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初恋・淡恋

絡まった思惑

作者:

初恋・淡恋シリーズ第3弾


前半偽物の恩人視点、後半王妃様視点


ご都合主義がいかんなく発揮されています。

読後の苦情は受け付けません。


ほんのちょっとした出来心だったんだと思う。


殿下が公表した『恩人』の容姿が私にピッタリだったから。


私もあの領地で起きたあの事件の時、あの場にいたから。


だからもしかしたら…………なんて思ってしまった。


収穫祭の数日前から私は家族と共にあの領地に住まう親戚の家に遊びに出かけていた。


領主のお嬢様(イトコが絵姿を持っていた)が殿下と隣の領地である公爵家のご長男と楽しそうに領地内を見て回っているのも何度も見かけた。


その風景はまるで絵画のように美しい光景だった。


太陽の光を浴びて光り輝く殿下の姿に目が吸い寄せられた。


ふとした瞬間に、殿下と視線が絡まった。


その時浮かべられた笑顔に、私は一瞬で恋に落ちた。


でもこの恋は一方通行。


殿下の視線は常にお嬢様に向けられていた。



***


あの事件から何年もたってからの『恩人』探し。


正直、私もあの事件の事も殿下の事もお嬢様の事も忘れていた。


殿下が『恩人』探しているという話を聞くまでは…………


学園で知り合った友人たちとさりげない放課後のティータイム。


話題は殿下の『恩人』について。


どのテーブルでもその話題は尽きない。


誰が殿下の『恩人』なんだろうと…………


貴族のお嬢様方はなんとなくわかっているみたい。


でも誰も名乗り上げることがなく半年が過ぎた。


「ねえ、あんたじゃないの?殿下の『恩人』」


話題が出るたびに話を振ってくる友人たち。


話のネタにあの事件の時、あの場にいたことを話したことがあったからだろうか。


いつしか平民の学生たちの間で私が殿下の『恩人』だという話が広まった。


そしていつしかその話は貴族のお嬢様方の耳にも入り、最終的に殿下にまで伝わった。


貴族のお嬢様方は噂の否定をするように告げてきた。


「私たちはあなたが殿下の『恩人』ではないことを知っています。ですが、あの方が公にされるのを拒んでいるから私たちはあなたの噂を真正面から否定することはできません。あなた自身が噂を鎮めなさい」


でもいくら私が否定しても話は広がるばかり。


そんなある日、王宮から呼び出しがあった。


平民が王宮に呼ばれることなどありえない。


だが、私宛に届けられた手紙には王妃様の印が押されていた。


この手紙を無視することはできない。


私は王妃様の指示に従い、裏口からこっそりと王宮に足を踏み入れた。


王妃様の侍女だという方に案内されたのは王妃様の私室だという。


王妃様は私が入室すると人払いをされ、室内には私と王妃様だけになった。


「そなたは噂を消す努力をしているのか?」


王妃様の声は氷のように冷たく感じた。


「噂を消す努力をしているようには思えぬ」


ドキッとした。


確かに私は積極的に噂を消す努力はしていない。


心のどこかで、もしかしたら……と夢見ていた。


「そなた、覚悟はあるか」


え?


「偽物の『恩人』を死ぬまで演じきる覚悟はあるか?」


偽物の恩人……を演じる?


「王族を謀るのは不敬罪だとわかっておるな。裁判の結果次第で軽くて生涯幽閉、最悪死刑になると分かっておるな」


頷く私に王妃様は扇で口元を隠しながら笑みを浮かべた。


「そなたに覚悟があるのなら、私が後ろ盾になることもやぶさかではない」


それはどういう……


「私はあの者をあの子の伴侶にすることが出来ぬ。いや、してはならないのだ」


え?


「あの者を心から愛する者達から懇願された。あの子には何が何でもあの者の事を教えないでほしいと」


どうして?

だって王子様のお妃様は女の子なら一度は夢を見る


「それは平民の娘が夢見るもの。貴族家の娘はこの王宮が魔宮であることを幼い頃から教えられている」


魔宮…………?


「きらびやかに見える貴族の世界は一歩裏に入れば、人を人と思わぬ者たちの巣窟。その中心部に障害を負わせてしまったあの者を無理やり引きずり込むのはさすがに良心が痛む。あの子のせいであの者は…………」


障害を持った?


