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ruth story  作者: Cy


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3-8「命の熱」


グランパルの亡骸の前で、ジークとネイシュカがゲルバスへの復讐を血の涙と共に誓った、その時だった。凍てついた静寂を破り、塔の下階から切羽詰まった声が響き渡った。


「ジーク!ネイシュカさん!無事か!グランパルさんが、氷結の塔に向かったって聞いて……!」

聞き慣れた仲間たちの声。

やがてロイを先頭に、息を切らせ、肩で激しく呼吸を繰り返しながら、シルリア、クラリス、クロエ、そしてナックが、雪と氷で滑る階段を必死の形相で駆け上がってきた。

彼らの顔には、最悪の事態を予感する不安と焦りが色濃く浮かんでいる。


彼らが最上階に辿り着き、目に飛び込んできた光景は予感していた最悪を遥かに超えるものだった。床に静かに横たわる、マントで覆われたグランパルの亡骸。

傍らで魂が抜け殻になったかのように呆然と立ち尽くすジークとネイシュカの姿。


「グランパルさん……! そ、そんな……嘘だろ……? さっきまで、あんなに……!」


ロイの顔からサッと血の気が引き、言葉が喉に詰まる。

他の仲間たちもまた、目の前の信じられない光景に言葉を失い、凍りついたように立ち尽くした。

やがて表情は深い悲しみと、やり場のない怒り、無力な悔しさで歪んでいった。自分たちの心までが凍てついてしまったかのように。

「そんな……ついさっきまで、あんなに元気に槌音を響かせて、私たちに笑顔を向けてくれていたのに……」

シルリアの声は、か細く震え顔を苦悩に歪ませる。


ロイは唇を強く噛み締め、拳を血が滲むほどに握りしめた。

ナックは大きな体躯に似合わぬほど優しい手つきでグランパルを抱え上げ、少しでも安らかに眠れるようにと、部屋の隅のまだ血に汚れていない清浄な場所へとそっと横たえた。

大きな背中は深い悲しみで小さく震えていた。


ジークは仲間たちの顔を一人一人、ゆっくりと見渡し決意したように深く頭を下げた。

「みんな……俺一人が、無鉄砲に突っ走ったせいで、じいちゃんを……じいちゃんをこんな目に……本当にすまなかった。でも絶対に……絶対にじいちゃんの仇はこの手で取りたいんだ。本当に勝手なお願いだって分かってる。……どうか俺に力を貸してくれ」

抑えきれない嗚咽で声が震えていたが、溶鉱炉の炎のように熱く揺るぎない決意が宿っていた。

「当たり前だろ!ジーク!」

ロイが悲しみを怒りに変えるように、力強く答えた。

「グランパルさんの仇は、俺たち全員の仇でもある! こんな理不尽、許されてたまるか!」

「このままアルバスの好き勝手になんて、絶対にさせられない!」

シルリアが弓を強く握りしめる。


「僕だって、戦うよ……!グランパルさんにはお世話になったからね」

クラリスの瞳にも、精霊の輝きとは異なる強い意志の光が灯る。

「もちろん!あたしだって黙ってないんだから!」

クロエも涙を拭い拳を握る。

「おうよ!あんな卑劣な奴、俺たちがぶっ飛ばしてやる!」

ナックの言葉には純粋な怒りが込められていた。

仲間たちのそれぞれの悲しみと怒り、ジークを支えようとする温かい言葉と眼差しに、ジークの瞳から再び熱いものが込み上げてきた。

孤独ではないという確かな実感だった。


「……ありがとう……お前ら……本当に、ありがとう……!」

仲間たちの燃えるような絆を胸に、ジークは因縁の魔獣、魂喰のゲルバスとの最後の戦いに挑むことを改めて決意した。


「奴はより強く、より新鮮な魂を求めている。私たちがここに現れたことで、久しぶりにノルディアに満ちた新鮮な魂の香りに、おびき寄せられたのかもしれないね……。そして、何よりも、この『万年氷の種火』の強大な力に、強く惹きつけられているはず」

