episode45 世界からの依頼
コア・カッティング・エリアで光り輝く魔石。
驚きすぎて魔石を見つめるくらいしかできていない。
「どうした? 声が下まで響いて――なんだこれは!?」
下のフロアからエリオットとレイが上がってきたが、この状況を見て二人も驚いて固まった。
が、レイはエリオットを守るようにして前に出てきた。
「……何があったのです?」
「魔石層から魔石が上がってきたから見てみようと思って俺が触ったら光りだした」
「あれが魔石……ですか?」
「魔石とは、あんなに輝くものだったか?」
レイもエリオットもその輝き方に首を傾げていた。
魔石を使って魔道具を動かす場合、魔石が光るのだが、その光は淡く光るのみ。
しかし、目の前の魔石は投光器並みにデッキを光で包んでいる。
「ま、魔石というのはこんなに光るんですか?」
「聞いたこともありませんが……」
マティルデさんも守るようにしてユースティアナさんの前に出ている。
そのマティルデさんの背中から顔を覗かせるようにして魔石を見るユースティアナさんが魔石の光り方に疑問を抱き、マティルデさんはこんなに光るなど聞いたことがないと口にする。
それは、俺もそう。
「魔石って……こんなに光るんですねぇ」
「「「「「のんびりしてる場合か!!」」」」」
一周回って冷静になってしまった俺の言葉にシャーリー達からツッコミが来た。
だってぇ。
「だってぇ……わかんないんだもん」
「ちょっと、気持ち悪い声出さないでよ」
「ひどい……」
和ませようとしたのに。
なんてふざけてたら魔石の光が収束し始め、その光が細く一筋になり一方向に伸び始めた。
……飛●石?
「……いや、あながち間違ってないかもな」
「えっ?」
頭の中で浮かんだそれは的を射ているかもしれない。
そう思ってその光の先を見てみた。
それは夜空に向かって伸びていて、その空は雲ひとつなく、普通なら星以外何もないというだろう。
しかし、その光はある天体に向かって伸びていた。
それは――
「……月?」
光の指す先、そこには煌々と輝く月があった。
――
――
――
あの後、インナーバーレルの中にあった魔石がパイプトランスファーによってカッティングエリアに送られてきたから分割して同じように光るか試してみた。
するとどういうわけか他の皆が触っても何も起きないのに俺が触ると光だすのだ。
おかげで今、目がチカチカして仕方がない。
で、俺の目を潰した魔石の一つを持ってヘリポートで観察してたら、なんか皆集まってきた。
しかもシンシアとマティルデさんはティーセットを持ってきてくれたからそのまま月見お茶会になった。
「二、三回試したが全て俺が触ったら光だしたな」
「しかもその後、私が触ったら消えたしね」
「そして、その後またアーサーが触ったら再び光だしたな」
そう、シャーリーとエリオットの言う通りの動きを魔石にされた。
まさか消えた光がまた光るなんて思ってもみなかったから何回も投光器並みの光をダイレクトに見てしまった故に目がチカチカしているのだ。
目をシパシパと瞬かせてなんとか慣れさせようとするが未だに収まる気配がない。
ということで諦めて自分に治癒魔法をかける為、目を手のひらで覆う。
わぁ、お目目あったかぁい。
「あと、魔石の光が空に向かって伸びたよね? あれってやっぱり月に向かっていたのかな?」
「そう見えたけど……そのあたりどうなの? アーサー」
エレナとカレンから聞かれたが、未だ回復中の為、目を抑えながら答える。
「一筋だけじゃわかんなかったから三つ魔石を光らせて、アルカイムのヘリポートとデリックの頂上と船尾に置いて三角測量してる」
でも――
「もし月まで伸びてたらこんな狭い船じゃ、誤差が大きいと思うから、帰ったらもっと広く置いて確度を上げたい」
三角測量とはいえど、たったの200m前後のこの船で、約38万km離れた月のどこに向かって伸びているのかなんて正確に測れない。
あのね、この世界の月も38万km離れてるんだよ。びっくりしたよ。
しかもこれ、ただの石なのに目標に向かって光を出すなんてどんなカラクリか全くわからない。
まさに魔法を見せられている気分だ。
「海底に眠っていた巨大機械……そしてそれを守るように固められていた魔石が光り、月を指した……神のお力を感じます」
