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疾走するは雷の如く  作者: 田中坂けいみ
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episode4

episode4


いつもより車の走る音が近くに聞こえる。

いままでは車の走る音はどちらかというと鬱陶しい音であったが、

今はどこか懐かしく、すごく耳馴染みがよく感じた。

樹海やら自然公園の森の中での隠居のような生活を始め1週間ほど経つ。

俺は体を起こす。

正面側の木々の間から少しずつ街並みが見えてきた。

ソリは少しずつ徐行していき、自然公園の最端から200メートルほど手前でソリが停止した。

ペデロ「ここに拠点を作るとするかのぉ。ほれ、準備ができたら行っておいで」

ペデロは俺にリュックを渡してくれた。俺が襲われた時に使用していたリュックだ。

ユウト「うん」リュックを受け取り荷物を詰める。リュックにはゲームパットが入っていた。

少し寂しさが込み上げたが、ゲームパットはそのままリュックに入れたままにした。

ペデロ「おっと、そうじゃ。暗くなる前には戻るようにな。戻り次第すぐに出発する。」

ペデロ「そして外での行動は必ず匂いを残す。あまり遠くに行かないようにな。」

俺は頷き、町へ足を進める。

ペデロ「おっと忘れるとこじゃった。これも持っていきなさい」

ペデロからあるものが投げ渡される。それをリュックにしまい俺は街を目指した。


久々に森の外に出る。

外に出ると照りつく太陽を直に感じた。ずっと森の中だったから今が真夏だったのをすっかり忘れていた。

ユウト「あっつ~。」そして改めて自分の服がなかなか汚れているのに気付き恥ずかしくなる。

俺はまず近くの川や水源がないか目指すことにした。一度服ごと水に浸かってもこの暑さならすぐに乾くと思った。

あまり期待せずにスマホの電源ボタンを長押ししてみる。やはり電源は点かない。

どこに向かってどう進めばいいか途方に暮れる。いたずらに進んでもこの身なりでは警戒されてしまうだろう。

スマホがない現代人の無力さをつくづく実感した。俺はその場に立ち尽くし時間を無駄にしている。


「何かお困りですか?」

綺麗な声が聞こえた。俺は声の方へ目を配る。そこには人が立っていた。

「道に迷ってらっしゃいますか?この辺ではお見かけしないお顔のようですが」

ユウト「まぁ、そんなところです。」

俺はその人を見て照れる。そして今の自分の身なりが恥ずかしくもあり複雑な気持ちだ。

正直照れるのも無理ない。話けてくれた女性はすごく綺麗な人だった。

黒髪が綺麗に肩まで伸び、肌は白く、すらっとしたモデル体型。キリッとした目の下には涙ぼくろがある。

服装はわりとボーイッシュで、白のノーカラーシャツにネイビーのタイトめなジーンズ。べっこう色の丸めがねをかけていた。

その人は俺の全身見渡すよう下から上へ目を配る。

女性「んーそうですねぇ。一度私の自宅にお越しください。こんな田舎でもそのままじゃ目立ってしまいます」

ユウト「いやいやこんな見ず知らずの男をいきなり家にあげるなんて!」

その人は笑いながら言う。

女性「私が襲われるかもって?あなたからはそんな印象は受けないですし、それに私はあなたが思っているより強いですよ」

そう言っても運動部だった俺の方が体格はいい。俺を警戒させないための冗談だと思った。

ただ猫の手も借りたい状況だったので俺も快く受け入れた。

ユウト「ありがとう。それでお名前は?」

その人は自身の、胸元に手を置きながら軽くお辞儀をし答えた。

女性「私は「ミズサワ レイ」と申します。」



レイの家に向かいながら色々なことを聞いた。

ここは桂木町という過疎化が進む町。

レイの年齢は18歳。ここ桂木町出身で俺より2個上の学年とのこと。

レイのような若者は少ないから、俺を見かけた時は少し嬉しくもあったようだ。

ユウト「レイさんはなんでここに住み続けてるんですか?都会に出たいとかないんですか?」

レイは微笑みながら言う。

レイ「ここは空気が綺麗で川の水も飲めるほどに綺麗なんです。」

レイ「ここでは私はすごく自身の力を発揮できるんです。」