「なんじゃ、そなたは同じ学園に通っていながら気づいておらんのか?あの者は常に杖を突いているではないか」


杖を突いている令嬢…………

確か宰相補佐官様のお嬢様が…………


「その者があの子の『恩人』じゃ。気づいておらんかったのか」


呆れたような表情を浮かべる王妃様。

私は全然気づいていなかった。

常に杖を突いていたご令嬢があのお嬢様だったということに。


ただ、障害があるなら学園に通わなくてもいいじゃないなんて思っていた程度。


同じ髪の色、瞳の色…………そして同じ年

そしてあの領地のご出身


お嬢様がすべてが殿下の『恩人』に当てはまっていることに今更気づいた。

ただ違うのは『平民』ではないということだけ……


「事件の直後、宰相補佐から頼まれて令嬢の名前やけがの具合は公にはされていない。もともと未成年だから名前を公表するつもりはなかったがな。ただ、一命を取り留めたとだけ発表した。だが、貴族の情報網は甘くない。あの者の事はあっという間に貴族の間に知れ渡った」


貴族の令嬢たちが口々に噂を鎮静化させろと言ってきたのは……


「あの者への同情だろう。あの事件以降、あの者は普通の生活が出来なくなったからな。さらにあの事件後、あの子も高熱を出し記憶があやふやになりあの者に関する記憶が無くなっていた。あの者はそれでいいと言っていたが私たちはそういうわけにもいかぬ。私たちはあの者の輝かしい未来を閉ざしてしまったのだからな」


未来を閉ざす…………?


「傷跡……障害を持った令嬢を娶ろうとする貴族はいない。貴族令嬢は人形のようなものだからな。キズのついた人形は忌避される」


ですが、あの方は…………


「あれは自身の能力・才能を見せることで自身の評価を大きく変えた。普通の令嬢ではありえない方法で人々の自身を見る目の色を変えさせた。あの者が障害を負うことさえなければ……」


王妃様は大きくため息をついた。


「さて、あの者の話はおしまいじゃ。再度問う。そなたはあの者の身代りになる気はあるか?」


身代り?


「そうだ。あの子は『恩人』が現れるまでずっと探し続けるだろう。だが、王族としての公務をないがしろにされては困る。そこで、そなたに取引を持ち掛けるのじゃ」


それが、偽りの『恩人』


「そうじゃ、なに、そなたにとって願ったりかなったりだろう?玉の輿に乗れるのだからな」


扇の裏で笑う王妃様の笑顔に背筋に冷たいものが走った。


「知っておるぞ。そなたがその美貌を武器に貴族の令息たちに粉を掛けていることは。数人の令息がすでにそなたに堕ちているそうだな。そもそも噂を積極的に消そうとしないのはあわよくば王子とという思いがあるのだろう?そういえば、そなたはよくあの子の事を見ていたそうではないか。どうじゃ?幸いにもあの子もそなたの事を『恩人』だと思い始めている。あとは、ほんのちょっと昔話をすればいい」


昔話…………でも…………


「なに、小さい頃のあの子のあだ名でも呼べばあっさりと信じる。あれのあだ名を呼んだ女子は後にも先にもあの者だけだからな」


あの時の

あの優しい笑顔が私に向けられる?

ずっとあのお嬢様に向けられていた視線が私に?


「どうじゃ?報酬は王子との未来」


殿下との未来


一度は諦めたこの想いを殺さなくていいの?


絶対に叶わないと思っていた殿下の隣に立てる?


「そうじゃ、そなたが『恩人』となればずっと…………な」




私は……



私は......



***



王妃様との密会の数日後


殿下は私を『恩人』と認め、私は殿下の婚約者になった。


友人達は驚きつつも祝福してくれた。


貴族の方達は表立っては何も言ってこなかった。


私は王妃様のお気に入りということなり殿下の婚約者として王妃様による淑女教育を受けている。


貴族の方たちの目は冷たい。


貴族の方は私が偽物だと知っている。


それでも、誰も口にしないのは王家が認めたから。


王妃様は情報操作をして市民を味方につけた。


今更『偽物』だと告げることなど出来ない状況だ。


もう、後戻りはできない。


私は演じる。


この掴んだ『幸せ』を逃さないために......


殿下の『恩人』は私なのだから!


殿下が認めた『恩人』は私なのだから......


















私は生涯演じ続ける。


この命が尽きるその時まで......


私は演じ続ける。


日に日に溢れ出る殿下への想いを殿下に伝えるために


私は演じ続ける


いつか殿下のその瞳に私を映さなくなっても......