「そうね、神が残した遺産……そこからの啓示です。何か意味があるんじゃないですか?」
「そう言われましても……」
マティルデさんとユースティアナさんはさすが修道女、すぐさま神の啓示と受け取ったようだ。
まぁ、そう見てもおかしくない現象だけど、あの光がなんなのか全くわからない。
「あの光……ただ掘り起こした人間に月を示すだけなのか、それとも何かを送っているのか……それがわからない以上、なんとも言えないですよ」
「送る……というのは?」
「情報とかあるでしょう?」
レーザー通信的な何かをしているかもしれない……そう思って光の周波数を調べてみたが特に変化がなく、ただの可視光線だった。
でもそれだったら月が沈んだ後、光が無くなってもいいものが淡く光り続けている。
ということは何かしらのエネルギー消費をしていると考えていいだろう。
それが通信をしていると俺は踏んでいるのだが、電波も何も発していないから全くわからないのだ。
「まぁ、月まで届く程の電波を発せられたら何かしら体に不調をきたしてただろうな」
「じゃあ、魔力で通信してるんじゃないですか? 宇宙との通信では魔力の方が繋がりやすいみたいですし」
シンシアはGPSの時に得た知識から通信は魔力で行われているのでは? と予想したようだ。
「そう思ってカレンに調べてもらったらそれらしい魔力波は出てなかった」
「えっ? そうなの? カレン」
「うん。計測器には通信してるような波は観測されなかったよ。肌に感じる魔力もほんの少しだしね」
俺達は魔力を肌感覚で感じることができる。
それから感じるのは「魔法を発動しているような魔力は感じるが何をしているのまではわからない」というものだった。
俺も魔法を発動しているくらいはわかるが、カレン曰く、学院生は魔力の揺らぎで攻撃魔法か防御魔法かくらいの予想ができるらしい。
学院生ってすごい。そんなことまで訓練するんだ。
戦闘職に就く人の方が多いからだろうな。
で、それは計測器でも同じだったということだ。
「魔力を製造している……と思われる巨大な機械。そして月を指す魔石……」
「しかも魔石はアーサーにだけ反応する……」
「謎が多いですね。うーん……月に行けたら何かわかるかも?」
「ティア……それは無理でしょ」
「あははっ、そうよね」
ユースティアナさんとシャーリーの会話が聞こえる。
なるほど……その手があったか。
「にっちもさっちもいかなくなったら、行くか」
「ん? どこにだ?」
「月」
俺の一言を聞いて沈黙が降りる。
そして再び、エリオットから聞き返された。
「……すまん、どこに行くと言った?」
「だから月だって。もしこれから行う電子顕微鏡やその他諸々の魔石調査で何もわからなかったら行くのも手かなって思っただけだよ」
「ま、待て! 待て待て!! そうは言うがな、アーサー! どうやっていくのだ!? 月まで!! 我々の打ち上げた衛星は遠くて約二万kmしか飛んでいないのだぞ!?」
「正直今のままじゃ無理だな。行き方はいろいろあるけど、足りないものが多すぎる」
今のロケットエンジンは力不足だし、有人宇宙船となるとアルトゥム並みに気を使う部分もある。
流用できる技術もあるにはあるが、肝心のものがないから今は無理だな。
「足りないものは多いし問題も多い。けどさ――」
俺は立ち上がって、空を見つめる。
煌々と輝く満月。それをしばらく見つめた後、皆の方へ振り返った。
「行けるなら行ってみたくないか? 月」
月へ行く。これほどの大冒険もないだろう。
◆
「ただいま帰還いたしました」
ソル教総本山 ソル・ロクス。
その執務室にユースティアナとマティルデがアルカイムでの掘削調査を終えて帰還したことを教皇であるアマリアに報告する為、執務室へと赴いていた。
「お帰りなさい。調査はどうでしたか?」
「海底には巨大な機械が稼働状態で埋まっていました。上部部分しか映せませんでしたが」
「あら、じゃあそれが魔力を作っているのかどうかは……」
「アーサー様も、わからないと仰っておられました。ですが、その機械を覆うように魔石が分厚く形成されており、これが従来の魔石と全く違う動きをしたのです」
「それはどのような?」
「それは――」
ユースティアナはアルカイムで起きたことを話した。
光ったこと、その光が月に向かって伸びたことを。
