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episode26 掘削調査船「アルカイム」

 


 無事GPS衛星九機が軌道に乗り、魔力波は地平線に隠れても繋がるということがわかってからすぐに各衛星の配置を始めた。


 それぞれ軌道傾斜角を変え、一つの軌道に三つずつ、三角形を描くように配置し、それぞれ昇交点緯度が60°になるようにした。


 一周回ってくるのを待たなくていいから非常にスムーズに配置させることができた。


 ……にしてもトラブル起きないな。


 普通宇宙開発ってトラブルの一つ二つ出るもんじゃない?


 いやいや、トラブルがないのはいい事じゃないか。素直に喜べよ俺。



「さてと、いよいよだな」



 机の上にあるのはGPS受信機。


 それのスイッチを入れたら宇宙を飛ぶGPS衛星から情報を受信し、現在位置の緯度経度を表示する。


 それを地図上で確認するという方法で動作確認する。


 将来的には地図上の印を浮かべる……いわば前世のマップアプリと同じような形にしようと思っている。



「じゃあ、入れるぞ」



 机の周りには今回機体組立を行った作業員の方々、そしてシャーリー達が集まっていた。



「これでこの島の位置が出れば成功ってことよね?」


「そういうこと」


「もしこれでズレてたらどうするの?」


「……考えたくない」



 衛星からは原子時計で計測された時間から100億分の2.55秒遅れるからそれを補正した時刻情報と軌道情報を魔力波で送っているだけ。


 それらは全て魔道具で、コンピュータじゃないから不具合があったとしても修正するなんて出来ない。


 ソフトウェアみたいに書き換えができないから、上手く動いたとしても五年を目処に使用を停止して新しいものを打ち上げられたら打ち上げる予定だ。


 こればかりはルイさんから許可が下りないと出来ないし。


 もし失敗したら……この世界初の人工衛星打ち上げ成功っていう称号は得られるが、使えないゴミを落ちないところまで飛ばしたってことになる。


 ……考えたくない。ホントに考えたくない。


 そう考えたら目の前の魔道具のスイッチを入れるのがかなり怖い。



「えぇい! ここはもう勢いだ!! よろしくお願いしまぁす!!」



 カチリと魔道具のスイッチを入れる。


 魔力が流れる音がしてから数秒、備え付けられているモニターに数字が表示された。



「ええと……こっちが緯度でこっちが経度だから……」



 その数字を地図に当てはめていく。


 すると一つの島に焦点が当たった。



「この島って……」


「ここ……だよね?」


「ってことはっ!?」



 シャーリー、エレナ、カレンが位置を確認すると俺の方を見た。


 俺はただ静かに拳を天に突き上げていた。










 ◆










 なんとか位置情報を取得する術を手にし、さらに衛星の魔力波を高精度で受信できるように大型化と高効率化させたアンテナを船に取り付けた。


 操舵室には操船用のコントローラーが二つ並び、部屋の後方にはGPS受信機とその情報を地図に表示させる海図机が設置されている。


 そしてその情報は操船用のコントローラーに繋がっていて目標位置に自動で移動するように魔法付与を施した。


 もっとこれを一つの魔道具でスマートに処理できるようにしたいけどコンピュータがないんじゃ仕方ない。


 今はGPSの魔道具と操船コントローラーに繋がって、またもう一つの操船コントローラーには海底に設置するトランスポンダからの情報を受け取り、任意の位置へと自動で移動するようにして……と別々で動いている。


 最終的には人の手で微調整はするけど操作する手順が多くて困るが、一点を掘る為には必要なのだ。


 ここはヴェリタスを後輩に譲り、掘削調査船の船長になってくれたポールさんの手腕にお任せしよう。


 てなわけで、掘削調査船最大の難関であったGPSも設置することができて、ようやく夢の掘削調査船が完成した。


 シャーリー達の夏休みが終わるギリギリでお披露目できてよかった。



「「「「「……」」」」」



 完成した掘削調査船を目を点にして口をぽかんと開けながら見上げる五人。


 シンシアも最初見た時はあんな感じだったな。


 もう慣れた様子で船を見てるけど。



「全長210m、型幅38m、船底からの全高は130m、満載時の喫水は9.2mあるから海上では大体120mの高さになるね」


「「「へぇ〜」」」



 慣れたおかげでシンシアは今では女子組に説明できるほどになっている。



「これほどまでに大きいのか……」


「そうですね……圧巻なのは船体中央のデリックです。一体何mあるのでしょうか……」



 エリオットとレイさんが呟いている。


 が、やはり男の子なんだな。


 目がキラキラと輝いている。



「デリックの高さは70.1m。1250tの吊上荷重を持っています」


「そうなのですね……」



 レイさんにデリックのことを伝えると、少し困ったような表情をされた。


 なんだ? なんかまずいこと言っちゃったかな?



