episode3
episode3
ユウト「なんだよ!わかったから下ろしてくれよ!」
焦る俺を笑いながら、ペデロが木から手を離すと、つるは先ほどまでの生き生きとした感じはなくなり、俺はストンと解放された。
地面に落ちた衝撃に悶えつつ深く呼吸をしペデロの方を見る。現実離れした出来事にまだ戸惑いを隠せずにいると、ペデロが声をかけてきた。
ペデロ「どうじゃ?なんとなくわかったかのぉ?」
そう言いながらペデロは再び木を動かし、自身の足元に木を変形させてリクライニングチェアのようなものを作り上げた。そこに座るペデロ。
ユウト「木の属性者だから木を操れるって感じか?」
ペデロ「まぁ6割正解と言ったところじゃな。操ることがわしの素質に当てはまる使い方ということじゃ。」
ペデロ「もしかしたら自身が木と化してしまう属性者や、木の養分を自身のエネルギーに変換し力を増す属性者などもいるであろうな。何が適合するかは千差万別なのじゃよ」
ユウト「なるほどー。、、、、、俺の特性って何だろうなぁ」
ペデロ「それは本人にしかわからないし本人でもわからないじゃろうなぁ」
あんまり腑に落ちないが、何となく自分の素質はわかる。
ユウト「俺は多分走ることなんじゃないかと思うんだ」
ペデロ「早合点は良くないがまぁ自分の好きなことがわかるのはいいことじゃな」
ペデロ「ゆっくり研究するといいじゃろ、それ練習場所を作ってやろう」
ペデロはチェアに座りながらパンパンと手を叩いた。
ペデロが今チェアにしている木の枝が動き隣の木に枝が触れる、するとその木も動き出す。そうやって生命を伝達していくかのように、周りの木が徐々にざわめき出した。
樹海一帯がざわめきだしところでペデロが再度手を叩く。
すると木の根元は俺らを中心に一気に後ろに退き、逆に頭の部分が内側に重なっていく。そうしてあっという間にドームのような空間が出来上がった。
俺は開いた口が塞がらない。適度に木漏れ日も差すのでそれなりに明るい。改めて属性者に能力に驚いた。
ペデロ「後はエネルギー源の発生を待つだけじゃ。雷かぁ。気が遠くなるのぉ」
ユウト「え?俺が雷を発生させられるんじゃないの?」
ペデロは笑いながら俺に言った。
ペデロ「質量=力量じゃよ」
つまりこういうことだ。
属性者がその力を使うにはそのエネルギーが近くに存在し、触れたり感じたりすることが条件となる。
そしてその質量を超える力は発揮できないし、その質量を増やすこともできない。
例えば、
水の能力者が1リットルの水を2リットルに増やすことはできない。
そして水に触れ続けてさえいればどれだけ遠くても操作はできる。
ただ逆にたくさんの質量を動かすにはその人間にも相応の負荷がかかる、海を動かそうものなら試し始めた途端に絶命してしまうだろう。
だが相当な使い手になると海をも操れるようになるらしい。
「海を割って道をつくった」という神話も昔からあることを考えると、
属性者は相当古代から存在はしており、神として崇められるような物たちはもしかしたら皆属性者だったのかもしれない。
つまり自身の力を発揮するにはそのエネルギーに触れている必要がある。
ドームを改めて見ると木の一本一本は細長くなっている。横を縮めて縦に伸ばしたということであろう。
ペデロは自身の能力を最大限生かせる樹海を選んで隠居している。
そしてこの量の木々を一気に操れるペデロ。相当な実力者であることを改めて実感した。
ユウト「じゃあ俺は電気が近くにあれば何でもいいの?例えばスタンガンとか」
ペデロ「そうじゃな、試す価値ありじゃと思うぞ。が、しかしどうやって手に入れる?」
俺は思いついた。
ユウト「ペデロさん、俺を森の入り口まで運べる?」
ペデロは怪訝な顔で俺を見ていた。
ペデロ「入り口まで?もちろん可能じゃが、樹海の外は奴がうろついているかもしれない。危険じゃぞ?」
