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episode38 次の掘削に備えよう

 


 翌日――


 なんか俺が神様みたいな扱いされてるってのを聞いてからモヤモヤしていたが、気にしていても始まらない。


 未だドリラーズ達は撤収作業中だが、今日はローレルリングさん達が陸に帰る日だ。


 既にヘリポートにはヘリが到着しており、荷物の運搬も終えていた。


 今日はサボらずにちゃんとヘリポートに来ているぞ?


 サンプルの取り扱いの説明の為に居ただけだけど。



「皆さん、数日の間でしたがお世話になりました。最新鋭の船の凄さを肌で感じることができて嬉しかったです」


「大したおもてなしもできず申し訳ございませんでした」


「いえ、もともと私のわがままでしたから。お気になさらず」



 ローレルリングさんと握手を交わすエリオット。


 その後、その手の甲にキスをした。


 すげぇ、イケメンがすると様になるなぁ。


 ……クソがっ!!



「ティアさん、またお話ししましょう? 今度は王都ででも」


「ルインザブでもいいかも? シャーリーの実家の近くだし」


「なんなら……アーサーん()泊まっちゃう?」


「か、揶揄わないでください、カレンさん!」



 シンシア、エレナ、カレンもヘリポートに見送りに来ていた。


 どうも初日に一緒に風呂に入って仲良くなったらしい。


 コミュ力高いね。


 あとカレン、サラリと俺の家を宿泊先に推すな。


 俺ん()やぞ。



「マティルデさん、またお茶の淹れ方を教えてください。すごく美味しかったので」


「ええ、私でよければいつでも」



 シンシアは付き人さんとも仲良くなったようだ。


 今でも十分美味しいのにさらに美味しくなる……だと!?


 これは付き人さんには期待を寄せるしかない!!



「じゃあね、ティア。また会いましょう」


「うん、お手紙送るね……って、今は通信機があるんだった」


「ふふっ、そうね。誰かさんのおかげでね」



 シャーリーに視線を向けられた。


 うむ、今度は俺が挨拶する番か。



「またいらしてください。つまらない船ですが」


「いえいえ! とても素晴らしい船です。お会いできて嬉しかったです、アーサー様」


「私もです。ローレルリングさん」



 そう言って俺も握手を交わす。


 エリオットみたいにキスはできなかった。










 ◆










 ――数日後。


 ユースティアナはソル・ロクスまでヘリで帰ってきた後、数日間の休日を経て、とある人物の元へと足を運んだ。


 アルカイムでの出来事を話す為である。


 荘厳な扉の前に立ち、ユースティアナは扉を叩く。



「どうぞ」



 中から女性の柔らかな声で入室が許可された。



「失礼します」



 扉を開けると、中には綺麗な装飾のされた椅子に腰掛ける、まるで絵画から出てきたように錯覚してしまうほどに美しい女性が鎮座していた。


 その人こそ、ソル教の最高位である教皇アマリア・リヒトホーフェンである。


 アマリア以外にも、枢機卿や大司教などの重鎮達が、その部屋に集結していた。



「お久しぶりです、教皇猊下。ユースティアナ・ルイーゼ・ティッシェンドルフ、罷り越しました」


「お疲れ様でした、ユースティアナ。いかがでしたか? かの掘削船は」


「素晴らしい船でございました。調査内容はあまりにも高度でありました為、私では真に理解はできませんでしたが、揺れが全くと言っていいほどに無く、居住性も高く、あれぞ新時代の船だと思いました」


「まぁ、あなたがそこまで言うとは。よほどすごい船だったのですね」



 ユースティアナの言葉を受け、部屋がどよめいた。



「やはり彼は神の御使いなのでは?」


「いや、船ならば我々でも建造できる。そう判断するのは早計だと思うが……」


「我々の知る船は揺れはひどく居住性など二の次の乗り物だぞ? 同じ船で、そこだけでも現在の船を超越しているというのは技術のみならず、知識によって裏付けられている証拠ではないか」



