表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

83/83

episode Final 冒険に行こう

9/13 内容が二重で入っておりましたので修正しました。

ご指摘頂きありがとうございました。

 


 何千回のラミングを終えて、上陸準備が始まった。


 飛行甲板ではヘリの組み立て作業、船首格納庫では雪上車の点検が始まっており、カレンとシンシアは別でラミングによって緩んだ船内通信用ケーブルがないかの確認作業を行なっていた。



「……来ちゃったね。南極」


「……うん」



 メンテナンスハッチを開けて、魔法ライトで手元を照らしながら確認作業をするカレンがポツリと呟く。


 シンシアは何が言いたいのか、なんとなく察して頷いて答えた。



「何かできないかな? 私たちにできること」


「そうね……できることと言ったら――」



 シンシアが考えを巡らせる。


 しかし、思いついたのは一つだけだった。



「無事に南極中心へ連れていく……くらいかな」


「……それしかないのかな?」


「それしかって言うけど、ブリザードやクレバスのせいで退却もあり得る状況よ? そうなると再アタックする頃には――」



 考えたくないことが頭によぎる。


 しかし、現実にそれは着々と近づいてきていることを二人は感じていた。


 今朝、とうとうアーサーが立てなくなったのだ。


 体を起こすなどは可能だが、それも辛そうにしている姿を見て、皆の考えは一つの結論に辿り着いた。



 ――この数日が山場だ、と。



「そう……だよね。なら、早く準備を整えて早く出発しよ。衛星からの画像じゃ、雲はあまり発達してないんだよね?」


「そうなってたわね」


「そっか……じゃあさっさと終わらせよ! あっ、これ終わったら雪上車の通信機器の調整もしないとだよね?」


「そうね、あれが壊れてたら出発できないもの」


「ひゃー、大変だぁ!」



 空元気であることは目に見えてわかっている。


 しかし、空元気でも構わない。


 シンシアはそう思い、また作業に取り掛かった。



 ――


 ――


 ――



「……どうだ? エレナ」


「うん。エンジンオイルも凍結しないようにエンジンに保温の魔法を付与してるし、動作確認もしたからバッチリだよ」


 雪上車の下に潜り込んで作業するエレナにエリオットが声をかける。


 潜り込ませていた体を雪上車から引き出してエレナはエリオットに答えた。



「アーサー君の……最後の冒険だもん。万が一雪上車がダメになっちゃったら、中心になんていけないもの」


「……そうだな」



 エレナはなんとしてもアーサーに南極踏破をさせようと、気合いを入れて作業にかかっていた。


 しかし、エリオットはまだ切り替えられておらず、表情に影が差す。