私は私の『幸せ』の為に演じ続ける




***


【王妃視点】


あの子が『恩人』を嫁に迎えたいと訴えてきた時、あの者の悲しそうな顔が浮かんだ。


王や私が贖罪の意味を込めてあの者に婚約を打診した時、きっぱりと断られた。


「まともな社交が出来ぬ者が王家に入るなど……私に今まで以上に惨めな思いをさせたいのですか?それに私は我が家の跡取りなのです。王家に嫁ぐことはできません」


いくら不問にすると告げていたからと言えどもこうもきっぱりと言われるとは思ってもみなかった。


宰相補佐殿はどこか嬉しそうにあの者を見つめていた。


矛先を宰相補佐殿に向けても同じ意見だった。


ならば、王家への嫁入りではなく、あの子を婿入りさせると提案しても却下された。


「責任感だけで傍に置かれたくありません。いつしか殿下は後悔なさるでしょう。一時の感情で私を伴侶に選べばずっと私のこの傷に対する後ろめたさが残るのですから」


確かに、あの子はいつかこの者を疎ましく思うかもしれない。


最初は怪我を負わせた責任感で慈しむだろう。


だが、次第に社交が出来ないことで起こる不具合にあの子は対処できなくなる。


周りの者が優秀だと言っているがあの子はそれほど優秀ではない。


兄や姉の真似をしているだけなのだから。


兄や姉たちからこうすべきだと言われたことを忠実に行っているだけのお人形さんだ。


今回の事はあの子の能力を見極める機会でもあった。


兄や姉たちが手出ししようとするのを禁じた。


そして得た結果がこれだ。


あの子は自分で調べることすらしなかった。


私が渡した資料(一部改ざん有)と自身の記憶のみで『恩人』を定めた。


私が仕組んだ罠に嵌ってしまった。


ほんの少し煩わしい手続きをするだけで全てが明らかになるようになっているのに。


周りの意見を聞かずに自分の記憶(おもいで)だけで定めてしまった。




本来ならあの事件さえおこなければ結ばれているはずだった『婚約』


そのためにあの子を遊びに行かせ、自然と知り合えるように根回しをしていたのに……


陛下の姉君が降嫁された公爵家と懇意にしている伯爵家。


建国の頃より王家を支えてくれていた侯爵家の分家の令嬢。


令嬢自身の才能も素晴らしいと聞き及んでいた。


出会って数日で仲良くなったと聞く。


周囲の者たちは微笑ましく二人の仲を見守ろうと思った矢先のあの事件。


過去には戻れない。


ならばこの国にとって良いと思うことを行わなければ……


まずはあの子の処遇。


このまま王族とするか、王位継承権を返上させ臣籍に下らせるか。


陛下と相談しなければ。


陛下はきっと臣籍への降下を推し進めるだろう。


あの子が『恩人』の話を持ち出した時、ただ嫁にしたいとだけしか言わなかったから。


せめて謝罪し、その後『恩人』と話したうえで嫁に迎えたいと申し出たのであればまた違っただろう。


陛下と宰相補佐官殿は幼馴染であり、学園時代からの親友でもあった。


こっそり宰相補佐殿が仕事場にあの者を連れてきた時に子供が苦手だと公言していた宰相と共に秘かに可愛がっていたと聞く。


もっと早くに話を進めていれば……


ああ、だめだ。


もしもの話などもうしてはいけない。


私が罠に使ってしまった少女の処遇もなんとかせねば。


あの子と共にあることを選んだ少女。


平民が貴族として暮らしていくうえで必要なことを教育しているが、正直危うい。


表に出さず、屋敷に閉じ込めた方がいいのかもしれない。


本人は努力していると口ではいくらでもいう。


だが教師陣の目は誤魔化せない。


少女は夢見ているのだ。


王族に認められた平民としての自分に酔っているのかもしれない。


あの子の側近たちにも媚びているという。


頃合いを見て婚約白紙も視野に入れておいた方がいいのかもしれない。







数か月後、あの少女が偽物であると知ったうえで婚姻し、あの子自ら、臣籍に下ると申し出るとはこの時はまだ私は知らなかった。





こじ付け感たっぷりの嘘つき娘編(+α)でした


いちばん最初に思いついたのが実はこの作品でした。

(その時は王妃様は登場せず、宰相閣下が王妃様の役割を演じていた)

ですが、さすがにこれだけではわかりづらいと『初恋』が生まれ、『淡恋』が引っ張り出されました。


溺愛婚約者殿視点はいまだに彼が話してくれないので今度も無理でしょう(苦笑)


とりあえずこのシリーズはこれで完結とします。


ここまで書くなら連載にすればよかった……

『初恋』が思いのほかに評価され、消化不良気味だったのでここまで書き上げることが出来ました。


いつれどこかで、またこの子達に出会えるかもしれません。


お読みいただきありがとうございました。m(__)m





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