episode37 創世神ソル
もしかしてソル様は沈み込み帯にナノマシン生成プラントを設置し、火山活動を利用して惑星にナノマシンを散布したんじゃね?
という仮説が偶然立った。
勢いって大事だなって思いました。
とりあえず、エリクサーの採取は成功し、後日大量確保の為にまたここに別の船……掘削リグがやってくる。
その際、俺は同行しないが、この掘削坑を再利用できるように掘削坑用の蓋であるコロージョンキャップを設置して今回の調査掘削航海は終了だ。
というわけで、今は撤収作業中。
ドリルパイプからライザーパイプ、BOPの回収が始まっている。
これに関してはマシューさん達の領域だ。
それ故に、俺は研究以外は結構暇を持て余している。
「こ、こんにちは!」
「あぁ、どうも。こんにちは」
暇を持て余している俺は食堂でコーヒーを飲んでブレイクタイムを楽しんでいたら、そこにローレルリングさんと付き人の方がやってきた。
ここ数日、俺がコーヒーブレイクをしているとやってくるようになり、結構話したりしている。
そのおかげで最初の頃からはましになったが、未だに声をかけてくる時には吃ってしまわれている。
「この数日、あっという間に過ぎていった気がします。明日にはこの船を去ってしまうと思うと寂しいです」
「そんなに気に入って頂けるとは、光栄ですね」
ローレルリングさんと付き人の方は明日、ヘリで一足先に本土に戻る。
採取したエリクサーやコアなどのサンプル達も一緒に運んでもらう予定だ。
「皆さんの研究の高度さには驚かされてばかりでした。今後も海底調査を?」
「気になる場所があれば行ってみたいですし、掘ってみたいですね。このアルカイムはマントルからのサンプルリターンも想定して設計してますから」
「マントル?」
「地殻のさらに下にあるところですよ」
ローレルリングさんが小さく首を傾げる。
地殻は惑星表面、マントルはその下にある。
地殻は大体3〜60kmほどの厚さを持っていて、マントルは約2900kmもの厚さがある。
「そのマントルに行くには海底からでないと行けないのですか? 陸から掘ってもいいように思うのですが」
「陸から掘るとなるとかなりの深さを掘らないといけませんからね」
地殻は3〜60kmの厚さと言ったが、厚みに幅がありすぎる。
この違いは陸には火山活動や地震などで陸地が厚く盛り上がっている。
対して海の地殻は厚さが薄い所だと3〜10kmとまだ手が出しやすい厚さだ。
だからこそ、そこに辿り着くのに適しているのが海底なのだ。
「深く掘る……それはそんなに大変なことなのですか?」
「深く掘るとその分、土からかかる圧力が高まりますし、温度も上がりますから陸からマントルへの掘削は難しいですね」
「温度が上がるというのはどこまで上がるのですか? 60℃くらい?」
「だとよかったんですがねぇ、15,000mも掘ったら300℃にはなります」
「さ、300℃ですか!?」
前世で化学掘削としては最高深度である12,262mもの深さまで掘削した際、100℃程度と思っていた温度が実測すると180℃となり、このまま進めば15,000m地点で300℃になると予想され、掘削を中止したという経緯がある。
理由は単純。そんな温度じゃドリルビットが機能しなくなるからだ。
「そんなに熱いんですね……」
「圧力ってそれだけすごいんですよ」
マグカップを口に運ぶ。
コーヒーをゆっくりと飲み込んだ時、ふいに横から話しかけられた。
「なんの話してるの?」
シャーリーだった。
同じくブレイクタイムに入ったのだろう。
その手にはマイマグカップがあり、湯気が立ち昇っている。
「マントルまで掘るのに地表からではダメなのか? って質問を受けたから答えてただけだよ」
「そうなの」
シャーリーは自然に俺の横の席に座った。
どことなく距離が近いような気がするが気のせいだろう。
……あっそうだ。
「そういえばローレルリングさんに聞きたいことがあったんだ」
「なんでしょう?」
「創世神ソルのことを聞きたいんです。そのあたりは不勉強ですので」
小さい頃から魔法や魔道具開発しかしてこなかったからな。
一応、エスリン先生の授業で神話の話が出てきてた気がするけど、忘れるくらいに興味がなかった。
「アーサーって宗教があるってこと自体知らなかったもんね」
「うるせぇ」
「ちょ! やめへよぉ!!」
ぐりぐりとシャーリーの頰を指で押す。
そんなやり取りをしていたらローレルリングさんにジト目を向けられた。
はしたなかったかな?