俺は話を聞きながらも微笑むレイにまたドキッとしてしまう。

軽く顔を赤く染め、下を俯く。

レイ「それMMですよね?」

ユウトのTシャツを見ながらレイは言う。

ユウト「え?レイさんMM知ってるんですか?」

レイ「もちろんですよ!世界的に人気ですし私は15のヘビーユーザーです!」

ユウト「えっ!まじすか!俺も15やってたんですよ!」

レイ「そうなんですか?嬉しいなぁ!初めて同志に出会いました!」

レイのテンションが上がるのがわかる。

俺も同じ趣味を持っている人に出会えたことに興奮しお互いに熱弁しあった。

ずっとペデロとしか話していなかった俺は久しぶりの同世代との会話がすごく楽しかった。

話が盛り上がっている中、レイはふと一軒の古民家を指さす。

レイ「あれが私の家です。」

敷地に入る。広い家だ。これぞ古民家っといた感じで中庭と縁側があり、獅子おどしが置かれている。

他に人のいる気配を感じない。

ユウト「ご両親は?」

レイ「私はここで一人暮らしをしていますよ。」

両親は幼少の時にすでに他界しており。ずっと祖母に育ててもらっていたとのこと。

レイの高校卒業後、安心したのか直後祖母の容体が急変し、

役目を終えたかのように祖母はそのまま息を引き取ってしまい今は一人とのこと。

口元は笑顔を保っていたが少し寂しげな表情を浮かべるレイ。

俺は少し気まずくなり話を逸らす。

ユウト「いやぁでもまさかレイさんのような人もMMやるんですねぇ。」

ユウト「レイさんのような美人な女性がやってるって聞いたの初めてですよ~」

俺の発言にレイさんはキョトンとした表情をした後、口元に手をやりながら笑った。

レイ「あぁ。そう言うことかぁ。ユウト君、勘違いされてますね」

俺は訝しげな表情を浮かべる。

レイは笑いながら俺の腕を掴むとそのまま俺の手のひらを自分の胸に押し当てた。

俺はすごく焦る。俺は女性経験が全くない。

ユウト「ちょっと何やってるんですか!」俺はもう片方の手で自分の目を覆う。

レイ「いや、やっぱり勘違いされてますよ」レイはまだ笑っている。

俺は手の感触に少し疑念を抱いた。女性であればあるであろう柔らかさを手に感じない。

むしろ立派な胸板だ。

レイ「私、男性ですよ」

俺はその言葉に愕然とした。と同時に勝手に抱いていたよくない妄想も砕け散った。

それにしても伝え方が大胆すぎる。

レイ「私、昔から女性と勘違いされることが多くて、見た目のせいなのか口で言ってもあまり信じてもらえないこと多かったんですよ」

確かに俺も言われただけではあまり信用していなかったが、

フィルターがとれた目で改めてレイを見る。

ほとんど女性的だが確かに肩幅は少し広めであったり、喉仏があったり、言われてみれば声色も女性にしては低いほうだ。

すごく中性的ば見た目だ。ただ男性だとわかった後でも惚れてしまいそうなくらい綺麗だ。

レイ「流石に女性だったらユウト君を連れてこないです。」

俺は照れながら頭を掻いた。

レイ「んーとりあえずお風呂に入りましょうか。用事は話はその後でしましょう。」

俺は真っ直ぐお風呂に案内してもらった。お湯も張られている。

レイは脱衣所にタオルと充電器を持ってきてくれた。

レイ「ちょっと買い出しに行くのでゆっくりしていてください」そう言い残しその場を去る。

玄関の引き戸を開閉する音がした。俺は久しぶりのお風呂を心ゆくまで堪能した。


しばらくすると再び引き戸の開閉が聞こえた。レイが帰宅したようだ。

そのままレイは脱衣所に入ってきたようだ。

レイ「戻りました。どうですか?何かご不便はないですか?」

会った時からずっとレイは俺に対してのホスピテリティがすごい。

ユウト「すごくいいです!ありがとうございます!」

俺の言葉を聞きレイは脱衣所から出ていった。

風呂から上がるとタオルの横に着替えの用意が追加されていた。

新品の服の匂いがする。サイズも俺にぴったりだ。おそらく急遽購入してくれたのだろう。

値札などはついていないが、取り忘れであろうLサイズ表記のシールを剥がし、それに着替える。

充電していたスマホを手に取る。時刻は13時14分。

けっこう時間をつかっってしまった気がしていたがまだ昼であることに安堵した。