ネイシュカが、ゲルバスの行動を冷静に分析しながらも、長年抱えてきた恐怖からか拭いきれない不安の影が滲んでいた。

ずっと後方で静観していたナナミは、ネイシュカが見つめる先にある、不気味なまでに蒼く燃え盛る『万年氷の種火』を、宿敵を睨みつけるかのように、キッと鋭く睨みつけた。


「……ネイシュカ、ここにいる全員に私たちの奇跡を使うわ。少しでも勝機を上げるために。力を貸して」

ナナミの静かで強い意志を込めた言葉に、ネイシュカは僅かに目を見張り、無言で頷いた。

二人は向き合う。

ノルディアの巫女と、伝説の魔女の子孫。

二人の稀有な力を持つ者が並び立ち、手をそっと合わせる。

するとネイシュカの清浄なる神聖な気とナナミの祈りが、神々の時代から定められていたかのように完璧に共鳴し合い、温かくも力強いどこまでも優しい光の波動となって仲間たち一人一人の体を包み込んだ。

春の陽光のような温もりが、凍てついた心と体に染み渡り、全身の細胞が活性化し力が漲り、五感が極限まで研ぎ澄まされていくのが分かる。

二人の力を合わせた、強力無比な身体能力向上の奇跡だった。


作戦はシンプルかつ、危険なものだった。

アルバスを『万年氷の種火』が安置されたこの最上階まで誘き出し、仲間たちの総力で一気に叩く。

最も危険で、生還の保証すらない囮役には満場一致でクロエが選ばれた。


「な、なんであたしがそんな危険な役なのよぉ!」


クロエが涙目で抗議するが、ジークが腕を組み真顔で断言する。

「クロエ、お前しかいない。一択だろ」

その言葉に、ロイ、シルリア、クラリス、ナック、そしてネイシュカまでもが、うんうんと深く頷く。


「だってお前が一番、なんていうか、こう……騒がしくて活きが良さそうだからな!」とナック。


「ええ、断言するわ。この中でクロエの魂が一番美味しそうだもの」

ナナミまでもが真顔で追い打ちをかける。


「あんたたちねぇ!それって褒め言葉ってことでいいのよねぇ!?もう、こうなったらやってやるわよ!」

クロエは頬をぷくっと膨らませながらも、瞳の奥に恐怖を押し隠し、仲間たちとグランパルのために、危険な役目を引き受ける覚悟を決めていた。

若く、生命力に溢れた彼女の魂はアルバスにとって何よりの馳走に違いないのだから。


一人、雪原にクロエは立つ。

先程の吹雪で、彼女の桃色の髪はまたもや前衛芸術のような奇抜な形のまま凍りつき、カチカチに固まっていた。


クロエはブルブルと震える体を必死に叱咤し、意識を集中する。

冷たい風が薄着の彼女の体温を容赦なく奪ってゆく。


ついにその時は来た。

空間そのものが悲鳴を上げたかのように、漆黒の靄が渦を巻きながら凝縮し、ゲルバスがそのおぞましいまでの異形の姿をぬらりと現した。

複数の血のように赤い瞳が、クロエの魂を極上の獲物を品定めするかのように、ねっとりといやらしく見つめる。


「きゃあああああああああああああっ!!!!もう、ほんっとにあいつらああああああっ!」


クロエは、ゲルバスのおぞましい姿と視線に全身の肌が粟立つのを感じ作戦通りの甲高い悲鳴を上げた。

氷結の塔の内部へすぐさま入ると、種火のある最上階へと続く、あえて入り組んで見通しの悪い通路を選び、全力で駆け出した。


ゲルバスは人間を弄ぶかのように嘲笑い、不気味な音を立てながらゆっくりとクロエの後を追う。

活きのいい魂を喰らおうと、歪みきった鋭い爪が伸ばされるたび物陰から飛び出したナックの巨大な戦斧が唸りを上げて叩きつけられ、シルリアの聖なる気を纏った矢が正確に急所を狙う。

