episode1、2
人は一生のうちに「九死に一生」での生還は何度訪れるのだろう。
九死に一生を得る・・・・危ういところで奇跡的に助かること。ほとんど死を避けがたい危険な瀬戸際で、かろうじて助かること。
▽「九死」は十のうち九まで死の可能性が高いことで、ほとんど死が避けがたい危険な場合をいう。
「一生」は十のうち一の生きる可能性の意。一般には「九死に一生を得る」という形で用いることが多い。
簡単に言うと生還率10%未満ということだ。
「雷に打たれたが奇跡的に助かった人」という話はたまに聞いたことはないだろうか。
ただ、この世界には稀に雷に打たれて助かった結果「雷属性の能力」を身に宿しひっそりと暮らしていく者たちがいた。
このように強大なる自然エネルギーなどにより力を得る者たちを「属性者」と言う。
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episode1
「ユウト!いつまで寝てるの!今日朝練なんでしょ!!」
俺は母の怒鳴り声で目を覚ました。
眠い。昨日は遅くまでオンラインRPGのMMをやりすぎた。
モンスターマスター略して「MM」日本産の大ヒットRPGだ。
MM1は今までにはない革新的なRPGで全世界に大ヒットを飛ばし、現在シリーズ16まで発売されており、シリーズ17がこれから発売予定である。
俺は現在MM15にどハマり中。
MM15はMMORPGとして発売されて今までにはなかったオンライン要素が売りのゲームで根強い人気を誇っている。
ユウトは昨晩の夜更かしを後悔しつつ1階のリビングに下り、椅子に座って朝食にありつく。
「続いてのニュースです。またしても全身黒焦げの死体が見つかりました。見つかったのは東京都・・・・」
ニュースを聞き流しながら、スマホで動画サイトを開く。今日見るものをリマインドする。
ついついスマホに夢中になってしまったため、急ぎ支度をし家を出る。
玄関に向かうと遅れて起床した姉である「アオイ」と鉢合わせる。
アオイ「あら~ユウトちゃん、早いのねぇ」
ユウト「おう!ねえちゃん!お先!!」
自転車にまたがり、家を後にする。学校までは自転車で10分くらいだ。
信号待ちしていると後ろから声をかけられる。
タダシ「お!ユウトじゃん!おはよ!ちゃんと起きたなー!」
同級生の「イトウ タダシ」だ。
ユウト「おはよタダシ。昨日はありがとな。ま、昨日ってか今日だけど」
タダシ「とんでもないですよ~。てかさぁーお前さぁーあれはずるいわぁーー!」
ユウト「んー何が?」
タダシ「何がじゃねえよ!お前ずっと逃げてただけなのに報酬だけレアドロップ持っていきやがって!」
ユウト「いやあれはしょうがないよ、、、、俺のジョブと相性最悪だったし、、、、でもちゃんと最後はタダシにバフかけたから力押しできたんじゃない?」
タダシ「いやまぁ~、、、おかげで結果ボス倒せてレベル上がったからいいけど、、、でも今度からドロップはちゃんと公平に分けような!ミルキさんが許しても俺は許さん!!」
ユウト「わかったわかった!ミルキさんとも次インした時に話そう!てかほら!もう学校近いぞ!部活に頭切り替えよう!」
タダシ「、、、、、、タダシハ「体育会系モード」ヲ起動シタ」
ユウト「、、、、、、「ハヤミ ユウト」ハ「イトウ タダシ」ト距離ヲ置イタ」
タダシ「、、、、、、、恥ず」
ユウト「、、、、うん、、、、お前がな、、、」
少々照れながらも学校に到着しタダシと一緒に部室に直行し練習着に着替える
タダシ「現実世界でも「イリュージョンゲート」が使えたら家から学校まで一瞬で来れるのになぁ」
ユウト「それなぁ」
