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episode30 エリクサー

 


 さて、シャーリー達の春休みが終わる日が近づいてきた。


 というわけで、シャーリー達はルインザブに帰港した翌日には王都へと戻ってしまった。


 ……まぁ、夏休みになったらまた一緒に航海するだろう。


 それに俺達もすぐに出るわけじゃないしな。


 ということで今は家の研究室で地図を広げて次の掘削地点を検討している最中である。



「ってことで完熟航海もあと数回やったら今度は本格的に調査掘削するぞ」


「完熟航海でも結構本格的だったと思うんですけど」


「それは言わない」



 シンシアの言いたいことはもっともだ。


 ぶっちゃけ俺も結構収穫があったからビビっている。



「本格的な調査掘削って、具体的には何を掘るんです? 確かアーサー様の研究テーマってLUCAですよね? それにちなんだものですか?」


「うーん……そうしたいところなんだけど、ルイさんの意向にも添わないとね」



 LUCA……最終普遍共通祖先を探しだし、生命がどうやって生まれて進化したのかは確かに気になる。


 だが、そもそもそれは取ってつけた理由でしかない。



「それに、俺はただ冒険者になりたかったわけで、前人未到の場所に行けたらよかったんだよ。LUCAとかはただのこじつけ」


「えっ!? そうだったんですか!?」



 おや、やはりシンシアは勘違いしているようだった。



「てっきり研究者として開発などを行っているものと……」


「違う違う、冒険したかっただけ。いろんな物を作ってたのは必要だったからだよ」



 必要なかったらロケットとか車とか潜水艇や掘削船とか作ろうとは思わんよ。


 だっておかしいもん。


 機帆船はあるけど、街並みは中世ヨーロッパ風のこの世界で近代的な船とか作ったら異常じゃん。


 特にこの世界は既に陸は制覇されてるから、他に行ける所っていったら深海くらいだし、そうなるとこうなっちゃうよな。



「だからまぁ、俺はいろんな所に行けたら満足なんだよ」


「そうだったですね……ところで、ルイ様の意向というのは?」


「「資源」だな」



 海底資源の発見と採取、そして販売。


 それを見越してアルカイムを建造してくれたんだから、早く見つけないとな。



「資源というと……魔石ですか?」


「確かにこれまでの海底調査で海底には魔石の砂が大量にある可能性が示されたけど、もうちょい突っ込んでいきたいな」


「魔石よりもすごい資源があるってことですか?」


「もしかしたらな」



 これまでのことから、魔石は化石燃料である可能性が高い。


 動物の化石そのものがアンモライトのように魔石化していることから、世に出回っている魔石は石炭などと同じく化石燃料なんじゃないかと俺は考えている。


 しかし、そう考えると()()も魔力資源化しているんじゃないか? と思っている。



 ――石油だ。



 化石燃料と聞けばおそらく誰もがこれを思い浮かべるだろう。


 言わずと知れた化石燃料の代表だ。


 それと同じような魔力資源があるんじゃないか?


 もしあるのなら、エネルギー密度はどうなっているのか……


 前世と同じでガソリンなんかの液体燃料と同じく高いエネルギー密度を持っているのなら――



「もし魔力の液体があってエネルギー密度が高かったら同じ重さの魔石とそれとで船を動かしたら魔力の液体で動く船の方がかなり長い間動くと思うぞ」


「へぇ……エリクサーみたいですね」


「そうそう……んえ!?」



 シンシア今なんて言ったっ!?


 なんか聞き慣れた単語が出てきましたがっ!?



「今なんてっ!?」


「えっ? エリクサーみたいだなって……鉱山で何回か見ましたよ。出てくるのは少量ですし、魔力が含まれているんですけど使い道わからなくて皆「魔石だったらよかったのに」って厄介者扱いしてました」


