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時生、荒れる? 11月5日 午後2時

 俺と龍子さんはヘラヘラしている村長を置いて、村長室を出た。そこで晴美さんと出会でくわした。

「あの、さっきはすみませんでした。その、ええと……」

 晴美さんは真っ赤になって謝ってくれた。龍子さんもこれくらい穏やかな性格ならいいのだが。

「別に気にしてませんから。それより、大変みたいですね、ご自宅が」

 俺は差し出がましいとは思ったが、いいきっかけだと思って言ってみた。横にいる龍子さんはご機嫌斜め警報を発令していたが、この際気にしない事にした。

「はい。兄は本当に母がいなくなって、落ち込んでいます。確かにその反動で暴れたりもしますが」

 晴美さんは苦笑いをした。俺も釣られて苦笑いをして、

「取り敢えず、今夜はどうするんですか?」

 晴美さんは、

「兄には何も言わないようにします。そうすれば、おとなしくしていますから」

 会釈をして正面玄関の方へ歩いて行った。

「随分、晴美さんにお優しいのですね、左京さん」

 龍子さんは闘気が見えそうなくらいの勢いで言った。

「いや、そんなつもりはないですよ。只、時生の事が気になっただけです」

 俺は微笑んで龍子さんを見た。

「時生の事? どうしてですか?」

 龍子さんは首を傾げて俺を見た。

「時生は、敏美さんが電話で私と話しているのを聞いています。だとすれば、私に因縁をふっかけて来そうなのですが、姿を見せないなと思いましてね」

「ああ、なるほど。敏美さんが殺されたのは、左京さんのせいだと考えるという事ですか」

 龍子さんにストレートに言われ、俺はグサっと来た。確かに、俺が時間になっても来ない敏美の事をもっと気にしていれば、彼女は殺されなかったかも知れないのだ。ああ、また気が滅入って来た。

「あ、ごめんなさい、左京さん。私はそんな風には考えていませんから」

 俺の様子に気づいた龍子さんが弁解して来た。

「別に大丈夫ですから」

 俺は心にもない事を言って力なく笑うと、元助役室のドアを開いた。

「左京さん、待ってくださいよお」

 俺がつれなくしたと思ったのか、龍子さんが追いかけて来た。

「晴美さんが役場に来ているのも知っているはずですから、時生が来るのはかなりの確率だと思ったんですけどね。本当に落ち込んでいるのかも知れませんね」

 俺はゆっくりとソファに座って言った。

「まさか、時生も……」

 龍子さんが意味ありげに言葉を切った。

「まさか、ですよ。どんだけ恐ろしい村なんですか、それだったら」

 俺は龍子さんの悪い冗談をたしなめながらも、心のどこかでそれを恐れていた。


 昼食を食べ終え、一息吐いていると、捜査本部の方が騒がしくなっていた。

「どうしたんでしょうか?」

 まだ素早く動けない俺の気持ちを察して、龍子さんが様子を見に行ってくれた。何があったんだろう? まさか、犯人が自首して来たとか? それはないか。すると、龍子さんが息を切らせて戻って来た。

「大変です! 時生がいなくなったそうです」

「ええ!?」

 俺は言霊ってあるのかなと思ってしまった。いや、時生はいなくなっただけだ。殺された訳ではない。

「晴美さんは捜査本部で事情聴取されていました」

 龍子さんはついでのように告げた。この人、晴美さんを完全に敵視しているよな。少なくとも、晴美さんは俺には何の恋愛感情もないのだから、変に対抗心を持たないで欲しいよ。

「鶴崎さんは田辺家を重点的に見張らせていたみたいで、時生もマークされていたようです」

 鶴崎さん、余程璃里さんの事を意識しているのか、何も訊いていない龍子さんに積極的に教えてくれたそうだ。すごいな、璃里さん効果。まあ、恐ろしい程の縦社会である警察だから、無理もないか。