他愛もない話をしながらダラダラ着替える2人。
「ハヤミ!イトウ!いつまで着替えてるんだ!早くしろ!」
先輩の怒号が飛び2人は焦って部室を飛び出した。
俺は陸上部に所属している。
短距離走で実力は中の上くらい。
因みにタダシは走り高跳びの選手で実力は同じく中の上くらい。
うちの学校は普段から朝練があるわけではない。今は地区大会に向けて特別行われている。
この期間はいつもより練習も厳しくなり部活が憂鬱になる。
俺は自分が楽しい程度に部活が出来ればいい。
走るのは好きだ。早く走れる時の疾走感がたまらない。
朝練も終盤に差し掛かり他の生徒も登校し始める。
競技場に向かって叫ぶ声が聞こえる。
「ユウトちゃーん!頑張ってねー!」
声の方へバッと振り返る。その声主は姉のアオイだった。
ユウト「、、、、、、、、」
俺は顔を赤くして無視するようにすぐに練習に注力する。
アオイの声をキッカケに部員全員がソワソワし始め、より練習に熱中し始めた。
先輩が急にユウトの後ろから肩を組んできてニヤニヤしてきた。
先輩「照れてるのー?ユウトちゃーん」
ユウト「もう先輩、俺のことは放っておいてくださいよ!練習しましょう!」
先輩「いやぁ~でもアオイちゃんと一緒に暮らしてるなんて羨まし過ぎるだろ~」
ユウト「先輩は家でのねえちゃんの事を知らないからそんなこと言えるんですよ」
ねえちゃんからは家でのことは口外禁止と言われているためそれ以上のことは言えず、
俺はたじろぐ事しか出来なかった。
アオイねえちゃんは学校のマドンナ的存在だ。
美人で頭が良いのにそれを鼻にかけてなく気さくで明るい性格と学校では評判らしい。
陰キャにも優しいようで、男子生徒の8割はねえちゃんの事が好きという都市伝説もあるくらいだ。
うちの学校にミスコンがあれば間違いなく上位だろう。
そうこうしているうちに朝のチャイムがなる。
片付けと着替えを済ませ教室に向かう。
部室と校舎は離れており、競技場を挟むように建っている。
競技場を横切り校舎に到着した時にちょうど雨が降り出した。
他の生徒も慌てて校舎に駆け込む。
雨に濡れなかったことへの安心と優越感を抱き少々ドヤ顔で教室に向かうが、
部活が室内になることを想像し放課後が憂鬱になった。
雨の日は体育館内で練習となるのだが、他の部活がほとんど占有しているため、
室内の日の練習メニューはほとんど筋トレでそれがキツい。
走っている時の疾走感がとても気持ちが良いので陸上部に所属しているが、
正直全国大会に出場したいなどのモチベはない。
大きくため息をつきながら教室のドアを開け、自分の席につく。
「どうしたー?朝から元気ないじゃん!」
声をかけてきたのは同じクラスの「キリサキ ショウ」だ。
正直俺はこいつがあまり好きではない。
顔が整っていて頭も良くて運動もできる。文武両道ってやつだ。
何かと話しかけてくるが趣味・嗜好は全く合わないし、一方的に話しかけてくるがこちらの言葉はほぼ聞いていない。
典型的な自己中タイプだ。
趣味も性格も全く合わないのになぜ近寄ってくるのか。答えは明白。
ねえちゃん目当てだ。
俺は昔からねえちゃん目的で近づいてくるやつが多く、二言目には「アオイちゃんは、、、アオイ先輩は、、、」
こいつも同じ類だ。
ただイケメンであるショウは女子から人気は高い。
ショウ様の友達認定をされている俺のところにショウ目当ての女子からよく話しかけられることもある。
それ自体悪い気はしないが、こいつの友達認定されているためバレンタインデーはもううんざりだ。
寝不足もあり、午前中の授業はほとんど睡眠にあててしまった。
昼休みに入ったところで隣のクラスのタダシがドアを開けて入ってきた。
