表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/83

episode25 GPS

 


 ロケットエンジンの燃焼試験が無事成功で終わり、周りが歓喜する中俺はあまりにスムーズに行きすぎて戸惑ってばかりだった。


 ま、まぁ、これでGPSが使える可能性が高くなったのだから素直に喜ぼう。うん。


 というわけで、現在は夕食を摂るために食堂に集まり、各々料理に舌鼓を打っているところだ。



「そういえば、シャーリー達ってなんで帰ってきたの?」



 休みって聞いたが、今思えば彼女らは現在三年生のはず。


 二年生の後半から三年生前半まではQUELLEに参加してくれていたはずだからな。


 ってことは今は春だからそろそろ卒業のはず。


 ……何休みなんだろう?


 あれかな。自由登校期間って奴かな?



「えっ? 普通に春休みだけど?」


「えっ? 春休みあんの?」



 シャーリーから告げられたのは春休みとのこと。


 んん? 三年生の春に??



「もう卒業なのに春休みがあんの?」


「卒業って……ふふっ、私達はまだ三年生だよ?」


「そうだよな、三年生だよな」



 エレナが少し笑いながらそう言ってきたが、俺の認識は正しかった。


 もしかしたら、俺は間違って彼女らは二年生だった可能性があったが、ちゃんと三年生だった。


 にしてもなんかズレが生じてきてる気がする。


 そう思っていたら、口いっぱいにご飯を詰め込んでいたカレンがそれを飲み込み、口を開いた。



「もしかして……学院が三年で終わるって思ってるの?」


「……えっ? 違うの?」



 てっきりそうなんだと思ってたけど……



「アーサー様、学院は四年制なんです。なのでまだ一年残ってるんですよ」


「えっ!? そうだったのか!? 正直、シンシアも卒業目前で中退とか気持ち的にキツイだろうなって思ってたんだけど」



 シンシアが学院の在籍期間を教えてくれた。


 そうか四年制か。


 高等って言葉に引っ張られたな。


 前世の高校をイメージしてしまっていた。



「それについては最初は確かに悲しかったんですけど、アーサー様の元に来て最先端の魔道具に触れられますし、数学に出会えたのでよかったです」


「そっか。それはよかった」



 シンシアも今の状況は思っていた以上に充実しているようでよかった。



「あぁ……確かにシンシア、あのロケットエンジンの火炎を見ても動じなかったよね」


「そうだね。多分アーサー君に引っ張られてるんだよ」


「それありそう。アーサーの近くに居過ぎると感覚おかしくなるから」


「……ん?」



 なんだ? 流れが変わったぞ?



「確かにな。アーサーと行動していると色々と常識が崩れそうだ」


「そうですね。ヴェリタスもそうでしたが、この施設もあまりに快適過ぎて、王城や王族専用船に戻ると設備の差に愕然とする時があります」


「それは大いにあるな」



 エリオットとレイさんの言い分だとここは居心地がいいらしい。


 待てよ? 王城や王族専用船って王族が過ごしやすいようにアップデートされてるんじゃないの?



「王城って王様や王妃様が暮らしやすいように設備って更新してるんじゃないの?」


「そうだが、アーサーの作る魔道具は新作が次々と出てくるからな。更新が追いついておらん」


「しかし私達はそれを使った生活を体験してますから。しかもその最新魔道具全てを装備したこの施設ですとか、ヴェリタス……そこでの生活を一度味わうとどうしても差を感じてしまいますね」