 ざわつく重鎮達を諌める為にアマリアの手がスッと上がる。


 その瞬間、部屋に静寂が降りた。



「それに、彼が開発したものは船だけでは無くヘリの他、空を突き抜けたその先に鷹の目を置いたと聞いています。そんなことができる人物は創世神ソル以外に聞いたことがありません。神の御使いと断定はできませんが、神に近いことは確かです」



 アマリアの言葉に賛同するようにその場にいた全員が頷いた。



「あなたから見てどうでしたか? ユースティアナ。彼は神に近い存在に思えましたか?」


「知識、知恵は他を圧倒するほどで、その先見性は我々の想像を軽く凌駕します。滞在中、沢山お話しをしましたが、知的で物腰穏やかで、優しくて――」


「……ユースティアナ」


「えっ……あっ!? 失礼しました……」



 話が違う方向へと向かいそうになったことを察知したアマリアが声をかけると、ユースティアナがハッと我に返り、恥ずかしそうに俯いた。


 それを見た重鎮達は呆れた表情……ではなく、まるで孫娘を見守る祖父母のようにのほほんとした表情でそれを見守っていた。



「と、とにかく! 彼は神の御使いではないと断言していました。その言葉に嘘はないように思えます。神と同列に思われるなぞ恐れ多いと頭を抱えておりました」


「そうなのですね……ですが、その知識量は嘘ではないことは実際に私も目の当たりにしています。神の御使いではなくとも、敬意を表しましょう。では、今回はこれで解散とします」



 会議を終了させると重鎮達は席を立ち、出口へと向かっていく。


 重鎮達が全て出払った後、ユースティアナも退室しようと出口へと足を向けた時だった。



「ユースティアナ」



 アマリアがユースティアナの名前を呼ぶ。


 踵を返したユースティアナはアマリアを見ると、その手が扉を閉めるように示していた。


 ユースティアナはその指示に従い、扉を閉める。


 そして部屋にはアマリアとユースティアナだけになった瞬間――



「ティアー!!」



 椅子から立ち上がり、ユースティアナに駆け寄ってその勢いのままアマリアは抱きついた。


 抱きつかれたユースティアナはアマリアの豊満な体を押し付けられ、腕の中で苦しそうにもがく。



「げ、猊下……」


「もう! 二人きりの時はアマリアさんと言ってと言っているでしょう?」


「お戯れを……それは再三お断りしているはずです。私の中でのケジメですので」


「むぅ、真面目」



 抱き合っていた体勢からアマリアは少し離れ、柔らかな笑みを湛えて再度口を開いた。



「アルカイムでの数日間、充実していたのね。思いを寄せている方と会えてどうだった?」


「素敵な方でした。尊敬の念がさらに増しています」


「そう。船での生活は快適だったってことだけど、食事はどうだったの? ちゃんと食べてた? 船旅の食事って酷いものばかりじゃない」


「とても美味しかったですよ。地上と混色……というより美味しすぎて、またお邪魔したいと思うくらいです」


「そんなになの!?」



 船での食事は出港直後などであれば干し肉や野菜が出るが、日にちが経つと黒パンと残飯を煮込んだシチューやスープだけが提供されることが普通であった。


 最近では鉄製の船が建造され、快適な旅ができるように定期便を運行している船会社もあるが、それらは少数派であった。


 故にアマリアの中ではまだ「船旅はキツイ」という意識があるのである。



「あなたがそういうなんてホントにすごい船なのね。アルカイムって」


「そうなんですっ!!」



 急に声を張ったユースティアナに対し、アマリアは肩をビクリと震わせた。



「居住スペースだけでなく医務室もあり、設備は最新鋭の魔道具が揃っていて地上よりも高度な治療が受けられそうな印象でした! 他には――」



 矢継ぎ早にユースティアナから語られるアルカイムでのこと。


 アマリアは嬉々として語るユースティアナを見て、本当に好きなのだなと思いながら、いつ終わるかなとも思っていた。










 ◆










 ルインザブに帰港し、後片付けとデブリーフィングも終え、俺達は家に帰ってきた。


 ……なんか俺以外全員女性だからすげぇモテてる奴みたいに見える。


 見えるというよりそう見られてるのがわかる。


 だって道を歩いていると男性陣からの視線が痛いのなんのって。


 みなさーん!! この子達は私の生徒ですよー!!