着替え終わり荷物をまとめ少々迷いながら居間へ向かう。

レイ「よかった。サイズピッタリ見たいですね」

俺を見てそう言う。

ユウト「わざわざすいません。いくらですか?」

俺の問いかけにレイは首を横に振る。

レイ「まぁ、この後も入り用だと思うのでご自身のためにとっておいてください」

俺は深々頭を下げた。そして自然すぎて気づかなかったが、

レイは俺のことを一切聞いてこない。もちろんMMのことはお互いに聞いたが、

俺がなぜ今ここにいて、どこからきたのか、そういったことは聞かれなかった。

正直聞かれないのはこちらとしてはありがたい。

ふとペデロの顔が頭をよぎる。すごく居心地がいいが俺には待っていてくれる人がいる。

先に急ごう。

ユウト「レイさんすいません、なんとお礼言ったらいいか」ユウト「ただ、お世話になっておいて申し訳ないんですがちょっと先を急ぐんでもう行きます。」

レイは何も言わず笑顔でうなづいてくれた。

ユウト「落ち着いたら絶対お礼しにきますんで!」

レイ「んー、ではお礼はMM内でお願いします!」

そう笑顔で俺に言ってくれた。

ユウト「あとついでに最後教えて欲しいんですけど」

レイはこちらを見る。

ユウト「この辺にホームセンターとかないですか?ちょっと言いにくいんですけど、実はスタンガンほしくて、、、」

レイは少し怪訝な表情をするもすぐに笑顔を作るが苦笑いになっている。

確かに急なスタンガン発言は怖い。不審者感に磨きをかける発言だ。

ただレイはそのまま答えてくれる。

レイ「スタンガンですか、、、、、ホームセンターはあちらですがこんな田舎に売ってるかはわからないですねぇ」

レイ「せっかくなのでお節介ついでにホームセンターまで一緒に行きましょう。」

レイの対応の良さに申し訳なく感じつつもありがたく申し出を受けることにした。


レイ「じゃ、出ようか」

そういうとレイはスマホと家の鍵、そして500ミリリットルの天然水を片手にする。

最初にあった時もそうだったがレイは荷物は少ないが水だけは必ず持ち歩くようだ。

荷物量はボーイッシュだと感じた。

俺もリュクを背負いレイの後をついていく。


ホームセンターまでは徒歩で10分程度のところだ。

レイとのママチャリに二人乗りで移動することにした。運転は俺が申し出た。

レイはの後ろの荷物奥箇所に両足を片側に揃え、お嬢様座りで座った。

側から見たら恋人同士に見えるだろうか。そんなことを考えつつ、レイのナビに従って進んだ。


ここ桂木町は田舎だがお店はなかなか多い。コンビニもほぼ全てのチェーン店があるし、

スーパー2軒、ドラッグストア2軒、大手のホームセンターが1軒ある。

田舎にしては住みやすそうだ。

近くには湖がありキャンプ場も設けられたそこら一帯は人気の観光スポットのようだ。

それを知ってか知らずかペデロは森の奥で1人息をひそめている。


ホームセンターに到着した。

店内を手分けしてスタンガンを探す。

レイが防犯コーナーを見つけたようで俺を呼び寄せる。

端から順に隈なく探す。

レイが「あっ」と声を出す。

レイの方へ駆け寄るとどうやらスタンガンであったであろう陳列箇所が目の前にあった。

ユウト「売り切れ?」俺は肩を落とす。

レイはまだ諦めておらず、近くの店員さんに訪ねる。

店員さんがバックヤードの在庫を探しに行ってくれるようだ。

店員「お待たせしました。申し訳ありません。現在在庫を切らしておりました。次の入荷は3日後の予定となっております。」

店員「この辺では普段あまり出ないのでそもそも在庫も数も1~2個くらいした常備していないんですよ~」

入荷連絡の申し出を断り、店員さんにお礼を言い、店を後にした。


レイ「今日に限ってどなたかが購入されたんですね」

俺は自分の運の悪さを痛感した。

この町には他にスタンガンが売っていそうな店はない。

ユウト「ここまできて収穫なしかぁ。売り切れまでは考えてなかったなぁ」

レイ「ちなみに防犯のために欲しかったんですか?」

それ以外に使用方法はないと思ったので、少し俺は怪訝な表情を浮かべた。

レイ「あ、いやあの、イノシシなどの動物の駆除などに使われることもあったので」

この地域では猪が出るらしい。電流にびっくりして森に引き返すのとのことだ。

