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episode31 ビリビリ魔法

 


 シャーリー達三人が学院が自由登校になったとのことで、我が家にやってきた。


 年頃の娘が年頃の男子の家に転がり込むなぞなんとも軽薄な行動だが、まぁ、いい。


 彼女らが来た理由は遊びに来たわけではないのだから。



「エリクサーの研究を手伝いたい?」


「そう」



 紅茶を嗜みながら、シャーリーはそう答えると菓子に手を伸ばして一口含んだ。



「アーサー君って魔法や魔力のこと、いまいち理解してないところあったから、お手伝い出来るんじゃないかって思ったの」


「そんなことはないと思うけど……」


「魔石は知っててもエリクサーを知らないんじゃ……ねぇ?」


「ぐぬぬ……」



 エレナから手伝う理由が語られた。


 それを否定すると揶揄うようにカレンから正論をぶつけられ、言い返せない。


 確かに俺は化学や工学に傾倒し過ぎているとは思う。


 魔力なんて作った機械を動かす動力ぐらいでしか使っておらず、ファンタジー世界にいるのにファンタジーしていない。



「ま、まぁ確かにカレンの言う通り、俺は魔法や魔力に関しては深く理解していない。三人が協力してくれるなら非常にありがたい」


「そ? ならよかった。ところでそこの机に置いてあるのってエリクサーでしょ? 何か調べるの?」



 ティーセットを広げている机の横にあるもう一つの机に置かれているエリクサーをシャーリーは指差した。



「ああ、使い方を調べようと思って。シンシアからはエリクサーって使い道がわからず厄介者扱いされてたって聞いてさ」


「使い道? 調べてどうすんの?」


「使うに決まってんだろ……」



 それ以外に何があるんだ。



「へぇ、意外。アーサー君はエリクサーがどうやってできたのか調べる為に大量のサンプルを求めて航海掘削するものだと思ってた」


「まぁ、それも気になるところだけど、これはルイさんの為だからな」



 エレナの疑問に答えると、シャーリーが驚いた様子でエリクサーに注いでいた視線をこちらに向けた。



「パパの? なんで?」


「掘削調査船を建造する時に海底資源の発見も視野に入れるって言ったんだよ。だから研究調査だけじゃなくて、資源も見つけないと」


「それでエリクサー?」


「そうそう」



 シャーリーにそう言うと、今度はカレンが話しかけてきた。



「でもホントにエリクサーって使い道ないんだよ? 魔石みたいに魔道具に魔力を流せないし」


「それ、シンシアにも聞いたけど、なんで魔石みたいに魔力を供給できないんだ?」


「知らないよ」



 ですよね。


 なんて思っていたらティーセットの片付けを終えたのか、シンシアが会話に入ってきた。



「昔からなんとかできないかと学者様達が試行錯誤されてたんですが……魔石を入れてみたり、魔力を流してみたり色々されたのですがそれでもエリクサーで魔道具は動かせなかったそうです」