ユウト「実はちょっと考えがあるんだ!」
ペデロは再び怪訝な表情を浮かべる。
ユウト「あいつはその雷属性の匂いを嗅ぎ分けるんだよね?」
ペデロは頷く。
ユウト「この樹海にいるうちはなんで安全なの?」
ペデロ「そりゃわしが木々の配置を操作し、何層もの壁を作っておるからじゃ。」
ペデロ「匂いがわかっても樹海で迷い、肝心な要所は行き止まりになっておる。それに流石の奴も鼻の効く範囲があるじゃろう」
ユウト「そう!それ!雷男の匂いを嗅ぎ分けられる範囲を検証したい!」
ユウト「それと近くのホームセンターまでの距離を調べたい。そのためにとりあえず電波が入りそうなところまで出たい。」
ペデロ「わかった。ただ家族や友人に連絡はせんことじゃ。警察などが動き出しては敵わん。」
作戦はこうだ。
まず俺は樹海の外に出る。そこでスマホを起動し近くのホームセンターを探す。その上でそこに俺の痕跡(匂いが)残る。
やつはその痕跡を辿って動き出すだろう。そのタイミングを見計らって真反対に移動。そこから最寄りのホームセータへといく作戦だ。
注意するべきことはあくまで直接姿を見せないこと。そして最初に樹海の外へ出る場所は正直運任せに近いこと。
1回目電波を拾うために樹海の外に出る。そこで雷男に出くわしてしまうと一発アウトだ。
そもそも今現在雷男がどこにいるかもこちらからは確認できない。
賭けではあったが、とりあえず1度目の電波確保のための樹海脱出は成功。雷男の姿は見当たらない。
急ぎスマホの電源を起動。
ユウト「よかった、、、起動できた、、、」
電池残量15%とギリギリだ。急ぎマップアプリを開き検索する。
わかったのは、ペデロから聞かされていたよりずっと俺のいた街には近かったこと。
車で20分くらい走れば俺の家に着くほどの距離だった。
そしてこの樹海は南側は海に面しており、東側に俺の育った街「中田市」、西側はほとんど高速道路など街らしいものは見当たらない。北側にも「加賀町」という町があるが行ったことはない。
北東側には中田市と加賀町を分断するように自然公園という名のほとんど森林が長く伸びている。天然記念物の森みたいでここは行政が手をつけなかったと昔、母さんから聞いたことを思い出した。
そして俺が今いるのは西側。川が流れており、それを跨ぐように高速道路が伸びている。作戦通りの場合次に向かうのは東側。つまり俺の育った街「中田市」だ。
ただ中田市へ行くのは危険すぎる。家族や友人に出くわす可能性があるし、何より中田市で雷男に襲われた。
一度樹海に戻りペデロに状況を伝えることにした。
ペデロ「そうであったか」
スクリーンショットを見せながら、状況を伝えるとペデロは渋い顔で少し沈黙する。
ペデロ「では作戦変更じゃ。行き先は自然公園の終点じゃ」
スクリーンショットの切れているところに僅かに街らしきものが見える。
ただ自然公園は北東に向かって20キロほど続いている。
途中道路と川で分断されてはいるが20キロの距離を進むのはなかなか大変だ。
ユウト「でも大変じゃない?」
ペデロはニヤッと不敵な笑みを浮かべた。
ペデロ「わしは木を操る属性者じゃ。木々の中であればわしに出来んことはほとんどない。」
そういうとペデロは住居から木製の杖を取り出し、杖で近くの木を突いた。
すると木ははたちまち動き出し階段を作りあげた。ペデロがそこを登っていく。振り返り俺に手招きしたので俺もついていく。
枝と枝が折り重なり、ペデロの力が及ぼす限りにスーっと道ができる。まるで自然の歩道橋のようだ。
その光景に俺が目を輝かせて感心していると、ペデロはまだまだと言わんばかりに首を横に振る。
さらに木のツルが住居の方に伸びていき、中からソリを引っ張り出してくる。俺の目の前にソリが置かれた。
ペデロ「ほれ。乗るのじゃ」そういいペデロはソリに乗り込む。俺も一緒に乗る。