タダシ「ユウト!!朗報だ!!」
ユウト「ん?なに?」
眠い俺はそっけない返事で返す。
というかタダシも同じく眠いはずなのに、こいつはなぜ元気なのか。
タダシは続けて話す。
タダシ「今日は部活中止だってよ!!!」
ユウト「おお!!それは何よりの朗報だ!!」眠気が飛んだ。
どうやら今日はバレー部の他校との練習試合が本校で行われるため体育館は使えず、止むを得ず中止になったとのこと。
タダシ「雨の日は筋トレデーだからあんまり行きたくなかったんだよねー!」
タダシも同じ気持ちだったらしい。つくづくこいつとは気が合う。
ユウト「っうし!じゃ、今日は気兼ねなくMM15の世界に浸るかー!」
タダシ「お!いいね!じゃあ今日うちに来ない?オフラインでオンラインゲームやろうぜ!」
ユウト「いやPC持ってくの嫌だよ?雨だし。」
タダシが不敵な笑みを浮かべて言った。
タダシ「実は、、、、うちにはMM15ができるPCは2台あるのだ!」
ユウト「なんと!、、、、、、、、え?てかなんで?」
タダシ「最近PCを新調したのだ!今まで使ってたやつの新モデル出たからさ!パパにおねだりしちゃった!」
ユウト「そういやお前ん家、大金持ちだったな。」
タダシは名家の生まれらしく、詳しくは知らないが結構由緒正しい貴族とのことだ。
だが本人はそれを一つも鼻にかけてないし言われなかったら貴族だなんてわからないほど、タダシは気さくで接しやすい。
タダシ「じゃ!また後でな!あっ!ゲームパットは持参してこいよ!」
そう言い残しタダシは颯爽と教室を出て行った。
放課後の楽しみができたため午後からの授業はあっという間に終わった。
外はまだ雨が降り続いている。
学校が終わり、一度帰宅してからタダシの家に行くことにした。
傘を持ってきていなかったので自転車で急いで帰る。
ずぶ濡れで帰宅し、体を乾かし服を着替える。
最近買った黒のMMコラボTシャツに水色のシャツを羽織る。下は黒いパンツを合わせた。
荷物も持ち、家を出る。
ユウト「母さん、ちょっと友達の家に行ってくるわー」
母「こんな雨降りにかい?暗くなる前に帰ってくるんだよ!」
ユウト「わかったわかった、じゃ行ってきまーす」
俺の家からタダシ家まで歩いて15分くらいだ。
雨の中歩いていると向かいから男が歩いてくる。
こんなドシャ降りの中、傘を刺さずトボトボと歩いている。
少し不思議に思ったが、先を急ぐのでそこまで気に留めず先に進む。。
男との距離が近づくにつれ男が何か小言を言っているのに気づいた。
すれ違う時に一言だけはっきりと聞こえた。
男「属性者の匂い・・・・・」
「ん?」と思ったがそこまで気に留めずそのまま歩き続けた。
タダシの家に到着して、鉄格子についているインターホンを押す。
「ハヤミ様、お待ちしておりました。」
ロマンスグレーの紳士のご丁寧なお迎えがあり、門から1分ほど歩いたところでようやく玄関にたどり着く。
タダシ「いらっしゃい!こんなに天気悪いのによくきたねー!」
ユウト「いや呼んだのお前だし。お邪魔しまーす。」
何度か遊びに来た事があったがこの家の広さはいつ見ても現実離れしている。
まるでどこか外国のお城のようだ。
歴代の肖像画が並んでいたり、床がツルツルの大理石が埋まってるやつだったり。
大広間から左右均等に分かれた、階段を上がる、タダシの部屋は右手にあるので右側の階段を上がり、タダシの部屋に入る。
タダシの部屋はお城感はない。ベットがあり、ソファがあり、勉強机があり、ゲームができるスペースを設けている。
雰囲気は一般家庭のような親しみやすい内装だが一部屋でうちのリビングくらいの広さがある。