「やっと……気兼ねなく話せる友人ができたというのに……まさかこんなに早く死に別れるなど……」



 拳を強く握り、目尻には涙が浮かぶ。


 それを見たエレナは――



「……えいっ!」



 ペチッ、とエリオットの顔を両手で挟んだ。



「そんな顔、しちゃダメだよ? エリオット」


「しかしっ!」


「確かに悲しいことだけど、止められなくて悔しいこともわかるけど、だからこそ今私たちができることを全力でやるべきだよ」


「……」


「それが、アーサー君に私たちからできる……恩返しなんじゃないかな?」


「恩返し……」



 それを聞いてエリオットはハッとした。


 アーサーはこれまでずっと、夢を具現化させて見せてくれていた。


 それはこれからも続くものと考えていたが、そうじゃなくなった。


 ならば……ならば今度は、自分たちが夢を見せてあげる番なのではないか。


 そう考えたエリオットは、伏せていた顔を上げてエレナを見つめた。



「そうだな……これは恩返しだ。夢を見せてくれたアーサーへの、私たちからできる恩返しだ」


「うん」


「必ず届けよう! アーサーを南極中心部へ!!」


「うん! 一緒に頑張ろ! ――あっ」



 エレナが声を上げる。


 何事かと思い、エレナが視線を向ける自身の頰を指でなぞる。


 するとぬるりとした感触が指先に伝わり、その正体を見た。



「……油だな」


「ご、ごめんエリオット! すぐに石鹸とタオルを――」


「いや、これでいい」



 くくくっ、と笑いながらエリオットは指先を見つめる。



「作業が終わったら、この顔をアーサーに見せに行こう。どんなリアクションをされるか楽しみだ」


「……うん、そうだね!」



 ――それもきっと、いい思い出になる。


 アーサーのリアクションに胸躍らせながら、エレナと共に仲睦まじく、エリオットは作業に取り組んでいた。



 ――


 ――


 ――



 南極観測船ライザーの厨房。


 そこでせっせと働く、二人のコック……ではなく、執事服とメイド服を着た二人が調理をしていた。



「お手伝いいただいて感謝します、レイ様」


「いえいえ、私も何かしたいと思っていたところですから」



 マティルデが出来上がったものをバスケットへ詰めていく。


 それらは、南極中心部へ向かって出発後に食べる為のお弁当であった。



「雪上車内でも調理ができるとはいえ、ここほどの設備はありませんから、せめて初日くらいは豪勢にしたくて……」


「賛成です。持って行ける食料も限りがありますからね」



 しゃりしゃりとりんごの皮を剥きながらレイはマティルデに賛同した。



「あの方のお陰で、私は空を飛ぶことができました。果ては宇宙まで、行くこともできました。あの方への恩はこの程度で返せるとは思っておりませんが……私たちには全ての恩を返す時間はないようなので」



