プロローグ
幼い頃の夢はスーパーヒーローだった。テレビに映るヒーローが街を脅かす悪者を倒す。勧善懲悪で分かりやすい物語だ。
しかし年を重ねるごとに、夢というものはただの幻想でしかなくなる。アニメや漫画のヒーローは存在しないとかクリスマスのサンタクロースは恵まれた家庭の親がやる仕事だとか。少しずつ世界ってものを知る。
俺の家は貧しく、片親である母は仕事で忙しい。学校では平凡。少しばかりの才能があったところで結果を出しても特に何が変わるというわけでもない。
こんな境遇なんて世界にいくらでもあるだろう。珍しいことじゃない。
素養のない10代というのは直情的で、義憤に駆られて学校には必ず居る不良の非行や虐めなんかに立ち向かう。それで得られるのは救いようのない暴力と悪意だ。ついでに孤独もついてくる。
この頃は携帯電話やインターネットは普及していなくて、逃げ込む場所も助けを求める方法もわからなかった。表面上の平和さえ保てていればいい大人は見て見ぬ振りでやり過ごすからアテにはならないしね。
現実が見えてきた。そう、この世にヒーローはいないんだ。
でも今では誰もがスマホやパソコンから世界を救える時代になった。
もちろん俺もそれをやってる。誰かに見てほしいし何かを残したい。認められたい。そんな願望をもって、膨大な時間を使う。レベルを上げ、ステータスを上げ、強力な装備を作り、自分だけの最高で最強のキャラクターを作る。
そして完成に近いものを手にした時、そこに並んだ数字を見て、ゲームを遊んだプレイヤーなら一度は考えるんじゃないだろうか。
このゲームの力を、現実のものにできたら、と。
なんとなく、その力さえあれば自分は何かになれる。まぁ具体的に何ができるかなんて考えたこともないけれど。
もちろんそれは荒唐無稽な幻想だ。誰かに話せば馬鹿にされるやら、心配されるやら。
でも俺は思い描いていたものとは違う形でその幻想を叶えてしまった。
これからその話をしよう。