「あるんかい……」



 あるやないかい。魔力の液体。










 ◆










 ――ヘラスロク高等魔法学院


 春休みが終わり、最終学年がスタートし、皆将来に向けて本格的に歩み始めた頃、シャーリー達は学年主任に呼び出されていた。


 学年主任の元にはシャーリー、エレナ、カレン、エリオット、レイといつものメンバーが揃っていた。


 何故呼び出されたのか? と皆が疑問に思っていた時、学年主任の口が開いた。



「集まってもらったのは他でもない。先日、殿下も含め、テストを受けたことは覚えているか?」


「ええ。突然なんだろうとは思っていました」



 シャーリー達は先日、普段とは違う教室に集められ、全員揃ってあるテストを受けさせられていた。


 何故自分達だけなのか? と思いながら受けたそのテストだが、以前受けた期末テストよりも内容が濃く、解きがいがあったことをシャーリーは覚えていた。



「あの時のテストすごく良かったよね! 程よく難しかったというか!」


「確かにそうだね。この前の期末は簡単すぎたから……あっ、すみません」



 シャーリーが思っていたことはカレンとエレナも同じであったようで、達成感に満ちた表情を浮かべたが、期末テストを作った本人の前で失言してしまったとバツを悪くする。



「しかし、あの内容は高度過ぎるのでは? 我々は少し特殊故に解くことができましたが、同じ学年であのテストで高得点を出せる者はそうはいないと思うのですが」


「私も同じ印象だ。あれでは着いていける者の方が少ないぞ」



 レイはそのテストの難解さに疑問を抱いていた。


 それはエリオットも同じであり、レイの言う()()とはヴェリタスでの勉強会とアーサーとの冒険活動のことである。


 五人とも、それが無ければあのテストはまともに解答欄を埋めることもできなかっただろうと思っていた。



「殿下の仰る通りです。あのテストは()()()()の為に教師陣全員で作り上げたテストだ。解ける者がいるとすれば、魔術院にいる学者くらいだろう」


「「「「「えっ!?」」」」」



 そんな難題を自分達に!? という思いから声が漏れた。



「ど、どうしてそんなテストを? というより、結果を私達はまだ受け取っていないんですが……」



 シャーリーがそういうと、学年主任はシャーリー達の答案を机に広げた。



「ほぼ満点だ……我々が知恵を絞って作ったテストをほぼ満点だ!」


「「「「「……」」」」」



 ちょっと怒ってる? と皆の心中が重なる。



「なんなの!? 君ら!! なんか海に行ってくるって言って世界初の深海探査をして帰ってきて、さぞ学力も落ちているだろうと思っていたら中間や期末テストでは満点ばかり取って!! どうしたらそうなるの!?」


「船で勉強を教えてくれた人がいたので……」


「誰っ!? その人!? 君らの学力はもうすでに私達と同等だよ!! そこまで学力を押し上げられる人って誰!?」


「アーサー・クレイヴスという私の実家で働いている者です」


「あっそう! 聞いたことある!! 勲章を二つ貰ってたね!! ……んっ? 確か彼って歳は――」


「私達の一つ下です」


「……年下に教えられてここまでなる?」


「そう言われると少し複雑……」



 学年主任に言われたことでシャーリーも含めて五人は少しダメージを受けたが、シャーリーからアーサーがどんな人物でどんなことをしているのかを聞いた学年主任は机に肘をつき、額を抑えた。



「……何者なの? その子?」


「「「「「私達が知りたい」」」」」


「仲良いね君達」



 学年主任は気を取り直すように体を伸ばすと、先ほどまでとは打って変わり、威厳のある声で話し始めた。



「とりあえず、君達はもう学力的には申し分ないというのが我々教師陣の共通認識だ。よって、君達は自由登校扱いでもいいと考えている。これは学院長も認めてくださった」


「えっ!?」


「ホントですかっ!?」



 エレナとカレンが声を上げる。


 しかしながらと、学年主任は話を続けた。



「まぁ、しかしだ。学院生活というのは何も学問を学ぶだけの場所じゃない。友人と仲を深める為に通ってもよし、いつも通り授業を受けてもらってもよし、なんなら卒業式まで来なくてもよし。セイヤーズは学院の設備で魔道具製作に没頭してもらっても構わない」


「嘘っ!? やったぁ!!」



 ぴょんぴょんと跳ねるカレンを横目に、エリオットが学年主任に尋ねる。



「ということは、アルカイムに乗るのにわざわざ休学許可を貰わなくてもいいというわけだな?」


「アルカイム……最近就航した掘削調査船でしたな。殿下の仰る通り、前回の深海探査の時とは違い、休学届けなどは不要でございます」



 シャーリーはそれを聞き、胸を躍らせる。


 ようするに明日からすぐにでもアーサーの元へ向かっても問題ないということだ。



(いや! 何喜んでんのよ、私! アーサーは働いてるんだから!!)