「その……アーサー殿? 先日から思ってはいたのですが敬語は外して頂けますか? 殿下には友人口調で従者の私には敬語というのはその……」


「あぁ!? そうですよね!? すみません!!」



 そうだった。


 レイさんからは気安く話してとかなんとか言われてないからそのまま敬語で話してしまっていた。


 双方同じように接しないとレイさんがまるで本物の殿下で、エリオットは影武者みたいに見えてしまうじゃないか。


 ……それはそれでアリなのかもしれないけど。



「じゃあ……レイ。これからもよろしく頼む」


「えぇ、こちらこそ。しかし、私は敬語の方が馴染みがあるのでこのままの口調でお話しさせていただきます。わがままかもしれませんが、よろしくお願いします」


「そっちの方がいいんだったら咎めはしないよ」



 改めて握手を交わす。


 するとそのタイミングでシャーリーが話しかけてきた。



「ねぇねぇ! 船首のところに大きな足場があるけどもしかしてあれってヘリコプターの着陸場?」


「そうだよ」



 船首ヘリコプターデッキには三十人乗りの大型ヘリが離発着できるように設計してある。


 人員輸送は基本的にヘリで行うからそれくらい必要だった。



「ヘリで人員輸送するのはわかるけど、食料とかはどうするの? 深海潜水の時は深海から上がったら港に戻ってたけど、この船は洋上に何十日もいるんでしょ?」



 エレナから質問が飛ぶ。



「最初に予定日数分の食料とかは入れるけど、足りなくなった場合は船で届けてもらう予定だよ」


「そうなんだ……えっ? こんな大きな船の追加食料を船で?」



 エレナの疑問はもっともだ。


 この船は前世に存在した掘削調査船「ちきゅう」を再現している。


 ちきゅうも物資輸送は船で行っていたが、前世には荷物をたくさん載せることができる船はたくさんあった。


 が、この世界の船は殆どが機帆船。


 総トン数は200t前後の船が大半だ。


 大きいものでも700tクラス、対してこの掘削調査船は56,000tもある。


 総勢二百人も乗るこの船の数ヶ月分の食料を700tクラスの船で運ぶのか? とエレナは思っているわけだ。


 うん、やってもらうしかないね。



「新しく作るってのも無理な話だから数で勝負するしかないな。一艘だけじゃなく何艘も連なってきてもらうもよしだし、交易船みたいに大型の船で持ってきてもらうもよしだ」


「なるほど……そういえばこの船ってGPSとトランスポンダの二つの情報をもらって定点保持するんだよね?」


「そうだよ」


「二つの情報を一手に受け取ってそれを動力系に伝える魔道具なんてどうやって作ったの? 魔道具は一つにつき一つのことしかできないのに」


「作ってないよ、そんなの」



 エレナの言ったように魔道具は一つのことしかできない。


 今回ので言うならばGPSの情報を受け取ることはできるがトランスポンダの情報は受け取れない。


 コンピュータがあればできるだろうけど、コンピュータなんて作ってないから当然できない。



「えっ!? ないの!?」


「そんな魔道具がないことはお前が一番知ってるだろ、カレン」



 エレナとの会話を聞いていたのだろう。カレンが驚愕した表情で俺を見てきた。



「いや……なんかこう……アーサーならなんか知らない間にしれっと作ってそうだなって思って」


「うんうん」


「お前ら俺をなんだと思ってるんだ」



 エレナまで頷きやがって。



「で? 実際はどうなの?」


「気になるな。聞かせてくれないか?」


「私も後学の為にぜひ」



 シャーリー、エリオット、レイも集まってきた。


 とはいっても特別何もしていない。



「単に増やしたんだよ。魔道具を」


「……増やした?」



 シャーリーが首を傾げた。



「GPSの情報を受信する魔道具、トランスポンダの情報を受信する魔道具、それらから情報を受け取って計算する魔道具、その情報を送信する魔道具、それを受け取って駆動系に反映させる魔道具……って感じで繋いで繋いでってしていっただけ。オールインワンになんかしていない」


「なぁんだ。つまんないわね」


「お前な……」



 魔道具製作は素材に魔法文字を特殊なインクで書いていくが、手書きである以上、文字の大きさには限りがある。


 人が書くのだから当たり前だ。


 よって一つ一つの魔道具の大きさは前世のデスクトップパソコンに近い。


 しかもゲーミングPCクラスの大きさだ。


 そんな大きさのものを設置して何十、何百と繋いでいるから船内は結構ごちゃついている。



「たくさん繋げましたよね……魔力ケーブルを何回繋げ間違えたか……」


「辛かったよな、あの作業」



 シンシアと共に遠い目をしてみる。


 シンシアにはこの船に搭載されている魔道具を繋げていく作業を手伝ってもらった。


 自動船位保持システム……DPS以外にもドリル、トップドライブ、ドリルパイプやライザーパイプを揚降する巻き上げ装置「ドローワークス」などの制御を行う為の部屋「ドリラーズハウス」への配線と接続なんかも手伝ってもらったからすごくありがたかった。



