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episode48 困難な道程

 


 超音速を経験し、身体強化魔法が内臓にも作用することがわかった。


 これで耐G用の訓練はあまり必要ないのはありがたいけど問題はこれが宇宙に出ても問題ないかがわからない。


 魔法は地上と同じように使えるのか。


 魔力を補充する術を用意すべきか……など魔法や魔力に関することは調べていかないとわからんことが多い。


 この世界、魔力を補充するポーションっていうものはあるらしく、それを宇宙船に積むべきか?


 ちなみにこのポーション、教会でしか作れないらしい。


 なんでかは知らないけど。



「先のテストで超音速で飛ぶのは身体的には簡単だということがわかったのはよかったな」



 初飛行から開けた翌日、今後を話し合う為に自宅の研究室に集まってもらった。



「でも、あんたの身体強化でやっと普通なのよねぇ」


「ってことは結構魔法に長けた人じゃないと無理かも」


「……ん?」



 楽観的に話をしたがなんだか雲行きが怪しくなったぞ?



「えっ? 俺の身体強化ってすごいの?」


「とんでもなくってわけじゃないけれど学院内だけで見たら上位でしょうね。間違いなく」


「私達はアーサー君より少しは強化できるけど、どんぐりの背比べかな? 多分、私達以上の身体強化を使えるのってもう騎士団や王国軍の人達くらいじゃないかな?」



 シャーリーとエレナから話を聞く。


 そっか、俺の身体強化魔法は標準以上なのか。やったぜ。



「ユースティアナさんやマティルデさんはどうですか? 身体強化魔法でどれくらい強化できますか?」



 学院上位組のシャーリー達は大丈夫として二人は知らないからな。


 聞いてみることにした。



「私は岩塊を持ち上げるくらいの強化が可能です。結構得意なんですよ、身体強化魔法」


「……そっすか」



 可愛い見た目してんのに岩持ち上げられるのか。



「じゃあマティルデさんはいかがです?」


「ユースティアナ様ほどではありませんが剣で岩を斬れるほどには強化できます」


「……剣?」



 えっ? マティルデさん剣使えるの?



