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ruth story  作者: Cy


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7.5-2 「豪奢なる枷」



旅の足取りは非常に重くなった。


一行の足取りに、かつて風を切るような軽快さはもうない。

原因は明白だった。

王女サザリが乗る、天蓋付きの豪奢な馬車。

絹のカーテンが風に揺れ、車体に施された金細工が陽光を鈍く反射する。

王族の威光を示すには十分な乗り物も、未舗装の荒れ地を進むにはあまりに不向きで、ひどく緩慢だった。

車輪がぬかるみにはまるたび、石に乗り上げるたび旅は中断される。

屈強な近衛騎士たちが、美しい車体に傷一つつけぬよう、細心の注意を払いながら馬車を押し上げる間、一行はただ手持ち無沙汰に待つしかなかった。

本来、ロイ達だけであれば3日で港町までで到着する予定であったが、一日に進める距離は以前の半分以下にまで激減していた。





わがまま王女が下した命の一つ、野営の禁止は一行の精神をさらに蝕んだ。


「まあ、見てくださいませ、この土くれを!夜になれば得体の知れない虫どもが這い出してきますわ!」

「夜風は淑女のお肌にとって大敵ですのよ!」


サザリがそう言って眉をひそめるたび、一行はどんな辺鄙な場所にいようとも、毎回近くの町や村で、彼女が満足する水準の高価な宿を探すという新たな苦行を強いられた。

時には宿のある町へ向かうためだけに大きく迂回することを余儀なくされ、彼らの疲労と、なけなしの資金は凄まじい勢いで削られていった。


次いで戦闘はもはや連携を試す場ではなく、ただの消耗戦へと成り下がった。

魔獣が襲来するたび、近衛騎士団と神官たちは何よりもまず王女の安全確保を最優先とする。

彼らはサザリが乗る馬車の周囲を鉄壁の城壁のように取り囲み、一歩も動こうとしない。

結果、一行が連携して臨機応変に展開すべき戦術は完全に封じられた。

サザリ本人も戦うどころか甲高い悲鳴を上げてロイの後ろに隠れるだけ。

彼女を守るために、ロイたちは常に行動を著しく制限され、無駄な消耗を強いられ続けた。


そんな日々が、幾日も続いた。

今頃、とっくのとうにハナレア諸島についていたかもしれない。

一体いつまで、この茶番に付き合わなくてはならないのだろうか。

一行の中に隠しようもない不満とどうしようもない焦燥感が、ピリピリとした不穏な空気となって満ちていく。

いつ噴火してもおかしくない休火山のように。


その夜、ようやくたどり着いた街で、一行はサザリが選び抜いた不必要に豪華な宿屋に身を寄せていた。

きっと今頃王女はふかふかのベッドの上で侍女にかしずかれ、王宮で暮らしていた時と変わらぬ、優雅な夢を見ているのだろう。

王女をよそにロイたち一行は宿の外、月明かりだけが照らすひっそりとした中庭に集まっていた。


「……もう、あの王女様は置いて行こう」

最初に重い沈黙を破ったのはジークだった。

彼の声はいつも以上に低く、冷たい。


「あたしも賛成。あんな我儘に付き合っていたら、魔王復活も三回は可能だと思うわ」

クロエもまた、美しい顔に隠しようもない嫌悪感を浮かべ、ジークの言葉に強く同調する。

二人はまるで詰め寄るかのように、ロイへと鋭い視線を向けた。


「二人とも少し落ち着いて。国王の許しがある以上、飽きるまで彼女の遊びに付き合うしかないんだよ……」

「そうだよ。もどかしい気持ちは痛いほどにわかるけどね。仕方がない部分もあるさ……」

シルリアとクラリスがどうにか感情的になっている二人を理性的に宥めようとする。

その声にはもう、いつものような説得力はなかった。


ナックに至っては、このどうしようもないストレスを発散するかのように、中庭の隅で無我夢中で筋トレを始めていた。

彼にとってはそれが何よりの精神安定剤なのだろう。


ナナミは相変わらず我関せずといった様子で、ただ静かに夜空に浮かぶ月をその美しいライラック色の瞳で見つめているだけだった。


「……」

決断しきれない、もやもやした気持ちを胸に秘めながら、王女に振り回されて何日目かの夜が更けて行く。




***


そんな中、比較的強力な魔獣の群れに一行は襲われた。

王女の我儘に従い、田舎道から海沿いの宿へと夜道を急いでいた矢先だった。


夜道は魔獣が活発になる。だから出来るだけ移動を避けてきた。

更に厄介なことにこれまでの敵とは明らかに違う、統率の取れた、知性を感じさせる動きだった。


ロイはいつものように王女サザリを守るため、そして彼女に恐怖を与えまいとする、もはや騎士としての強迫観念にも似た動きで、無謀な立ち回りをしてしまった。

どうにも、王女のお気に入りだった“なんでも彼女の言う通りに動く自分”が捨てきれなかったのだ。

一瞬の隙をつかれ、敵の鋭く巨大な爪が彼の肩を深く容赦なく抉った。



「ぐっ……ぁっ!」


迸る鮮血。

その痛みにロイは思わず膝をつく。


「!!」


ナナミが条件反射でその手に治癒の奇跡の光を宿そうとする。

ロイは血が流れ出る肩をグッと抑えながらも頑なに、必死に拒否した。


「お前は、絶対にその力を使うな……!」


「けれど、ロイ」


「絶対にダメだ!」

見たことも、向けられたこともない剣幕でナナミの伸ばす手を振り払う。

それでも近づこうとしても、奇跡を使うつもりならば近づくなと言わんばかりの牽制をされてしまい、ナナミはより困惑する。

彼の傷はあまりに深い。

脂汗が額に滲み、痛みに顔を歪めているし、血は脈打つごとに次々と流れ出てくる。


このままでは危険な状態であることは、誰の目にも明らかだった。

急いで王女付きの神官1人がロイに寄り、祈りを唱え始めるも、教科書通り決められた台詞のような祈りは長ったるく、深手の傷にはイマイチな効果だった。

もどかしい気持ちにナナミはロイの背中をさすりつつ、眉を顰める。

ありったけのポーションを彼に飲ませ、クラリスと精霊の力も借りて、ようやっと血が止まり始めた。


あまりに緊迫した状況の中、サザリはロイの深い傷よりも、自分の美しいドレスの裾が戦闘の余波でほんの少し汚れてしまったことや、目の前で蠢く魔獣のおぞましい姿に怯えるばかりだった。

ロイの身を心の底から心配する様子は、全く微塵も見られない。


彼女の目にはきっと彼らは全て、便利な駒としてしか映っていないのだろう。


自らが治める国でならばその傍若無人は許されようとも、旅路と言う名の戦場での、残酷なまでに自己中心的な態度が、それまでどうにか理性の箍で抑えられていた一行の不満を、ついに完全に増幅させ、爆発させる最後の引き金となった。

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