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ruth story  作者: Cy


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7-4「神を騙るものたち」

一方その頃、ロイの切実な思いが通じるはずもなく、シルリア、クロエ、ジーク、そしてナックの四人は、聖騎士団にいるというシルリアの知人を頼りに、街の中心に聳え立つ大聖堂の辺りを散策していた。

レオンたちがいる古びた教会があった、潮風の香る穏やかな街の裏側とはまるで別世界。

大聖堂に近づくにつれて、道は美しい白亜の石畳に変わり、道行く人々の服装も質素なものから、色とりどりの絹や豪奢な装飾品を身につけたものへと、明らかに変わっていった。

やがて彼らの目の前に現れた大聖堂の外門は、彼らが想像していた、厳かで神聖な雰囲気とは、あまりにかけ離れていた。

純白の大理石でできた巨大な門には、悪趣味なまでに、大粒のラピスラズリや真珠が宝石箱をひっくり返したかのように埋め込まれている。

それらが、ぎらぎらと強い陽光を反射して、見る者の目を眩ませた。

信仰の象徴というよりは、富と権力を、これでもかと見せつけるためのただの威圧的な建造物にしか見えなかったのだ。


門の前はひっきりなしに人が行き交っている。

しかしその流れは、どこか歪だった。

神官たちは身に纏う神衣の色で、厳格に階級分けされているようだった。

最も下位とされる緑や青の神衣を纏った若い神官たちは、常に俯き罪人であるかのように壁際をこそこそと歩いている。

彼らが、紫、赤、そして黒といった、より高位の神衣を着た神官とすれ違う際には、深々と頭を下げ、その進路を敬意をもって開けていた。

そして、頂点に君臨するのが金や銀の豪奢な刺繍が施された神衣を纏う、一握りの最高位神官たちだ。

彼らはよく肥え太った身体を揺らしながら、誰にへりくだるでもなく、我が物顔で大通りの中央を歩いていた。

この国の歪んだヒエラルキーが、一目で見て取れた。


「……酷いものだね」

シルリアは氷のように冷たい声で呟く。

彼女の視線の先で、まさにその歪みが最も醜い形で現れていた。

高価な宝石を散りばめたドレスを纏った貴婦人が、数人の従者を連れて門に到着すると、門番である聖騎士たちは、それまでの仏頂面が嘘であるかのようにへつらうような笑みを浮かべ、丁重に彼女を中へと案内していく。


その直後だった。

腕に汚れた包帯を巻き、明らかに深手を負ったみすぼらしい身なりの旅の男が助けを求め、よろよろと門に駆け寄る。


「お、お願いです……!どうかお助けを……!道中で魔獣に襲われ、仲間が……!せめて癒やしの祈りだけでも……!」


しかし聖騎士はその懇願に耳を貸すどころか、まるで汚物でも払うかのように、その槍の柄で男を無慈悲に突き飛ばした。

「ここは貴様らのような者が軽々しく足を踏み入れていい場所ではない!施しが欲しければ、街の裏手にある古びた教会へでも行くがいい!失せろ!」


地面に倒れ伏し絶望に顔を歪める男。

その姿にナックが今にも飛び出していきそうなのを、ジークがその肩を掴んで冷静に制した。


「待て、ナック。ここで騒ぎを起こすのは、得策じゃない」

「だがよぉ!ありゃあ、あんまりじゃねえか!」


「中に入れないんじゃ、調べようがないじゃない!何よ、ここ!ケチ!聞いてた話と全然違うわ!」

クロエの抑えきれない怒りが、甲高い声となって張り上げられた。

その声に門番の聖騎士が、ギロリと殺気にも似た鋭い睨みをきかせてくる。



クロエは挑発に乗るかのように、大聖堂の宝石が埋め込まれた壁に、思い切り蹴りでも入れてやろうかと一歩踏み出した。

その腕をシルリアが、慌てて力強く掴んで制する。


「クロエ、落ち着いて!様子がおかしいことはもう十分に分かっていたじゃないか。今、感情的になるのはよくないよ。内部には入れなくても、外からでも何か聞き回ることはできるはずだよ。」