タダシ曰く、一度俺の家に遊びにきた時に家の雰囲気がすごく居心地が良かったから自分の部屋はそのイメージに近づけているとのこと。
タダシ「ゲームパット持ってきた?」
ユウト「おう!どっちのPC使えばいい?」
早速ログインし用意された菓子を2人の間に広げながらMM15を楽しんだ。
気がつけばあっという間に夜。
タダシ「あーもうすっかり暗いね!夜ご飯どうする?うちで食べてく?」
ユウト「ありがとう!でも母さんがご飯作って待ってるらしいから帰るわ!」
タダシ「ユウトママのご飯うまいもんな~、うん!了解しました!」
俺は少し誇らしげな気持ちで帰る準備をし玄関に進む。
外は雨がまだ降り続いていて、時折雷の音がする。
タダシ「なんか不気味な夜だなぁ。ほんとに送らなくていいか?」
ユウト「あぁ。走ったらすぐだし大丈夫!」
タダシ「まぁ確かにユウトの足ならすぐだろうけど、とにかく暗いから気をつけてね!」
見送りに軽く会釈し俺はタダシ家を後にした。
走ったらすぐとはいえ雷は流石にちょっと怖い。
6割くらいの力で走っていると、ふと向かい側に人影が見える。
ぶつかると危ないので少し注意しながら走り続ける。
人影が徐々に近づいていき、その人影の正体に俺はゾッとした。
それはずぶ濡れの住宅街の中、道路のど真ん中に立ちすくんでいる。
行きですれ違った男だ。
近づいてようやくそのことに気づいた。
その男が俺の道を塞ぐようにボーっと立っている。
流石に怖いのでそのままスピードを上げ全速力で横を抜けようと思った。
俺は100メートル10秒台。すれ違うのは一瞬のことだ。
男に近づく。するとまた男が何か小言を言っているのがわかる。
走っていて雨音や時折雷鳴もある中その男が何かブツブツ言っているのが聞き取れる。
不気味だ。
ぐっと恐怖を堪え全速力で駆け抜ける。
男の横に差し掛かった瞬間はっきりと小言が聞こえた。
男「君だったのか」
ユウト「え?」
俺は驚いた拍子に足がもつれてしまい盛大に転んでしまった。
全速力だったため転んだ衝撃がすごい。
ユウト「う゛っ、、、、い、、、った、、」声にならない声。
息も絶え絶えになりながらふと男の方に目をやる。
男の背中が見える。
すると男はゆっくりこちらに振り返りながらニターっと不気味な笑みを浮かべた。
男は少し興奮気味で息をハァハァと吐きながらこちらに近づいてくる。
逃げようにも足に力が入らない。
上半身だけでなんとか男から離れようともがく。
ただそんなあがきも意味をなさず男は俺のすぐ後ろまできた。
そして怯える俺の首を片手で掴みグッと持ち上げた。
ユウト「がっ、、離せ、、、よ、、、俺が、、、何した、、、ってん、、だよ」
ジタバタするが逃れられない。なんて馬鹿力だ。
男はニヤニヤしながら俺に向かってつぶやいた。
男「へへへ、、、ねえ、、、、、雷って、、、、好き~?、、、、、、好きだよね~!でへへっ」
ユウト「は?」俺は恐怖に打ちのめされた。
男「あ・げ・る」
男がそうつぶやいた後の事は一瞬の出来事だった。
一瞬で当たりが真っ白に包まれた。その後遅れて爆発音のような雷鳴が鳴り響いた。
雷鳴が徐々に遠くなるような感覚。
それが俺の最後の記憶だった。
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episode2
鳥の囀りが聞こえる・・・・。
合わせて不規則にパチパチと音が聞こえる・・・・その音の方が暖かい。料理をしているようないい匂いもする。
ゆっくり目を開けると真っ白な世界が少しずつ色付き始めた。
ユウト「・・・・・木?」
どうやら森の中にいるようだ。
これは夢か?と思いながら記憶を辿る。
変な男に捕まって・・・・雷好き?