「元々所有していた王族専用船も船体は木造だ。設備を更新したところで安定性はヴェリタスに遠く及ばん」



 まぁ、ヴェリタスは安定性を確保する為にバラストを設けているからそもそも構造が違うしな。


 付け足せるもんでもないし。



「まぁ、それもあって現在フォスター造船所には新たな王族専用船を建造してもらっているが……ところで例のロケットはいつ頃完成予定なのだ?」



 エリオットがなんかしれっと新しいの造ってるとか言ってきたがまぁそれは置いておこう。



「五日あれば組立できるってよ」


「えっ!? 早すぎない!?」



 カレンが驚くのも無理はない。


 俺だって驚いてる。


 いくら機体が既に出来上がっていて、あとはエンジンや第二段などの接続作業だけだと言っても早すぎる。



「なんか……ロケットエンジンの燃焼試験を見てテンションが上がったらしくてな。早く打ち上がるとこが見たいって現場の人達の満場一致で組立作業に入ってるんだってよ」


「それ……大丈夫なの? 休憩とか」


「交代でやってるらしい。朝番と夜番で」



 ようはコンビニと同じようなシフト体制でやってるらしい。


 ここは離島だから、近隣に騒音が響いてしまうことはないから気兼ねなくできるって現場長の人がハイテンションで言ってた。


 ありがたいことだけど、無理はしないで頂きたい。



「えぇ……それ大丈夫? アーサー、あなたまさか変な薬とか提供してないでしょうね?」


「してねぇよ、失敬な」



 シャーリーのいう変な薬は与えてないが、多分あの人達の頭ん中には脳内麻薬が沢山出てるとは思う。










 ◆










 ――燃焼試験から一週間後。


 機体組立がホントに五日で終わり、ちょっと怖かったから一日掛けて点検もしたが完璧な仕上がりだった為、今日打ち上げの日を迎えた。


 ペイロードにはGPS衛星が九機搭載されている。


 三機を縦に並べ、三角形を描く形で並べて合計九機だ。


 もうそろそろ宇宙開発じゃなくて掘削調査船の方に作業を移したい。


 なんとか今日の打ち上げが上手くいくことを願う。



「タンク加圧完了しました」



 燃料の入ったタンクにガスが注入されたことがシンシアから報告される。


 ガスの圧力でタンクからエンジンに燃料を送る為だ。



「よし。それじゃあ、ターボポンプオン」


「ターボポンプ駆動開始」



 ターボポンプからプリバーナーへ、そして燃焼室へ燃料が高圧で流れ込む。



「点火」



 燃焼室の点火器を起動させ、エンジンに火をつける。


 直立したロケットの根本、エンジンノズルから噴煙が巻き上がる。


 そして、エンジン推力が最大に達した瞬間――



離床(リフトオフ)



 ロケットを留めていた留め具が外され、ロケットは宙へ浮かんでいく。


 徐々にその速度は増していき、数分後にはカメラでなければ追えないほどに小さくなった。



「第一段、燃焼終了。続いて第二段燃焼開始」



 第一段が切り離されて第二段のエンジンに火がついた。


 さらに加速していくロケット。


 その数分後にはフェアリングが分離され、衛星達が剥き出しになるが、もう既に高度は100km以上にまで達していて、空気は非常に薄い。


 その為、空気抵抗は衛星を破損させる程のものではない。


 そして順調に燃焼を続けた結果――



「第二段燃焼終了。GPS衛星切り離しを確認」


「よし!」



 なんとか切り離しまでこぎつけた。


 あとは九十分後にまた通信ができれば起動投入成功だ。



「九十分? なんでそんなに待たないといけないの?」


「衛星が地平線に隠れるから通信できないんだよ」



 星は丸いから飛ばした衛星はどうやっても地平線に隠れてしまう。


 そして低軌道上では星を一周するのに九十分かかることは計算済みだ。



「あの……アーサー様」


「ん? どうしたシンシア」



 なんかモニターを見つめながらシンシアが俺を呼んだ。


 何かあったんだろうか。



「その……通信が繋がってます。衛星との」


「……えっ!?」



 最初は何言ってるのかわからず黙っちゃったけど、通信が繋がってる!?


 モニターを見ると、確かに衛星のテレメトリーデータがしっかり更新されていた。



「……なんで?」


「さぁ……」



 俺の問いにシンシアも首を傾げた。


 が、そこで見学していたカレンが俺の肩を叩いた。



「ねぇ、衛星って通信は何を使ってるの? アルトゥムみたいに音波?」


「いや、水中と違って魔力が減衰しないから魔力波を使って――」



 そこまで言って俺は気づいた。


 カレンも、俺がそれに気がついたことを表情から読み取ったのだろう。


 少しニヤついていた。



「魔力はどこでも繋がるんだな?」


「そうなんだよ! QUELLEの時もヴェリタスからヘラスロクに連絡した時、普通に通話できたのが不思議だったから学院で研究してたんだ。そしたら魔力って実は結構遠くまで伸ばせることがわかったの!」