「マティルデは私の付き人ですが、所属はソル・ロクス聖騎士隊なんです」


「……そっすか」



 ユースティアナさんから衝撃の情報がもたらされた。


 マティルデさん、ただのメイドさんじゃなかったのか。



「となると高等魔法学院上位レベルの魔法スキルと数学知識を持つ人を探して訓練しなきゃいけないのか……」



 今世でも、前世の宇宙飛行士と同じくらいの学歴を求めなきゃいけないのか。



「訓練かぁ……私体動かすの苦手なんだよね」


「私も。学院の体育の時間が一番辛かったもん」



 カレンとシンシアがそんな会話をしていた。


 ん? シンシアって確か――



「以前、身体強化でドリルパイプ持ち上げてたよな? そこで」



 研究室の外の中庭を指差す。


 すると恥ずかしそうにシンシアが答えてくれた。



「魔法は大丈夫なんですけど……体を動かすのは苦手なんです。私鈍いみたいで……」



 なるほど、魔法で強化して物を持ち上げるとかは問題ないけど、運動神経が悪いからそういう面では苦手と。


 まぁ、二人には関係ないんだけどな。



「まぁ、二人は飛行士としての訓練はしないと思うぞ。作ってもらいたいものがあるから」


「作ってもらいたいもの?」


「あの……私は魔道具製作は苦手なんですけど大丈夫ですか?」



 カレンは嬉々としているがシンシアは不安気だ。


 シンシア安心しろ。


 これはどちらかというと君の得意分野だ。



「二人にはコンピューターを作ってもらいたいんだよ」


「あぁ、前言ってた奴だね」


「自動計算機……でしたか? ふむ、確かに必要ですよね」



 シンシアはコンピューターの重要性を理解しているようだ。


 シンシアの呟きに対してカレンが質問をした。



「なんで必要なの? 機械にやらせるより人がやった方が確実じゃない?」


「どちらかというと逆。計算はロジックをしっかりさせていれば「人」よりも「機械」の方が正確なの」


「そうなの? でもそれが月に行くのになんで必要なの?」


「月の一点に行く為に必要なのよ。例えていえば……」



 シンシアが研究室の外、屋敷の方に視線を向ける。



「屋敷を超えた向こう側の正門にティーカップを置いて、そこに向かって小石を投げて入れる……くらいの難易度があるのよ。月着陸って」


「そうなの!?」



 シンシアの言に皆が驚き、カレンは俺の方を向いた。



「本当だよ。月のどこにでも降りていいとしても、月の軌道計算もしなきゃいけないし、何よりこのアルカイムの自転も計算しなきゃいけないからな。人の手じゃ難しすぎる」


「月の軌道だけじゃなくてアルカイムの自転も?」


「発射場が月に対してどの位置にいるのかによっては行きやすさが違うからな」



 直行軌道っていう、月に向かって一直線に飛ぶ方法もあるけど、軟着陸しようと思ったらかなり減速しなきゃいけないからロケットも大型化してしまうし現実的じゃない。


 探査機ならぶつけちまえばいいけど。


 ちなみにこれ、前世地球のソ連が月探査機を飛ばすときにやってた方法だ。



「月の一点に向かうとなると難易度はぐんと上がる。月に軟着陸しようと思ったら特にな」


「人が乗るのなら特にってことだね……でも計算なんて前に殿下が言ってたけど、機械ができるの?」



 まぁもっともな疑問だろう。


 ということで簡単にデジタル計算機の原理を説明する為、黒板を引っ張り出した。



「コンピューター……俺がイメージしてるのはデジタル式なんだが、これは0と1を使って計算を行うんだよ」


「0と1? たった二つの数字で計算なんてできるの?」


「できるんだよこれが。まぁ、変換しなきゃいけないって手間はあるけど」



 0と1……二進数を使って計算をするデジタルコンピューターは最終的に俺達が使っている十進数に変換しなきゃならない。


 二進数だと1010は十進数にすると10になる。


 こんな感じで変えてあげないと直感的にわからない。


 まぁ、それは一旦置いといて、続きを話す。



「なんで0と1を使うかっていうとこれが入力できる最小単位だからなんだよ。魔道具を使う時ってどうする?」


「魔力を流すけど?」


「じゃあ使わない時は?」


「魔力を流さない……えっ? そういうこと? 0と1って魔力を流すか流さないかってこと?」



 頷いて肯定する。



「0は魔力を「流さない」、1は魔力を「流す」これをやんややんやして計算するんだよ」


「やんややんやって……」



 入力された魔力を反転させて出力する「NOTゲート」


 二つの入力端子を有し、どちらか一方或いは両方に魔力が流れていたら魔力を流す「ORゲート」とどちらか一方にのみ魔力が流れていたら魔力を流す「XORゲート」


 逆に二つの入力端子両方に魔力が流れていないと魔力を流さない「ANDゲート」と逆に両方に魔力が流れた際には魔力を流さない「NANDゲート」


 これらを使ってコンピューターは動いている。


 しっかりと使いこなしたいのは「ORゲート」「ANDゲート」「NANDゲート」の三つだ。



「これらを使えば計算が可能なんだよ」


「えぇ……なんか複雑そう……」


「複雑そう……じゃなくて実際複雑だ。だからこそ計算に長けた人が開発に加わる必要がある」



 俺はシンシアに視線を向ける。


 そしてそれを受けたシンシアが後を引き継いだ。



「そして、魔道具でもあるから魔道具士の力が必要なの。だからカレン、一緒に作ろ?」


