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アルティマギア・オフライン  作者: 鯰田小太郎
2/8

第一話

 地獄の学生時代からしばらくして見つけたものが、MMORPG"アルティマギア"俺の居場所。


 専門学校を卒業して就職し、家でプレイ環境を構築できてから8年の時を費やした。


 基本は在宅勤務というのもあり普通より長く時間が取れているだけ育成は早くできた。現状できる限り高めたステータス、強化した装備、最前線のプレイヤーにも謙遜ない強さになれた。


 気の合う異性もいて、何度かのオフ会を通じて遠距離恋愛もしている。もしかしたらいつか、どちらかが近くに引っ越して付き合ったりするのかもしれない。最高だ。ああ、すべて上手くいっている。


 ここが自分の居場所であると信じて疑わなかったし、きっとこの世界が終わるまで自分はそこにいる。


 そう思っていた。


 そんな俺の考えを変えたのは、アルティマギアのプレイ中に寝落ちした時に夢を見てからだ。



 白い世界。遠くには夕焼けに似た橙色のグラデーションが広がっている。


 目の前には黒い人型のなにか。例えるなら、影。


「ごきげんよう!」

影は女性らしい高いトーンの声で俺に話しかけてきた。笑っている口のような形が影に浮かぶ。

「ご、ごきげんよう」反射的に返答した。


 影がくねくねと動いている。こころなしか嬉しそうな仕草に見える。


「挨拶ができるのはいいことですわ。ところで今日はあなたに一つ伝えることがあって来ましたの」

「はあ」

「あなたは魔神である私に選ばれました!ので!願いを叶えてさしあげますわ!」


 どこからともなく現れた薬玉とクラッカーが開かれ派手な音と共にキラキラと紙吹雪が舞う。


 なんとも都合の良い夢だ。まさかアラサーになってこんな子どもが見そうな世界の明晰夢を見ることになるとは。


「見る夢に年齢なんて関係ありませんよ。とりあえず話だけでも聞いてくださいな」


 どうやらこのテンションがバカ高い自称魔神とやらはこちらの思考が読めるらしい。


「神だか魔神だか知らないけど、まず俺は敬虔な信徒じゃないしアラビアのランプを擦ったわけでもない。なのになんで俺を選んだのさ」

「たまーに人間の中にはあなたのような理解しがたいほどに1つのことへ時間をかけている方がおられますのよ」

「一体何の話?」

「まぁまぁ人の話は最後までちゃんと聞いてくださいまし。いえ私、人ではないのですけれど」


影はクスクスと笑いながら続ける。


「1つのことに集中し、情熱をもって時間を費やすと、その人の周りにだんだんと人には見えない力が現れます。これを、魂とでも言い換えましょうか。私たちはそういう人たちの培った魂をもらって生きてるわけです」


 ゲームに魂、こんな夢を見るなんて相当疲れてるのかもしれない。明日の食事は好きに食べよう。出前に寿司でも取るか。ピザでもいい。


「あー…で、それが俺の場合アルティマギアに費やした時間と」

「理解が早くて助かりますわ。それで私は、その魂をいただく代わりにあなたが一番望む事を叶えます」


 怪しすぎる。ネットのダイエット用品とかいうレベルじゃない。エロ本の裏にあるパワーストーン広告くらい信用ならない。これを受け入れたら翌日札束風呂に入り両脇に美女を抱いた生活ができるとでも言うのだろうか。


「じゃあ俺を金持ちにしてくれ」

「できません」

「えー…じゃあ国のお偉いさんにでもしてくれるか」

「それも無理です」


 これはあまり期待しないほうがよさそうだ。夢の中くらい自由にさせてくれ。


「私は選んだ人が心から望むものを叶えるだけです。ぱっと思いついたような願いは...まぁ私の気が向かない限りは応えられませんわね」

「逆に気が向いたらなんでもできるって?なんともまぁ随分大雑把な神様だな...」

「魔神ですから」

「というか具体的にどんな願いを叶えるのか教えてくれてもいいだろ」

「何を仰るかと思えば、ご自身のことではありませんか」


 これ以上話をしても無駄な気がしてきた。どうせ夢だ。話を終わらせてその願いとやらを確かめるくらいで目覚めるだろう。


「あーもう、わかったわかった。いいよ。その話乗った」

「感謝しますわ!私もうハラペコで…まぁ、深く考えずとも目が覚めた時には叶っています。それでは、おやすみなさいまし」


 魔神の声がどんどん遠くなり、視界が黒に染まる。そしてフッと意識が途切れた。


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