4 エーシェの杖②
エーシェの学生生活編第2弾です〜
本編もよろしくねー!
「それで、エーシェの師匠ってどんなところが変わってたの?」
キラキラとした目をしながらヒスイが更に質問を重ねていく。
「そうね…最初に私の師匠のサリエル先生が変わった人だと思ったのは入学したあとにあった教員紹介のときね。魔法学校だから、先生たちは自己紹介と一緒に魔法を一つ披露するのが定番になっているのよ。他の先生はみんな派手な魔法だったり難しい魔法だったりで私達生徒の尊敬を集めようとしていたの。でも、サリエル先生が自己紹介の時にやったのは…」
あ、これあれですか?漫画だったらコマの外側が黒くなるあれでしょ?過去の回想のやつでしょ!
魔法学校の入学式が終わった次の日、今日は練習場に集められて先生の紹介や授業の案内があるらしい。
教室の割り振りごとに座らされて、先生たちが来るのを待つ。
時間になったのか校長が私達が座っている前に置かれている台の上に登壇した。
「お待たせいたしました。それでは説明会を始めたいと思います。はじめに教職員の自己紹介から行わせていただきます。我が魔法学院では3年次からは自己の研究に励むために、皆さん一人一人がここに居る教職員に師事をすることになりますのでしっかりと先生の専門を覚えておくようにしておいてください。それでは先生方お願いします」
そこからは教師陣が入れ替わり立ち替わりで自己紹介と得意な魔法だったりを披露してくれた。
自分の得意魔法を披露する先生や行使するのが難しい魔法を披露する先生、派手な魔法を披露する先生と様々だった。
「それでは続きまして、魔法歴史学と古典魔法を担当しますサリエル先生お願いします」
紹介されて登壇したのは一人の女性だった。
「私はこういう場で話すのは得意じゃないの。だから用がある人は私の研究室に直接来てちょうだい。あと、生まれだったり、得意苦手はあれどここにいるあなた達次第で良くも悪くもなるわ。それだけよ」
パチンっと指を鳴らして右手の人差し指の上に火の球が出来上がる。
あれは、火の魔法の中でもみんなが一番最初に練習をする【火弾】だ。
先生なのになぜそんな初級の魔法をここで披露したのだろうか?私が疑問に思っているうちにサリエル先生はそそくさと台の上から降りてしまっていた。
さっき先生の言っていた、生まれについてはここでは関係は無い。教室割も完全に実力での振り分けとなっていた。私の居る教室にも平民の子は居る。
ただ、学校側が実力で教室を分けていても学生たちの全員がそれを気にしないわけではない。
腐ってもここはこの国で一番の魔法学校のはずだから、そんなことを考えているような暇な学生は居ないと思っていたのだけど、現実は違っていたようだ。
私も入るためにちゃんと勉強したし、大変だったからなんでそんな些細なことを気にしているのかと不思議に思う。
お父様…この国の王が言うには選民意識というものがあるとのことで、そんなくだらないことを考えているのなら、勉強をしてほしいもよね。
他の先生は言わなかったそのことにもちゃっかり触れていたし、【火球】を使っていたあのサリエル先生に私はその時興味を持ったのでした。
それから2年が経った。
3年時に上がる手前で選ばなくてはいけない先生について私は迷っていた。
私が何をやりたいのかを私自身わからなくなってしまっていた。
幼い時に見たあの魔法は私には適正が無かったようでできないとわかったと時にはかなり落ち込んだ。
それ以降私は私自身がやりたいことがわからなくなってしまっていた。
今日は2年の最終登校日で、今日中に来年度から師事する先生を選ばなくてはいけないのだが私は一人学校の中庭の椅子に座っていた。
「あの雲…ケーキの形みたいね。今日も帰ったらお願いしようかしら…」
こんなことをしていても意味が無いことなんてわかっているのだ。でも、動く気力が湧いてこない。現実逃避というやつである。
「あら、ほんとね。何ケーキかしら」