 ……生徒ってなんですかー!!


 俺はゼミ講師じゃないんですよー!!



 とりあえず、気を取り直して――



「次回の掘削は以前にローレルリングさんの言ってた五カ所から選定する形になるんだけど……」


「これ、難しいですよね」


「だなぁ」



 屋敷の中庭にある別棟の研究室で、地図を前に腕を組みシャーリー達と話をしていた。


 だが、シンシアの言う通り、今回の掘削だがかなり難しいことになりそうだ。


 そう話していると、エレナが小首を傾げて訊ねてきた。



「なんで難しいの? 今まで通りに掘ればいいんじゃないの?」


「そう言われたらそうなんだけど、その掘るってのが難しいんだよなぁ」


「何か問題あるの?」


「深さだ」



 ソル様が世界を浄化した地は全部で五カ所。


 その全てがプレートの沈み込み帯となっているのが問題だった。



「大陸地殻も海洋地殻も両方ともしなって沈み込んでいる場所だから、深くなってるんだよ。どっちかっていうとアルトゥムで行きたいと思う場所だな」


「それって水深6500mくらいあるってこと!?」


「最低な」


「しかも最低!?」



 沈み込み帯はいわば海溝とかトラフだからな。


 トラフは舟状海盆という意味で、海底にある細長い盆地のことをいうが水深が6000mを超えると海溝という名前に変わる。


 ようはトラフだったら場所によってはライザー掘削が使える場所があったかもしれないが、次回の掘削候補地五カ所は全て海溝。


 即ち、6000mを超えている場所なのである。



「この場所全て水深がかなり深い。ライザーは絶対に使えないな」


「しかもDPSを使ってたとしても、6000m下を掘削するのは難しいんです。ドリルパイプが海流でしなってしまいますから」


「場所がズレちゃうの?」



 カレンからそう聞かれ、どう答えるか考える。


 うーん……皆に伝わりやすい例えといえば――



「難しさ的には、王城の頂上から裁縫糸を垂らして地面に置いてある針の穴に通す……くらいの難易度」


「くらいで済ましていい難易度じゃない!?」



 前世なら二十階建てのビルの屋上から裁縫糸を垂らして針の穴に糸を通すくらいの難しさだ。


 そう考えると王城だと高さが少し足りないかもしれない。



「それで、実際やろうと思ったらどうやって掘削するのよ?」



 今度はシャーリーから質問がきた。



「ライザー掘削は使えないからライザーレス掘削になるな」


「ライザー掘削は水深2500mまでだったわね。そうなると海底下は何m掘れるの?」



 ライザー掘削は海底下7000mまで掘れる。


 それはライザーパイプの中を流れる泥水のおかげでそこまで深く掘れるのだ。


 だがライザーレス掘削はその名の通りドリルパイプだけで海底を掘らなければならない。


 ビットの冷却や掘削時に出る削りカス……カッティングスを坑井から外へ出そうと思ったら、ドリルパイプ内から流す水だけになる。


 したがって、ライザー掘削よりも掘れる深さは浅くなる。


 それをシャーリーは聞いてきていた。



「最大で2000mだ。岩盤が硬かったりするともうちょい浅くなるかも」


「ライザー掘削が7000m掘れることを考えるとすごく浅いわね……ちなみに海面からパイプを降ろす場合の水深制限とかあるの?」


「一応7000m下まで掘れるように設計してる」



 それ以上となるとパイプを支える機構がパイプ自体の重さに耐えられないからな。



「海面下最大9000mまでは掘れるんだ」


「難しいから最大限はあまり出さないけどな」



 さっきも言った通り、海底7000m下の任意の場所を掘るっていうのは至難の技だ。


 しかし――



「でも、できないわけじゃない。できる限り掘りやすくて水深の浅い場所を探りつつ、準備を続けていこう!」


「「「「おー!!」」」」



 さて、そんな理想的な場所はあるのかな?


 詳細な調査が必要になってくるな。

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