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episode36 魔力の正体

 


 エリクサーを観察すべく、ラボ・ストリート・フロアにやってきたアーサーは電子顕微鏡のセッティングに取り掛かっている間、エリクサーを顕微鏡で見てみたいと言ったユースティアナの為にシャーレを用意し、それをシャーリーに託した。


 シャーリーは机に置かれていた顕微鏡を覗きながらエリクサーにピントと光量の調整を行いながら、ユースティアナに話しかける。



「あのねぇ、露骨に顔に出過ぎ。見てよ、アーサーを。何かしたんじゃないかって怯えてるわよ?」


「えっ? そうなの?」



 そんな風には見えず、ユースティアナはシャーリーに聞き返す。



「まぁ、あいつ、そういうの顔とか態度に出さないタイプだけど、長い付き合いだからね。わかるのよ」


「……ふぅん」



 なんだかマウントを取られている気がするとユースティアナは思ったが、その考えはひとまず振り払った。



「でも、そんなに気にしなくても……」


「気にするわよ。ねぇ? マティルデさん?」


「そうですね。ユースティアナ様はご自身の立場をよく理解すべきだとは常々思っております」


「マ、マティルデまでぇ……」



 長年付き人として一緒に行動してきたマティルデにも一言言われ、ユースティアナは凹んだ。



「さ、できたわよ。見てみなさい」


「ありがとう……わ、わぁ! すごい綺麗!!」



 顕微鏡のセッティングが完了し、ユースティアナに場所を開け渡す。


 接眼レンズを覗いたユースティアナはエリクサーの虹色に輝く粒子を見て感嘆の声を漏らす。



「これがエリクサー……この虹色に光る粒は何?」


「わからないわ。それを調べる為に電子顕微鏡を使おうとしているのよ」


「なるほどそういうことね」



 ユースティアナはアーサーのいる方向へ視線を動かす。


 手を止めて腕を組み、電子顕微鏡を見つめる姿から、既にセッティングは終えて撮影に入っていることが伺えた。



「なんだろうね。この虹色の粒」


「うーん……魔石の色に近いから、それに近いなにかかもってアーサーは言ってたけど」



 実はアーサーはまだ電子顕微鏡で魔石を覗いていない。


 理由としては電子顕微鏡が完成して間を開けておらず、稼働実験時に魔石を見ても「これで合ってるのか?」となってしまう為、既に顕微鏡で確認できているものを対象に実験をしていたから、魔石はまだ見ていないのだ。