ちょっとペデロが心配になったので急ぎへ点に戻ることにした。


ユウト「レイさん、何から何までありがとうございました!この恩は一生忘れません!」

俺は快活にお礼を伝えた。

レイ「いえいえ、短い時間ではありましたが楽しかったです。またぜひ遊びにお越しください。」

ユウト「ちなみに自然公園ってどっちですか?」

自然公園の方角を聞き、レイに再度お辞儀をしてから俺は自然公園に進んだ。

レイは俺が見えなくなるまで手を振って見送りをしてくれていた。


ペデロ「なんと!無駄足じゃったか!」

ペデロは頭を抱えた後、笑い飛ばした。

スタンガンのこと、桂木町のこと、レイのことなど1日の出来事を俺はペデロに話した。

一息ついたところで、樹海に向けて再びソリを動かした。


一方その頃、

見送りを終えたレイ

レイは見送った後、振り返り帰宅し始めた。

振り返ったところで大柄の男性にぶつかってしまった。

レイ「あ、申し訳ございません。失礼致しました」

軽く会釈しながらその場を立ち去ろうとしたが、レイは男に手を掴まれた。

男「おい、てめぇ、ぶつかっといてそれだけか?」

いちゃもんをつけてくる男。手を掴まれた拍子に手に持っていた水を落としてしまう。

男「なんだ姉ちゃん。お前いい女じゃねぇか。」

レイは笑顔を貼り付けたまま。

男「ま、仕方ねぇから俺らにイイ事してくれたら許してやってもいいぞ?」

男はいやらしくニヤけた。

周りの町民はその様子を見るや否や皆、青ざめた様子でまるで腫れ物に触るかのようにその場を後にする。

男「ふん。この町は連中は薄情なもんだな」

男は高笑いする。その様子を気にも止めていないレイ。

レイ「イイ事とはなんでしょうか。ぶつかってしまったのは謝罪いたしましたが」

男はレイの発言で頭に血がのぼる

男「てめぇ!ちょっと顔が良いからって調子に乗ってんじゃねぇぞ!」

男は床に落ちている水のペットボトルを拾い上げ、封を開けると、その水をレイの頭からぶちまけた。

無抵抗のレイを見て気を良くする男

男「ふん。ざまぁねぇな。ったく、おいっ!行くぞ!」

そのまま男は去ろうとしたところでレイが口を開く。

レイ「ぶつかったことは謝罪いたしました。で、私が水をかけられたことについては、、」

レイ「やり返してもいいんだよな?」

レイの笑顔がどこか不気味は雰囲気に変わった。

男はその場に立ち止まる。

男「あん?なめてんのかてめぇ。やられ足りないならもっと痛みつけてやるよ」

男がレイに殴りかかろう近づいていく。

それと同時にレイのかけられた水が全てレイの右の手のひらに集まり始め、少し宙を浮くようにボール上になった。

レイ「水、ありがとう。」

その不思議な光景に男はたじろぐ。

男「なんなんだよそれ!なんなんだよお前!お前らぼーっと突っ立てないであいつをヤれ!」

両脇の子分のような男たちが2人がかりでレイに襲い掛かる。

レイはその右手の上の球状の水流を左手に移し、それを右手のでひとつまみする。

そのひとつまみの水は左手の水流に戻ろうする力が働いているがそれをレイは右手で弾きつづける。

まるで弓を弾くような構えで男二人に狙いを定めた。

右手の指先をパッと開くと矢が飛ぶように子分2人の額目掛けて同時に2発のひとつまみ分の水が飛び出した。

その水はそのまま額を貫き風穴を開けてしまった。

レイは笑顔のままだが、それが逆に恐ろしさを引き立たせる。

男は尻餅をつき、そのまま慌てて逃げようとする。

レイ「では水、お差し上げますね」

レイは笑顔で再び右手で水流を弾く。

大柄の男の情けない叫び声が静かな町に響いた。


「あらあら。レイ、あんたまたやっちゃったのかい」

レイ「申し訳ございません。あまりにも無礼だったもので。ご迷惑をおかけします。」

「これの掃除はこっちで手配しとくとしよう。しかし気をつけてくれよ」

「最近は観光客も増えているんだ。あんまり目立つ行動をされると守りきれんよ」

「ま、と言っても守られてるのは我々の方なんだけどな。」



「お気を鎮められよ。水神様。」



レイ「はい。申し訳ございません、、、、、、、、町長」

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