あいつはなんだったのか。
そしてここはどこなのか。
「目覚めたようじゃの~」
声が聞こえた方へ顔を向けると、白髪の老人が俺に話しかけていた。
体を起こそうとするも全身激痛により動かせない。
老人「ほっほっほ、動けんじゃろ?あんなことがあっては当たり前じゃ」
老人「しっかし、よく生きてたのう、、、、、、、雷を直撃して」
あの爆発音は雷だったか。
一瞬のことで認識すらできなかったが、雷が俺に直撃しそして気を失った。
てか俺雷を喰らって生きてるのか・・・・・
ユウト「あの男は?」
老人「属性者じゃ」
ユウト「属性者?なんだそれ」
老人「まぁ知らんで当たり前じゃな」
ユウト「てかじいさんは誰?そしてここはどこ?俺なんで助かったの?」
老人「そう焦るでない。まず一言言えるのは今は安全ということじゃ。森の力に守られておる。ゆっくり1つずつ話しちゃろ」
そこから老人は鍋で料理をしながらいろんなことを教えてくれた。
老人の名前は「ぺデロ」。
鼻が高く色白。外国人のようだ。肩まで伸びる白髪で、長い髭も蓄えている。まるで某魔法学校の校長のような見た目だ。
ポンチョに袴といったような服装が一層それらしさを感じさせる。
ここは樹海の奥地。ペデロはここで一人ひっそりと暮らしている。自殺者が多いことで有名な樹海とのこと。
俺を助けてここまで連れてきてくれたようだ。
もちろんスマホは圏外だ。
属性者とは、
火・水・雷などの自然エネルギーを体に宿す人間のことで、属性者はその自然エネルギーを自身の力に変換できるとのこと。
そしてあの男は「雷の属性者」。
最近の頻発している黒焦げ死体事件の犯人だという。
属性の発芽には九死に一生ほどの膨大な自然エネルギーを身に受ける必要がある。
そしてその膨大な自然エネルギーと受け手の素質の相性が良くないと九死に一生を得ることはまずないとのこと。
合わせてその属性能力の引き出し方も人それぞれで、それも理解できて初めて「属性者」となるようだ。
全てが一致した時は何か天からのお告げでもあったかのように
降り注ぐ光、そして「おめでとう」という言葉が聞こえてくるという。
なんだそれ、ゲームかよ。俺はちょっと馬鹿にするように鼻で笑った。
ペデロはその様子を見ていたが気にせず話を続ける。
ペデロ「例えば、、
火事による九死に一生なら火属性、
水害なら水属性、雷に打たれたなら雷属性、
わかりやすいところだとこんなとこじゃの」
ユウト「じゃあ俺も属性者ってこと?雷の?」
ペデロ「んー、、まぁ素質はあるというレベルじゃな。属性者予備軍とでも言ったらいいかのぉ」
ユウト「そうなんだ、、、、、いや、ちょっと待ってよ。雷はまだしも、火事や水害の被害者なんて年間何万人いると思ってんだよ。」
ユウト「それがほんとなら今頃世界は属性者だらけじゃない?なのになんでネットニュースにならないの?」
ちょっと渋りながらペデロは言った。
ペデロ「先にも言うたが、属性者の条件は色々ある。そしてなぜ世間で認知されていないか、まぁ3つほど原因はある。」
ペデロ「まずは先にも言うた通り、能力の発芽には条件がある。①膨大な自然エネルギーを受ける、②体との相性、③適した使い方じゃ。ただ生き残っただけでは発芽せんのじゃ。」
ペデロ「そして仮に能力を得たとして、それを公に使うとどうなる?」
ユウト「、、、、、、注目される?、、、、、」
ペデロ「そうじゃ。まぁスーパーヒーローの扱いを受ければ良いのじゃが、たいていの人間は怯えて近づこうとせん。敵と思われ攻撃されたり、捕まって実験台にされることもあろう。」
俺は背筋がゾッとした。
ペデロ「つまり属性者は隠れ住むことが大半。これが世間で認知されていない原因の1つでもある。」
ユウト「ふーん。じゃあと1つは?」
ぺデロの表情がまた少し強張った。