「今回の航海に間に合わせる為に結構急いだみたいだから、ホントに楽しみにしてたのよ、アーサー」


「そうなのね。やっと念願が叶うってこと――」


『ウッソだろ!? おい!?』



 ユースティアナが言い切る前に、部屋のドア越しからでもわかるほどの声量でアーサーの叫び声が聞こえた。


 シャーリーとユースティアナは顔を見合わせた後、恐る恐る顕微鏡室の近くに行き、シャーリーがゆっくりドアを開けながらアーサーに問いかけた。



「どうしたの? 何かあった?」


「……」



 驚愕の表情を見せたまま、アーサーは目の前にあるモニターを指差す。


 そこに映し出されているのは、電子顕微鏡で撮影したエリクサーの姿だが、シャーリーもユースティアナも、そしてマティルデですら、それを見て声を上げた。



「「「なんか機械っぽい!!」」」











 ◆










「「「なんか機械っぽい!!」」」



 シャーリーとローレルリングさんとそのお付きの人が電子顕微鏡の像を見て声を上げる。


 三人の言ったように、目の前のモニターに映っているのはエリクサーのはずだが、パネルラインのような筋の入った機械っぽいものが見えるのだ。


 大体、1nm程の大きさの機械っぽい何かがエリクサーには無数に存在していた。


 というより、主成分と言ってもいいくらいに、その機械っぽい何かの数が多い。



「ちょっと待ってくれよ……もしこれが魔石にも入ってたらどうすんだよ……」


「入ってたら……なんなの?」


「……もしこれが魔力の正体なら、とんでもないぞ」



 とりあえず、椅子から立ち上がり、試料棒を取り出して今度は魔石を見ることにした。



 ――


 ――


 ――



 で、エリクサーも魔石も両方見た結果――



「この機械っぽいのが魔石やエリクサーの中に主成分として入ってて……」


「ということはこれが魔力の正体なんじゃないかって……こと?」



 エリクサーと魔石の観測結果について話したらシンシアとカレンの元同室組からそう言われた。


 他にもエリオットとレイ、シンシアに先ほどまで一緒に行動していたシャーリーとローレルリングさんとそのお付きの人もいる。


 うん、そうなんだ。


 その機械っぽいのが魔力だと思うんだ★



「信じたくねぇ……」



 なんかもっと……なんというかこう……あるじゃん?


 神秘的なさぁ、なんかがこう……不思議な力で魔法は出るんだよみたいな。



「でもそうとしか思えないんでしょ?」


「そうだけどさ……この機械っぽいのが火とか水とかに変わるってさ、考えられるか?」


「まぁ、こんなの今まで飲んでたの? ってなるのはなるけど」



 魔法で出した水はそのまま飲料水としても利用される。


 しかし、もしそれがこの機械っぽいのだったら、今後飲むのは辛いとシャーリーは思っているようだ。


 気持ちはわかる。


 なんて会話をしていたら今度はエリオットから話しかけられた。



「だが、アーサー。これが魔力だった場合何が問題なんだ? 別に支障はないと思うが?」


「まぁ、日常生活じゃ問題ないと思うけど……」



 さっきから「機械っぽい」と言っているのは透過型電子顕微鏡で見たから表面が見えていない。


 だからこれがホントに機械なのか、それとも機械っぽい中身の生物なのかわかっていないのだ。


 まぁ、どっちにしても、原子や素粒子などの類じゃなかったってことになるんだけれども。


 とりあえず、これが機械だと仮定したなら、問題が一つある。



「これが機械だと仮定したなら……これがどこで作られているのか? ということだ」


「! なるほど、いつかは魔力がなくなる可能性があるということですか」



 レイはすぐに俺の言いたいことに気がついたようだ。


 それを聞いて、皆も同じように驚愕していた。



「そっか……人類が魔法を使うようになって何百年も経つけど、それが無限に続くわけじゃないんだ」


「魔力が機械だとしたら使うたびに消費される。その供給源があるのなら、それを知っておかないといつか来る魔力枯渇時代を予想できない」



 魔力が作られている存在なら、魔道具なりなんなりがあるはず。


 それが現在も稼働中なのか、それとも既に停止していて現存する魔力が全てなのか、それを知らないと備えられない。


 もしかしたらこの海底の底にあるのかもしれない。


 魔力と呼称されている機械……ナノマシンを作るプラントが。



「ですが、魔力を作っているということは……それは神の力なのではないのですか?」


「あぁ、そういう見方もあるのですね」



 今までの話を聞いてローレルリングさんがそんなことを言った。


 確かにそう言ってもいいかもしれない。



 ……ん? 待てよ?



 だったら、大昔にナノマシンを作った人間がいるってことなのか?


 そうすると、もしかしたら神話か言い伝えとかになにかヒントがあるかも。



「なぁ、世界で最初に魔法を使った人って誰?」


「「「「「「「「創世神ソル」」」」」」」」



 その場にいた全員が口を揃えた。


 ……いや、そうじゃなくてね?



「いや、神話の話じゃなくてさ。いるだろ? 世界で魔法を発見した人がさ」


「だからソル様だってば」



 シャーリーから再度言われた。


 うーん……オカルトを信じ込んでる人ってこんな感じなのかな?


 でもどうしよう?


「創作じゃなくて事実を教えてよ」なんて言ったら、宗教関係者のローレルリングさん達が怒るかもしれないし……


 色々と思考していたら、そのローレルリングさんが神話の話をしてくれた。



「ソル様がこのアルカイムを浄化して、人々の生活に必要な様々なことを教えてくださったんです。その中の一つが魔法です」


「様々なこと?」


「多岐に渡りますね。農業、鍛治、それを発展させた工業や経済……この世界は全てソル様の教えで成り立っているんです」


「……」



 それ……神話やのうて教本とちゃう?