「へぇ、じゃあ他に何か方法があるのか、或いは本当に何もできないのか……」


「でも魔力を感じれるんだよ? それで何もできないはおかしくない?」



 カレンの言うことももっともだ。


 魔力が感じられないのなら、エネルギーがないと見ていいんだろうけど……



「ていうかそもそもなんなんだろうな? 魔力って」



 手のひらに魔力を集めてみる。


 白く輝く光の球がふわりと浮かぶが、なんでこんなふうに集めたら光るのか全くわからん。


 しかもこれが炎や水に変わるってんだからおかしな話だ。


 ふっしぎ〜⭐︎で話を終わらせたらいいんだけどな……俺、学者じゃないし。


 いろんなところ行けたらそれで満足だし。



「まぁ、いいか。今はそんなの」


「「「えぇっ!? いいのそれで!?」」」



 シャーリー達の声が重なる。


 シンシアは俺が冒険してる理由を知ってるからか、何も言っていない。


 ……苦笑いはしているが。



「そういうの知りたくて冒険してるんじゃないの!?」


「違うよ」


「違うの!?」



 シンシアと同じリアクションをシャーリーがした。


 エレナとカレンも表情からして大体同じ感想のようだ。



「俺は誰も行ったことがないところに行けたらそれで満足なんだよ。研究(こういう)のをやってるのはただの口実」


「そうなの!?」


「なんて単純な理由!!」



 エレナ、カレン、うるさい。



「じゃあ、なんで研究なんてしてるのよ?」


「そうでも言わないと金が出ないでしょうが」



 自分で金を使える立場だったらそんなの関係なく海に潜るし、海底を掘る。


 だけど俺にそんな力はないから、出せる人から出してもらうしかない。


 その為には利点を示さなきゃな。



「にしても……」


「やってることが高度過ぎじゃない?」


「まぁ、私はいろんな魔道具に触れられて満足だし、いいけど」



 大体話が落ち着いたところで話をエリクサーに戻そう。



「とりあえず、エリクサーには魔力が含まれているけれども魔力を流すことはできず、使えるようにしようと人が魔力を込めたり、魔石を混ぜてみても特に変化がないってことだったな?」


「はい。そのように聞いてます」


「大体学院で習ってるよ。今は殆ど研究されてないんじゃないかな?」



 シンシアに肯定されたあと、シャーリーから今はエリクサーなぞ見向きもされないようなことを言われた。


 そうなのか?


 うーん……なんか使えると思うんだけどなぁ。


 なんで魔力が流れないんだろう? っていうか魔力が流れるってなんだ?


 電気と同じように扱ってしまってたけど、それと何が違うんだろう?


 いや……そもそも魔力の流れと電気の流れは別のものなのか?



「調べてみよう」



 ――


 ――


 ――



「急に黙り込んだと思ったら、立ち上がってなんか持ってきたけど……これって魔導モーターよね? これで何すんの?」


「ちょっとな」



 用意したのは小さな魔導モーター。


 前世の模型用くらいの大きさのものだ。


 これに魔力を流すと軸が回るが、それを電気に置き換えても回るのかを試したいと思ったわけだ。


 しかし、電気って魔法で出せるのか?


 両手のひらを向い合せて魔力を集める。


 そしてそれを押しつぶすように手のひらを合わせて電気に変換するイメージを流す。


 そして、合わせていた手のひらをゆっくりと離した。


 すると――



「えっ!? ちょ!? なになに!?」


「すごい……雷みたいです」



 手のひらの間にバチバチと稲妻が走る。


 その様子を見てシャーリーとシンシアは驚きの声を上げていた。



「今度はなに? 雷?」


「そんな魔法見たことないよ」


「……えっ!? 雷魔法ってないの!?」


「「うん」」



 カレンとエレナに声を合わせて答えられた。


 ……マジ?



「そっか……ないのか……なんで?」


「なんでって……雷がなんで落ちてるのかなんて知らないし」


「知らないことは魔法発動できないからね」


「あっ、そう」



 そう言われるとそうかも。


 前世だって、琥珀を磨くと静電気が発生して羽毛が近づくっていう発見をしただけで驚かれてた時代もあったんだ。


 雷ってなんで起きてるのかわかってなくてもおかしくないか。


 ……なんか色々と技術は発展してるのに科学は発展してないっていうチグハグ具合でびっくりするけど。



「まぁ、とりあえずこれをモーターに流してみよう」


「えっ? そのビリビリを?」


「ビリビリ……」



 シャーリー……なんて可愛らしい表現なんでしょう。


 ともかく、電気を纏った手で魔導モーターへと繋がるケーブルを掴む。


 すると魔導モーターの軸に取り付けられたプロペラがブンブンと回り始めた。



「えっ!? なんで!?」


「魔力じゃなくて魔法を流してるのに!?」


「うそぉ……どういうこと?」



 シャーリーとエレナは驚き、カレンはなぜ動くのかという方が気になっているのか、まじまじとモーターを観察している。



「魔道具に魔力を流して動かしていると思っていたが、実は魔力じゃなくて()()が流れていたってことだな」



 もしくはどちらでも動くのか……それは詳細に調べなければならないが。


 ともかく、魔道具は電気で動いていたという可能性が高い。


 だとしたら――



「付与した魔法文字で魔道具が動くってどういうことだろう?」


「? どゆこと?」


「電気で動くなら、回路がないと起動しないと思うんだけどなぁ」


「回路?」



 カレンには悪いがちょっと考えさせてもらう。


 前世では電化製品なんてありふれたものだったが、あれらは電気回路に電気を通すことで様々なことを行えるように設計されている。


 基盤に金属線を張り巡らせ、そこに電気を通すことで、例えばモーターの回転数を上げたり下げたりすることができるようになる。


 しかし、この世界では文字で魔道具は動く。


 俺の使っている回路図記号で書いた魔道具なら、導線は使ってないからあれだけど、百歩譲って動いてもおかしくはない。


 だがそれまでは普通の文字……言語文字で魔道具は動いていた。


 ただの文字に電気流した程度で動くのか?


