episode49 最後の学院祭
やること山積み、しかも一つ一つの課題は未知の道程。
しかし、月へ行くというチャンスが舞い込んできたのならそれを掴まなきゃ勿体無い。
まだ超音速を経験しただけのよちよち歩きどころか、まだ殻を被っている状態のひよこにすぎない俺達だが、邁進していこう。
と気合いを入れたところで、俺がやるべきことは!!
「お前ら学院祭の時期だろ。学院行ってこい」
――シャーリー達を学院祭に送り出すことだ!!
「えぇ!? これからコンピューター作り始めるのに!?」
カレンがそう言う。
その思いは学生じゃないユースティアナさんとマティルデさん以外の皆は一緒のようだった。
それはシャーリー達の表情から見てとれる。
だがな――
「学生時代は貴重なんだ! 青春してこい! 青春!!」
しかし! それはそれ! これはこれ!!
一生のうちで一番楽しい時期である学生時代は自身の大切な思い出になる。
それを捨てるなんて勿体無い。
「これも青春に入るんじゃないかなぁ?」
「エレナの言う通りだ。この活動も立派な青春だぞ」
「規模デカいな、おい」
世界巻き込んだ青春ってなんだよ。
と言うかそれは俺もちょっと思ったけど、なんかちゃうやん?
「言い訳無用! 学院行って楽しんでこい!! あと優秀な子いたらそれとなく誘ってこい!」
「実は目的それとか言わない?」
「ソンナコトナイヨォ」
「本当かなぁ」
ちゃんと青春してもらいたいだけだよぉ。
だからシャーリー? そんな疑いの目を向けるのやめて?
――
――
――
三日後、シャーリー達は学院へと戻っていった。
また招待するからと言われたから楽しみに待っているとしよう。
さて、これから先はどうするかというとユースティアナさんとマティルデさんの二人に少し勉強教えることになった。
こちらとしても数学知識は持ってもらうと非常にありがたいし、そもそも二人の希望的にも習得してもらう必要があったからだ。
で、肝心の二人の希望というものが――
「さてとお二人は飛行士……航空機パイロット希望で最終は宇宙飛行士ということでいいですね?」
「「はい!」」
――二人はパイロット志望だったのだ。
シャーリー達が旅立つ前にそれを聞き、多少運動テストをしてもらったら結構いい成績を収めたのだ。
マティルデさんは騎士隊所属ってことで訓練もしてたからだろうけど、ユースティアナさんは意外だったな。
ともかく二人とも身体能力的には合格。
あとは知識を付けてもらうことになった。
「数学もさることながら、航空力学も勉強してもらう必要があります。加えて航空機の操縦方法もです。覚えることが盛り沢山ですが頑張ってください」
「わかりました!」
「必ず習得してみせます」
二人とも気合十分、この勢いを殺さないようにしないとな。
「では早速やっていきましょう。中等部までは通われていたんですよね? じゃあ、まずは――」
「あ、あのぉ……アーサー様? 一つお願いがあるのですが……」
「なんでしょう? ユースティアナさん」
おずおずと手を挙げるユースティアナさんに向き合う。
もしかして苦手なのかな? 数学。
手心加えて欲しいとか?
「その……「さん」付けをやめていただきたいのです」
「へぁ?」
予想の斜め上の言葉が返ってきた。
この感覚……覚えがある。
エリオットの時と一緒だ!!
「で、ですがあなたはローレルリングで、私はしがない研究者なので……」
冒険者って言いたいところだけども。
「ですが私達に勉強を教えてくださる先生です。生徒に対して気を使わないでください」
使うだろ! 学校じゃあ君達はお金出してもらってる方だから気を使うでしょうよ!!
いわばお客様なんだから!!
「それに……私だけ敬語なのは、その……寂しいです……」
しゅんとして俯いてしまったユースティアナさん。
くっ! この子自分の可愛さを武器にしてやがる!!
建前と本音を言われたらなんかしてあげたくなるじゃないか。
それに俺は知っている。このままじゃ平行線になると。
エリオットの時に経験済みだからな!!
「……わかった、今後はユースティアナと呼ぶよ。マティルデさんはどうですか?」
「私も友人口調でかまいません、アーサー様」
「わかった、マティルデ。では、改めてよろしく頼む」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします! ……やた!」
マティルデからも許可をもらい、さん付けでの呼び方はなくなった。
最後、ユースティアナは机の下でなんか拳握ってなかった?
