episode43 まだまだ下部は見えません
LWD構成のドリルパイプが降下を開始し、いよいよ検層が始まる。
ほぼ二日かかったが、今はドリラーズ代表のマシューさんと船長であるポールさんとの間で通信機でやり取りしつつ、ウェルヘッドへの再挿入が試みられている。
で、その間に俺達はなにをしているかというと――
「これがカメラ……ですか? レンズがたくさんありますね」
ユースティアナさんが目の前に横たわるそれを見て感想を口にした。
「レンズに見えるものの半分は投光器です。これから行くところは坑の中ですので」
「ああ、なるほど。真っ暗ですものね」
まじまじと見つめるユースティアナさんの横でカメラの調整をしていく。
降ろしたはいいがピンボケでしたでは意味がないからな。
ちなみに今作業しているのはラボ・ルーフ・デッキのコアカッティングエリア横の通路。
俺もユースティアナさんも作業着と安全ヘルメット着用でここにいる。
「ねぇアーサー。こんな感じでいい?」
カメラの調整をしていると同じく作業着と安全ヘルメットを着けたシャーリーが胸に何かを抱えて持ってきた。
というのもそれはカレンに頼んであるものを作ってもらっていたのだ。
が、なぜそれをシャーリーが持ってきたんだ?
「なんでシャーリーが持ってきたの?」
「なに? いけない?」
「そんなことないけど」
ここはカレンが持ってくるものと思っていたもので。
まぁ、とりあえず持ってきてくれたそれを受け取る為、立ち上がって受け取った。
「……うん。いい仕事してくれた」
「ところで、それなに? なんか花みたいに開くようになってるけど」
シャーリーから受け取ったそれは、四つの区画で開くような機構を着けたものだ。
確かにこれだけじゃわからないよな。
「保護カバーだよ。カメラのな」
「カメラの?」
LWDでの掘削後、再度カメラを挿入することになる。
ということは、ウェルヘッドの縁にカメラをぶつける可能性があるのだ。
もしぶつけてカメラが割れたりしたら笑えない。その為にカメラを保護する為のカバーをカレンに頼んでみたのだ。
嬉々として作ってくれたけど流石は魔道具研究会所属。
いい機構を着けてくれた。
これなら脱着じゃなくて開いて閉じることができるから引き上げの時にもカメラが破損する可能性が低くなった。
これは非常にありがたい。
「いやぁ、ありがたい。これならカメラの破損はほぼ気にならないな。ところでこれ作ってくれたカレンはどこに?」
「完成した瞬間疲れて寝たわ」
「だからお前が持ってきたのか」
じゃあ最初からそう言いなさい。
◆
カメラ調整をしている間に再投入も無事完了し、掘削同時検層が開始された。
ラボに設置してあるモニターに齧り付き、数値が変わらないか見守る。
とはいうものの、そんなにすぐ変わるわけじゃないなら見守るのは早すぎる気がするけど、なにがあるかわからないから気が抜けない。
「掘り始めて二時間経ちましたが、どれくらい掘れているのですか?」
「大体30mですね」
「30m……確か目指している深度は――」
「1000mよ」
「気が遠くなるわね……」
ユースティアナさんと会話していたら、シャーリーが横から参加してきた。
シャーリーからの返答を聞いてユースティアナさんはげんなりとしているがここは一歩一歩着実に進んでいかないと。
「ただたった30mしか掘ってないのに魔力値が想定以上に高くなってるんだよ。やっぱなんかあるな、下に」
「ホントだ。結構高いわね」
LWDには魔力の計測できるようにしている。
もしかしたら魔石ができている可能性があったからだけど、まさか30m地点でこれとは……期待大かもしれないん
「魔石が結構あるかも。これはとんでもないお宝発掘かもよ?」
「ええ〜この前エリクサー掘り当ててうちの商会とんでもない利益出たばかりよ?」
エリクサーの有用性が世間に知れ渡り、その需要が高まった結果、ラザフォード商会は今唯一エリクサー田……と言えばいいのか? それを持っていることで現在独占状態だ。
今じゃヘラスロク王国……というかフォスター造船所に掘削船の建造依頼が殺到しているようで、ある種の大航海時代が幕を開けようとしている。
「リチャードさん、てんてこ舞いだったな」
「リチャードさん?」
「この船の建造をしてくださった造船所の所長です。潜水艇開発からずっとお世話になっているんですよ」
「そうなのですね」
「まぁ、主にアーサーのせいで忙しくなっちゃったところあるけどね」
「それはあるかもしれない」
技術力半端じゃないもの、あの造船所。
なんて会話をしていたら、エレナやシンシアやマティルデさん、エリオットとレイの合流し、そのままラボでお茶会を開くという形になった。
「魔力を生成している可能性のある場所で、浅部の魔力値が高い……魔石やエリクサーが眠る可能性もあるのか?」
「エリクサーはどうだろうな。魔石の可能性の方が高いかも」
帽岩があるわけじゃないからな。
魔石は魔力が固まったものだからあるかもだけど。
「エリクサーは化石燃料であることはわかってるけど、魔石は化石でもあり、岩石でもあるからな。あってもおかしくない」
「エリクサーは生物由来じゃないとできないってことですよね?」
「そうです」
ユースティアナさんの質問に答える。
するとエリクサーという単語を聞いてエレナとシンシアが少し複雑な表情をしていた。
「どうした? エレナ、シンシア」
