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第2話『会議の詰め』

 その後も細かい人材配置の調整は続き、情報の交換と共有、不明点の確認、備品の点検などを話し合った。

 午後4時、就業時間終了まで一時間を切ったところで、トゥーラが閉会の挨拶をする。

「それでは、炎樹の森での害虫防除対策会議を終了します。お疲れさまでした」

「お疲れ様でした――!」

「よっしゃーっ! 全員呼び出して問い質したる」

 ポールがザッと椅子から立ち上がって、ディバックを肩にかけて出口に向かった。

「上から行くなよ!」

 マルクが声をかけると、ポールは指で輪っかを作って、グイッと呷った。

「潤滑油も忘れちゃいないよ」

 ポールが行ってしまうと、一種の気怠さが9人を襲った。

「あいつ、午前様だな」

 タイラーがあの勢いをぶつけられる、5班の男性メンバーを気の毒に思った。

「トゥーラ、会議資料と議事録のまとめを頼む」

「了解。それから、今日見てもらった作業管理ソフトは、運用までもう少し時間をもらってもいいかしら。改善点もあるし」

「わかった。もしよかったら、イデ君やテリー君を交えて調整してもらっていいか?

危険区域検出ソフトの有効利用法も煮詰めてほしいんだ」

「ええ」

 マルクとトゥーラが会議の総まとめをするのは、いつもの光景だ。

 そこにナタルが加わった。

「トゥーラ、その話し合いに俺も混ぜてくれないかな? 知識の点ではお荷物だけど、なるべく情報を把握しておきたいんだ」

 トゥーラは頷いて了承した。

「そうね、それがいいと思うわ。あと、会議資料を集めるのも協力してもらってもいい? 国立図書館に缶詰めだけど、都合がつくかしら」

「やります、やります!」

「それさ、居残り組全員にやってもらったら? カエリウスについて物騒なイメージが先行してるから、不参加なんだと思うし。もしかしたら、得た知識次第ではもう少し参加者が増えるかも」

 アロンがそう助言して、急遽話し合いが始まる。

「確かに予備知識がなかったら、今回の仕事は二の足踏むかもね」

 キーツが身を乗り出して言った。

「仕事には臨場感が必須なんだがな。普通はこういう仕事をすると決まった時に、勉強して知識の補強や不安感を払拭するのも、同時進行でやるから身につくんだぞ」

「まったくその通りだと思うけど、アンケートを取ったのは勇気を試すためのものじゃなかったじゃない。前もって心の準備が必要な人もいるのよ。私たちでさえ、仕事の安全性と妥当性を検証できたのは、ついさっきじゃないの。その時点では……踏み切れないのは当然だわ」

「……」

 タイラーの主張はオリーブによって見事に分析されて、リーダーたちに吸収された。

「そうですね……安全が保障された仕事環境と、不透明なそれでは、慎重にならざるを得ませんからね。逆に言えば、安全性や妥当性が立証されれば腑に落ちるわけで。不参加組の方たちに知識を深めてもらうのは順当なことだと思います」

 ランスの言葉に、タイラーも納得して頷いた。

 それまでずっと黙っていたルイスが口を開いた。

「あの……安全性も妥当性も立証されていないのに、どうして女性メンバーは参加に踏み切れたんでしょうか? ポールさんが言ったように、中には勇気という言葉が不似合いな女性もいるのに」

「使命感の方が上回ってるからじゃない?」

 キーツがにべもなく言った。

「それもあるけれど、有り体に言って生産性が高い仕事だからじゃないかしらね。弱ったナラを治すとか、負のエネルギーから森を守るというのは、本質に訴えるものがあるのね。恐怖が下地にあるのがドラマティックだったりしてね」

 トゥーラの言葉にルイスがのけぞった。

「そんな理由で呪界法信奉者が怖くなくなるんですか!」

「女性には大義名分なんて必要じゃないのよ。理由がないことの方が手をかけられるから。そうさせてくれるところがあれば、女性の慈愛は水のように浸み込むのよ」

「勉強になります!」

 ルイスがトゥーラの言葉を手帳にメモする。

「だから、行動に大義名分を必要とする男は、恐怖が必要以上にデカく見えるんだよな」

 アロンがこめかみを押しながら言った。

「ポールのとこみたいに、不参加の理由がわからないなんてかわいいもんさ。ウチなんか十中八九、班体制が崩れて適当にサボれないからだし」

「あーわかる。ウチも絶対それ」

 キーツが眉をしかめて、ついでにこめかみをごしごし擦る。

「そういう連中は俺に任せておけ」

 タイラーが頼もしく言い切った。

 新春早々、暴風警報が発表されそうなNWSだった。



















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