◆
――一カ月後。
シンシアにも手伝ってもらってユースティアナとマティルデの二人に数学を教え始めて早一ヶ月。
正直、これから開発が本格化するとこうして付きっきりで教えることが出来なくなるから早足で行かなきゃならず、二人には負担がかかるなと申し訳なく思っていたが、それは杞憂で終わった。
二人とも優秀で理解が早かったのだ。
おかげで航空機を操縦するには必要十分の数学的知識を習得してくれた。
これなら近々、実際に航空機に乗ってもらっても問題ないだろう。
シャーリー達を始め、シンシアといいユースティアナといいマティルデといい頭の良さがずば抜けてるな。
前世の知識持ちだからというだけでアドバンテージを持ってる俺とは大違いだ。
さて、十分な知識を持ってくれたことで余裕も生まれて、今日俺達は王都へとやってきていた。
理由は学院祭に招待されたからである。
「シンシアさん久しぶり〜。聞いたよ、海底掘削調査に行ったんだってね」
「すごいじゃない。アーサー様の一番弟子でしょ? 羨ましい〜」
「あはは……要求されることが高度で着いていくのにかなり苦労したけど、今はなんとかなってるよ」
シンシアにとってはちょうど一年、久しぶりの学院であるからか、元クラスメイト達に囲まれていた。
どんなこと聞かれてるんだろうか?
ガヤガヤと周りが賑やかで聞き取れない。
「シンシア、俺達は別の場所回ってくるから。何かあったら通信して」
「わかりました。いってらっしゃいませ」
シンシアにも携帯通信機持たせててよかった。
これで離れても合流できる。
「じゃあ、ちょっと見てまわるか。ユースティアナ」
「は、はひ!」
放置気味だったユースティアナとマティルデと共に学院を見てまわる。
が、ユースティアナはさっきからガチガチだ。
どうしたんだろう?
なんかアルカイムで初めて会った時と同じ感じだ。
最近は普通にやり取りできるようになったと思ったのに……
「これってデート? 学院祭デートとかロマンス小説の中の話じゃない。やったわよユースティアナ、私は運を勝ち取ったのよ」
小声でなんか言ってる?
先と同じように周りが賑やかで少ししか聞き取れなかった。
ロマンス小説とか聞こえたけどなんの話?
「なんかあったか?」
「えっ!? い、いいえ! なんでもありませんよ!」
なんだか顔が赤いが人混みで疲れたのかな?
ユースティアナもマティルデも教会の制服で来てて、ユースティアナはその服装からローレルリングってことがわかるのか、周りの人達は話しかけはせずに遠巻きにしか見てこない。
やっぱ視線を感じるのってなんか疲れるよな。
どこかで休めれたらいいんだけど、喫茶スペースなんてそれこそ人目があるしなぁ。
「どこかで休むか?」
しかし彼女は気にしない子かもしれない。
ということで聞いてみた。
「? いえ、来たばかりで疲れてませんから大丈夫ですよ。それよりもいろんな展示を見たいです」
「あっ、そうですか」
何故そんな提案を? っていうのが顔に出てた。
あれぇ? 疲れてるのかと思ったんだけど違ったのかな?
――
――
一通りの展示を見てまわった後、シャーリー達と合流する為に連絡を取り、指示された場所へとやってきた。
どうやら最終学年である四年生はクラス単位ではなく学年で一つのことをするらしい。
ってことでシンシアとも合流した後、シャーリーの元へとやってきたのだが――
「はぁ!!」
「ふっ!!」
――いろんなところから気合の入った声が聞こえる。
それもそのはず。皆、魔法を全力で放っているからだ。
……えっ? 何? 君ら武闘会でもすんの?
「なんだ? 四年生はクラス単位で出し物しないって聞いたけどクラス対抗でなんかやんのか?」
「何言ってるの? 対抗なんてしないわよ。皆、夜のショーの為に頑張ってるの」
「夜のショー?」
なんだそれ?
「四年生は最終学年ということもあって魔法の熟練度が他学年より高いですから、その成果を魔法ショーという形で教師陣や家族に披露するんです」
「ヘラスロク高等魔法学院のフィナーレを飾る魔法ショーは有名なんですよ」
そう思っていたら、シンシアとユースティアナが説明してくれた。
えぇ? そんなの去年やってたかな?