しかし、ゲルバスの体は霞か陽炎のようで全ての物理攻撃が虚しく空を切り、嫌な手応えのなさだけを残してすり抜けてしまう。


「くそっ!こいつ、物理攻撃がきかねえ……!どうなってやがる!」

ナックが悔しそうに呻く。


ふと、最上階で仲間たちと共に待ち構えていたロイの背後に、ゲルバスの影が煙のようにゆらりと蠢いた。

瞬間移動したかのように、音もなく。

血走った赤い瞳は今度はロイの、勇者としての強く清らかな魂を品定めしている。

「イイ……タマシイ……コレハ、コレハ、イタダク……」

その時、ロイの背後からナナミの凛とした鋭い声と共に、凝縮された純粋な魔力の閃光が一条の光となってゲルバスへと放たれた。


「させない!」


魔法は確かにゲルバスの体に直撃したかに見えた。

やはり体は水面のように揺らめき、決定的なダメージには至らない。

存在自体がこの世の理から外れているかのようだ。


「背中がガラ空きよ、勇者様!」

ナナミは魔法を放った右腕を苦痛に顔を歪めて、強く押さえていた。

いつもより明らかに威力が弱く、魔力の消耗が異常に激しいようだった。


「ナナミ!その腕……一体どうしたんだ!?」

ロイが一瞬の異変に気づいて鋭く叫ぶ。


「イマワシキ、ジャマナ、タマシイ……マズハ、オマエカラ……キエヨ」


ゲルバスの複数の瞳が厄介な魔法を連続で放ってくるナナミへと一斉に向けられ、凶刃が今度こそ彼女を捉えんと振り下ろされようとした。


「うちの回復士には指一本触れさせないよ!氷の精霊よ……どうか清浄なる力を、今こそ僕に貸してくれるね?」


クラリスがまるで歌うかのように鋼の意志を秘めた凛とした声で詠唱する。

彼の周囲をまるで戯れるように嬉しそうに飛び回っていた、小さな青白い光を放つ氷の精霊が、彼の呼びかけに応え、ゲルバスを取り囲むように目にも止まらぬ速さで舞い始めた。

周囲の気温が嘘のように急激に低下し、ゲルバスの体の表面が、パキパキ、バキバキと音を立てて急速に凍りつき始めたのだ。

全てを完全に凍らせるには至らない。

ゲルバスの邪悪な魔力が必死に拒んでいる。

しかし霞のようだった体の一部分が確かに分厚い氷に覆われ白く凍りつき、“実体”を持ち始めていた。


刹那の好機を勇者は逃さなかった。


ロイの剣が凍りついたゲルバスの一片を鋭く捉える。

パキン!

確かな手応え。

実体を持った箇所が甲高い音を立てて砕け散り、ゲルバスの体が僅かに欠けた。

「効いた……!」ロイが叫ぶ。


「「!!」」

ジークとネイシュカの脳裏に、鮮烈に光明が閃いた。これだ、これしかない!


「今だ、ジーク! ここで決める!」

ネイシュカの決然とした叫びと共に、彼女の全身からこれまで抑えに抑えていた強大無比な氷の加護が、極光オーロラの奔流のように解き放たれる。

圧倒的な冷気はクラリスの氷の精霊アイシュラが作り出した氷の核を起点に、ゲルバスの動きを完全に封じ込めるべく、巨大な氷塊となってその異形の身を瞬く間に包み込んでいく。


「ウオオオオオオッ! キ、サマァァァァァ!! コノ、コノォォォォォ!!」


ゲルバスが氷の中で身悶えし苦悶の叫びを上げるが、ネイシュカのグランパルへの想いと仲間たちの願いを乗せた氷の加護は、もはや揺るがない。

ーーあらゆる邪を滅する絶対零度の棺。


完全に氷の棺に閉じ込められたゲルバスの中心、禍々しい魂が凝縮された核を目掛けてーー

「うおあああああああああああああああああ!!!! !!!!」

ジークの迸る怒りと止めどない悲しみ、仲間たちの全ての想いを込めた槍が、グランパルから受け継いだ鍛冶の魂そのものを宿したかのように、一点に極限まで集中され、空気を切り裂く閃光と共に突き込まれた。



ゴシャァァァッッッ!!!