そして――
「アーサー様は月に何かを送っているのでは? と睨んだようですが……アーサー様の知識を持ってしてもその光が一体なんだったのかはわかりませんでした」
あれから電子顕微鏡やCTなどで確認したが光る以外のことはわからず仕舞いだった。
それに落胆していたアーサーの姿をユースティアナは思い浮かべ苦笑した。
「そう……それは残念ね……」
「アーサー様はそれなら直接月へ行って確かめたいと仰っていました。でも問題が多いと――」
「なんですって?」
ユースティアナの言葉を遮り、アマリアが聞き返す。
驚愕の表情を浮かべるアマリアを見て、ユースティアナは驚くのも無理はないと、再度口を開いた。
「驚きますよね、月へ行こうだなんて。でもアーサー様は月への道筋ももう見えているご様子で――」
「なんですって!?」
また再度、アマリアは言葉を遮った。
何やら様子がおかしいと感じたユースティアナは後ろに控えるマティルデの方をチラリと伺う。
すると目にあったマティルデの目にも、様子がおかしいと思っていることが伺い知れた。
「あの……何かございましたか?」
「いえ……」
再度アマリアと向き直ったユースティアナは恐る恐る聞いてみる。
しかしアマリアは顎に手を当て考えこみ初めてしまう。
そして、少しの時間が経った後、アマリアは顔を上げてユースティアナに問いかけた。
「……彼は月へ行けると言っていたのよね?」
「えっ? はい……そうですが?」
「どのような方法かは話された? 覚えていたら教えて欲しいのだけれど」
「具体的なことは仰っておりませんが足りないものや問題も多いとは仰っていました」
「足りないもの? 問題とはどのようなもの?」
「えぇと――」
あの夜、ヘリポートでアーサーから語られたことを反芻しアマリアに話す。
それを全て聞き終えたアマリアは、ただ一言――
「そう……ありがとう。下がっていいわ」
――とだけ言い、そのあとユースティアナは退室させられた。
扉の前で呆然とするユースティアナとマティルデはお互いの顔を見合わせる。
「……なんだったのかしら?」
「わかりません……ですが、月に行くと言った後からご様子がおかしかったような……」
二人して首を傾げる。
月に何かあるのだろうか?
そう考えながら、執務室の前を後にした二人なのだった。
――
――
「お呼びですか、猊下」
ユースティアナとの会話の後、執務室に枢機卿の一人が招かれた。
アマリアは彼の顔を見やるとすぐに本題に入る。
「今すぐ各国国王と連絡を取ってちょうだい。大至急よ」
「……は?」
言われたことが予想を上回るものだった故に枢機卿は聞き返す。
「聞こえなかった? 各国の国王と大至急連絡を取って欲しいの」
しかし、再度アマリアの口から語られた内容は聞き間違いではなかったことに驚きを隠せず、枢機卿は問う。
「お、お待ちください猊下!? 何があったのです!?」
「神託よ。神託を成す時がきたと国王達に伝えればそれだけで――」
話をしているところで、執務室のドアが叩かれる。
「ごめんなさい、今重要な話をしているの。後にして――」
「火急の要件に付き、大変失礼致します!! ヘラスロク王国国王陛下より、遠距離通信です!!」
断りを入れたのにも関わらず、開け放たれたドアの先には慌てた様子の修道士が立っていた。
急いできたのだろう。その額には汗が光っていた。
「……そう、そうよね。彼はヘラスロクにいるのだものね」
アマリアは席を立ち、ドアへと向かう。
その際、枢機卿とすれ違うときに再度アマリアは依頼をした。
「ヘラスロク国王とは私が話すわ。あなたは他の国々の国王へ連絡を」
「神託を成す時が来た……と伝えればいいのですな?」
「ええ、それ以上の内容を聞きたい場合は私に直接連絡するように伝えて。お願いね」
「かしこまりました」
アマリアは枢機卿の了解を聞き終えると、通信室へと足を運んだ。
◆
アルカイムでの掘削調査が終わり、ルインザブに帰還してから数日が経った。
今も例の魔石を自宅の庭の真ん中に置き、その光を胡座をかきながら観察する。
「やっぱおまえ……月が沈むと光弱くなんのな」
今は朝時。目の前にある魔石は普通の魔石以上の光ではあるが、船上で見たあの光よりは小さくなっていた。