ペデロの「出発」という声に合わせて木のツルがソリの後方を一気に押し出すと、ものすごいスピードでソリが滑走し始めた。
木々の中をスルスル滑って行く。最初はジェットコースターのようで怖がりながらソリにしがみついていたが、
徐々に慣れていき、風や光景の心地よさを感じ始めた。余裕が出てきて少し笑みをこぼしながらペデロの様子を見る。
ペデロは相変わらず優しく微笑みながらいつも通り飄々としていた。
ペデロ「慣れてきたようじゃな」
俺は大きく頷き、引き続き周りの景色を堪能した。
ペデロの話ではこの速さで行けば丸1日あれば到着するようだが、それではペデロの体が保たない為、
半分くらい進んだところで野営を再び進む。2日がかりで進行する予定とのこと。
周りをよく見渡すとソリの進行に合わせて道の構築と不要になった道の解除をこのスピード感で行われている。
ただじっと座っているように見えていたがよく見ると指先を動かし続けている。ペデロはずっと属性能力を使用し続けていた。
半分進むだけでも相当大変そうだ。
俺はこれ以上邪魔しないようにしようと思ったがペデロに気を使わせまいと寝たふりをした。
目を閉じると風の心地よさをより一層感じていると寝たふりのつもりがそのまま眠ってしまった。
ペデロ「ほれ。ユウト君。起きるのじゃ」
ペデロの言葉で目を覚ます。どこまで進んだか全くわからない
ペデロが道の下に歩いていく。そちらに目をやる。すでに木々を利用した拠点が出来上がっていた。
野営にしては立派すぎる拠点でログハウスのあるキャンプ場のようだった。
ペデロ「ソリから荷物おろしくれんかのぉ」
ソリの中には鍋などの食器類や貯水タンク、毛布などがある。それを俺一人で拠点まで降ろしていく。
拠点内の中央に囲炉裏のようなスペースが確保されおり、俺はそこを草をむしり、スコップで土を返した。
囲炉裏が確保できたところでペデロは昔ながらの火おこしの方法を属性能力を駆使し行なう。
火が灯り、食事の用意をする。今日もペデロ特製ポトフだ。
具材のカットを俺がやり、味付けはペデロが行う。
食事をしながら他愛もない話をする。
ユウト「ペデロさんってずっと一人なの?家族はいるの?」
ふと疑問に思い問いかける。ペデロは少し間を開けて物悲しげに口を開く。
ペデロ「娘がな、一人おったよ。妻は早くに亡くした」
ユウト「そうなんだ。で、娘さんは今何してるの?」
ペデロ「生きておればユウト君のお母さんくらいの年齢じゃろうかのぉ」
食事の手を止めて何処か心ここにあらずといった感じで呆然とするペデロ。
ユウト「なんかごめん。辛い過去聞いちゃったね」
俺の言葉でペデロはふと我に返り俺に優しい微笑みを向ける。
ペデロ「遠い昔のことじゃ。気にするでない」
ペデロ「明日も早くから出発じゃから今日はもう寝なさい」
食事を片付け、囲炉裏の火を消し眠りについた。
翌朝、俺が起きるとペデロはすでに起きて準備をしていた。
ペデロ「おはよう。早速だがソリに荷物を運んでくれんかのぉ」
俺は頷き準備に取り掛かる。俺が荷物を手に取りソリに向かうのと同時に拠点も元の森林に形に戻っていく。
積荷が終わり、二人ともソリに乗り込み、再びソリが動き出した。
道中、ペデロから朝食のリンゴをもらったので俺はそれを頬張りながら外を眺めていた。
しばらく進んだところで急にソリが止まる。勢い余って俺は前方に飛び出しそうになるも感一発免れた。
ユウト「死ぬかと思った、、、、ペデロさん止まるなら言ってくれよ!」
俺は声を荒げるが、ペデロはそれを全くに気にも止めず、前方を見るよう俺に言った。
道路と川が見える。最初に確認した時に見えていたものだ。同時に自然公園を7割ほど進んだことも示していた。
ユウト「どうやって超えようか」二人で模索する。
いくつか作戦は思いついた。