後ろから声がして振り返るとサリエル先生が居たのだった。
「お隣いいかしら?」
「ど、どうぞ」
サリエル先生はすとんっと私の座っていた隣に座る。
「えっと、エーシェルドさんどうされたのですか?」
私の名前知ってたんだ。
私はサリエル先生の授業は1年の時にしか受けていない。だからこそ、以外だった。
「あ、私があなたの名前を覚えていたことが以外でしたか?エーシェルド第三王女様」
「な…なぜそれを?」
「私は昔王宮魔道士団に所属していたこともあったのよ。その時に何度か会っているけれど、あなたは流石に覚えていないわよね」
毎日のようにたくさんの人に会ってきて、強烈な印象がない限りはその人のことなんて覚えていられなかった。あの、魔道士団長のように…
「すみません」
「謝らなくていいわよ。私があなたでもきっと覚えていないでしょうから」
それはそれでどうなんだろうか。
「それで?最終日にこんなところでぼーっとしてどうしたの?」
「私、来年度から3年に上がるんですけど、師事する先生を決めきれていなくて」
「あら、もうそんな時期なのね。早いわね〜」
せっかく話したのに飄々とした反応しか返ってこない…
そういえばそうだった…この人はそういう人だった。
私が受けていた魔法歴史学の授業の提出物を出したときもだいぶ遅れて返ってきたんだった。
「先生って悩み事とかなさそうですよね」
「そうねー。悩んでいるうちに忘れちゃうかもしれないわね」
「それは…羨ましいかもしれないです」
「これくらいのほうが人生楽よ?あなたは考えすぎなのよ。もっと気楽に生きてみたら?ただでさえ気を使わなくてはいけないことがたくさんあるんでしょうし」
今の段階では、それほど公務は多くはないが学校を卒業すればおそらく増えてくるだろう。
「学生の間くらいは気楽に過ごしていてもいいんじゃないかしら?世の中大変なことはた~くさんあるでしょうし、子供のうちは気楽に生きなさいよ」
サリエル先生の言葉を聞いて心の中にかかっていたモヤがスッと消えたような感覚があった。
「あ、あの。サリエル先生に一つ聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「なにかしら?」
「入学したあとにすぐにあった先生紹介の時の話なんですけど、先生はなんで【火弾】を見せてくれたんですか?あれずっと気になっていたんです」
「あら、よくそんなこと覚えていたわね」
他の先生に比べて明らかに異質だったからとは言えない…
「【火弾】はね、私が初めて使えた魔法なの。だから、私の中でも大切な魔法のひとつなの」
「それだけ…ですか」
「そうよ。それだけよ」
ここの学校の先生を出来る実力がある人なのだからたくさんの魔法を使うことが出来るはずである。だから、簡単な魔法を軽視する先生も少なくはない。
それを、初めて使えた魔法だからって大事にしているだなんて…
「ふふっ。サリエル先生ってよく変わっているって言われませんか?」
「よく言われるわよ〜?」
すっと椅子から立ち上がってサリエル先生の方を向く。
「私決めました。サリエル先生のところで2年間魔法を学びたいと思います」
「え?どうしてそうなったのかしら?」
サリエル先生は予想外の内容だったらしく目を見開き、驚いた顔をしている。
「先生のところで勉強をするのはなんだか楽しそうだなって思ったんです」
「そう。私のいい加減さに呆れないでよね?」
「気楽に勉強ができて楽そ…楽しそですから」
「言うじゃない」
「よろしくおねがいします。サリエル先生」
そうして、私の学生生活後半が始まったのであった。
今回も悪ふざけにお付き合いいただきありがとうございました。
ふざける予定だったのに後半真面目になっちゃったのが反省点です。
さてと、いつの間にか4月も後半戦ですね。
ゴールデンウィークの祝日ネタで何かできたらいいな〜。
あ、エーシェがまだ杖をもらっていないので続きます。