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16 除霊? 浄霊?

 曾祖母が眠る墓所は、屋敷の裏庭から続く山道を登ったところにあった。

 たいした距離はないから、すぐ辿り着くと祖母は言っていたが。

「とんでもない!」

 紗紀は立ち止まり、今登ってきた道を肩越しに振り返る。


 もう十五分以上も山を登っている。

 それも、道とは名ばかりの山道で、もちろん舗装はされていない。

 それでも時折、親族の者が手入れに来ているのか、道が荒れていないのが救いであった。


 歩みを止めた紗紀に気づいた一空も、立ち止まり振り返る。

「ずいぶん息を切らしているようだが、大丈夫か」

 涼しい顔で問いかけてくる一空は、息一つ乱していなく、汗もかいていない。


 急勾配の山道を登っても、イケメン振りを崩さない涼しい顔だ。

 大丈夫、と言えないところが情けない。

「す、少し休憩」

 息の上がった声で言い、紗紀はミネラルウォーターを飲みながら、ちらりと一空を見る。


 脆弱そうで、病弱そうで、貧弱そうで、頼りなさそうに見えるのに、どういう体力をしているのよ。

 一空は唇を歪めた。

 どうやら笑ったらしい。

 それも、嘲笑うような笑みが腹が立つ。


「そうか。なら僕は先に行って準備をしている。紗紀はゆっくり来ればいい。ただし、陽が沈まないうちに頼む」

 紗紀が持っている荷物を一空は受け取り、歩き出す。

「ま……待って!」


 行っちゃった……って、何が陽が沈まないうちによ。


 嫌な奴、と言えるはずもなく、紗紀はやむなく立ち上がり、急いで一空の後を追う。

 馬鹿にされてたまるものかという意地で、足を前に踏み出し、息も絶え絶えに墓所にたどり着いた紗紀は、両膝に手を添え肩を上下させた。


 ちょっとした見晴台になっているその場所に、ご先祖様の墓が並んでいた。さらに、その側に一本のしだれ梅の木がある。

 目の前に広がる景色は素晴らしいものであったが、今の紗紀には眺める余裕はなかった。


「紗紀?」

 何か言いかけようとした一空に、今は何も話しかけないでという仕草で紗紀は手をあげ止める。

 情けないことに、息があがって声もでない。

 先に到着していた一空は、墓前に花と水を添え、線香を焚いて紗紀が到着するのを待っていた。


 すでに準備は整ったというところか。

「思ったより早い到着だったな」

「がんばったから……」

 本当は置いていくなんてあんまりだ、と文句の一つでも言いたいところであったが、そこはぐっとこらえた。


 荷物を全部持ってくれたし、文句を言える立場ではないと思ったから。

 一空は曾祖母である楓がこの世に残した心残りを解決してくれると言ってくれた。さらに、成仏させるとも。

 メディアにも出ている、人気イケメン超有名霊能者、伊月一空がだ。


 ああそうだった。

 一空に、除霊料を払うお金がないってことをまだ言っていない。

 暎子が誰か霊能者に相談してみたら、と言われネットで金額をいろいろ調べてみた。

 料金はさまざまではあったが、決して安くはなかった。

 学生の身分である紗紀には大金だ。


 一応、人気霊能者である伊月一空に依頼するといくらかかるのかを調べてみたが、一空自身のホームページはなく料金等は不明だった。しかし、有名なのだからきっと高額であろう。

 バイトを見つけないと。

「紗紀、簪を出せ」


 もうすっかり私のことを呼び捨てなのね。そして、命令口調。

 別にいいけれど。


「はい」

 一空に言われた通り、バッグから簪を取り出す。

「それを墓前に添え、楓さんに返すんだ」

「いよいよ、除霊ですね」


 紗紀の言葉に一空は、あからさまに不愉快な表情をする。

「君は自分の曾祖母をまるで悪霊のように祓うと言うのか?」

「え? よく言いますよね、除霊するって。この間のテレビ番組でも除霊していたじゃないですか。あれをやるんですよね?」

 何か間違ったことを言ったのかと、紗紀は首を傾げた。

 一空はやれやれというように肩をすくめる。

「除霊ではなく、浄霊だ」


 除霊と浄霊。

 何がどう違うのか、と問いかけたかったが、今はそんな雰囲気でないことを察し口をつぐむ。


 さて、いったい何が始まるのか。

 浄霊とはどうするのか。

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