ペデロ「属性者の存在をもみ消そうとする動きが全世界に広がっている。」
ユウト「え?、、、じゃあなんか大きな黒幕的なのがいるって事?」
ペデロ「、、、、、、この話はここまでじゃ。」
なんか話を逸らされたような気がした。
ペデロ「まぁとりあえずあれだ。飯でも食べようか。わしの特製ポトフじゃ」
焚き火の中央に置かれた鍋、
木製の手作りのような器にポトフが盛り付けられ、木製のスプーンと一緒に渡された。
ユウト「、、、、、いただきます、、、、、、、、、うっ、、、うま、、、」
そんな俺の様子を見てペデロは優しく微笑んでいた。
ユウト「ペデロさん、一つ聞いてもいい?」
ペデロ「ん?なんじゃ?」
ユウト「俺は属性者予備軍なんだよね?その素質とか使い方とかってどうやったらわかるの?てか普通に家に帰りたいんだけど。」
ペデロは食べる手を止めて俺に聞いた。
ペデロ「本当はわしもユウト君には普通の日常に戻ってもらいたい。そして発芽を探らなければそれもできよう。」
ユウト「ほんと?それじゃ」俺の嬉しそうな反応を遮断しぺデロは話し続ける。
ペデロ「雷属性は例外じゃ。あいつは雷属性の匂いを嗅ぎ分けて手当たり次第襲ってくる。」
ペデロ「先ほど黒焦げ死体の事件について言ったじゃろ。わしが調べたところ被害者たちにはどうやらある共通点があったようなのじゃ」
ユウト「それって?」
ペデロ「よく電気関係に触れている事じゃ。電線の工事を仕事する者、スタンガンを当てられた変質者など皆どこか電流に関係しているようなのじゃ」
ペデロ「そして奴はその電流の強い人間を匂いで嗅ぎ分けられるということじゃ」
ユウト「マジかよ、、、、じゃあ俺殺されるの?」
ペデロ「今のままでは確実にヤられてしまうじゃろうな。今は森に守られているがここもいずれは嗅ぎ分けられてしまうじゃろ。」
俺は愕然とした。俺はもう死ぬのか、、、、2度と家族や友達に会えないのか、、、、
みんなの顔が次々と思い浮かび、自然と涙がこぼれた。
しばらく俺の泣き声だけが森に響く。
そんな俺を見て、ペデロは深くため息をつくと続けて話し始めた。
ペデロ「1つ。道がないこともない。ただ死なないで済むというだけの話じゃ。家族や友人の元には戻れんじゃろうが」
ユウト「へ?」声にもならない声がこぼれる。
ペデロ「ユウト君よ。属性者になるのじゃ。属性者と成りやつを倒すのじゃ。わし一人では無理だったが、もし属性者2人で挑めば勝ち筋も見えよう」
ユウト「、、、、、うん、、、、、、」俺は泣き止むので精一杯だったがここで野垂れ死にしまいと特製ポトフにがっついた。
その様子をペデロは微笑みながら何も言わず見つめていた。
ペデロ「おうおうすっかり日が暮れてきたのう、今日はもうゆっくり休みなさい。」
翌朝。
ペデロ「おはよう。元気になったかな?」
優しく微笑むペデロ。
ユウト「夕べはすみませんでした。」
俺は少し照れながら挨拶をした。
パンを俺に向かって投げる。それを受け取り、続けて俺は質問した。
ユウト「あのさ、、、、昨日の話なんだけど、、、」
ペデロは表情を崩さずこちらを見る。
ユウト「え?、、、、ペデロさんって、、、属性者なの?」
ユウト「いや昨日さ、わし一人では無理だったが、属性者が2人いれば、、、、って言ってたじゃん。ここにはどう見てもペデロさんしかいないしさ。」
ペデロは微笑んだまま少し無言が続く。そして少しの沈黙の後、
ペデロ「今日は少し歩こう。まずは朝食じゃ。話はその後」
朝食を食べ終わったところで腰を上げ、
ペデロ「では行こうか。」
俺はペデロの後についていく。
拠点から少し離れたところでペデロは立ち止まった。
あたりは鬱蒼と木々が生い茂っている。右左もよくわからない樹海の中だ。
ペデロ「属性者の条件は覚えておるか?」
ユウト「確か、、強大な自然ダメージと素質と使い方、、、だっけ?」