 トントンとまな板を叩く音が響く。


 マティルデの話を、レイは静かに聞いていた。



「少しでも、最後の旅が一番楽しかった面白かったと言われるように、できることをしたいのです」


「……それも、同感です」



 そう答えた後、レイは調理台から少し離れてあるものを持ってきた。


 それはティーセットであった。



「南極の内地は極寒すぎて微生物ですらいないようです。そのため雪や溶けている水は世界一綺麗な水なのだそうですよ」



 思いは同じ。


 密かにレイはそれを持っていくつもりだったようだった。


 最高級茶葉を携えて。



「世界一の水で世界一の茶葉をいただいてもらう。良い思い出になると思いませんか?」


「……ええ、そうですね」



 マティルデは微笑んで、そう答えた。










 ◆










 今朝、ライザーを出発して夕食の時間になった。


 しかし、まだまだ外は明るい。


 時刻は19時で、夏場であったらもう日が沈みかけていてもおかしくない時刻だが、まだまだ太陽は高い位置にいる。


 白夜と呼ばれる現象だが、常に日が高いわけじゃない。


 ほんのちょっと地平線に太陽が掠めたかと思ったら登っていく……というように日の浮き沈みはある。


 だから暗くなる時もあるのだが、その時間が極めて短い。


 日が暮れてから寝ていたら、たちまち寝不足になるだろう。



「はい、アーサー。あーん」


「……あーん」



 シャーリーから差し出されたスプーンを口に入れる。


 マティルデとレイの作ったシチューはとても美味しい。


 しかし、いくらなんでも……



「あーんは恥ずかしいな」


「じゃあ、どうやって食べるのよ?」


「確かに……」



 なぜ「あーん」なんてバカップルみたいなことをしているか。


 もう腕も上がらなくなってきたからだ。


 雪上車に乗るのだって車椅子に乗って、シャーリーとティアに持ち上げられて乗った。


 身体強化魔法ってすごいよね。



「はい、アーサー様、パンです。あーん」


「あーん」



 パンもマティルデとレイが焼いてきたらしい。


 とてもふわふわで美味しくて、シチューと合わせたらもう最高だ。


 まぁ、内臓機能も落ちてきたから、パンはシチューに漬けてふやかしてるからふわふわを感じてないんだけど。



「ふふふっ! 楽しいですね!」


「まぁ……悪くないわね」


「……なによりだよ」



 これがシャーリーとティアと俺だけなら、俺も楽しいと思っていたよ。


 でもなぁ――



「……私たちも、する?」


「それは恥ずかしすぎる」



 正面右にはエレナとエリオットが――



「いやぁ……バカップルだね」


「……三人の場合ってカップルっていうのかな?」


「確かに……」



 正面左にはカレンとシンシアが――



「さぁ、お魚が焼けましたよ」


「初日くらい豪勢に行きましょう」



 調理スペースではマティルデとレイがいて、普通に俺の食事を見ていた。


 ……ていうかマティルデとレイの声久しぶりに聞いた。



 ――


 ――


 ――



 ゆっくりゆっくり時間をかけて、衛星との通信も綺麗に出来て今日、目的地に到着した。


 途中、ブリザードにもあったりとしたが大きなトラブルもなくここまできた。



「はい、掴んだわよ」


「じゃあゆっくり降ろすね」



 雪上車から先に降りたシャーリーが俺の乗る車椅子を支え、俺の後ろにいるティアがゆっくりと降ろしてくれる。


 もう足も腕も満足に動かせない。


 ぴくりと動かすくらいがせいぜいだ。


 だから着替えも皆に手伝ってもらって、今、外に出ている。


 正直、息をするのもきつい。


 視界も……霞んできている。


 多分……今日だ。


 俺に残された時間はもう尽き掛けているんだろう。


 燃え尽きる前に、目的地に着けてよかった。



「よ、っと……アーサー大丈夫?」



 コクコクと頷いてシャーリーに答える。


 もう喋ることも辛くなってきているのは皆承知の上だ。



「さて、ここからどうする? 周りには何もないぞ」



 エリオットが周りを見ながら言った。


 確かに何もない。


 洞穴が近くにあるわけでもない。


 ただただ、だだっ広い雪原が広がっているだけだった。



「創世神様はすぐわかるって言ってたけど……」



 シャーリーも辺りに何かないか探しながら声を漏らす。


 確かにクラリス様はそう言ってたんだけどな……


 場所間違えてるとかはないよな?



