみたんだ。やっぱり帰ってきてたんだね。僕のお土産ある?」

 馴れ馴れしい態度で、先日のチャラ男がやあ、と片手をあげ店に入ってきた。

「旅行に行っていたわけではないが、土産はそこにある。好きなだけ持って行け」


 そこ、と言って一空はカウンター横のテーブルを指さした。

 テーブルには大きな紙袋が置いてある。

 チャラ男は袋の中を覗き込む。

「わあっ、お餅だ。僕、これ大好きなんだ。いっくうは僕の好物を覚えていてくれたんだね」

「どこの土産屋に寄っても、それが売られていたから買っただけだ」

 素っ気ない一空の返しにも、チャラ男はめげなかった。

「他にも野沢菜に、唐辛子にリンゴバターも!」

 チャラ男は紙袋から次々とお土産を取り出し、テーブルに並べては無邪気に喜んでいる。


 紗紀は目を細めてチャラ男を見る。

 まるで子どものようにお土産を広げて喜んでいる男だが、今日もスリーピースを着込んだ隙のない格好。ワイシャツの袖も襟もおろしたてのように糊がかかっていて、靴だってピカピカだ。

 もしかしたら、スーツもシャツもオーダーメイドか。ネクタイだって高価なものに違いない。


「げーっ! 蜂の子ってこれはムリムリ!」

「栄養があるぞ。毎日忙しくしているおまえのためを思って買った。ありがたく思え」

「それでもムリだから!」

 チャラ男はいやいやをするように、首を振り蜂の子の入った瓶を一空の手に押しつけた。それにしても、何もこんな時にやって来ることはないだろう。いや、今こそ逃げ出すチャンスか。


「仕事帰りか?」

「そう、一仕事終えてここに寄ったんだ。今日も激しい対立だったけど、がつんとキメてきたよ! ま、これで僕の勝ちは確実かな。もっとも、初めから負けるつもりはなかったけどね!」

 と、チャラ男は親指を立てた。


 え? 一仕事って何?

 最初は、やり手青年実業家かと思ったが、それにしてもチャラすぎる。

 ホストだったら、これから出勤時間だろう。

 それとも、借金の取り立てかなにか。

 あるいは詐欺的なもの? たとえば、高齢者からお金を騙し取るアレ?

 ううん、そういえば、対立とかキメたとか今、言ってたよね。

 ってことは、その筋の人かな。

 ヤクザの抗争的なアレ?

 薬をキメるとも言うよね。あんなふうに見えて危ない人?


 この男の職業をいろいろ想像してみる。

 こちらに視線を向けたチャラ男が、ニコリと微笑みかけてきた。

 一空とはまた別の、女性を引きつける色気のある美形だ。

 見つめられ、思わず紗紀は頬をひくつかせる。


 やっぱり、ホストかも。


「紗紀ちゃん、来てたんだね。元気だった?」


 名前を覚えていたのか。

 会ったのはこれで二度目だし、まともに会話をしたわけでもないのに馴れ馴れしい。

 私を店に来させようと思ってもダメだから。

 本当にお金がないから。


「ところで、二人で何やら揉めていたようだけど、どうしたの?」

 一空は憮然とした顔で腕を組んだまま、口を開こうとしない。

 仕方がなく、紗紀がチャラ男に説明をすることとなる。


「伊月さんが、簪を返して欲しいって言うから……」

「簪? ああ、この間のアレね」

 やれやれ、といった仕草でチャラ男は大仰に肩をすくめ一空に向き直る。

「いっくう? 紗紀ちゃんが返して欲しいって言うなら、返してあげなよ。あまり女の子をいじめるのはだめだよ!」

 紗紀はそうそう、と頷く。

「そうですよね。元々あの簪は私のものなんだから」

 途端、チャラ男はすっと目を細め紗紀を見下ろした。


 あれ、雰囲気が変わった?


「だけど、法律的にはなしかな」

「法律的?」

 チャラ男の口から法律という言葉が出るとは思いもよらず、紗紀はきょとんとする。

「紗紀ちゃんが買い取りに出したものは紗紀ちゃんの意思によって処分された物なので、自己都合により取り戻すことは不可能なんだよね。よって、簪は一空が所有するもの」

 チャラ男は人差し指を立て、紗紀に言い聞かせるように説明する。


 チャラ男なのに、何でそんなことに詳しいの?


 ふと、紗紀はチャラ男のスーツの、胸につけられたバッチを見て目を丸くした。

 目を疑った。

 二度見した。

 目をこすってさらに、顔を近づけ、もう一度凝視する。

 金色に輝くひまわりをモチーフにした花。

 その真ん中には、まさかの天秤!

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