だが昼になるとまた月が上がり始めるからそのときにはまたあの光の筋が天に伸びる。
ふと空を見上げる。
光の筋が伸びた先は月……というのは確定しているが、月のどこかはまだわかっていない。
魔石の一つは自宅、もう一つは魔法学院、もう一つはロケット発射場に置いて場所を測量している最中だ。
もっと高性能な望遠鏡を開発しなきゃいけないのかぁ……
しんど。
「ねぇ、じぃっとこれを見てて何かあるの?」
なんて話しかけてくるのは俺と一緒になって魔石を観察していたシャーリーだ。
膝を抱えてつまらなさそうな表情で「これになんの意味があんの?」と訴えてきている。
ここ最近、帰ってきてからというもの、彼女は俺の近くによく来るようになった。
何があったのだろうか。
まぁ、それよりもだ。
「なんか……落ち着くじゃん?」
「まぁ……そうだね」
焚き火囲んでお茶啜ってる感じで魔石を見ていた。
そんなまったりした時間を過ごしていると屋敷からシンシアとそれに――
「エリオット?」
そう、エリオットが中庭にやってきたのだ。
なんだ? あいつが屋敷に来るなんて初だぞ。
「どうしたエリオット。今日ってなんかあったっけ?」
「特には何も。今日はアーサーに手紙を渡す任を任されたのだ」
「……別におまえじゃなくてもよくね?」
君、第五王子様よね?
「……アーサー、この手紙はおまえを王城に召喚する旨の手紙が入っている」
「内容知ってるのかよ」
「詳細は知らん。だが、必ず渡して明日の正午、王城に必ず来るよう伝えよと強く言われた。父上からな」
「えぇ……国王陛下から? なんか怖いんだけど……」
「それに今、世界各国から国王が我が国に集まっている。しかも教皇猊下もだ。そのタイミングで召喚というのは……」
「さらに怖いんだけど?」
とにかく、手紙の中身を見てみるか。
どれどれ……
……
「……月に行きたいって言ったこと話したんだ?」
「ああ、昼食の時にさらりとな。そのことで召喚されるのか?」
「なんかそれっぽい」
手紙には月に行こうとしていると聞いたって書いてあるけど、今のところ月に行く気はないぞ。行きたい気持ちはあるけど。
行きたくても今は色々足りないし。
「月に行くなんてとんでもないって言われるとか?」
「それだったら嫌だなぁ」
ホント、何で呼ばれたんだろう?
シャーリーの言う通り、怒られるんだろうか?
――
――
「此度は我々の召喚に応じていただきありがとう。アーサー・クレイヴス」
「いえ、お呼びいただき、恐悦至極に存じます」
王城の謁見の間に通された俺は今、各国国王に囲まれ、正面にはヘラスロク王国国王陛下と教皇猊下がいる。
今、猊下からお声をかけてもらったが、一体なんだ? この状況は?
謁見の間までエリオットが案内してくれたが、ここの扉の前に着いた時に「私が付き添えるのはここまでだ」って言って中に通されたんだよな。めっちゃ真剣な目で。
エリオットって王族なんだけど? ここにいちゃダメなの?
膝をついて首を垂れている今の状況から国王陛下達にバレない程度に周りを伺う。
……うん、ヘラスロク国王陛下のみならず、他の国々の国王陛下達の側に宰相の姿が見受けられない。
それは教皇猊下も同じで、ここにいるのは俺を除いて最高権力者ばかりがいることになる。
……やべぇ、緊張して吐きそうになってきた。
「あなたをお呼びしたのは他でもありません。月に行こうとしているそうですね?」
「そ、そうですが?」
再び猊下に話しかけられる。
かろうじて答えたが、それが何か?
まだ行きませんが。
「月まで行く方法も思い浮かんでいるとユースティアナから聞きましたが、本当ですか? 良ければここでお話しいただきたいのだけれど」
「えっと……では、僭越ながら――」
月まで行く方法を陛下達に伝える。
最初は戦々恐々としながらだったが、話しているうちに熱くなって饒舌になってしまった。
そして全て話終わると、シンと静まり返る。
膝をついた状態で話したから結構疲れた。
水が欲しい……
「……これほどとは」
猊下が声を漏らす。
それを皮切りに陛下達は隣にいる方と会話を始めた。
「そのような方法で行けるものなのか?」
「だが彼は宇宙に魔道具を――」
「確かに彼は一番月に近い。何せ――」
様々な声が聞こえる中、教皇猊下がパンと手を叩いて制し、また静寂が降りる。
い、一体なんだ?
