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第1話『NWSの呼吸』

「それには宗教の聖句も含まれますか?」

 ランスが問うと、ポールははいはいと両手を広げた。

「もちろんですよ、ノージャンル万歳!」

「票が割れますねぇ。ジャンル別の票にしてほしかった」

 ルイスがテーブルに突っ伏した。

「そうだよなぁ。開票作業はオービット・アクシスで一瞬なんだから」

 アロンも唸った。

 オービット・アクシスとは、この世界の通信機器である。

 と、そこへウェイターがグラスを持ってやってきた。

「ま、何はともあれ乾杯するか」

 マルクが言って、全員にグラスが渡ったところで、ポールが音頭を取る。

「それじゃ、NWSのますますの活躍を祈念して――!」

「乾杯——!!」

 ひとまず喉を潤して、会話が波に乗る。

「やっぱ乾杯はビールっしょ、喉越し最高!」

「いやぁ、熱燗もなかなかだよ」

 ご満悦のポールとナタル。

「芋焼酎もイケるよ。このまろやかな風味」

 キーツが主張すれば、タイラーが決める。

「大人はウイスキーのロックだろ」

「十人十色でいいんじゃない。ところでさっきの話に戻すけど、NWSのみんなに声かけて投票してもらわない?」

 オリーブがグレープフルーツサワー片手に呼びかけた。

「いいねぇ!」

「ウチには特に機関誌とかないけど、この際だからNWS選とか作ったりしてね。編集長はポールで」

「おーっ、オリーブにしては意欲的かつ文化的なご意見」

 失礼なことを言って得意げなポールを見て、タイラーが吹き出した。

 さっと交わされる目配せ。

 全然気づかずにポールが調子に乗る。

「みんな常々、こういう方面にノリが悪いって思ってたんだよね。やる気出してくれるんなら、NWS選は大船に乗ったつもりで任せてくれ」

「ププッ」

 キーツが堪えきれずに腕の中に顔をうずめた。

「で、編集後記としてポールのコラムを載せてな」

 アロンがしれっと持ち上げる。

「そりゃあ腕が鳴るなぁ。何書こうかな?」

「例えば日頃の粋な生活を嫌味なく表現するとか」

 ナタルがかなり深く入り込んだ。

 みんな込み上げてくる笑いを何とか堪える。

「そりゃ逆に不評を買いそうだな。ここは面白おかしく三枚目で……」

「いや、ポールの素顔って、みんな興味あると思うぜ。本人がシリアスなほどウケるぜ、きっと」

 アロンが言うと、初めてポールは「うん?」と首を傾げた。

「おたくじゃあるまいし、誰が喜ぶよ? そんなコラム」

「でもって、みんなでポールの行動を分析したいよな」

 マルクの種明かしで、ポールは真相に気づいた。

「こんのぉ、やったなぁ?!」

 そこで全員で大爆笑。

「くっそぉーっ、新年早々担がれた!」

「……記録21分ね」

 トゥーラは腕時計を見て、メモにさらっと走り書きした。

「書くなっつうに!」

 美人に弱いポールは、トゥーラの仕打ちにイマイチ突っ込めない。

「まぁまぁ、みなさんポールさんの善行に感動して、あなたを見習ってサプライズにしてみただけなんですから」

「柄にもなく殊勝なことするからだよ!」

 ランスは取りなしたが、キーツは本音を言った。

「でもって、あまり感心しないけどな」

 タイラーの意外な言葉に、みんな「えっ?」という顔をした。

「番兵は基本、トイレ休憩は認められないんだ。だから、どうしてもというときは、胃腸の内容物をトイレにテレポートさせる」

「あた――っ……」

 この事実にポールが落ち込む。

「知らなかった、タイラー早く言ってくれればよかったのに」

 オリーブがタイラーを責める。

「いや……盛り上がりに水を差すのも悪いと思って」

「おかげでみんな大ケガだよ。どうしてくれる?」

 ポールがタイラーに全責任を押し付ける。

「おまえが酔っ払ってから門に行かなかったのはなぜだ?」

 タイラーが訝って逆に問う。甘酒はもちろん里でも用意できる。

「えっ、そりゃあ、たぶん禁止されてるだろうと思って……」

「なるほど、里から行けば禁止事項でも、素面で入ればボランティアだからな」

 マルクが頷くと、ルイスがさっとまとめた。

「まぁ、いいことをさせてもらったということで」

「お布施の精神ですね」

 ランスがニコニコして言い置いた。

「サプライズするなら、自分の領分でやるか、要調査ね。反省しました」

 よっ、大富豪とキーツにはやされて、ポールは立ち直った。





































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