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眠りの小五郎は一編の詩を読んだ。村曽我辺ムラチカの、書いたとおせんぼという詩だ。その詩を感慨深げに覗き混むと時と時の間に虫食いがあった。障子の張り替えにのりとはしが風邪に揺れるココチがした。峠を三里ほど昇ると小川が見えてきた。そのせせらぎに耳を済ますと盲目の老婆が泳いでいた。老婆は赤子を抱きながら泳いでいる。赤子は不思議とすやすやと眠っているようだ。老婆は鬼の形相だ。見ては行けない物を見てしまった気になり、足早に通りすぎると、向こうの町が見えてきた。蜘蛛の町だ。キラキラと輝いて光を反射している。所で、果樹園の下で、仲睦まじく体を寄せあっているホタルのような幻想的な一団がいた。パッと輝いてあっちへ云ったりこっち辺行ったりしている。青年のようだと思ったら、大人びたり、子供に為ったり。鶯谷谷という町というか地名がある。庶民は暮らせない町だそうだ。そんな町を場違いな気持ちと好奇心からふらついていると、麹町という酒造かの町に来て、さっきからあの町の名前を思い出そうと考えながら、店先の木樽や看板を眺めてる。味噌蔵や家紋の入った家々を眺めながら、さっきからあの町の名前を思い出そうと半ば呪縛のように、思い出せない事がとてつもなく恐ろしいことのように感じ初め、震えながら閑静な住宅街を歩いている。其処は、東京の何処かで、涼しげな木々が植樹され、神社の聳える小山と道を挟んで軒先に変な骨董品やらガレージにネンダイモの自動車やら、ステンドグラスの嵌め込まれた家何かが丁度良く遮られた木漏れ日に照らされて立っており、少し歩けばベンチなんかや小池何かがあったりする。公園の水道ほどの湧水や小池だ。其れは、思い出したい町の名前とは違う町かもしれないけれど、繋がりがあるかもしれない。僕ら何かが住んでいた町は、東京の外れで、本当は町の名前何かどうでも良くて、でも意味が無いけど、そしたら生きている意味も無いのかもしれない。幽霊のようにふらふらとさ迷っているだけなのだから。
東京の町の名前何かどうでもよいのだけど、有楽町を良く乗り換えの為にオリタリしていた。品川駅を乗り換えで降りていた。人が大勢いて、圧倒され、エネルギーを感じ、また忙しなかった。別に用事は無いけど、忙しい訳ではないけど、忙しなかった。まず、東京に出て思う初めのことは、田舎者だと思われないようにということだったかもしれない。品川駅では、次になに線で降りるんだ、何番ホームで降りるんだ、って頭の中で考えるんだ、常に。だって立ち止まったらぶつかるから。
階段に降りた。踊り場に降りた。非常階段に降りた。夕日がキレイだった。現実かは分からない。ベランダに出た。花火を見た。雪が降った。タバコをこそこそ吸った。飛び降りようと思った。上から人が降ってきた。傘を座した。風呂が沸いた。救急車が通った。落雷が落ちた。透き通る肌だった。怒鳴り声が響いた。