とりあえず、シャーリーの頰から指を離し、咳払いをして話を元に戻すことにした。
「こほん……申し訳ありません。ご教授願いませんか?」
「……かしこまりました。聖書には、創世神ソルがこの世界で最初になさったのはアルカイムの浄化なのだそうです」
「それがあの五カ所なんですね?」
「はい。先日お伝えしたように、聖書には浄化したということしか書かれておらず、場所に関しては使徒オリヴァーの手記に書かれておりました」
「ほうほう」
この人すげぇ。使徒の手記まで読んでんの?
さすがは優秀な修道女……ローレルリングってところか。
「その後、天から舞い降りたソル様は聖地……ソル・ロクスに居を構え、そこで生物を創造なされました」
「なるほど」
ロクス……ラテン語で場所か。
ここじゃラテン語は古語って言われてるんだよな。
神様が使っていた言葉だから?
ていうかなんでラテン語が異世界にあんだよ。
「幾つもの生命を生み出し、自身と同じ形、同じ知能を持つ生命、人間を創造された後は、人間に知恵を与えていってくださいました。それは以前お話しいたしましたね」
「そうですね」
農業や工業、経済に至るまで伝え、魔法まで教えた人物……か。
実際はとんでもない天才集団が居て、皆に知識を披露していたんだろうな。
そんななんでもできる人絶対いないもん。
「そして、人々の生活にゆとりができると、ソル様は天に帰っていきました。その時、「人はいずれ私の元まで辿り着く」……と言い残したと書き記され、聖書は締められます」
「へぇ」
最後、死んでますやん。
天ってそのまんま天国のことだろ?
そこに帰るって死んでんじゃん。最後の言葉って人はいつか死ぬってことじゃないん?
あれか。私の元まで辿り着くってことは神様と同じ所に死んだら来れますよってことか。
まぁ、ソル様の生涯はわかった。
もしこの人が世界で最初に魔法を使った人なら、もしかしたら「他の人が魔法を使えるようにする魔法」をこの世界にかけたのかもしれない。
それをしたのが例の五カ所かも。
それにしたってすげぇ魔法だと思うけど。
「ソル様が治められていた時代は加護暦と言われていて、ソル様が天に帰られて人が統治するようになってからは新暦と呼ばれています」
「えっ!?」
暦が変わってる!?
今って新暦354年だよな!?
新暦って何が「新」なのかわからなかったがそういうことだったのか。
300年程度でここまで文明が発展してんのすげぇなって思ってたんだけど、それより過去があったんだな。
……考えてみると当たり前だけど。
「加護暦って何年続いたかってわかってるんですか?」
「1300年は続いたと書物には記載されています」
「せっ!?」
1300年!?
100年前後じゃなくて!?
そんな長い間、神様みたいな人達がいたってこと!?
天才達が次々生まれるって……こわぁ。
「1300年もの間、人類は地盤作りをしていたんですね。それをソル様が支えた……すごいな」
「ソル様はそれだけ人類に尽力なされたので、信仰が深いのですよ」
誇らしげにそう語るローレルリングさん。
自身の信仰する神が尊敬されて嬉しいのだろう。
会話が終わったことを察したのか、今度はシャーリーが話し始めた。
「そのソル様が天に帰られた後、新暦になってからは技術なんかの発展や進歩が鈍足になったから、尚のことソル様に皆、尊敬と敬愛を向けているのよ。あの方のお陰で今の文明があるんだってね」
「へぇ」
「へぇって……あなたね。ここまで聞いてわかんないの?」
「? 何を?」
呆れた表情を向けるシャーリーと、苦笑を向けるローレルリングさん。
ローレルリングさんのお付きの人は俺に驚愕の表情を向けていた。
「な、何?」
皆の視線が俺に突き刺さる。
なんだ? そんなにわかりやすい問題だったのか?