「で、できるかなぁ……」


「なんならカレンの実家に発注してもいいぞ。実家の職人に頼ればいいじゃん」


「えっ!? いいの!? マジ!?」


「マジマジ」



 カレンの実家は工房だからな。魔道具士もいるだろう。



「世界初の自動計算魔道具とか作れたら偉業じゃん!! ちょっとお父さんに話してくる!!」


「そこの通信機使っていいぞ」


「ありがと!!」



 すぐさまカレンはドア近くの通信機に駆け寄り操作し始める。


 ひとまずコンピューターはカレンとシンシアに任せるとして、次の話題に進む。


 カレンが通話中だから少し声を落として話をしよう。



「次にロケット本体。これは俺が基本設計をすることになるだろうけど、正直宇宙船本体まで手が回らないと思う」


「まぁ、月行きのロケットだもんねぇ。GPS打ち上げたロケットも大きいって思ったのに、それだと力不足とか笑っちゃうわ」


「そんなに大きいの?」


「ええ。ティア、想像できる? 王城の塔と同じくらいの高さの円筒が空に上がっていくのよ?」


「そ、それはすごいわね……えっ? それでも月に行けないの?」


「アーサー曰くね。実際どうなの?」


「今現状のロケットで人を低軌道……200kmくらいの高さに送るくらいならギリいける。宇宙船の重さによるけど」


「月の38万kmには程遠いわね……で? アーサーはもうどんなロケットにするか決めてるんでしょ? どれくらいの大きさになりそうなの?」


「高さが110m、直径10m、重さが燃料合わせて大体3000t」


「「「「「……」」」」」



 皆黙ってしまった。


 前回打ち上げたロケットは全長が25mだったからな。


 かなりデカくなった。



「そんなに大きなロケット……飛ぶの?」


「やってみないとわかんないな」



 シャーリーにそう答えてみたが多分飛ぶよ。


 前世地球で実際飛んだんだから。



 ――サターンV



 全長110m、重さ3000tの超大型ロケット。


 地球低軌道に118tの重さの物を運べる能力を持ち、月へは47t運べる。


 前世地球において、1960年代に人類を月に送った巨大なロケットだ。



「それを建造していくにしても、扱う人間が未熟なら意味がない。だから操縦技術蓄積の為に、何回かその宇宙船で宇宙に行ってもらわないとな」


「操縦技術蓄積って……航空機とはまた操作が違うの?」


「多分」



 シャーリーにそう答えたら、ガクリと皆が体勢を崩した。


 しょうがないじゃん。


 俺、宇宙船に関してはあまり知らないんだもの。


 とりあえず、宇宙船は後でもいい。


 早く手をつけなきゃいけないのはコンピューターの他にもう一つあるのだ。



「色々やらなきゃいけないことが多くて優先順位付けも難しい環境だが、今から開発に着手しなきゃいけないものがコンピューターの他にもう一つある。エンジンだ」


「エンジン? あの火を吹く奴だよね? 前使ったあれじゃダメなの?」


「あれじゃダメなの」



 シャーリー、それじゃ推力が足んないの。



「たくさん使えば月に行けそうな気がするんだけど……ダメなの?」


「ダメなの」



 シャーリー、たくさん繋げても制御する術がないの。


 前世だってそれができるようになったの2020年超えてからだから。


 スペースXが建造した月行きの宇宙ロケットの第一段なんか33基のエンジン積んでるからなぁ。


 サターンVと同時期に建造されたソ連の有人月面着陸用ロケット「N-1」も同じくらいのエンジン積んでたけど、失敗してた。


 原因はエンジンの数が多すぎて推力制御が難し過ぎたんだな。


 でもコンピューター技術が発達したことでスペースX社のロケットは制御ができるようになったってことだな。


 そのスペースXも最初は失敗ばっかだったからエンジンの数を多くする=制御が難しいってことだ。


 コンピューター技術がない今世じゃあ、不可能に近い。


 というわけで今現状で実現ができそうなのは――



「第一段にエンジン5基、第二段にもエンジン5基、第三段はエンジン1基の構成でいく。で、第一段は全重量3000tを持ち上げなきゃいけないから一基あたりの推力はかなりのものを要求することになる」


「3000tとか想像できないわね……」


「ヴェリタスが空飛ぶと思えばいいよ」


「大きいわねぇ……」



 まぁ、ヴェリタスは基準排水量が4,439tだから正確には違うけど想像はしやすいだろう。



「そんなもの……本当に作れるのでしょうか?」


「俄かには信じられません……」


「確かにな……」


「夢物語のように思いますね」



 ユースティアナさんもマティルデさんも想像を絶する計画に懐疑的になってる。


 エリオットもレイも同様だ。


 でも――



「人間、できると思ってやれば実現できる生き物だ。実際、俺が深海に行っただろ?」



 目の前に、夢物語を実現した人がいることを皆に思い出させる。


 俺の言葉を聞いて、皆は顔を綻ばせた。



「確かに、アーサーは夢を現実にした人物だった。あまりにも日常すぎて忘れていたぞ」


「殿下、アーサー殿に引っ張られ過ぎですよ」



 レイの一言で研究室に笑い声が響いた。


 ……なにわろてんねん。

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