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episode51 挑戦するということ

 


「王族の隣を歩けるくらいの実績って……何?」



 純粋な疑問をぶつける。


 すると二人は盛大に椅子から転げ落ち、ヨロヨロと机に這い上がってきた。



「あ、あなたね……真剣な顔で何言ってるのよ?」


「だって王族相手だぞ? それに並べる実績って言ってもなにすんだよ。今作ってるのたかだがロケットだぞ?」


「たかだかってあなた……」



 シャーリーに呆れた顔で見られているが、これは純粋な気持ちだ。


 俺だって、月行きのロケット……サターンVを建造できたらすごい功績だと思う。


 けれど、それの一部を手掛けたことは偉大な実績にはなるだろうが、それは王族と並び立てるほどのものだろうか?


「彼女はサターンVの〇〇を手掛けたのか。よし、エリオットとの結婚を許そう!」ってあの王様が言うところが想像できない。



「だ、大丈夫だと思うよ? だって実際にアーサー君のこと色々言われてるから」


「えっ? どんな?」


「「誰とも深い関係にならなかったエリオット殿下が心を許した相手」だって言われてるよ? レイさんから聞いたけど、アーサー君が女性だったらよかったのにって言われてたみたい」


「……それって――」


「うん。アーサー君が女の子だったら結婚相手の候補に入ってたと思うよ?」


「――おぉう」



 エレナからもたらされた新事実。


 しかし……それじゃあ問題ないのか?


 って言ってもなぁ……どこを任せればいいだろう?


 搭乗部である宇宙船の設計は難しいだろうし……いや、ここは聞いてみるか。



「宇宙船の設計をやってみるのは?」


「……ごめん、それは難しすぎるかな」


「じゃあ、月着陸船」


「それもちょっと……」


「うーん……」



 そりゃあそうだよな。


 宇宙に行く船の設計なんて、そもそも海を行く船の設計もしたことないんだったら全くわからんわな。


 じゃあ、どうしよう?


 と、腕を組んで悩んでいたら、エレナの目尻にジワリと涙が浮かんできた。



「ごめんね……私……なんの取り柄もなくて……」


「えっ!? ちょっ!?」



 泣いちゃった!!


 えっ……えっ!? どうしよう!?


 うーん……エレナは何が得意だ?


 うーん……



「エレナは生粋の魔法士だもんね。私もだけど」


「でもシャーリーは運動できるし……だからパイロットになろうとしてるんでしょ?」


「そう。もっとエレナの魔法知識をフルに発揮できるものってないの? アーサー」


「魔法? 魔法……あっ」



 あった。


 魔法知識を発揮できる部分が一つあるわ。



「あるよ。魔法知識使えそうなの」



 俺は立ち上がって、巻いて小さくした大判の紙をエレナの前に持っていく。


 そしてそれを机に広げた。



「これって……ロケットエンジン?」


「そう」



 そこには第一段のエンジンと第二段と第三段のエンジンの二種類のエンジンのラフが描かれている。


 前世で見たことのある、覚えている限りのロケットエンジンのスケッチ画で、中身は全くわからない。


 俺、深海調査とか船舶とかは詳しく覚えてるんだけど、月探査はあまり覚えてないんだよな。


 だから、今回の冒険は俺にとっても未知の道のりだ。


 故に――



「このロケットエンジンだけど、構造は正直詰めてない。だからこの大型ロケットと第二段エンジンの開発をエレナに任せたい」


「で、でも私魔道具は!?」


「建造に携わる訳じゃないさ。実際の設計なんかは本職の人に任せればいい。エレナは自身の持つ魔法の知識を使ってアイデアを出すんだよ」


「魔法の?」


「ああ。ロケットエンジンはな、言うなれば爆発力を制御する魔道具だ。その爆発力が大きければ大きいほどどうなると思う?」


「……遠くに、飛べる?」


「そう。だから魔道具作りに長けてるだけじゃダメ。魔法に長けてるだけでもダメ。二つの力を最大に集約させたのがロケットエンジンなんだ。どうだ? エレナにはピッタリだと思うけど?」