ペデロ「そうじゃ。わかりづらいのは素質と使い方じゃろ」
俺はうなづくとペデロは話を続ける。
ペデロ「素質とはその本人の性格や身体能力そして経験。それがその自然エネルギーと辻褄が合うかが焦点となるのじゃ。」
ペデロ「わしはこうなる前までは木こりじゃった。そして木々を加工し道具を作ることを生業にしておった。今使っている食器とかがそうじゃの」
俺は相槌を打つ。確かにペデロが使う食器のほとんどが木製だった。しかもかなり精巧だ。
ペデロ「そしてわしは昔から木や森にも一つの生命が宿ると考えており、使わせてもらう前には必ず拝むようにしておった。あやつを見てみなさい。」
ペデロが指差す方には大木があり、しめ縄がされている。神木を祀っているのか、、、。
樹海の中の神木はすごく気味が悪い。
ユウト「木に意志があると思っていて、それが能力になる?ってこと?」
ペデロ「わしはこの樹海に殺されかけそしてこの神木に助けられたのじゃ。」
ユウト「え?、、、、、」今いる場所に一層恐怖を感じる。
ペデロ「なあに殺されかけたと言ってもわしがバカだっただけの話じゃ。」自身の過去を話を始め出した。
ペデロ「その日は台風で森が荒れておってな、木々が葉や枝をちらしておった。わしもまだ若く怖いもの知らずじゃったものでそんな森の中に木材を取りに入ったのじゃ。」
ペデロ「わしは木製品を作るときは落ちた枝やすでに倒れてしまった大木を主に材料に使うようにしていたのじゃ。まだ立派に立っている木を伐採するのは少々気が引けるのでな。」
ペデロ「じゃが、その日森の中は予想以上に荒れておった。しばらく進んだところでこれはいかんと思い引き返そうとしたのじゃが、その時に運悪く嵐に巻き込まれてしまってのぉ」
ペデロ「折れた枝が真っ直ぐ槍のようにわしに向かってきて、そのまま横腹にぐっさりじゃったよ。わしはその場で意識が薄れそこで気を失ってしまった。そして気がついたのは台風は通り過ぎ樹海は静けさを取り戻した後じゃった。」
ペデロ「正直生きているのが不思議じゃった。わしがたまたま倒れたのがあの神木の前じゃった。不思議なことに体に痛みはなく、貫かれたはずの脇腹もなぜか塞がっておった。」
ペデロ「そしてその場で立ち上がりあたりを見渡した時、わしは今生きている奇跡を改めて実感したのじゃ。」
ペデロ「樹海は荒れておった。木々が倒れ、尖った枝があたりに散っておった。何匹か獣が大木の下敷きになったり、枝に貫かれ絶命しちょった。」
ペデロ「じゃが、わしは助かった。なぜかわしとこの神木の周りは一切荒れておらんかった。綺麗にわしらを避けるようになっておった。不思議に思い、当たりを見渡した後、神木の方を見ると背筋がゾッとしてのぉ。」
ペデロ「それが、わしが倒れていたちょうど頭のあたりを目掛けて槍のような木が頭上めがけて落ちてくるところだったのじゃ。それをこの神木が食い止めるように自身の枝を折りその槍のような木の動きを静止させておったのじゃ。」
俺も全身に鳥肌が立った。
ペデロ「わしはこの木に助けられた。わしはもうそうとしか考えれんかった。」
俺もペデロの話を聞き、神木がペデロを助けたとしか思えなかった。まさに奇跡。
ユウト「それがペデロさんの九死に一生、、、?」
ペデロは微笑みながらうなづいた。ペデロは続けた。
ペデロ「そして、そんなわしが得た能力がこれじゃ」
ペデロが近くの木に手を触れた。するとその木が急にざわつき出した。ペデロは手を当てたままその木を見上げた。俺も一緒に見上げた。
木の枝がうごめいている。
つるが俺の目の前まで降りてくる。複数のつるや枝が自由自在に動き出し、俺の手足を縛る。そしてそのまま持ち上げらてしまった。
焦っている俺を尻目にペデロが笑いながら言う。
ペデロ「どうじゃ愉快じゃろ。わしは「木の属性者」。触れた木を自由自在にできる能力者じゃ」