箱根
科特本部のミーティングルーム。
空調の音と職員の声が響く。
霞ヶ浦事件と名付けられた先日の出来事について、各々の見解が述べられていた。
「怪獣に関して何か意見のある者は」
「意見っつっても何も調べられないままあの巨人がぶっ殺しちゃったからな」
「敵意があって攻撃したのか、自衛のために攻撃したのかも今となってはよくわからないですね!」
「少なくとも意思の疎通は難しそうでしたけど」
ヒロセは何も発言しなかった。
「おい、ヒロセ。何かないか」
「あ、いや、あの。僕はその場にいなかったのでなんとも......」
「まぁそれはそうですよね!居合わせた俺ですらちんぷんかんぷんですもん!」
「お前は基本なんもわからんで生きてるだろうに」
「あ、酷いですよイデミツさん。自分は頭良いからって」
ユリサキが口を開いた。
「そういえば怪獣は戦闘しただけでしたけれど、巨人に関してはヒロセさんとイデミツさんが接触しているんじゃ」
ムラノは目を丸くした。
「そうだそうだ。有史上初の地球外生命体との接触じゃないか!巨人に関して何かないか二人」
ヒロセとイデミツは目を合わせた。
「何かないかって、眩しかった、くらいしかねぇよ俺は。ヒロセはどうよ」
「ぼ、僕は......」
突如ミーティングルームにアラームが鳴った。
ー至急、科学特捜本部職員は作戦室に集合。繰り返す。至急、科学特捜本部職員は作戦室に集合。
「よし、会議一時中断!」
「「「「了解!」」」」
防災服に身を包んだ職員が作戦室に揃った。
「先程入った通報によると、大涌谷に巨大生物が出現。周辺で多数被害が出ているとの事。避難行動は自衛隊が行うので、我々は早急にこの巨大生物の対処にあたるべし、だそうだ」
「その巨大生物ってのは、何か特徴はないのかい」
「形状は直立二足歩行、昆虫類の様な触覚を一対頭部に有しており、体色は黒、全身が固い鎧のような外皮に覆われているそうだ」
「二足歩行のクワガタってところですね!かっこいい!」
アラタの少年心がくすぐられている。
「馬鹿野郎。ぼくのなつやすみじゃないんだ。呑気なことを言っている場合ではない。直ちに現場へ急行する」
「え、本部長知ってるんですかそのゲーム」
「ユリサキもやっていたのか」
「はい、8月32日が好きで好きで!」
「き、君好みが偏っている節がちょいちょいあるよな」
変なところで話の花を咲かせる二人を、あのスクランブルなんですけど、というジト目で見つめるヒロセとイデミツ。
アラタは、まぁ、うん。
ーBエリア方面ゲートオープン
ー火器接続チェック
ーメインシステムオールグリーン
ー整備班並びに第一技術班は直ちに退避せよ、整備班並びに第一技術班は直ちに退避せよ
ー周辺空域に科特本部よりスクランブル発進の旨、伝達完了
ージェットハイパーガンマ行きます
ージェットハイパーガンマ発進、ジェットハイパーガンマ発進
科学特捜本部一同、箱根に爆着。
上空からの状況確認作業に入った。
クワガタ怪獣は依然ゆっくりと着実に歩を進めている。
周辺の緑は炎に包まれていた。
ヒロセがムラノに報告した。
「山火事みたいになってますね。怪獣の通り道沿いに火が出ているので、最悪の場合、火炎放射能力を有している可能性があります。火器仕様の際は相手の反撃も有り得ますし、狙う場所も重要になってきます」
「燃料タンク相当器官に当たりでもしたら一大事、ということか」
「おそらく」
「イデミツさん、OKANで怪獣の分析出来ますか」
「ったりめーよ。任せとくんなし」
なんで廓言葉なの、とその場の全員(アラタを除く)が思ったが、そういう野暮なツッコミはしない。
ジェットハイパーの下底ハッチが開き、イデミツがOKANを投下した。
それを見て、アラタが叫んだ
「あ!そんな扱いして!精密機器でしょう!?大丈夫ですか」
「こんなこともあろうかと、飛行機能付けといたんだよ。まぁ見てなって!」
自由落下している箱状のOKANから翼が展開され、悠々と飛び始めた。
「こんなこともあろうかととか本当に言う奴いるんですね......」
ユリサキがそっと呟いた。