 エレナは俺に向けていた顔を、机に向けて大判の紙を手に取り、じっとそれを見つめる。


 そして、きゅっと唇を噛み締めると、また俺に向きなおった。



「やる。やってみる。エンジン開発」


「そうこなくっちゃな。頼んだぞ、エレナ。あと……シャーリー」


「? なに?」


「可能であれば手伝ってあげてくれ。確か得意だろ? 炎魔法」



 以前、魔法の練習を見学させてもらったことがあるが大したものだった。


 狼くらいの大きさの魔物なら数十匹は一撃で屠れるくらいの威力で、それですらも本気じゃなかったらしいし。


 若者の人間離れを感じた瞬間だった。



「任せて! 親友の恋路だもん。お手伝いするよ!」


「ありがとう、シャーリー。……私も手伝うからね」


「っ!?」



 お礼を言った後にエレナがシャーリーに耳打ちしてたけどどうしたんだろう。


 シャーリー、顔が赤くなったぞ。










 ◆










 ロケットエンジンの開発責任者がエレナに決まり、工場の方々に紹介したところ、特に批判もなくすんなりと受け入れられた。


 どうやらアルトゥムの建造時に色々と手伝ったことが功を奏したらしい。


 今回のロケット建造チームのメンバーは今までと殆ど変わらないからな。


 フォスター造船所改め、フォスター重工には頭が上がらない。


 さて、とは言うものの、これまで先進的な船を建造してきたが、それらは元々船の建造ノウハウを生かすことができたからに他ならない。


 しかし、空を飛ぶことに関してはいくらフォスター重工の職人さん方でもやったことがないから皆首を傾げている。


 ヘリ作れたんだから大丈夫だろとはいかないのだ。


 空力を考慮した細い機首と陽力を生む為の翼。


 そして高速で移動する物体の制御方法。


 GPSを打ち上げたロケット技術を応用できなくもないが、姿勢制御はロケットエンジンをジンバル制御してたからなぁ。


 ようはエンジン推力で無理やり向き変えてたから翼に関しての技術蓄積が不十分だ。


 ヘリのローター部の技術を応用できるとはいえど、である。


 そしてそれは俺を含むパイロットも同様。


 超音速で移動する飛行機をどう制御するのか、身体強化魔法のおかげで前世よりは楽だとは思うけれど。


 鍛える必要がないからな。


 故にまずは技術者もパイロットも空に慣れるところから始めていくことになる。


 ということで――



「ジェットエンジン搭載の航空機の取り扱いはこれまでで十分学んだと思う。よってここからは超音速以上……マッハ2以上での機体制御を覚えることと身体への負担はどれほどのものか調べていく」