巨大な氷塊が、内側から爆ぜるような轟音と共に砕け散る。

ゲルバスの断末魔の、この世のものとは思えない絶叫が塔内に木霊し、邪悪な存在はまるで燃え尽きたかのように黒い消し炭となり、パラパラと灰となって風に舞い完全に消滅した。


「やったのか……」

「いいえ、まだよ。ゲルバスは消えたけれど、解決しなくてはならない問題があるわ」


ゲルバスが消滅した直後、ごうごうと怨嗟の叫びのような音を立てて、最上階に安置された『万年氷の種火』の蒼炎が、最後の抵抗とばかりに異常なまでに激しく燃え盛った。

塔全体が不気味に震え、窓の外の天候はこの世の終わりが訪れたかのように、猛烈な吹雪と空を引き裂くかのような雷鳴で荒れ狂い始めた。


異常なまでの変化にいち早く気づいたのは、ナナミとネイシュカだった。


「ネイシュカ……この『万年氷の種火』に、魔王の魂の欠片が宿っているのね。」

ナナミが常とは違う険しい表情で、鋭い視線を燃え盛る種火に向けながら言った。

「……ええ。長年、この力で抑え込んできたけれど……もう限界なのかもしれない」


ネイシュカは、こくりと覚悟を決めたように重々しく頷いた。

長年一人で抱え込んできた秘密が暴かれたことへの僅かな安堵と、これから起こるであろう、否、起こさねばならぬ事態への悲壮が表情に滲んでいた。


「悪いけれど、この『万年氷の種火』はここで壊させてもらうわ。これ以上歪んだままではいけない」


ナナミは有無を言わせぬきっぱりとした口調で言い放った。


「しかし……それは……」


ネイシュカは、最後の最後まで苦渋の表情で反論しようとする。

彼女が何年も死に物狂いで守り続けてきたものだったのだから。




「春が来ないと信じて、永遠に終わらない冬をたった一人で守り続けるのは、少しだけ、寂しすぎるでしょう? 」




ナナミは穏やかに、ネイシュカの心の最も柔らかな部分に触れるような、全てを見透かすような優しい声で言った。


「…………っ」


会って間もないはずのナナミがまるで自分の長年の孤独と誰にも言えなかった葛藤の全てを知っているかのような物言いに、ネイシュカは驚き、ずっと張り詰めていた心の糸がふっと緩むのを感じ、言葉が出なかった。

「悪いけれど、あなたの返事を聞いているつもりはないの。これは私が決めたことだから」


ナナミはそう言うと決然と『万年氷の種火』に向かい合い、小さな手のひらからあの吹雪の洞窟でロイを温めたのと同じ、満天の星空を閉じ込めたかのような温かく優しい魔法の炎を静かに翳した。