 自分を律するようにシャーリーは頬をペチペチと叩いた。



「とにかく君達は卒業までの間、好きにして構わない。他の生徒に何か言われたらこのテストを受けて合格したから自由登校になったと言ってくれても構わない」


「いいんですか? そんなことを言ったら皆受けたがりますよ?」



 学年主任の言葉を受け、レイがそう質問すると学年主任はヘラヘラと笑って答えた。



「いいんだよ。これをスラスラ解けるのは君達くらいだ」



 ――これで高得点者が続出したらどうするんだろう?


 そんな疑問を浮かべるが、後日、噂を聞きつけた学生達がそのテストに挑むも皆撃沈していた。











 ◆










 魔力の液体「エリクサー」という存在を知った俺は、エリクサーをエレナの実家であるグリント鉱山から取り寄せた。


 特性を調べつつ、これが埋まっていそうな場所を探していた時だった。



 ――シャーリーとエレナ、カレンが家に来たのである。



「今日からうちに泊まるって言ってたけど、どゆこと? 学院は?」



 うちに泊めるってのも抵抗あるが、シンシアが居るし今更だ。


 一人が四人に増えたところでなんとも……そう、なんとも思わんさ!!


 年頃の男の家に気軽に泊まるなとか言いたいことはあるけども!!



「実は、学院でテストを受けたら合格受けちゃって、私達自由登校になったの」


「殿下とレイさんも一緒だよ」



 シャーリーとエレナから泊まれる理由を聞く。


 ……ぶっ飛んだテストがあるもんだ。



「そんなテストがあるんだな」


「いやいや、こんなことになったのはアーサーのせいだかんね?」


「俺のせい?」



 カレンにそう言われたが、何をしたかさっぱり検討がつかん。



「私達に勉強教えてくれたじゃない。ヴェリタスで」


「ああ、QUELLEの時な」



 そんなことをしたな。


 ……えっ? それのこと?



「あんの時に教えてたの三年生の範囲だけだろ? 自由登校になるくらいなんだから四年生までの範囲を網羅しなきゃいけないんだから、そこまでやってないだろ?」


「違うわよ?」


「……えっ?」



 シャーリーさん、今なんて?



「あの時、あまりにも捗ったから先に進めていたのよ。それこそ四年生の分もね」


「なんで四年生の範囲の教科書持ってんだよ!?」



 そう言うのって学年上がったら貰えるもんだろ!?



「? 学院に入ったら貰える教科書は各教科一冊ずつよ?」


「……えっ?」



 一冊ずつ?



「分厚い教科書見なかった? 机の真ん中に置いてたじゃない」


「あれが教科書!?」



 資料集とかの部類のものじゃなくて!?



「あれが学院入学時にもらう教科書。それを四年間使うの」


「だから四年生の範囲も勉強できたんだよ」


「へぇ」



 そういうことだったのか。


 異世界の教育は前世の日本の教育とは違うんだなぁ。



「皆さん、お茶をお持ちしました」


「ありがとう、シンシア」



 ワゴンにティーセットと少しの菓子を乗せて、研究室に持ってきたシンシアにシャーリーが礼を言う。


 シンシアは手慣れた様子でお茶を淹れて行き、各々の前にティーカップを置いていく。



「美味しい……あんたまさか良い茶葉買ってたりする?」


「いや? 普通の茶葉だけど?」



 美味いとは思っていたが、そう思えるほどのものなのか?


 だとしたら――



「淹れ手の問題だな。シンシアの淹れ方が上手いんだろう」


「そういえば学院にいた時から美味しかったもんね。シンシアの淹れた紅茶」



 カレンは寮で同室だったからか、シンシアの淹れたお茶を飲んだ経験があるようだ。



「そうだね。疲れて帰ってきたカレンに淹れてあげたこともあったね」


「あの時はホント助かったよぉ」


「えぇ!? カレンこんなに美味しい紅茶飲んでたの!? 言ってよぉ」


「そうよ」



 カレンに対して羨ましがるエレナと、それに便乗するシャーリー。


 目の前で姦しくしている彼女らを見ながら、俺はティーカップを傾けた。

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