「アーサー・クレイヴス。あなたをここに招き、話を聞いたのは、神託が理由なのです」
「神託?」
神のお告げってこと?
「その神託は創世神ソルが天に帰った日、各地域を治めていた長達……即ち、ここに集まる王族の先祖に創世神自らが渡したものです」
「それを読むことが、国王となった証でもあるのだよ」
ヘラスロク国王陛下が補足してくれた。
なるほど、代々引き継がれてきたものってことだ。
しかも国王にのみ開示されるのか。
日本の三種の神器みたいだな……ん?
「それと私の話にどんな関係が?」
神託ってあれだろ? なんかよくわからんけどありがたいお言葉みたいな。
あとはどこそこに何々があるから取ってこい的な?
……えっ? そういうこと?
月になんかあるの!?
「神託の内容は……月を目指せ、というものです」
当たった。
月を目指せ……か。神様も難しいことを要求するなぁ。
そんなの昔は無理に決まってんじゃん。
一体何百年かかるんだよ。
「私は月にいる。疾く登れ……という言葉を託したのち、創世神ソルは光と共に空へと上がっていったと記録されています」
「光……」
普通だったらなんかの噴射ガスかな? って思うけど、魔法があるからなぁ……あいつ光るもんなぁ。
まぁ、それで上がったとしても死ぬだろ。生身で宇宙行ったら。
大体創作だと思うから話半分で聞いとこ。
「疾く登れと言われた当時の国王達は学者を集め、月へ行く方法を考えました。しかし、誰も実現できなかったのです」
「君も知っていよう、飛行魔法の存在を。あれは神託を託された当時、月へ行く為に編み出されたのだ」
「しかしながら、知っての通り、あの飛行魔法はたかだか数十mしか登れず、霊峰の頂上にすら辿り着けません……よって当時の国王達はその神託を未来に託すようになりました」
「それがいつからか、国王にのみ開示される……いわば証としてのみに扱われ、実現は諦められていたのだよ」
まぁ、そんな荒唐無稽の話されたらな。
神託を受けた人達がもし実際に神様が空に上がったところを見たんだとしたら行けるかもって思うかもしれない。
普通なら「あの方は神だから」って言って真似することすらしないだろう。
しかし、神の使った御業を俺達人類は真似できているものがある。
――魔法だ。
エリオット達は神が最初に魔法を使ったと言っていた。
それを模倣できたのだから、天に登ることもできるかもと思って挑戦するだろう。魔法と同じように。
だができなかった。だから引き継いだ。
しかしいつしか実現不可能と諦めて、引き継ぐ風習だけが残ったってことか。
「其方は空を飛ぶヘリコプターを製造し、その後、宇宙に鷹の目を置いた。その時ですらも、私達は偉業と受けてはいても、神託を実現できるやも……とは考えなかった。それほどまでに現実味のないものだったのだよ」
「しかし、ユースティアナやエリオット王子殿下からあなたが月に行こうとしていると言う話を聞いた際、この神託のことが真っ先に思い浮かびました。……アーサー・クレイヴス」
「は、はい!」
猊下に改めて名を呼ばれる。
瞬間、空気が変わったのを感じた。
「先祖代々受け継がれながらも、実現を諦めていた神託。それを実現できる具体性のある方法……真に理解は出来ていませんが、私達が考えるそれよりも現実性があるように思います」
少し苦笑しながらも猊下はそう言った。
そして――
「これは、ここに集う各国国王、そして私、ソル教教皇からの依頼……つまりは全世界からの依頼です。アーサー・クレイヴス」
胸が高まる。
鼓動が大きく脈打つ。
行こうとは言ったが、行けたらいいな程度に思っていたそれが――
「月へ行ってください。その為ならば我々はどんな支援も惜しみません」
――向こうの方からやってきた。
そんなもの……当然――
「はい、喜んで」
――受けるだろう。
俺は知らないうちに笑みを浮かべて答えていた。
次に目指すは38万km離れた天体……月。