「もしかして埋もれてる……とか?」



 そして、ティアは地面を見ながらそんなことを呟いた。


 それを聞いて俺を含めて皆の動きが止まる。



「待ってよ!? もしそうだったら詰みじゃん!!」


「出直す時間なんてないですよ!?」



 カレンとシンシアが叫ぶ。


 正直にいえば、出直す時間はあるだろう。


 通信でライザーと連絡を取って、掘削道具を持ってきてもらえばそれでいいのだから。


 二人の言う時間とは……俺のことを指しているんだろう。



「ティア……コア……を……」



 なんとか声を振り絞る。


 クラリス様からもらったエンジンコアを出したら何か変わるかもしれない。


 それを、俺の声から察したティアがカバンからエンジンコアを取り出した。



「月でも魔石を出したらあの黒い板が出てきました。もしかしたら……」


「なるほど……可能性は高いな。あとはアーサーに触れてもらえばいいのでは?」


「そうですね。アーサー様、お手をお借りします」



 エリオットの助言を受けてティアが俺の手を取り、エンジンコアに触れさせた。


 するとエンジンコアが光を放ち始め――



「……久しぶりに見たわ」



 ――目の前に、月で見た黒い板が出現した。


 目の前のそれも、月面のようにどこかに繋がっているのならもうそれは一つしか思い浮かばない。


 ……ていうか――



「見ればわかるとか嘘じゃん」



 カレンの言葉に皆同時に頷いた。



 ――


 ――


 ――



 黒い板を通ると、通路に続いていた。


 その通路は舗装されていて、車椅子でもスムーズに移動ができた。


 ありがたい。



「石とかが露出してたらどうしようかと思ってたけど、杞憂だったわね」


「ええ。よかったですね、アーサー様」



 コクリと頷く。


 受け答えがこれしかできなくなるっていうのは寂しいな。



「灯りが点いているのはありがたいがこれは300年以上ずっと点いていたのだろうか?」


「だとしたらすごい技術ですよね。街灯とかにいいかも」



 エリオットとエレナが通路の天井にある灯りについて話していた。


 通路に入った瞬間に点いた感じはなかったし、もしかしたら本当に300年間点きっぱなしだったのかもしれない。


 なんて考えていたら――



「おぉー」


「開けた場所に出たね」



 広い空間に出た……らしい。


 そこはまるで船のドックのような場所で、灯りも煌々と辺りを照らしていた。


 そして、その灯りに照らされて一つの巨大建造物が目の前に聳えていた。



「これは……」


「なんて凄まじい……」



 マティルデとレイの貴重な声が響く。


 目の前のそれは航空機のような流線型を描き、最後尾には巨大なエンジンノズルが数個並んでいた。


 未来の人が建造した宇宙船という出立ちのそれが、俺達の目的のものであることは明確だった。



「嘘……こんなに大きなものが切り離しなしで宇宙まで行くの?」


「後ろの方に翼のようなものがあります。あれが展開できれば大気圏内飛行もできそうですね」



 ――エレナとマティルデの声が聞こえる。



「これは大きいな。アルカイム並みではないか」


「これで宇宙を旅できるのなら快適な旅になりそうですね」



 ――エリオットとレイの声が聞こえる。



「すごいなぁ……この船どうやって制御してるんだろ?」


「コンピューターの性能も桁違いでしょうね。どんなシステムになってるんだろう」



 ――カレンとシンシアの声が聞こえる。



「アルカイム並みの大きさの宇宙船ですよ、アーサー様」


「こんなに大きな船をくれるなんて創世神様も太っ腹ね。見える? アーサー」



 ――ティアとシャーリーの声が聞こえる。



 ……くそ、俺だって見たいのに――



「ごめん……もう……何も見えない……」



 皆の言う宇宙船の姿が……もう全く見えない。


 情景も、全部皆が言ってくれていることから想像しただけだ。


 もう自分が座っているのかも、寝転がっているのかもわからなくなっていた。


 ここまで来たんだから姿くらい拝ませてくれよ、神様。



「シャーリー……ティア……そこに……いるか?」



 暗い視界の中、ほんの少しだけ光が見えていることが、俺がまだ生きていると思える唯一のものだった。



「ここ……ここにいるわよ……」


「はい……ティアは……そばにおります……」



 二人の声が聞こえる。


 よかった……まだ聞こえた。


 でも、二人とも声が震えてる。


 微かにだけど、二人以外の啜り泣く声も聞こえる。


 こんなに悲しませるつもりはなかったんだけどなぁ。



「シャーリー……ティア……」



