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13 遠い約束と誓い

 早春を告げる、しだれ梅の香りが甘く漂う。

 二人の男女がその梅の木の下に立っていた。

 秘密の逢瀬を隠すように、垂れた梅の枝が二人の姿を幕のように覆った。

「楓さん、すまない。君を妻にはできなくなった。僕が不甲斐ないばかりに。本当に」

 すまない、と男はかすれた声を漏らしうなだれる。


真蔵(しんぞう)さん……」

 私を妻にしてくれると約束したのに、どうして? と、喉まで出かかった言葉を飲み込み楓は唇を震わせた。

 けれど、落胆はそれほどなかった。

 この人と夫婦になることは、きっと叶わない願いだと、心のどこかで思っていたから。


 なぜなら、彼は村でも権威のある地主の家の若さま。

 一方、自分はしがない貧乏百姓の娘。

 家柄が違いすぎるのだ。

 どんなに互いが心を寄せ合っていても、彼の家が自分とのことを認めてくれない限り、結婚は許されない。

 そして、認めてくれる可能性はない。


 そもそも彼には、幼い頃から決められている許嫁がいた。彼の家に相応しい、立派な家柄の娘が。

 楓もその許嫁の姿を何度か目にしたことがある。

 美しく楚々とした女性で、彼女も彼のことを心から慕っているのが、端から見ていても分かった。


 涙を流し、謝罪の言葉を繰り返す真蔵を、責めることなどできない。

「たとえ、他の女性を娶ることになっても、僕の心は生涯変わらず楓さんを愛する」

 そう言って真蔵の手が楓の手を握りしめる。

「だから、この世では無理でも、あの世で結ばれよう。あの世で二人幸せになろう。そうだ!」

 真蔵は懐から簪を取り出し、楓の髪に挿した。


「君に贈ろうと思っていた。楓さん、もし、年老いて死んでも僕のことを今と変わらず思っていてくれるなら、この簪を持っていて欲しい。君が簪を手にしていたなら、僕は必ず迎えに来ると約束しよう。そして、二人であの世へ一緒に旅立とう」

 愛する人が贈ってくれた、梅の花を模した簪に触れ、楓は涙を流しながら何度も頷いた。


「はい。私も……私も一生あなたを愛すると誓います。この簪も一生大切に。だから、その時は必ず迎えに来てください」

「ああ、必ず。そして、あの世で幸せになろう」

 真蔵の胸に引き寄せられた楓は、彼の胸に顔をうずめ、涙を流しながら何度も頷いた。

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