 それとも――



「魔力も電気で動くのか? ……ん?」



 ちょっと待って?


 もしかしてエリクサーって……



「こいつ……電気流せば使えるようになるんじゃね?」


「さっきのビリビリ?」


「ビリビリ……ふふっ」


「な、なによぉ! なに笑ってるの!?」



 シャーリーがまた可愛らしいこと言ったから笑っちゃった。


 さて、気を取り直して――



「どうぞ、アーサー様」


「ありがとう、シンシア」



 気を利かせて、シンシアがエリクサーの入ったビーカーを持ってきてくれた。


 それを受け取り、ビーカーの中に鉄の棒を差し込み、そこに魔法で出した電気を流す。


 すると――



「嘘……」


「光だした……」



 ビーカーの中のエリクサーが淡く光だした。


 それを見てシャーリーとエレナは信じられないといった様子で声を漏らす。


 それを認めると、俺は電気を流すのをやめた。



「それでこれにモーターへ繋がるケーブルに浸すとどうなるかなっと」



 先ほど実験の為に使ったモーターのケーブルをビーカーに入れる。


 するとモーターのプロペラが回りだした。



「おぉ!! 動いた!! すごいよ!! エリクサーを使えるようにしちゃった!!」



 カレンが興奮しながらモーターを見つめた。


 なるほど、エリクサーは一度電気に通さないといけないんだな。



「そっか……今まで魔力を注いでたけど、それだけじゃビリビリが足りなかったのね」


「だから魔法でビリビリを強くして流さないとエリクサーは反応しなかった……ようは活性化させられる基準に達していなかったってことだよね」



 シャーリーとエレナが要約しているが「ビリビリ」が定着し始めてる……










 ◆










 さて、魔力を流す行為=電気を流す行為という可能性がわかり、新たに電流計を作り、電圧や電流を調べてみた。


 すると判明したのが、魔石は大体乾電池程の電力であったことが判明した。


 その程度の電力でデカい魔道具を動かせていることが信じられない。


 改めて魔力ってすごい。まさにファンタジー。



「とにかく、エリクサーの活性化の方法がわかったことで掘削計画に移行できる」


「移行できるって言うけどどこ掘るのよ? この大海原のどこにエリクサーが埋まっているかってわかるの?」


「えっとな……」



 シャーリーからの質問を受け、海図を黒板に広げる。


 そこにはいくつかの丸が描かれていた。



「この丸のところにある可能性が高い」


「なんでそんなことがわかんのよ?」



 シャーリーの更なる質問に皆同意するように首を縦に振る。


「ここが褶曲した地層で背斜部であること。帽岩と貯留岩があることが理由だ」



 褶曲とは地殻変動によって歪んだ地層のことで、波打つ形をしており、背斜部とは波の頂点部分のことだ。


 反対に、波が落ち込んでいる部分は向斜部と言う。


 そして帽岩とは簡単に言えば密度の高い岩盤のことで貯留岩は密度の低い岩盤のことを指す。


 貯留岩は密度の低い……要するに隙間が多い岩盤だから液体を通しやすい。しかし帽岩は隙間が少ない為に液体が通りにくい。


 背斜部が帽岩で覆われていると、その岩盤が蓋となって液体を溜めやすくなる。


 そこにエリクサーがあると睨んでいるわけだが、これは前世ではあるものを採掘する際に掘削場所を決定する手法と同じである。


 油田だ。


 魔石が化石燃料であるのならエリクサーもそうなんじゃないかと思い、掘削箇所を選定したのだ。



「まぁ、もしかしたらエリクサーじゃなくて別の液状のものが出てくるかもだけど」



 それこそ石油とか。



「地下水とか?」


「超臨界水とか出てくるの?」


「それはそれで研究しがいありそうだけどね」


「超臨界水! 聞いたことあります!」



 シャーリー、カレン、エレナ、シンシアが別の液状のものとは何かを話し合い始める。


 ……うむ、話してる内容が異世界とは思えない程に現実的だ。


 掘ろうとしてるのはファンタジー素材なのに。

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