episode42 スパットイン
いよいよ掘削作業が開始された。
とはいうが、まず最初にドリルパイプを海底まで伸ばさなければならないから今はまだパイプを繋げていく作業中だ。
そして作業開始から大体六時間後、ドリルパイプが4000m分繋がった。
ここでドリルパイプを支える専用魔動機械を導入し、パイプに負荷がかからないようにする。
そこからまたドリルパイプの挿入作業。
こればかりは地道に下まで降ろすしかない。
根気と集中力の求められる作業だ。
とはいうものの、毎度お馴染みで掘削作業はマシューさんに丸投げしてるからこうして自室でモニターするだけなんだけど。
「降ろすだけでも重労働。すごいわね、ドリラーズ」
「まぁ、元々体力勝負の冒険者やってた人達だからね」
「でも機械動かしながらだもん。勝手がわかってないとやっぱり疲れちゃうよ」
「そういうものですか? 教会ではあまり力仕事がないものでして」
「ユースティアナ様は特にそういった作業はされませんからね」
「ローレルリングって、教会内でもすごい地位なんですか?」
「ユースティアナ様は特別だろう。猊下の外遊にお付きになるほどだからな」
「皆様、お茶とお茶菓子のおかわりはいかがですか?」
……で、なぜかまた俺の部屋に皆集まってるんですよ。
食事を終えて風呂にも入ってホッとする時間だからってここでせんでもええやろ。
「アーサー殿も、おかわりはいかがですか?」
「……いただきます」
レイにティーカップを渡す。
手慣れた様子で茶を注いでくれたが、レイの淹れたお茶もなかなか美味かった。
あれか? 従者ってのはお茶の淹れ方も教わるのか?
いや、シンシアは普通に学生だった。
そういえば趣味だったって言ってたな……偶然、俺の周りに紅茶を淹れるのが上手い人が集まったのか。
「ねぇねぇアーサー? 今回の掘削で創世神様の遺構が見つかったらどうするの? っていうかインナーバレルで引き上げられるの?」
カップを傾けていたらカレンからそんなことを聞かれた。
「いや、正直言ってどれだけの規模のものが埋まっているのかわからないからなんとも言えない」
「あれだけの大穴があったんだから巨大な遺跡なんじゃない?」
「とも言い切れない。ただナノマシン製造機を埋める為に掘っただけの掘削口かもしれないからな」
ただ、言えることがある。
それは確実に何かが埋まっているということだ。
「掘削はLWDで行い、なにがあるかを調べる。目標近くだと確実に何か数値が変わるはずだからな」
「LWD?」
「掘削同時検層のことだよ」
LWD……logging while drillingの頭文字から取ったそれは、掘削と同時に地層がどうなっているのかを調べることができる。
電圧や自然ガンマ線などを計測する機器をドリルビット上部に接続して掘りながら調べる。
「もし、機械が埋まっているのなら隙間があるはず。その隙間に入ったら自然ガンマ線も電圧も一気に低くなるから、それでそこに何かがあると確認できる」
「低くなるの? 高くなるんじゃなくて?」
「なにもないとなにも反応しないだろ?」
「あぁそういうことね」
納得して、カレンはお茶菓子として用意されていたクッキーを口に運んだ。
すると今度はシャーリーから質問が飛ぶ。
「もしそれで掘り当てたとして、どうやって確認するの? そのLWDってのは層がどうなっているのかわかるってだけの代物なのよね?」
「そうだな。だから掘削後、そこにカメラを沈めることにした」
「ドリルパイプの中に?」
「それができたらよかったんだけどなぁ」
これに関しては結構ギリギリまで悩んだ。
もし中に機械が入っていて、それが魔石やエリクサーに含まれていたナノマシンを作っているものだとしたら、掘削で壊したらナノマシンが生成されなくなって、この世界から魔力がなくなってしまう日を縮めてしまう可能性があった。
最初はLWDで確認後、そのままドリルパイプ内にカメラを入れる方法を思いついたけど、ドリルパイプの中に入れられる程に小さなカメラを開発できなかった。
カメラ単体なら問題ないが、撮る場所は海底の更に下の地面。
明かりがないとなにも映らないからライトも用意しなきゃならない。
それを積んだら大きくなってドリルパイプ内に入れられなくなった。
「えっ? じゃあどうやってカメラを入れるのよ?」
それをシャーリーに伝えるともっともな質問がきた。
「ウェルヘッド内に入れられるカメラを作ったから、それを沈めて入れる」
「えっ……ってことは……」
「LWD構成のドリルパイプを一旦引き上げて、今度はカメラを先端に付けたドリルパイプを下に入れる」
「「「「「ひぃッ!!」」」」」
シャーリー、エレナ、カレン、ユースティアナさん、マティルデさんが小さく悲鳴をあげた。
そりゃそうだ。
今でもこんだけ時間がかかって、未だに掘削作業すらしていないのに、それと同じ時間をかけてもう一度カメラを入れるのだから。
「先を見ると途方もないな……」
「精神力が試されますね……」
エリオットとレイもそれを聞いて顔を引き攣らせていた。
ちなみにシンシアは驚いていないのは、俺と一緒にこの方法を考えてくれたからである。
「ですが殿下。これが今私達が取れる最善の方法なんです」
「もっと小さなカメラがあれば……と思って作り出したりもしたけどできなかった。技術力の限界に来たな」
「……お前でもか?」
「俺でもってところは気になるけど、そうだ」
今までのものは作ろうとしたらパッとすぐにできてたが、それらは全て大型機器。
