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続き。
クフカが勢いよくドアを開け放ち部屋の中に入る。
「どうしたんだいクフカ?体調は問題ないかい?」
「だいじょうぶ。それよりツラがおっきいイノシシがこっちに向かってくるっていってた!」
クフカは背伸びをしたり、両の手で大きく円を描くように動かしたりすることでイノシシの大きさを表現している。
帰り支度をしていたヒデはその話を聞き何かを考えるように眉を顰めぶつぶつと独り言をつぶやき始めた。
「イノシシ...ってことはスチェイン系の魔物だな。その中でこの森に生息しているこの系統の魔物で巨大なもの...?多いのは中型だが稀に大型かもしれないか?だが、それであれば警戒心が強いからこんなあからさまな建物に来るのもおかしい。」
そうして小言をつぶやきながら腕を組み顎鬚を触りながら考え耽っていたヒデは、はっとした表情でドア付近でルサナと会話していたクフカに声をかける。
「こんにちは、クフカちゃんだったかな?おじさんはヒデっていうんだ。良ければおじさんにもそのイノシシについて教えてくれないかな?」
突然ヒデに話しかけられオロオロと困惑した様子のクフカは助けを求めるようにルサナに目を向ける。
この様子を見たルサナはにっこりと微笑みヒデとクフカを一瞥し、二人それぞれ紹介がまだであったことを思い出し軽く紹介を行う。
「クフカ、こちらはヒデさんと言って先ほど僕たちと友人になった。良ければ仲良くしてね。ヒデさんは名前を何度か出したのでわかりましたかね。彼女がクフカです。...それでま魔物の話でしたかね?」
「ああ、ここに向かってきているヤツがあまりにも大きい場合、スチェイン系の王って言われるウルスラグナの可能性がある。他の同系統の魔物だったら問題無いとは思うんだが、ウルスラグナはやばい。下手すればここ一帯が更地になるぞ。」
言及するウルスラグナが相当恐ろしいのかヒデは焦った様子でその説明を行う。そんなヒデの様子を横目に何をそんなに慌てているのかと言いたげな表情でクフカはツラから聞いたという情報と伝える。
「この家と同じぐらいのお大きさで、この前クウトがたおしたやつと同じって言ってた。」
「おいおい、やっぱりそれってウルスラグナじゃねぇか!やばいぞまずは避難か、いや...」
『あー、あいつか。あのでかいだけでノロマなやつ。あんなでかいのがもう一体近場にいるのかこの森は。凄いな!』
ヒデの様子に反して姿は見えないが落ち着いたクウトの愉快そうに笑いながら感心した様な物言いが聞こえてくる。
そんな様子に釣られてかヒデの焦りの様子は徐々に薄れていく。そういえばこの場にいるのは古の英雄様だと、彼らからしてみれば大した問題ではないのだろうとヒデは納得した。
「そうか、お前たちからすればウルスラグナ程度問題ないって話なのか。しかも今前に倒してるって言ってたな。」
『あぁ、それこそおっさんが言ってた音の正体がそれだぜ。なんかでっけぇイノシシがいるから武器の試しにと色々してたんだが、そん時は跡形もなく消し炭になったな。』
「跡形もなくか。確かにそれほどの出力なら上の言う聞きなれない音が森の外まで聞こえてくるのもおかしな話じゃないな。」
合点がいったとヒデはクウトの言葉に納得し、しかしそれほどまでの武器を扱うという勇者の力量にも再び慄く。
「それで、そのウルスラグナとかいう魔物どうするのさ。今回もクウトが片付けるかい?あの時みたいに騒ぎにならない様にしてくれるなら何でもいいんだけど。」
『......いや今回はクフカにやらせよう。』
「わたしがやるの?」
まさか自分に回ってくるとは思ってもいなかったクフカは突然の指名に驚く。
『魔力の発散も必要な頃合いだし、あいつなら今のクフカでも十分倒せる。晩飯前の軽い運動ってことでやってみようぜ。保険としてツラを付けていればいけるだろ。』
「そうだね。今後のことも考えて丁度良い的が来たと思えば好都合だ。それじゃあクウト、ツラにもそのことを伝えてクフカと準備をしてきて。」
「わたし、あいつたおせばいいんだね。分かった。行こうクウト。」
なんだかウキウキとした様子のクフカはクウトがいるのであろう方に話しかけながら部屋出ていく。サクサクと決まっていく方針に呆気をとられていたヒデは慌ててルサナに詰め寄る。
「おい、いくらお前たちからすれば楽に倒せる魔物とはいえギルド指定の危険度はかなり高いぞ。それなのにあの子に討伐を任せるなんて何を考えているんだ!こんな危険なこと...」
自分たちが大切にしたいと言っていた子を魔物の、しかも危険度の高いウルスラグナのと討伐をさせるなんてとヒデは激高していたところを落ち着いた様子のルサナに制止される。
「まぁまぁ、大丈夫ですよ、見ていてください。クフカはちゃんと強いですから。」
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準備ができたというクフカの言葉を聞き、ルサナとヒデは家を出てウルスラグナが爆走している方へと目を向ける。
今までの言葉が嘘でなければ最悪な事態にはならないだろうとヒデは思いつつも、いまだにルサナの言葉が信用できていないため、いざとなったら自分が全力で助けに行けるようにと身構えている。