「そのエリクサーだけどね、元々は厄介者扱いだったでしょ?」
「そう言ってたな」
「だから今までそれが出てきたら捨ててたの。ポンプとかで吸い上げて」
「まぁそうなるか、そこから先掘りたいもんな。でも勿体無いな」
「そう! 勿体無いことしたなってうちではそれはもう後悔しかなかったの!! お父さんもお母さんも嘆いてたもん」
まぁ、石油も昔そうだったらしいからな。
「私のところも、今ではこうして世界最先端の現場に携わらせていただいてますが、鉱山業をしていた時にエリクサーが出てきたことがあって……父がなんともいえない顔をしてました」
「そっかぁ」
マシューさんも大変だったもんな。
今じゃ欠かせない人になってるから不謹慎だけど、こうなってくれて俺としてはすごく助かってる。
「そっかぁ……じゃないよ! 誰がこんな状況にしたと思ってるの!?」
「えっ? ……ルイさん?」
「アーサー君でしょお!?」
エレナが普段と違って大きい声を出してる。
ん〜……
「ごめぇんね★」
「くっ! むかつく!!」
だけどそれくらいしか言えないもので。
「しかし魔石があったとして、採取してどうする? 今でも需要はあるにはあるがエリクサーほどではないぞ?」
「なんで売る方向に行くんだよ。調べる為に使うに決まってんだろ」
エリオットの言う通り、魔石は今やエリクサーの下位互換になっていて、魔力源の主流ではなくなった。
が、この船は調査船だぞ。
その魔石は売らずに調べるさ。
「そもそも手記に載ってた神様がこの星を浄化ていった場所にある魔石だぞ? なんかあるかもしれないだろ」
「確かに……その魔石こそが星の浄化をしたものの可能性もあるか」
そう言って納得したエリオットの次に、ユースティアナさんがポソっとあることを口にした。
「その魔石で何かを動かしてたりして」
「……ん?」
俺が聞き返すような声をあげたからか、ユースティアナさんは少し慌てた様子で答えてくれた。
「えぇっと! 仰ってたではありませんか。この穴の下で魔力を作っているんじゃないかって。魔力で魔力を作るって意味がわかりませんけど……」
「いえ……でもあり得ない話じゃなさそうですね」
魔力……電子顕微鏡で見た姿は明らかに機械……ナノマシンだった。
じゃあ、それを製造する機器があるんじゃないかって言うことで今絶賛掘っているのだが、それを作るのにもナノマシンの力を借りているのならあり得ない話じゃない。
うーむ……じゃあもう掘ってる段階で寿命を縮めているんじゃないか?
「魔石だったら削ることになるから寿命は縮めちゃうかもなぁ」
だからって掘るのやめねぇけど。
「というより、ちょっと穴開けたくらいで大幅に短くなるわけじゃないでしょ」
「そうかな……そうかも」
シャーリーからそう言われたことで少しホッとした。
◆
「ふわぁ〜……よく寝たぁ!」
夕飯も終え、なんか自然と俺の部屋に集まるようになった夜。
もう日常化してしまったお茶会の準備中にカレンが俺の部屋に入ってきた。
寝起きのようだが、身なりはそれなりに整えてきているようで少し安心した。
なんかカレンって寝起きでボサボサの髪でも普通に廊下歩いてそうだからな。
杞憂でよかった。
「おはよう……って言っても夜だけどな。あの防護カバー最高だったよ、ありがとう」
「おっ? そんなに褒められるなんて照れちゃうね」
「だけどなぁ、完成してすぐ倒れるように寝るのは良くないぞ? 見てるこっちが心配になる」
「鏡見て言ってください。アーサー様」
シンシアにジト目を向けられたのでスッと目を逸らす。
「今って掘削はどうなってるの?」
「LWD構成で掘削中。今は……海底下200mくらいね」
「へぇ、結構掘れてるんだ」
「比較的柔らかかったみたい。おかげで順調に進むことができてるけど硬い岩盤に当たったら時間はもっとかかるかも」
「あ〜、まぁそれはしょうがないよね」
俺がしゅんと縮こまっている間にカレンとシンシアが今の現状を話している。
その会話を聞いていたのだろう。
ユースティアナさんがカレンに質問した。
「あの、何がしょうがないのでしょうか?」
「硬い岩盤を掘るってことはドリルビットにも負荷がかかるじゃないですか。そうなるとビット自体も削れちゃうんで交換が必要になるんです」
「なるほど……えっ? ってことはそうなったら……」
「また十時間ぐらいかけてドリルパイプをあげてビットを交換して、また同じくらいかけて海底に降ろして、また6km下の50cmの穴に再投入することになりますね!」
「ほぁ……」
その途方もない時間にユースティアナさんは惚けてしまった。
これまでのことでドリルパイプの降下の大変さを目の当たりにしたからこそ、想像しやすくなってしまったんだろう。
「まぁ、そうならないようにビットも硬い岩盤を掘れるものを装着して降ろしてますのでそうはなりませんよ」
俺だってそんな時間の使い方はしたくない。
船を動かす魔力も有限だし、そもそも食料も日程分しか積んでない。
追加補充すればいいが、そうなるとさらに費用がかかるからやりたくない。
ということで、ビットもそうならないように硬い岩盤も掘れるものを着けているのだ。
「……アーサー、私は知っているぞ。物語などではそういうことを言うと現実になると」
「おまえ怖いこと言うなよ」
エリオットがフラグが立ったと言ってきた。
ならないよ。
……ならない!!