今回は小型のカメラ……胃カメラみたいなのを作ろうとしたが、小型のものは難しかった。
これは今後の課題だな。
「……ん? そういえば聞き流してたけど、今降ろしてるのってコンダクターパイプなんだよね?」
「そうだけど?」
シャーリーが聞いてきた。どうしたんだろうか。
「それを降ろした後にLWD構成のドリルパイプを入れるのよね?」
「そうだけど?」
なんだなんだ? さっきから俺はそうだけどしか言ってないぞ。
「……どうやって入れるの?」
「? アンダーウォーターTVの映像を見ながら」
「……6348m下の50cmの穴目掛けて?」
「そうだけど?」
「「「「「ひぃッ!!」」」」」
また女性陣から悲鳴があがった。
だから言ったじゃん。王城の頂点から裁縫糸を垂らして、地面にある針の穴に通すぐらいの難易度だって。
◆
翌朝。
未明に着底したドリルパイプの状況を確認し、掘削地点として最適かどうかの最終判断を下す。
結論はGO。潜水調査で確認した巨大な掘削口らしき場所のど真ん中だった。
これ以上ない場所である。
てなわけで、ここに着いてから一週間以上経過してようやく掘削開始だ。
長かった……ホントに長かった……
あとは掘れるのを待つだけだ。
――
――
なぁんて、俺も思ってたよ。数時間前までは。
「そんなに硬いの? あの穴の土」
「ジェッティングが上手くいかないんだよぉ……」
食堂で項垂れながらシャーリーに今の現状を話す。
簡単な話、思った以上に硬かったのだ。
おかげでコンダクターパイプが全然入らない。
30mを目標にしているが、そこに辿り着くまでどれだけかかるか……
「目標深度30m……今は14m行くか行かないかってところね」
「また根気にいる作業が始まるよ」
だが、マシューさん達の働きのおかげか、難航した部分を抜けたら簡単だったようで大体二時間半で目標深度に到達した。
――
――
なんとかなったがここからが未知の領域。ウェルヘッド切り離し作業だ。
これに関しては開発者である俺と助手のシンシアもドリラーズハウスへと赴き、顛末を見届ける。
切り離しはドリルパイプ内にダーツを投げ入れて内部のポンプ圧力を上げて切り離されるような機構を開発した。
それが上手く動いてくれるかどうかだ……
「頼む頼む頼む! 上手くいってくれ!!」
「構成引き上げだけは! 構成引き上げだけは勘弁してください!!」
祈るように手を合わせる。
シンシアも同様で同じように祈っていた。
そして、目の前でダーツがドリルパイプ内に投入される。
6km先の先端から反応が返ってくるまでの時間が異様に長く感じる。
……実際長いのだろうが俺にとっては特にだ。
そんな長い時間を過ごしてモニターに反応が返ってきた。
パイプ内の圧力が高くなっていったのだ。
「よし! 第一関門突破ぁ!!」
「あとは外れることを祈るだけ!!」
というわけでお祈り再開。
だがその時間は先ほどとは違い、すぐに結果が返ってきた。
「……あっ、外れてますよ」
「……ホントだ」
マシューさんが指差す先。
モニターに映るドリルパイプの先にはオレンジパットがなかった。
即ち、ウェルヘッド切り離しに成功したということである。
「しゃあ!!」
「やりましたね! アーサー様!!」
「シンシアが手伝ってくれたからだよ! ありがとう!!」
シンシアと握手を交わし、その場にいたドリラーズ達とも握手を交わす。
とりあえず、関門突破。
ここからは――
――
――
「また長い時間かけてドリル構成変更作業が始まる……」
「ここからまた十時間くらいかかるのね……」
「今、ドリルパイプを引き上げ中だからその倍だぞ」
「ひぃッ!?」
というわけで夜。
なんか毎夜お馴染みになってきた俺の部屋に集まる会で皆とお茶をしていた。
シャーリーなんかもうげんなりしてるぞ、暇すぎて。
「ていうかさぁ、今回ってサンプルリターンあるの? あの坑の中になにが埋まってるか見るだけでしょ?」
「LWDのデータを元に坑の範囲内でまた別で掘るんだよ。念の為な」
同じくげんなりして机に突っ伏してるカレンから聞かれたことに答える。
「何か出てくるのでしょうか?」
「わかりません。ただ、あそこに埋まっているものがホントに神の遺構だったのなら、もしかしたらと思うものはあります」
「それは?」
「……魔力でできた防護壁的な何かですかね」
千年以上も稼働し続けていると仮定して、じゃあそれをメンテナンスフリーで動かそうと思ったら魔力でコーティングするのが一番なんじゃないかと思う。
なんか……自己修復とかかかりそう。
ユースティアナさんからの質問に答えたが、答えになってるか、これ。
「はっきりしないわねぇ」
「神の御業的なものの可能性の方が高いだろ」
シャーリーも答えが曖昧だと思ったらしい。
多分皆もそうだろうけどこれ以上なんと言えばいいのか俺にはわからん。
それにこんだけやってもしかしたらなんもないってこともありそうだが、あの坑は人工的なものである可能性の方が高いからその線はないと思っている。
横穴だったら浸食作用でできたと言えるかもだが、縦穴は考えにくい。
真円だったら特にだ。
神の遺構でなくとも、もしかしたらそれこそ滅んだ前文明の遺産みたいなのがあるかもしれない。
「ジェッティングでコンダクターパイプを埋めるのにかなり時間かかったからな。LWDで何かわかるかもしれん」
「想定以上にかなり硬かったらしいですからね。面白い数値が出てくるかもです」
エリオットとエレナの言う通りだ。
あの坑の岩盤が硬い理由がLWDでわかるかもしれない。




