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episode78 アルカイム帰還

 


 アルカイムへの帰還の道、三日目。


 近かった月は今は遠く、逆にアルカイムの姿が窓に大きく広がっていた。


 青と緑、時々黄土色をしている部分は砂漠地帯かな? 大気層も光を分解してその輪郭を淡い青色で描いていた。


 美しい……それ以外の表現が見当たらない。



「綺麗だな」


「ええ、本当に。来る時にも思っていましたが、あの時はTLIに向けて緊張してましたから、あまり堪能できなかったので尚更ですね」



 左側の窓の外を見ていた俺の呟きにティアが答えてくれた。


 確かに来る時は色々やることあったからなぁ。今もだけど。


 でも打ち上げ直後は初の宇宙飛行っていうのもあってティアの言う通り緊張してたからな。


 ゆっくりアルカイムを見てなかった。



「アルカイムもいいけど、私は月の方が好きかな。ずっと見てたのもあると思うけど」


「そうか、右側は月面を常に見てるもんな」


「そうそう。だから印象に残ってるのはやっぱり月面ね」



 対して、シャーリーは月面の方が気に入っているようだった。


 話も一区切りしたところで、シャーリーの表情が曇り始める。


 なんだ? どうした?



「でも、これから大気圏再突入でしょう? 大丈夫なの?」


「大丈夫だって。耐熱性も十二分に持たせてるから」



 どうもシャーリーは大気圏再突入に不安を持っているようだった。


 気持ちはわからないでもないが、実際に帰還できているのだから安心していいと思う。



「そうよ、シャーリー。レジリエンスを信じましょう」



 ティアはずっとこの船と一緒にいたからか、この司令船に愛着を持っているようだ。


 しかし、それを聞いてもシャーリーの表情は晴れない。



「違うのよ。別に船が壊れないかどうかで不安になってるわけじゃないの」


「えっ? そうなのか?」



 じゃあ、何が不安なのさ。


 と思っていたらシャーリーが理由を語ってくれた。



「今、時速3万9000kmでアルカイムに突っ込んでるじゃない? そこから減速するとかとんでもないGがかかるから耐えられるかなって不安で……」


「極超音速経験者が何言ってんだ」



 航空機でもエグい機動で飛んでるくせに。



 ――


 ――


 ――



 ザバーンッ! という音と共に、背中に衝撃とゆらゆらと揺れる感覚が身体に伝わる。


 無事、大気圏再突入を終えて、海に着水することができた。


 で、不安がっていたシャーリーはというと――



「とんでもない負荷だったけど楽しかったわねっ!」



 と、ツヤツヤとした表情で俺に言ってきた。


 しかし、俺とティアは違った。



「楽しくねぇよ……」


「体……重いです……あと揺れ……止めてぇ……」



 再突入の負荷と重力と揺れにやられていた。


 1Gってすごい。










 ◆










「このたびは私共の困難な依頼を達成して頂き、誠に感謝致します。アーサー様」


「……」



 帰還してから一週間。


 1G環境にも慣れてきて、日常生活を送れるようになってきたところでヘラスロク王国王宮に召喚された。


 謁見の間には教皇猊下と各国国王陛下が並んでいて、数年前にも見たことがある光景を見ている俺なのだが、あの時とは違う光景が広がっていた。



 ――国王陛下達が傅いているのだ。




 で、逆に俺は上座にいる。


 なんでこうなったんだろう……入室して俺が傅こうとしたら慌てて止められて、こうなったんだが何故こんなことをされているのかわからない。


 そもそも、最初は何故か国王陛下達が俺の家に行くと言っていた時点でおかしいと感じていた。


 なんとかそれは遠慮してもらって今に至るが、これはどういうことだろう。


 上座に行くよう促された時は頭にハテナを浮かべながら促されるまま移動したが、猊下や各国国王が軒並み頭を下げ始めた時に我に返った。


 傅かれた時に俺も慌てて止めたが、皆さん譲らなかったんで今はもう諦めてる。



「あの……ここまでされるようなことはしていないのですが?」


「あなたは神に選ばれたお方。我々が傅くのは当然のことと存じます」



 教皇猊下が頭を下げた状態で理由を語ってくれた。


 そうか……月での会話は全部聞かれてたんだよな。


 ……アレ以外は。



 うーん……確かに相手の目線に立ったらそうなるのか?


 ナノマシンから知識知恵を強引に脳に送られてその情報量に耐えられた人間。


 神に選ばれて、神の代行者っぽく見えてもおかしくない……か?



「まずは、皆さん着席してください」


「ですが……」


「……お願いします」


「かしこまりました!」



 なんか教皇猊下から「神の前で恐れ多い!」みたいな空気を感じ取ったからお願いという形にしたら皆さんすぐに座ってくれた。


 これきっつい……


 もしかしてこれからこんな環境に慣れていかなきゃならないの?