「でもマッハ2って今まで乗ってた航空機じゃあ出せないわよ?」


「また別の機体に乗り換えるのでしょうか?」



 シャーリーとティアに答える為、傍に置いていた図面を広げた。


 それは今までよりも少し大きめの機体。


 前世地球でもっとも多く生産され、初飛行の1958年から2020年代まで世界各国で使用された戦闘機。



 ――F-4 ファントムである。



 ただ、複座機ではあるが後席で操縦はできない。


 視界が全く無いからな。


 前世のF-4の後席は兵装システム制御の担当だったが、今世ではいらないので、位置情報や高度や速度などを見る為の席にしている。


 運用的には旅客機と同じ感じかな。


 旅客機は機長が操縦を、副機長が計器や通信を担当していたから。



「オリハルコンを多く使っているから頑丈だし、宇宙船もオリハルコン製にしようと思ってたからオリハルコンの形成技術蓄積にもってこいだったわ」


「高級素材をバンバンと……」



 シャーリーに呆れた顔をされたが必要なことなんだよ。



「F-4の最大速度はマッハ2.23。最大Gは9Gだが、リミッター外したら12Gまでいける」


「やらないわよ。12Gなんて」


「9Gって……Gロックがかかる領域ですよね? 大丈夫なんですか?」



 ティアの心配ももっともだ。


 Gロックとは、座席下方向に向かってかかるGが多くなり、血流が滞って意識が遠のく現象だ。


 初めは視界が暗くなり始め、次第に視野狭窄と色調が弱まり、世界が灰色になっていく。


 その後も、負荷がかかり続けると完全に意識を失う……ブラックアウトに陥る。


 初期症状時も判断能力が弱くなっているからヒューマンエラーが起きやすくなる為、注意が必要だ。



「そのために、二機連形で飛ぶことを推奨している。ターゲットアラートっていうのを付けているから、もう一機がアラートで目を覚まさせる」


「そ、それでも起きなかったら?」


「もちろん、落ちて死ぬ」



 シャーリーとティアの顔が青ざめる。


 マティルデは……一切変わらない。平常だ。



「厳しいかもしれないが必要なことだ。そうならないように対G訓練場は作っているけど、航空機は四方八方から負荷がかかるからな。何が起こるかわからない」



 対G訓練……カプセルに入ってぐるぐるぶん回されるアレである。


 それでの訓練は前世じゃGに耐える為の呼吸法を学ぶ為なのだが、今世は身体強化魔法の強化度合いの訓練の為に用いられる。


 それで十分に訓練したとしても……事故というものは起こる可能性があるのだ。



「では、そうならないように実験や訓練を積んでからでもいいのでは?」


「そうは言うがなティア。「ここまでやったのだから万全」なんて誰が決める? どうやって万全と言う?」


「そ、それは……」



 新しいことに挑戦する際に立ちはだかる壁……それは最初の一歩を踏み出す勇気を持つ為にどれだけ用意をすればいいのかわからないというところだ。


 誰もやったことがない……道無き道を行くというのは相当な勇気がいる。


 前例がないのだからどこまで用意すれば準備万端なのか、それとも過剰なのか。


 その判断材料すらも、自分達で見つけていかなければならないのだ。


 そしてそれにかまけてばかりいると――



「「今は時じゃない」「まだ準備ができていない」……そんな甘い考えじゃあ、冒険なんてできやしない」



 誰だって初めてことを成す場合、尻込みすることはあるだろう。


 ――自分の力じゃまだまだだ。


 ――準備が万全じゃない。


 いろんな言葉を並べ立て、行動を起こせず、初めの一歩すら踏み出せずにいることなんて幾らでもあるだろう。



「そうやって尻込みして行動に移せない奴は、小枝一本折れやしない。()()()()()()()()()()()



 皆の顔が引き締まる。


 今までの冒険では、最悪引き返すということができた。


 深海調査でも、異常があれば浮上するということもできたし、掘削調査ではパイプを切り離脱もできた。


 しかし今回は空が相手……しかも乗っているのは燃料の入った乗り物。


 一歩間違えば脱出する前に爆発四散なんてこともあり得る。


 それでも――



「俺達は月へ行くと決めた。腹を括れ。強い意志を持って前に進む者が結果を残すのだから」



 ――


 ――


 ――



「なんてご高説たれていたのに!!」


「なんで一人乗り用のF-4があるんですか!?」



 数日後、国から与えられた土地に作った飛行場の駐機場所でシャーリーとティアの声が木霊する。


 マティルデも少し呆れ顔だ。



「これは俺専用。まずは俺が経験して、対処法が有効かどうか試したんだよ」


「それ、あなたじゃなくてもできるわよね!?」


「そうですよ! 方法を教えて頂けたなら、私達も立証できますよ!」


「それはそうかもだけど……俺が先に経験してから皆に伝える方がいいと思ってな」



 以前、彼女らには一歩を踏み出すことの重要性を説いたが、それは別に無茶無謀を推奨するものではない。


 無茶して欲しくないから、先に俺が実験するっていうだけの話だ。


 彼女達と立証していくっていう方法もありだろうけど、空は全くの未知数。


 飛行中、何が起こるかわからない。


 しかし俺には前世の知識がある。ある程度の危機の予測と対処法を知っている。


 だから今世の人々達よりは空での対処法は一歩先を行っている自信はあるが、問題があった。


 ――それは経験だ。


 俺は前世の知識を持っているが、実際に航空機の操縦をしたことがない。


 フライトシミュレーターで旅客機のみならず、戦闘機の操縦方法も知ってはいた。


 ボタンの配置も熟知していたから、今世でも再現できたが、実際の操縦経験はもちろんない。


 だから、皆に飛んでもらう前に、俺が経験しておこうという考えに至ったわけだ。



「それじゃ……別に私を後ろに乗せてでもできたんじゃない? バディなんだし」


「俺もお前も気を失ったらどうすんだ」


「……それもそうね。で? どうだったの? 高G環境は」



 二人とも未経験状態で操縦して最悪二人とも気を失ったら終わりだ。


 だから事前に俺だけで経験してみたのだが、結論を言うと――



「身体強化魔法で余裕だった。逆に機体の方が心配になるくらいだった」




 皆ずっこけた。


 あんだけ脅しときながらこれだもの。


 あのマティルデですら転けてるからな、今まで動じなかったのに。

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