「なぁ、本当に大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫ですって。あ、今ツラとクフカが話してますね。戦う前にちゃんと注意するポイントをクフカに伝えているようです。」
『本当に危険な時はツラがどうにかする、心配しすぎだぞおっさん。考えてみろよ、勇者3人が師匠となって教えているクフカがあんなでかいだけのイノシシなんて瞬殺だぜ?...ほらそろそろ来るぞ。』
遠くの方から爆走してきていたウルスラグナはすぐそこまで来ていた。体の小さなクフカの数十倍大きく、キバはその体の半分もあるほど巨大だ。そんな巨体が爆走しているためか少し離れた場所から見ているヒデたちも振動を感じるほどに揺れており、近くにいるクフカ感じる揺れは相当なものだろう。
『ほら、行くぞ!』
クウトが言うと同時にクフカはウルスラグナへ向かって走り出す。
自分へと向かってくる小さな影を認識したウルスラグナは軽く払うように牙を振り回しながら迎撃する。圧倒的重量感から繰り出されるそれは眼前の地面を抉り、岩を飛ばしながらクフカへと迫る。
これに対してクフカは冷静に対処する。自身に当たりそうな岩は回避し他は無視、そして迫ってくるウルスラグナに対して手に構えていた短剣を向ける。牙が迫り衝突する...かと思われたが、その寸前に短剣で牙を弾きその反動で盾に飛び上がりそのままクフカはウルスラグナの背中へと飛び乗った。そしてその勢いを失わないように背中を駆け抜けながら短剣を突き刺していく。
目の前のそれが障害にもならないだろうと思っていたウルスラグナはまさか敵が背中に乗っているとは思わず、突如として感じる背中の違和感に悲鳴を上げる。これを取り除くためウルスラグナは体を強く揺らすものの、クフカは突き刺した短剣を支えに耐える。意味のない行動と悟ったウルスラグナは敵を排除すべくその場にとどまり魔力を練る。
『あ、終わったな。』
「所詮は魔物だね。背中に乗られる何てこと今までなかったから慌ててはいるんだろうけど、あのあの状況で魔法の構築は悠長だね。」
ウルスラグナが動きを止めた瞬間、クフカは突き刺していた短剣を抜き取りウルスラグナの首元へと走る。そしてまた突き刺したと思ったらすぐに首に沿って刃を入れていく。ウルスラグナがまほう魔法を展開しようとしたその時にはもう遅かった。
クフカの刃は致命傷を与えるに十分なもので終わったというようにクフカが地面へと降降りたと同時にウルスラグナは絶命しその巨体は崩れ落ちた。
クウトとルサナの2人が何を言っているのか全く理解ができなかったヒデは口をぽかんと開けてその最後を見届けることしかできなかった。
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「まさかあそこまで強いとは思わなかったぞ。あの小さいからだにどんな仕掛けがあるんだ?」
クウトはウルスラグナの死体処理のためにクフカの方へ行くと言い去る。ヒデからすれば元々姿が見えていないため何も変わったことは感じられなかったが、そんなことはどうでもいいと先ほどのクフカの動きについてルサナに問いかける。
「クフカが元々魔力が大ことは言いましたね?しかし、それが仇となって自身の中にある魔力をコントロールが難しい状態にありました。魔法を使い消化するのが最も手っ取り早い方法ではあるのですが、魔力を外に放出するという行為は彼女の子どもの体では負担が大きいんです。なので、一旦は荒療治として体内の魔力を自身の体で循環させ身体能力を上げる、という方法を取りました。」
「それでその身体能力の向上であんなうごきができると?」
「日ごろからクウトやツラが特訓と言って色々してますからね。私はそういった肉弾戦は専門外なので詳しいことは言えませんが、身に余る魔力で強化した身体能力はすさまじいものになりますね。理解していただけましたか?」
にっこりとルサナはヒデへと笑いかける。クフカのことを語る彼は今までの会話のどれよりも楽しげだ。
そんな様子を見たヒデは何か決心を決めたように顔を上げ強く拳を握る。
「お前たちのこと少しわかった気がするよ。俺にできることはできるだけ協力しよう。まずはギルドで色々としてくるが、これに関わらず何か困ったことがあったら言ってくれ。頻繁には来れないがここに来たときは色々と手伝うよ。」
「そうですか。それはとてもありがたい。」
「差し当たって、まずはお前たちのことがギルドにばれないようにすることからだな。これに関しては後続が来てややこしくなるのも嫌だから、さっさと帰還するか。」
「では、もうお帰りになられますか?クフカとは話していかなくて良いですか?」
「それはまた次の機会とするよ。俺の仲間...というか後輩も一緒にちゃんと挨拶しに来るからな。一旦、今回は一緒に変えるわ。じゃあな。」
「では、よろしくお願いしますね。」
ルサナはにっこりと笑い軽くお辞儀をする。
ヒデは帰りに今回のことをるケイとルエディに説明し協力してもらおうと考えつつルサナを後にして、家の中で待機している彼らを回収し、帰路へ着く。
ヒデはここ数年で味わうことのなかった未知の先に期待を感じわくわくしていた。このまま何もなく後輩たちと過ごしながら老いていくのだと思っていた自分が、この世界に来てとてつもない何かに巻き込まれているんだと。そしてその中心に自分はいるんだと、失ったと思っていた少年の様な心を抱き前へと進む。
様子のおかしいプロローグが終わった。
ここまで通して主人公どこ行った問題が発生してる。いつかは修正したい(希望)