 ――


 ――


 ――



 さて、用意されていた椅子が俺一人分だけだったんで、メイドさん達に椅子を持ってきてもらい、ようやく皆さん座ってくれた。


 ……俺は相変わらず上座ですけども。



「この度は誠にありがとうございました。体調はいかがでしょうか?」



 教皇猊下から労いの言葉を頂く。


 が、完全にこれ目上に対する対応じゃん。


 居た堪れねぇよ。



「問題ありません。……ところで敬語はやめ――」


「それは致しかねます」


「――そっすか」



 ダメでした。



「創世神様から南極にある宇宙船の鍵を頂いたようですが、南極へはいつ行かれるのですか?」


「新しく砕氷船を建造する予定ですので、それが完成して完熟訓練が終わってからになります。今までのことを考えると最短で一年半くらいでしょうか」



 船のことなら任せろぉ!! っていう人がいるからな。


 マジでフォスター重工とポール船長様様だ。



「左様でございますか。であれば、今はお暇を?」


「設計作業はありますが、月着陸計画の時と比べればそう言っても差し支えないですね」



 一応、重力慣れの訓練はしているが計画遂行中の時ほどじゃないからな。


 デスクワークだけになるとすごく楽に感じるし、設計図自体はすぐに出来たから、もうフォスターさんに渡して今は絶賛暇してるところだった。



「そうでしたか。それは行幸でございます」


「……なにがでしょう?」



 すごくにこやかにこちらを見ている教皇猊下に、俺は構える。


 これはあれだ。来るぞ。


 俺には恐れ多いやつがまた来るぞぉ!!



「ルインザブの一等地にささやかではありますが、お屋敷をご用意致しました。使用人もこちらで厳選しておりますのでご安心ください」


「……ウス」



 ほらぁ!!










 ◆










 さてさて、つい先日まで住んでいた宇宙センター近くの屋敷を出て、ルインザブに帰ってきた。


 住み慣れた土地に帰ってきたのはいいが、俺は今、とある建物の前で呆然となっている。



 理由は無論、教皇猊下達が用意したという屋敷を見て……だ。


 目の前の屋敷……と言っていいのかも憚られるほどに立派な建物。


 もうこれあれだ。城だよ、城。


 ……うん、どこから見ても城としか言いようがないな!!


 ささやかとは言い難い城がございますなぁ!!


 あと驚くことに――



「すごい……立派な城ね。猊下の本気度が伺えるわね」


「かなり力を入れられたそうよ。「神の子にお住まいいただく家なのだから妥協はできない!」って仰っていたわ」


「結構土地使ってるわねぇ。そういえばくる道中、通行人の方々に祈られてたわね、アーサー」


「……ソッスネ」



 シャーリーとティアも大荷物持ってここにいるんだよ。


 前の家では一緒に訓練とか意見交換とかするのにちょうどいいと思って一つ屋根の下で過ごしてたけどさ。


 もうそれぞれバラバラで住んでもいいと思う。


 でも……それはそれで寂しさがあるな……


 ……結局これでよかったかもしれない。



 綺麗な庭を進み、マティルデが城のドアを開けてくれた。


 ……ええ、ティアの専属メイドですから彼女も一緒です。


 すると目に飛び込んできた光景が――



「「「「「おかえりなさいませ、主様」」」」」



 ――メイドさんと執事さん達がずらりと並んで出迎えてくれた光景だった。


 まさかの状況で固まっていると、近くに立っていたメイドさんが近寄ってきた。



「お荷物お持ちいたします。主様」


「あ、はい。お願いします」


「シャーリー様、お荷物お持ちいたします」


「ありがとう」



 俺が萎縮しながら荷物を渡している横で、別のメイドさんがシャーリーの荷物を預かっていた。


 シャーリーはもう慣れた様子で荷物を渡している。


 傲慢じゃない、でもかといって申し訳無さそうに渡してるのでもない……品のある感じだ。


 ティアもマティルデに対してそんな感じなんだよな……


 すげぇや、上級の方々は。



「申し遅れました。わたくし、アーサー様の専属メイドを務めさせて頂きます、アニカ・アルスマイヤーと申します」



 赤い髪で、後ろ髪を一つのシニヨンにまとめてクラシカルなエプロンを見に纏い「THEメイド」な姿をしているアニカさんは恭しくお辞儀をしてくれる。


 この前まではシンシアが専属メイドの立場にいたが、今は事情が変わり、彼女はもう俺に雇われた使用人じゃない。


 じゃあどうなったのかというと、なんと新しくできた研究所の所長に任命され、今は王都に住んでいる。


 その研究所は「魔動計算通信研究所」


 誘導コンピューターなどの先進的な計算機技術が評価された結果だった。


 ちなみに副所長はカレンで、「大出世だよ! 大出世!!」と大喜びしていた。


 対してシンシアは自身に務まるだろうかと体を震わせていた。



「これはご丁寧に、アーサー・クレイヴスと申します」


「存じております、主様」


「ですよね!」



 自分が世話する人の名前は知ってるよね!


 ごめんなさいね! 慣れてないんです!!


 シンシアの時は生徒で、教える代わりに身の回りのことしてもらってた感じだったし、なんなら一緒に家事してたこともあった。


 だから完全に人任せにしたことないんだよなぁ。



「それでは、お部屋にご案内致します。こちらへどうぞ」


「お願いします」


「……主様」


「な、なんでしょう?」



 ん? アニカさんの空気が変わった?


 ちょっと怖いんですけど。



「わたくし共使用人に謙った態度は改めてください。あなた様は神の子……堂々とした態度で接してくださいませ」


「すいません!」



 神の子じゃないけどすいません!!

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