ソル様がいなくなってから進歩や発展が鈍足になったからなんだってんだ?
「思い返してみなさいよ。あなた今何を作って乗ってる?」
「アルカイム」
「このアルカイムの前にあなたは何を作った?」
「支援船ヴェリタスと潜水艇アルトゥム」
「それらは何で出来てる?」
「ヴェリタスは鋼鉄、アルトゥムは耐圧殻がオリハルコン」
「その前にあなたは何を作っていた?」
「魔道具」
俺がそう言うと、シャーリーは盛大にため息を吐いた。
さっきからなんなんだ?
「ハァ……その魔道具、どんなもの?」
「えぇ……多すぎて何から言えばいいんだよ。通信機だろ? 音響探知機やら他には生活用の魔道具――」
思いつく限りのものを並べていく。
それを聞き遂げた後、シャーリーがまた口を開いた。
「そこまで言って、誰かと似てるなってならない?」
「えっ?」
似てる人?
誰だ? なんか天才魔道具士にそういう人がいるのか?
俺が悩んでいるとシャーリーがまた大きくため息を吐いた。
ため息やめろよ! なんだよ!!
前にいるローレルリングさんもまた苦笑いを浮かべて、付き人さんは呆れ顔だ。
……答えをスッと言って?
「なんだよさっきから。誰に似てんの?」
ということで答えを聞いてみた。
「ソル様よ」
「ん?」
そしたら、急に神様の名前が出された。
あれ? なんの話?
「いや、だから誰に似てんだって」
「だからソル様だってば」
「……えっ? 話繋がってたの? 急に神様の名前が出てきたからびっくりしたじゃん」
はははと笑ってみせる。
そしてひとしきり笑い終えると、会話を再開した。
「俺が神様に似てるって!?」
「うるさっ!? 情緒どうなってんの!?」
「いやいや! 神様と俺を同列に考えちゃダメだろ!!」
「そんなことありませんよ」
俺が否定しているとローレルリングさんが口を開いた。
「停滞していた技術を飛躍させ、人々の生活をその技術でさらに豊かにした……十分、ソル様に似ていると言われてもおかしくない功績です」
「……」
ローレルリングさんに言われて呆然としたが、宗教関係者の人に言われると説得力ある。
……考えてみれば俺ってとんでもなく自由に開発をさせてもらってるよな。
普通なら企画を出しても却下されて終わるようなものばかりだぞ。
「現実味がない」って言われて。
それをすんなり聞いてくれて、開発させてもらってたのって――
「もしかして……今まで好き勝手させてもらってたのってそういうこと?」
「そうよ。協力し続ければ、なにか偉業を成し遂げ続けるんじゃないかってパパが言ってたわ」
シャーリーに恐る恐る聞いたらしれっとそう言われた。
あっそう。
「俺ってそんなふうに思われてたんだ……」
「なんか声のトーンが嫌われてるのを初めて知った時みたいになってるんだけど、ここ喜ぶところじゃない?」
「神様と比べられて恐れ多いんだよ!!」
そういうのはさ、もっとこう……勇者みたいな人に送られるものじゃないか?
それじゃまるで――
「俺が神の使いみたいじゃんか」
「ソル教ではそのように考えられている方も多くいらっしゃいますよ? ここ最近のご活躍から飛躍的に増加いたしました」
「ほらぁ!!」
神の御使い的扱いは大体のラノベじゃ戦闘力高い人に送られるもんなんだって!!
俺なんか見てみろよ!! 研究室に篭ってばかりのヒョロガリだぞ!!
俺が頭を抱えていたら、横でシャーリーとローレルリングさんが会話を始めた。
「それだけ? 宗教関係者の間じゃ、もう一つ派閥がなかったっけ?」
「うん。神の御使いじゃなくてそもそもソル様の生まれ変わりだって言ってる人もいるわよ」
「……」
なんかとんでもないことになってる……