「去年、あんた魔道具研究会に入り浸ってたじゃない。私のクラスの他に行ったことあるのってカレンとシンシアのクラスくらいでしょ?」
「そういえばそうだった」
なるほど、だから今日周ってる時になんか新鮮味を感じたのか。
ユースティアナと一緒にいろんなところ周ったもんなぁ。
「まぁ、ショーって言っても例年花火を上げることとそれに毛が生えたくらいのもので毎年変わり映えしないからやってる人間からすれば歯応えないんだけど……簡単で綺麗だしね」
「だから実質、四年生って学院祭じゃあ自由行動なんだよね。研究会に所属していない子は遊び放題ってわけだよ」
「やる気出せよ。最後の学院祭だぞ」
シャーリーとカレンから説明を受けるがなんともやる気のない。
まぁ、わからなくもないか。花火って聞くと前世の日本の割物花火……花形の花火を思い浮かべるが、この世界の花火はどっちかというと信号花火くらいのが精々で、色とりどりの花が空に咲くことはない。
でも魔法制御という点ではかなり高度だ。
炎魔法なんかは通常、手元で炎を形成し、それを放った後、着弾時にその炎が爆発する。
しかし、空に放った場合は着弾できるものがないから魔法士がそれを起爆しなければならない。
どれくらいの高さで炸裂させるか、どれくらいの規模の爆発か、空間把握と魔力量調整などなど魔法の制御が出来ていなければ到底出来ない芸当だ。
魔法の成果を披露する見せ物として申し分ない。
でも年々魔法の技術は進歩しているからなのか、過去では超すごい技術も今ではすごい技術くらいにレベルが下がったって感じか。
でも学院祭の最後を飾るにはもってこいだし華やかだけどそう思うのは今世の人達。
前世の花火を見てた俺から見れば、今世の花火はかなりショボい。
……ん? にしては――
「にしては気合い入ってないか? もしかして皆さん練習不足?」
合流した場所にはかなりの人が集まって練習している。
シャーリー達は歯応えがないと言っていたが、花火が彼らにとってどこまで難しいのかは想像出来ない。
でも魔法で出店の補修をしたり、料理に一手間加えたりとかしているのを見たことあるから、彼らにとって花火は難しいものじゃないはず。
だからカレンが言ったように、ほぼ自由行動なのだろう。
「花火なんて簡単じゃん。それより学院祭回ろうぜ!」ってな感じだ。
なのにここには大勢の人達が集っている。
なんでだろう?
「ふふん、まぁ見てなさい。今回は学院史上最高の魔法ショーになるわ」
シャーリーが自身ありげに胸を張ってそう言った。
なんだ? そう言われると気になるじゃないか。
――
――
その光景は圧巻だった。
学院の音楽部と合唱部の奏でるアップテンポの音楽と共に打ち上げられる花火。
その光は正しく空に咲く火の花。
色とりどりに彩られた花は例年と違って目に楽しく、来客を魅了し、視線を上に釘付けにしている。
音楽に合わせて散る花火もタイミングバッチリだ。
「……うん、すごいな。すごいけど――」
そこはかとない千葉の遊園地感!!
見たことあるわ! これ!!
閉園間近にやるやつだこれ!!
「すごい! 音楽に合わせて魔法を炸裂させるなんてどうやってタイミングを合わせているのでしょう? あの高さまで上がる時間を計算して実行しているのでしょうか?」
「そうだろうな。魔法が規定の高さまで上がる速度と時間を測定して曲のどこで炸裂させるかを決めて、それらの時計を合わせているんだろう」
隣で一緒に見ているユースティアナが興奮気味に語る。
正確な時計もさることながら、魔法を操る魔法士の技量も相当高度なものを要求される演目だ。
確か前世の○ィズニー社にはアトラクションやショーでどのように魔法を演出するかを考え、開発する部署があった。
彼らは想像を具現化させる技術者ってことで「イマジニア」と呼ばれていた。
そうかそうか、魔法学院四年生はイマジニアだったのか。
およそ五分間の演目は終了し、学院は拍手で満たされた。
これは学院史に残るな。シャーリーが胸を張るのもわかるわ。
「じゃあ、感想と労いを言うためにシャーリー達の所行きましょうか」
「そうですね」
ユースティアナと共に歩き始める。
……にしてもマティルデさん、従者に徹してるな。
何にも喋んないや。
――
――
ちなみに、この花火を見た魔法学院三年生達は――
「「「「「えっ? これと同じようなことを来年しなきゃいけないの?」」」」」
と戦々恐々としたらしい。
……強く生きてほしい。