 ――最後。


 精一杯の力を振り絞って、二人に言わなければいけないことを声に出す。



「ありがとう……愛してる……」



 声を振り絞ったその瞬間、微かにあった光と感じていた音が一瞬にして消えた。










 ◆











「うぅ……グスっ……」


「ふぅぅ……うぇぇ……」



 眠るようにしてその命を全うしたアーサーに、シャーリーとユースティアナは別れを惜しむように抱きついていた。



「こんな……これが……我が国の天才の最後だと言うのか? 最後に神から下賜された宇宙船を見ることもできずに……こんな……」


「エリオット……」



 涙を流しながら拳を握るエリオットを見て、エレナはその肩に触れた。


 カレンやシンシアも泣きじゃくり、レイとマティルデも死を悼むように顔を伏せていた。


 悲しみが空間を占める中、エレナがシャーリーとユースティアナの元へと歩み寄る。



「シャーリー……ティアさん。せめて、アーサー君の為にエンジンに火を入れてあげよう? それが旅の目的だったじゃない」


「うん……」


「そう……ですね……」



 未だ止まらない涙で視界がぼやけている中、シャーリーとユースティアナがアーサーの膝に置かれているエンジンコアに手を伸ばし、それに触れた瞬間――



「えっ!?」


「な、なに!?」



 エンジンコアが強く光輝き出した。


 その光は海底から引き上げられた魔石のそれに匹敵するほどの光で、宇宙船のドックを隅から隅まで照らせるほどであった。



 ――私から、あなたたちへ渡せる最後のプレゼントよ。



 光で視界が遮られている中、二人は女性の声が聞こえた。



 ――頑張って。



 光が収まり、目を瞬かせながら周りを見る。


 特に何かが変わった様子はなかった。



「なんだったの? 今の」


「わ、わからない……」



 状況を把握しようと努めるエリオットやレイ、マティルデと、光をモロに受けたのか地面にのたうち回るカレンを宥めるシンシアとエレナを横に、シャーリーとユースティアナは手元を見た。


 するとそこにあったのは手のひらほどの大きな水晶があった。


 多面体のそれは光を内部で反射させてキラキラと輝いている。



「……なんだろ?」


「さ、さぁ?」



 ごくりと息を飲み、恐る恐るその水晶へと手を伸ばす。


 そして、それに触れた瞬間――



 ――シャーリー、ティア。



 聞き慣れた声が響いた。


 二人はバッと顔を上げ、アーサーの方を見る。


 しかし、アーサーは眠るように目を閉じているだけであった。



「奇跡は起きない……か……」


「……ねぇ、シャーリー。さっき光の中で声を聞かなかった?」


「声? ああ、女の人の声が聞こえたわね。なんだか創世神様に似てたような――」



 シャーリーはそこまで言ってハッとする。


 そしてその声はユースティアナも聞いていたようで、その頰には涙がまた流れ落ちていた。


 しかし、表情に影はなく、むしろその逆であった。


 そしてそれはシャーリーも同じで――



「この……水晶って……」


「うん……間違いないよ……」





「「アーサー(様)だ!!」」










 ◆










 真っ白な空間が広がる。


 手元を見るとちゃんと手があり、指も自在に動かせた。


 ……俺って死んだんじゃ?


 っていうかここどこだよ。



「あっ、そうだ。これアレだ」



 ラノベの冒頭でよくあるアレだ。


「これって死後の世界って奴ぅ!?」っていうの。


 まぁ、死んだんだからあながち間違ってないけど。



「これで神様とか来たらマジで笑える――」


「やぁ」


「うぉおあっ!?」



 誰もいないと思っていたから、突然話かけられて驚いて飛び上がってしまった。


 声のする方を見ると、そこには黒髪の男の人と――



「……クラリス様?」


「ヤッホー、アーサー君」



 クラリス様がいて、その隣にはクラリス様によく似た女性が立っていた。


 ……えっ? なにどういう状況?


 と、俺が混乱していたらクラリス様が前に出て――



「紹介するわね。私の旦那のレオン・アルファードと姉のアイリスよ」


「こんにちは、初めまして」


「この度は妹がご迷惑をおかけして申し訳ございません」



 ――家族を紹介してくれた。



「いえいえ、お気になさらず……じゃねぇよ! 旦那と姉って高次元に居たんじゃねぇの!?」


「おぉ、ノリがいいね」



 クラリスさん、あんたのせいや。



「……えっ? 待って? もしかして俺って死んだんじゃなくて高次元に上がったんですか?」



 死ぬってそういうことなんですかっ!?