「一部魔道具の製作もシンシアにお願いしたよな」


「はい。大変勉強になりました」


「えっ!? そうなの!? いいなぁ、シンシア」


「あはは……そんなにいいものじゃないよ? 勉強になったけど……」



 カレンが羨ましそうにしているが、見ろ、シンシアを。


 それは地獄のような作業量を経験してから言ってみろ。


 ……うん、シンシアには悪いことした。



「ありがとうな、シンシアが居てくれて助かった」


「いえいえ、私も好きでやっていることですから」



 シンシアのふわりとした笑顔にほっこりする。


 するとシャーリーが間に入ってきた。



「……で? この船はなんて名前なの?」


「ん? ああ、アルカイムって名前にしようと思ってる」



 シャーリーに船の名前を聞かれたから答える。


 アルカイム……この世界の名前だ。


 前世でも掘削調査船にちきゅうって名前を付けてたんだから、この世界でもちょうどいいだろう。



「明日は揚泥試験と掘削試験をするから、寝坊すんなよ」


「「はーい」」


「かしこまりました」


「了解した」


「……わかってるわよ」



 カレンとエレナから元気な返事とレイとエリオットからも了解が返ってきたが、シャーリーはなんか不機嫌だな。


 何があった?










 ◆










 掘削調査船アルカイムを見上げてたら、魔道具のことについてエレナ達がアーサーへ質問をしていることに気がついた。


「二つの情報を一手に受け取ってそれを動力系に伝える魔道具なんてどうやって作ったの? 魔道具は一つにつき一つのことしかできないのに」


「作ってないよ、そんなの」


「えっ!? ないの!?」


「そんな魔道具がないことはお前が一番知ってるだろ、カレン」


「いや……なんかこう……アーサーならなんか知らない間にしれっと作ってそうだなって思って」


「うんうん」


「お前ら俺をなんだと思ってるんだ」



 カレンが言っていることはシャーリーも思っていた。


 確かにアーサーならばしれっとそれらをシームレスに行える魔道具を開発しそうだと。


 だがそれを作っていないというのなら、一体どうしてるのだろうか?



「で? 実際はどうなの?」


「気になるな。聞かせてくれないか?」


「私も後学の為にぜひ」



 シャーリーがそう聞くとエリオットとレイもそれに便乗する。


 しかし、返ってきた言葉は拍子抜けするものだった。



「単に増やしたんだよ。魔道具を」


「……増やした?」



 シャーリーは首を傾げる。


 増やす……とはどういうことだろうか?



「GPSの情報を受信する魔道具、トランスポンダの情報を受信する魔道具、それらから情報を受け取って計算する魔道具、その情報を送信する魔道具、それを受け取って駆動系に反映させる魔道具……って感じで繋いで繋いでってしていっただけ。オールインワンになんかしていない」


「なぁんだ。つまんないわね」


「お前な……」



 何か新技術が導入されたわけではなく、ただただ複数の魔道具を繋げていっただけ。


 しかし、それもそれですごいことだ。


 複数の魔道具を繋げて大きなことを成すという発想は今までにない。


 口ではああ言ったものの、やはりアーサーは天才なのだとシャーリーは改めて感じていた。



「たくさん繋げましたよね……魔力ケーブルを何回繋げ間違えたか……」


「辛かったよな、あの作業」



 シンシアと共にアーサーも遠い目をしている。


 これだけ大きな船なのだ。


 その魔道具達を繋げていくことが単純作業ではあるものの、途方もない重労働であることは想像に難くない。



「一部魔道具の製作もシンシアにお願いしたよな」


「はい。大変勉強になりました」


「えっ!? そうなの!? いいなぁ、シンシア」


「あはは……そんなにいいものじゃないよ? 勉強になったけど……」


「ありがとうな、シンシアが居てくれて助かった」


「いえいえ、私も好きでやっていることですから」



 アーサーとシンシアがお互いに笑顔を見せている。


 その姿から、お互いが信頼し合っていることが見てとれた。


 それを見たシャーリーはその胸中に、言い表せない何かを抱く。



「……で? この船はなんて名前なの?」


「ん? ああ、アルカイムって名前にしようと思ってる」



 少し不機嫌気味に、シャーリーはシンシアとアーサーの間に割って入る。


 正直、船の名前は口実だった。


 なぜなら船首に船名が記載されているのだからそれを見ればわかる。


 だが、どうしてもアーサーとシンシアの周りに取り巻く空気を霧散させたい一心で、シャーリーは見ればわかることを聞いたのだ。


 しかし、アーサーはそんなことは言わずに、名前を教えてくれた。


 嫌がらせのように割って入ったシャーリーに、優しく名前を教えてくれたアーサーにシャーリーは罪悪感と自己嫌悪を感じた。



「明日は揚泥試験と掘削試験をするから、寝坊すんなよ」


「「はーい」」


「かしこまりました」


「了解した」


「……わかってるわよ」



 そのせいで自身の返事が素っ気なくなってしまい、シャーリーはまた自己嫌悪に陥る。


 なぜこんな行動を取ってしまったのか。


 シャーリーは自問自答した。



「私が一番最初の……アーサーの冒険者仲間……なんだもん」



 しかし、その答えもなにか違う。


 シャーリーは自身の行動を説明する簡潔な答えにまだ辿り着けなかった。

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