シルリアは瞳の奥に静かな怒りの炎を燃やしながら、そう言った。

女神エデルに一番近いと言われる、アストリアの代表の巫女がいる大聖堂が、天つ国に一番近い場所と謳われるこの国が、こんな惨状だなんて。

誰もが、ひどく困惑していた。

しかし、イル=シャル国のアミーラのような傲慢な巫女もいるのだ。

聖職者だからといって、誰もが清廉潔白であるわけではないという厳しい現実を、彼らは改めて思い知らされていた。


「……イル=シャル国では、あの女王でさえ、せめて会ってはくれたのにな」

ジークがぽつりと、悔しそうにそう呟いた。

一行はこれ以上ここにいても無駄だと判断し、無力感と湧き上がる怒りを抱えたまま、その場を踵で翻した。

その背中に聖騎士たちの、嘲笑うかのような視線が突き刺さっているような気がした。


***


ところ変わって、大聖堂の内部。

高位の神官たちが集う、豪華絢爛な食堂では、下界の惨状など、まるで存在しないかのように腐敗しきった饗宴が、日夜繰り広げられていた。

金や銀の神衣を纏った、肥え太った神官たちが、食べきれないほどの山海の珍味が並べられた、長いテーブルを囲んでいる。


彼らは最高級のワインをクリスタルのグラスで呷り、仔羊のローストを脂の乗った部分だけを食んでは、残りを平気で床に投げ捨てていた。


「おい!このソースはなんだ!酸味が足りん!犬のエサかこれは!」


神官の一人が気に入らないという理由だけで、まだ湯気の立つ皿を料理を作ったであろう、若いシェフの顔に、容赦なく投げつけた。

ロイたちがいる、あの古びた教会の者たちがこの光景を知れば、怒りと悲しみで反乱の一つでも起きていたことだろう。


贅沢と傲慢さが渦巻く空間に、一人の、痩せて貧相な神官見習いが、おずおずと入室してきた。

その場にそぐわない彼の登場に、高位の神官たちは、あからさまに機嫌を悪くする。


「失礼致します。神官殿、レヴィンソン伯爵夫人が、ただいまお見えになっております」

「ちっ、また来たのか、あの女は。要件は何だ」

「は、はい。なんでも最近、どうにも肩が重いらしく、魔のものにでも取り憑かれているのではないかと、ご不安なそうで……」


「ふん、下らん。そのような俗な悩み、そこらの聖女見習いにでも、ヒーリングでも掛けさせておけ。どうせ地下の、汚らわしい空間を浄化するよりは、喜んでやるだろう」


「は、しかし伯爵夫人は、なるべく高位の神官殿に、と……。多額の献金もお持ちであると……」


「今、我々は、このアストリアの行く末を深く憂い、厳粛な会食の最中なのだ。あまり口答えをすると、貴様も、あの『魂の天秤』にかけることになるぞ!分かったら、さっさと行け!」


「……はっ、も、申し訳ございません!」


神官見習いは、真っ青な顔で何度も頭を下げると、逃げるように部屋から出ていった。


彼が立ち去るのを見届けた後、神官たちは、何事もなかったかのように、口元をナフキンで拭い、贅沢な酒を口にした。

やがて、一番上座に座る、金色の神衣を纏った最高位の神官が、声を潜め周囲に聞こえないように声を顰めて密談を始めた。


「さて、忌々しい虫もいなくなったことだ。例の件だが、滞りなく進んでいるか」


「はっ。例の、『天秤への献金』でございますが、今月もかなりの額が集まっております。帳簿上はすべて、あの忌まわしい牢獄の『浄化費用』として、処理済みでございます。ミハエラ様には決して気づかれてはおりますまい」


「うむ。それからルミーナ王国から我が国への奉納品である、最高品質の『魔法石』の件だが。一部を横流しする闇市場のルートは、もう確保できたのか?あれを魔力の枯渇に喘ぐ他の小国に売りつければ、我々のこのささやかな晩餐も、さらに豪華なものとなろう」


「ご安心ください。すでにイル=シャル国に渡らないよう手配は打っております。完全に魔力エネルギーを失えば、我々の言い値で魔法石を売りつけることができるでしょう。あの若き女王アミーラが、我々の言いなりになるのも、もはや時間の問題かと」

「くくく……はっはっはっは!」

神官たちは自分たちの黒く巧妙な悪事が、完璧に成功することを確信し、下卑ていて醜悪な笑い声を豪華な部屋に響き渡らせた。


「それから一つお耳に入れておきたいことが。」


別の神官が立ち上がり発言する。


「なんだ、申してみよ」

「はい、なんでも200年前に魔王と共に封じられた魔女が……いや、魔女と瓜二つの者が勇者一行と共にこの国にやってきたと言う目撃情報を耳に入れました。なんでも魔女のくせに異様に女神の寵愛を賜っているとか。いかがいたしましょう?」

「ふむ、気になるな。利用価値があるかもしれない。その者だけ審判の間に連れて参れ」

「かしこまりました。」



その頃、大聖堂の冷たい地下では未来を奪われた若い神官たちが、自らの命を削って魔族の怨嗟を浄化し続けていた。

街の片隅では、多くの民が明日のパンにも事欠き、ただ女神エデルへの届くことのない祈りを、捧げ続けているのであった。



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