「まぁ、そうだね。今、俺たちがいるここは五次元時空なんだ」


「……五次元ですか?」


「そう、五次元」


「……皆さんのいた宇宙はここなんですか?」


「いや、君達のいた宇宙とそう変わらないよ。俺達のいた宇宙は君がいた世界から見れば……4.2次元時空ってところだね」



 クラリス様達がいた宇宙はほんのちょっと次元が高いってだけだったのか。


 ……えっ? ここが五次元時空ってことは――



「もしかして、見れますか? シャーリー達のこと」



 五次元時空ということはその下の時空……四次元時空を俯瞰して見ることができる。


 俺が死んだ後、二人がどんな人生を歩んだのか気になる。


 ……俺のことは忘れて、別の人と人生を歩んでくれてればいいけど。



「うーん……見れなくはないけど……ね?」


「そうですね」


「そうね」


「?」



 夫婦間でわかったふうに頷かれても困るんだよ。


「ね?」で伝わるにはそれ相応の時間を共に過ごさないとわからんって。



「なんなんですか?」



 ちょっとイラってきたから語気が荒くなってしまった。


 けど、クラリス様が笑顔を湛えながら俺に言った。



「シャーリーさんとティアさんのこと、それはあなた自身の目で見るべきじゃない? 同じ目線で、あの子達を」


「えっ? いや、俺はもう……」


「……そう、あなたは諦めるのね。でも――」



 クラリス様が俺の後ろを指さす。


 そこには白い板が出現していた。


 ほんのり光ってるから白い空間でもよくわかる。



「――あなたのお友達や……二人は諦めていないみたいよ?」


「えっ? うぉあ!?」



 ドンっと背中を押されて白い板にもたれかかる……ことは出来ず、そのままめり込むように体が入っていく。



「女の子を悲しませるものじゃないよ」


「って、私たちを行き遅れ寸前まで抱かなかった男が言ってるわ」


「ちょっ!?」


「うふふっ、頑張ってね。アーサー君」



 視界が光に包まれて、三人の姿を見失った。


 最後に見た三人の笑顔は、とても眩しく見えた。



「二人に伝えて! 私のプレゼント、有効活用してくれてありがとうって!!」



 ――


 ――


 ――



 瞼を開けて、正面を見る。


 そこはさっきみたいな真っ白空間じゃなくて、どっちかというと……なんというかSF映画とかアニメに出てきそうな医務室的な空間だ。


 ……えっ? なに? 「知らない天井だ……」とか言えばいいわけ?


 ベッドで上体を起こされてるから天井見上げてないけど。


 とか思っていたら――



「やった……目を覚ました!!」


「やったわね! シャーリー!!」


「うん! ありがとう!! ティア!!」



 隣から、もう聞けないと思っていた声が聞こえた。


 声のする方を見ると、そこにはピンク髪の女性と青髪の女性が立っていた。



 ――大人びているけど見間違えるはずがない。



「シャーリー……ティア……!!」


「「アーサー(様)!!」」



 愛しい恋人が、そこにいた。


 二人とも、俺に抱きついてきてその感触が、温もりが伝わってくる。


 ――夢じゃない。



「なんで……どうして俺……」



 嬉しさと涙が込み上げてくるが、それと同時に疑問も浮かぶ。


 なんで俺は生きている?


 もしかして俺って眠ってただけとか?


 にしてはめっちゃ死を感じたんですけど?



「実はね、あなたが逝ったあとすぐにエンジンコアが光出したの」


「その光が収まったあと、エンジンコアの近くに虹色に光る結晶が出来たんです」


「……はぁ」



 なんで生きてるのか聞きたいんですけど?


 でもシャーリーが今「逝った」って言ったな。



「その結晶……あなたの情報を封じ込めた結晶だったのよ。いわば魂ね」


「……えっ?」


「恐らく創世神様がお作りになったのでしょう。お声が聞こえましたから」


「えっ……えぇ!?」



 なにそれファンタジー!?


 ……そっか、クラリス様が言ってたプレゼントってその結晶のことだったのか。


 ……ってことはもしかして――



「もしかしてお前ら……その結晶を使って?」


「ええ! 擬似生体技術で身体を作ったり結晶に入っている情報をインストールする為の人工脳だったりを作るのに手間取っちゃって……八年かかったわ」


「魔力製造機のあった海底掘削地へ再び足を運んで、魔力……ナノマシンの特性や機能を再度調べたり、南極の宇宙船に搭載されていた制御システム……量子コンピューターを小型化させる為に何回も南極へ足を運んだりと足りないものがたくさんあって大変でした」


「あっ……ふーん……」



 なにそれSF?