種火の魂まで凍てつかせるような圧倒的な冷気が、ナナミの炎を押し返そうと抵抗し彼女の手元がパキパキと音を立てて白い霜に覆われていく。


「くっ……!」


それでもナナミは決して諦めず、さらに魔力を込めて、心の炎を燃やし、魔法の炎を大きくしようとする。

それを見かねてロイもまた迷いなくナナミの隣に立ち、自身の右手を種火へと翳した。

途端に体の芯から魂ごと一瞬にして凍りつくような、凄まじいまでの冷気がロイを襲う。

記憶も、感情も、喜びも悲しみも、何もかもが冷たく硬直し消え去っていくような絶望的な感覚。




しかし、ただ一つだけ。



吹雪の洞窟で、思いもよらず灯された魔法の炎。

あの温もりがロイの心の中で、決して消えることのない道標のように強く、何よりも暖かく揺らめいていた。


「みんな!頼む!手を貸してくれ!このままじゃ、ナナミが危ない!」

ロイが、歯を食いしばりながら叫ぶ。

仲間たちが一瞬ためらい、恐怖に顔をこわばらせながらも次々と種火に手を翳していく。

「ひゃ!ひゃああ!さ、さむい……!!!」


クロエが半泣きになりながらも、決して手を離さない。

「うぅ……炎の精霊たちが、この地にいてくれれば……もう少し、冷気を和らげられるのに……!」

クラリスが、自身の無力さを噛み締めるように悔しそうに呟く。


「ロイ!これ、こうするとっ、一体どうなるの!?私たち、大丈夫なの!?」

シルリアが、不安と恐怖と寒さに声を震わせながらも、ロイを信じて手を翳し続ける。

「……分からない!ナナミ!この種火を消したいんだろ?!」

コクリ、真剣な顔でナナミが頷く。

「もっと、もっとだ!!全然熱が足りない!」



覚悟を決めたネイシュカもまた、そっと震える手を翳した。

彼女の手もまた、瞬く間に白い霜に覆われ、氷の彫像の一部のようになっていく。

手を翳している者たちの手は、パキパキと不気味な音を立て、死蝋のように白く、硬く凍りつき始めている。

ネイシュカの「あと、何人分の人の温もりがあれば」という絶望的な言葉がジークの脳裏に鮮明に蘇り、無理だ、これ以上は本当に危険だ、仲間たちまで犠牲にするわけにはいかないと彼の心が絶叫する。

「ジーク!!ためらわないで!君の力が、今、必要なんだ!」

ネイシュカが、苦痛に耐えながら叫んだ。

「……っ!」

「大丈夫だっ!俺たちなら、きっとできる!俺たちなら、未来を掴めるって!」


ガタガタと震えながらロイが、魂を振り絞るように叫ぶ。氷のように冷え切っていたジークの心に、熱い楔を打ち込んだ。


「じいちゃん……俺に、後少しだけ……あんたの熱い魂を、力を貸してくれ……!」



ジークの脳内に、生きているかのようにグランパルの力強い、愛情に満ちた怒鳴り声が雷鳴のように轟いた。


ーー「シャキッとせんか、ジーク!わしが魂込めて育てた自慢の男が、こんな肝心なところで胸を張らないでどうするんじゃい!未来は、お前たちが作るんじゃぞ!」ーー




「……うおおおおおおおおおお!!!!やってやるぜええええええええええええええええええええええ!!!!」


ジークは心の底からの雄叫びを上げ、最後の力を振り絞り凍てつく種火のへ血の滲む手を力強く翳した。

輪になる形で仲間たちの熱い想いが一つに重なる。

絶望的なまでの極寒の中で、それでもなお消えることなく燃え盛る「人の温もり」そのものだった。

希望の炎だった。


皆の想いが、魂の叫びが、一斉に種火の蒼白い炎へと濁流のように注ぎ込まれていく。

するとあれほどまでに禍々しく燃え盛っていた魔王の魂を宿す炎が怯んだかのように徐々にその勢いを弱め、激しく揺らぎ始め、やがて最後の冷気の燻りを、断末魔の叫びのようにふっと吐き出すと、静かに永遠の眠りにつくかのように、消えた。


『万年氷の種火』が消えた瞬間、ノルディア全土を覆っていた肌を刺すような異常なまでの寒さが、ほんの少しだけ和らぎ始める兆しが見えた。

ずっと吹き荒れていた全てを凍らせるような風の質が心なしか柔らかく変わり、重く垂れ込めていた鉛色の空の色がほんのわずかにしかし確かに明るくなったような気がした。


どうやらこの地を歪めていた魔王の魂の影響も、呪われた種火と共に完全に消え去ったようだった。

「き……消えたーーーーーー!!!!」

誰かの叫び声が辺りに響き渡る。


ガタガタと凍える体で震えながらも、仲間たちは顔を見合わせ、静かに氷の灰だけが残る種火の跡を見つめ互いの肩を力強く抱き合い、身を寄せ合った。

そこには極度の疲労と極限からの安堵、大きな何かを、絶望的な何かを成し遂げたという、魂が震えるような達成感が満ち溢れていた。




ノルディアの長い長い厳しい冬の終わりを告げる。

まだか細い春の息吹が、確かに今生まれようとしていた。



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