①勢いよく飛び出し空中を滑空し向こう岸まで辿り着く。
②舟を作り向こう岸に渡る。
③暗くなるまで待ち人目に浮かないところで木々を操作し渡る。
ユウト「できれば先を急ぎたいけどなぁ。でもやっぱ昼間に動くのは目立つよなぁ」
ここで立ち往生となった。
ペデロ「まぁやむを得ん。暗くなるまで待つとするかのぉ」
③の方法で渡るため、暗くなるまで岸で英気を養うことにした。夜通し進み朝方までに自然公園を抜ける予定だ。
日中はより人目を気にしながら拠点を作る必要がある。
木の上部をうまく操作し地上数10メートルの高さに拠点を作る。
拠点は昨日の立派なものとは相反し、より木の形をそのまま残した仕様だった。
木の幹の太いところを少し平らに自分達が横になれるだけのスペースを構築する。
ソリもそのまま木の上で待機できるようあたりを構築した。
ユウト「ペデロさん、ご飯いつ頃食べますー?」
なんて他愛のない話をし始めた直後急に枝で口を塞がれた。ペデロの仕業だ。
ペデロは俺に向かって口元に人差し指を一本近づけ俺に静止を求めた。
そのままペデロは反対の手で下を指差す。
「いやぁ~久々に自然を歩くのは気持ちいいわねぇ」
「そうだなぁ。ただここは人の手があんまりついていないから熊とかにも気をつけないとな」
年配の夫婦が自然公園をハイキングしているようだ。
夫婦は空を見上げる。俺は肝を冷やしながらさらに幹に体を寄せた。
夫婦は奥に進んでいき20分ほどしたところでようやく姿を認識できないほど小さくなった。
ペデロ「日中はより注意を払うことじゃ」
ユウト「これ普通にただ自然の中キャンプしている人ってことじゃダメなの?」
ペデロ「もちろん一般人のように振る舞うのも一つの手じゃろう」
ペデロ「じゃが、少しの綻びから噂が立ち、たちまち居場所を追われることもあろう」
俺はペデロが神経質になりすぎてるとも思ったが口には出さなかった。
しばらくしてから俺はふとペデロに聞く
ユウト「ひとつ疑問なんだけど」
ペデロは少し目を見開きこちらを見る
ユウト「雷男って俺を狙ってたのかな?俺に元々雷の匂いがあったから狙ったんだと思うけど」
ユウト「俺そんな電流的なものは身近になかったよ?」
ペデロはひととき考えてから口を開く。
ペデロ「ふむ。属性者の子は属性の発芽がしやすいという話を聞いたことがある」
ペデロ「ユウト君、もしかしたら両親がどちらかもしくは両方が属性者だったかもしれんのぉ」
笑いながらペデロはそう言った。
ペデロ「ま、恐らく迷信じゃよ。忘れておくれ」
俺が狙われた理由は考えても見当がつかなかった。
俺たちは夜に備えて少し眠ることにした。
次に目を覚ました時にはすっかり日が暮れていた。灯りがなかったため真っ暗で何も見えない。
思わず「ペデロ」と連呼する。
ペデロ「さて、行くとするか」
声が聞こえ少し安堵した。
ペデロは火を灯し、行灯のようなものを俺にくれた。
改めて木でできた滑走路の中を岸の直前まで進む。
到着するとペデロは行灯を木々に持たせ対岸の木まで伸ばす。
良きところで行灯を固定し目標地点を定めた。
俺たちはソリに乗り込む。ソリを少し後方に戻し勢いをつける。
樹海の時同様に木でソリの後方を強く押し込み勢いよく滑走する。
ペデロが道を作り続ける。川、そして道路より上空の木々でできた道をソリが移動する。
下を見下ろすと改めて今いる高さを感じ足がすくんだ。
対岸の行灯にたどり着くとそのまま勢いを殺さずソリは滑走し続けた。
ペデロ「ユウト君、明日ようやく街に出られる」
ペデロ「わしは森で待っている。得意の足で一っ走りしておいで」
ペデロ「じゃから今はまだ英気を養っておくのじゃ」
そういうと俺に毛布を渡してくれた。
俺は言葉に甘えて到着するまで横になった。
明日はいよいよ森の外に出る。久しぶりの外界に不安とワクワクが混同し眠りにつくのを妨げた。