 興奮気味にそう言いながら詰め寄ってくるカレンを押し除けつつ考える。


 なるほど、索敵魔法も自身の魔力を伸ばして魔力に触れた対象の位置を把握する魔法だけど、使用しているのは魔力のみ。


 魔力を物理系の魔法に変換していないから広範囲に展開できるのか。


 そうだよな、魔法も広範囲に広げられるんだったらいつでもどこでも火を着けたりできてしまうもんな。



「でも索敵魔法で見える範囲って決まってるよね? 際限なく伸ばせるんなら、それこそどこまででも見れるんじゃ?」


「それは受け取り手の問題。魔力を伸ばしてもその魔力から情報を受け取って処理するのは結局魔法士でしょ?」


「あぁ、そっか。魔法士がその情報を処理できなかったら意味ないんだ」



 エレナの質問にカレンが答え、エレナもすぐに理解していた。


 すごいなぁ。さすが高等魔法学院生。



「でも魔道具はその情報を処理できるってことね」


「そのようだな。ところでアーサー? その魔力波はどれほどの強度なのだ? 音波通信では波が弱くなると通信できなくなっていたが、魔力波ではそれは起きないのか?」



 シャーリーもエレナと同様に理解し、次はエリオットから俺に質問が飛ぶ。


 俺は腕を組んで少し考えた後、口を開いた。



「わからん。俺だって今魔力波は宇宙にも届くって知ったんだから。カレンはなんか知ってるか?」


「さすがに魔力波の強度のとこまで考えたことなかったなぁ。でも情報量にもよるんじゃないかとは思うよ? 通信みたいに声を乗せたり画像や映像を乗せたりしたら、さすがにその情報全てを長距離飛ばすっていうのは難しいんじゃない?」


「確かにな。くそぉ、こんなことなら衛星にカメラ積んでりゃよかった」



 GPS衛星は自身の位置と飛行時間を知らせる魔力波を出すだけだからカメラを積んでいない。


 早々に飛ばしたかったから必要なものだけ積んで打ち上げたのが仇になった。



「……また予算申請する?」


「これ一機にどれだけ掛かったか忘れたんですか?」



 シンシアにジト目を向けられた。


 そうだよなぁ。



「えっ? 何? どれだけ掛けたの? ロケットに」


「……これです」



 シンシアがシャーリーに経費精算表を手渡した。


 それを見るためにシャーリーの周りに皆集まり、それを見ている。



「「「……」」」



 そしたら今度は驚愕した表情を浮かべながら俺を見てきた。


 シャーリーとエレナ、カレンだけが。



「なんだよ」


「あんた何考えてんの……」


「こんな金額出せるラザフォード商会も大概だけどね」


「これだけ掛けないと空を突き抜けれないだねぇ……」



 シャーリーからは呆れられ、エレナは逆にシャーリーを呆れた表情で見つめていた。


 カレンはとんでもない金額に目を回している。



「……ふむ。これだけあれば行けるのだな、宇宙へ」


「確かに高いですが、想像よりは安いですね」



 特に表情が変わらなかったのは、政治に関わっているエリオットとレイさんだった。


 多分政府予算とかと比べて、そんなに法外な金額じゃなかったから落ち着いているんだな。



「それ、GPS衛星だったからだよ。搭載機器がシンプルだから相乗りで九機載せれたけど、探査機とかだったらもっと金かかるぞ」


「えっ!? そうなの!?」


「これで意外にリーズナブルなんだ!?」


「えぇ!? これで!?」



 シャーリー達はその金額が意外と安いことを知り驚いていたが、通販番組してんじゃねんだぞ。


 一般人から見たら高いもんは高いかんな!



「……ん? てかエリオット、宇宙って言葉知ってんだな」


「ん? ああ、もちろん知っているとも」


「誰が最初に言ったんだ?」


「神だ」


「……」



 予想外の言葉にちょっと黙っちゃった。



「……神? 神様が宇宙って言葉を教えたの?」


「ああ」


「……司祭の人じゃなくて?」


「聖書にも載っているから神からの言葉で間違いないさ」



 その聖書も人が書いたものだろうに。


 誰かが考えて書いたのか?


 にしても空の向こうにも空間があるって考えられる人が大昔にいたってことだよな。


 すごいなぁ。



「まぁ、いいや。じゃあ普通に宇宙って言っても通じるんだな」



 じゃあなんで皆そう言わなかったんだ?


 と思ってたらシャーリー達が答えてくれた。



「もちろんよ。あんたが言わなかったから合わせただけ」


「なんか意味があったわけじゃなかったんだね」


「さっきから空の向こうとかで表現するからなんか意味あるのかと思ってた。宇宙じゃない場所だからとか」


「……ごめんよぉ」



 気を使われてただけでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