「それで、晴美さんも事情を聞かれているんですか」

 俺が晴美さんの名を言うと、龍子さんは機嫌が悪くなる。もういい加減にしてくれ。

「時生は晴美さんがいる時は家にいたそうなので、晴美さんが出かけてからいなくなったようです。どこへ行ったんでしょうか? もしかして、敏美さんの遺体が安置されているところへ行ったんでしょうか?」

 龍子さんが腕組みした。俺は龍子さんを見上げて、

「それはないと思いますが、時生は車で出かけたんですか?」

 龍子さんは腕組みを解いて、ポンと手を叩くと、

「ああ、そうでした。車は晴美さんの四駆以外庭にあったそうですから、遠くへは行っていませんね」

「そうですか」

 時生がいなくなった。だが、車はそのまま。一体どこへ行ったんだ? それにしても、張り込みの刑事、奴が出かけたのがわからなかったのか?

「時生が出かけたのを気づかなかったんですか?」

 俺は疑問に思った事を言ってみた。龍子さんは、

「刑事さんの話では、時生は出かけていないとの事でした。でも、家の中を探したら、どこにもいなかったそうです」

「キネさんの時と同じかも知れませんよ。天井裏まで探したんですか?」

 俺はキネの発見の時のミスをまたやらかしたのかと思ったのだが、

「それはないです。天井裏も隈なく探したそうですから。どこへ行ってしまったんでしょうか?」

 まるでマジックだ。刑事達の監視の中、時生は忽然と姿を消した。家の中にもいなかった。どういう事だ?

「誰か出入りした者はいなかったんですか? 宅配業者とか?」

 俺は某自動車会社の元会長の事件を思い出した。

「誰も出入りしていないそうです。田辺家には四人の刑事さんが張り込んでいたので、その目を掻い潜って中に入る事は不可能だそうです」

 龍子さんはハッとして、

「そうだ。刑事さんが田辺家に入ると、家中が荒らされていたみたいです。だから、捜査本部も慌てているんですよ」

「ええ? 荒らされていた? 時生が暴れたんじゃないんですか?」

 俺が思いつきで言うと、

「それはあり得ないようです。どう見ても、二人以上が争った形跡があったそうですから」

 龍子さんの言葉であっさり否定された。

「だとすると、誰かが田辺家に忍び込んだ事になりはしませんか?」

 重大な矛盾が生じて来たぞ。刑事は誰も入っていないと言っているが、家の中には何人かが荒らした形跡があった。

「そうですよね。やっぱり、ボンクラ捜査員がいるんでしょうか?」

 龍子さんの言葉は辛辣だったが、そうとしか思えない現象が起きているのだ。マジシャンもびっくりの大脱出劇が行われたというのか? これは時生の命が危ない。でも何故、時生が狙われたんだ? しかも、敏美の事件からそれ程間を置かずに? 犯人は焦っているのか? それとも急がなければならない理由でもあるのだろうか?

「左京さん?」

 龍子さんは俺が一切反応しなくなったので、声をかけて来た。

「ああ、すみません、ちょっと考え事をしていて……」

 俺は苦笑いをして龍子さんを見た。

「捜査員がボンクラかは別にして、何かが起ころうとしているのは確かだと思います。まずいな、また人が死ぬかも知れない」

 俺は歯痒い思いがした。わかっていながら、何もできないのだ。どうすればいいんだ?

「ええ?」

 龍子さんはビクッとして俺の隣に座って来た。そんなに密着しないでくださいとは言えない状況だ。

「捜査員は、どうして時生がいないとわかったんですか?」

 俺はまたふと思いついた疑問を口にした。

「家の中で大きな物音がしたそうです」

 龍子さんが言った。

「大きな物音?」

 嫌な予感がした。

「はい。それで、中に入ってみると、荒らされていて、時生はどこにもいなかったようです」

「物音の原因はわかったんですか?」

 俺は更に尋ねた。

「いえ、わかっていません。家の中が荒らされていたので、何かが落ちた音かも知れないと判断したみたいです」

 俺は首を傾げた。物音がして捜査員が家の中に入るまでの時間はほんの数十秒たらずだろう。しかし、誰もいなかった。それも妙だ。何があったんだろう? わからない事だらけだった。

 

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