「あの……なんか色恋みたいな話はないんですか? 例えば身分違いの恋をして子を成してしまって神の世界から追放されたとか」


「そういったお話は創作ではありますが……ソル教からは出版されていませんね」


「そうですか」



 ギリシャ神話とかそういうの多い印象だけど、ないんだ。


 とにかく、その神様が最初に魔法を発現して教えてくれたとしよう。



「で、ソル様はどうやって魔法って術を教えたんです?」


「というより……農業や鍛治を教えてくださる際に魔法を使っていた為、それを魔法として個別で教えていただいたわけではないんです。とある信徒の一人が「なぜ手から火が出せるのですか?」と質問した時にソル様が「これは魔法だ」と答えたそうです」


「なるほど」



 それだけソル様の中では魔法は当たり前のものだったんだな。


 ……ん? 魔法のことに気が行きすぎて聞き流してしまったことがあったぞ?



「すみません、「アルカイムを浄化した」ってなんですか?」


「そのままの意味です。この世界は人が住めるような場所ではなかった為、ソル様が魔法で浄化して人々が住めるようにしてくれたのです」


「……それまで人はどうしてたんですか?」


「浄化した後にソル様が創造なさったのですよ。人のみならず、この世に生きる生命全てを」



 なるほど、だからLUCAの話をした時にシャーリー達が「生命は神が造った」って言ってたのか。


 まぁ、生命を創造したってところはともかく、浄化したっていう話はなんか参考にできそうだな。



「その……浄化ってやつはどこから始まったとか書かれてますか?」


「聖書ではないのですが、書かれている書物はございますよ。その場所は全て海の中ですが……地図はございますか?」



 ローレルリングさんに世界地図を渡す。


 すると机に広げたその地図に五箇所、丸い石を置いた。



「ここがソル様が浄化を始めた場所と言われています」


「へぇ……」



 五箇所とも確かに海の中だ。


 どの場所も大地には触れていない。


 でもこの場所なんか見たことあんな……


 なんだっけ?



「へぇ、浄化した場所も残ってるんだ」


「うん。ソル・ロクスの図書館で見たの」


「聖地の図書館かぁ、こういうのがあってもおかしくないですね」


「こういうところも聖地って言うんですか?」


「あまりソル教では言われていないですね。私達修道士はソル・ロクスが――」



 地図を睨み続けている俺の横でシャーリーやエレナ、カレンがローレルリングさんと和気藹々としているが、俺は今それどころじゃない。


 なにかが引っかかってて、思い出せそうで思い出せない。



「なにかあるのか? この場所に」


「なんかこの場所に見覚えがあるんだけど……それがなんなのか思い出せないんだよ」



 エリオットに話しかけられて、今考えていることを話す。


 そういえば、シンシアも地図を睨んでるな。



「もしかしてシンシアもか?」


「はい。どこかで見たような……」


「お二人が見覚えのある地図というと……海図でしょうか? 今回の掘削地点の選定の際に見ていたでしょうし」



 レイからそう言われた時、俺とシンシアは顔を上げた。



「「プレートの沈み込み帯!!」」



 顔を見合わせ、互いに指差し声を揃える。


 それに対し、エリオットが質問をしてきた。



「なんだ? そのプレートの沈み込み帯というのは」


「この惑星アルカイムにはプレートっていう地盤があってだな。それが複数あるんだけど、それが重なっている場所が沈み込み帯だ」


「片方のプレートがもう片方のプレートの下に潜り込んでいることからそう呼ばれているんです」


「ほお」



 俺とシンシアからの説明を受けて、エリオットは地図に目線を落とす。


 その後、また俺に目線を上げた。



「そこでソル様はこの星の浄化を始めたということか。何故沈み込み帯で行ったのだ?」


「知らん」



 ピシャリと言った。


 そう言ったら皆……ローレルリングさん達まで俺にジト目を送ってきた。


 ……いや知らんもんは知らんって!!



「知るわけないだろ!? 神様の考えることなんて!! あれじゃね?! 沈み込み帯にナノマシン生成プラントを置いて火山活動でナノマシンを大気中にばら撒いたんじゃね!?」


「ではそれではないのか」


「……」



 ホンマや。

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