 えぇ……君ら未来に生きてるね?


 びっくりしすぎて「ふーん」としか言えなかったわ。



「……みんな、あなたが私たちに知識をくれたから出来たことよ。どう? 私たち、すごいでしょ?」


「私たちだってやればできるんです!」


「ふっ……はは! そうだな! びっくりしたよ」



 フンスっ! と胸を張る二人が可愛らしすぎて吹き出した。


 そうか……俺の為に……



「あなたを再びこの世界に呼ぶ為に頑張ったのは私たちだけじゃないのよ。尽力してくれた人は世界中にいる」


「猊下やヘラスロク国王陛下……エリオット殿下やエレナさん、カレンさんやシンシアさんが研究を推し進めてくれて、レイさんやマティルデは私たちの生活を支えてくれました」


「エリオット達も……」



 それを聞いたとほぼ同時に、部屋の自動扉が開いた。


 ……自動扉!? すっげぇ未来感!!



「……エリオット」


「……久しぶりだな、この寝坊助」



 そこには見慣れた……いや、皆少し大人びた姿をしているけど、俺の友達……エリオット、レイ、エレナ、カレン、シンシア、マティルデが立っていた。


 そしてもう一人――



「お久しぶりです、主様」


「アニカさん……」



 たったの一年くらいしか住んでいなかったあの城での俺の専属メイドであるアニカさんも一緒にいた。



「すみません……生きて帰れなくて……」


「いえ、心配には及びません。主様がご不在の間も、奥様方のお世話をしていたので。それに、お二人から「いつかまた会える」と仰って頂きましたのでお帰りをお待ちしておりました」


「……奥様方?」



 スーっと、シャーリーとティアの方を見ると、シャーリーは明後日の方向を、ティアは吹けてない口笛を吹いていた。



「……ま、するつもりだったからいいんだけど」


「えっ!?」


「そうだったんですか!? よかったぁ……」



 むしろなぜしないと思っていたのか聞きたい。


 あと――



「そこにいる子供達は?」



 そう、小学生くらいの子供も二人、一緒に入室してきてた。


 ……誰ぇ?



「紹介するわ、マリアとクラウスよ。あなたの娘と息子」


「マリアはシャーリーが。クラウスは私が産みました」


「……こんにちは」


「「こんにちは!!」」



 あら元気いっぱい。


 そりゃ……あんだけやることやったからな。出来るよね。


 っていうか――



「情報量が多すぎる!!」



 ――


 ――


 ――



 半年後――


 擬似身体の調整……ようはリハビリを終えて、俺は船の上にいた。


 俺達は再び南極に向けて船を進めている。


 目的はただ一つ、宇宙船の起動。


 なんでもエンジンコアを規定の位置にセットしても動かなかったのだそう。


 そしてその原因が、俺がいなかったからだという仮説を立てて今回それを確かめに行くのだ。



「まさかまた南極に行けるなんてな」


「あれが最後の冒険だったけど……今日は最初の冒険ね」


「新しい身体を手に入れてから……ですね」



 シャーリーとティア、そしていつものメンバーでまた南極中心へ。


 擬似生体技術と人工脳で蘇らせてくれた皆とまた、こうして海に出れる奇跡に感謝したい。



「……ありがとう、クラリス様」



 空を見上げてポツリと呟く。


 アルカイム、同じ恒星系にある惑星、そしていつか、クラリス様達三人のいる、あの場所まで行けるように。


 進んで行こう。繋げて行こう。


 大丈夫、不可能なんてないさ。


 なんせ俺の仲間たちは、黄泉から俺を呼び戻せるくらいなんだから。



「よし、みんな! 世界だけじゃなく……宇宙の果てまで――」



 ――冒険に行こう!!





 END

お疲れ様でした。


これにて本作は終了です。

少しでも楽しんで頂けたのでしたら幸いです。


ありがとうございました。ではまたいつか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