いざクソゲーオンライン!!
バルムは世界観とか設定とか、その辺の話をキャラクター目線で説明してくれた。
専門用語とかも割と出てきて大半聞き流してしまった。
多分よくあるファンタジー世界だと思う。
俺はゲーム的な部分だけしか興味ないからなぁ。
会話のネタになりそうだったらネットで漁ろう。
美月がこのクソゲーのどこにはまり込んでしまったのかもよく知らないしな。
情報収集はやっておかないと。
「と、いうわけじゃ。……お主、聞いておったか?」
「勿論だ」
見慣れた草原で腰を下ろしている俺に、バルムは腕を組んだまま不服そうに睨んできた。
ちゃんと聞いていないのがばれていたようだ。
でも誤魔化しておこう。
「まあ良い。儂はきちんと説明したからのう。導くのが役目ではあるが、本人が導かれたくないというのならそれもまた良しじゃ」
「レベルアップに付き合ってくれたのは感謝している」
「ふん、どうだかのう」
「本当だ。俺が向こうの世界に行けるのも、バルムのお陰だ」
これは間違いなく本心だ。
何が正解かも分からない中、ここまで頑張れたのは美月は勿論、バルムの存在も大きい。
美月への愛だけだと心が折れかねなかったからな。
愛が足りないとかじゃなく、クソゲー具合が半端ない。
バルムの賑やかしと美月とのやりとり、その両方が無ければ発狂してたかもな。
「儂としては、≪弾き≫を伝授出来なかったのが悔やまれるんじゃがな」
「ああ……それは向こうで習得してみせる」
「お主ならきっと出来ると信じておるよ」
≪弾き≫。
それは戦闘時に使用するアクションの一つだ。
発動方法は、弾く、防ぐ、守る、等の意思を持って該当するアクションを行うこと。
具体的には相手の攻撃に合わせてタイミングよく武器や防具、腕等を当てることで発動出来る。
一応チュートリアルのサブクエストでこれの成功というものもあったが、そこまで手が回らなかった。
攻撃と採集をするだけで八日だよ八日。
更に他のアクションを模索する余裕なんか無かった。
試すタイミングが相手が攻撃してきた時と、限られるのもネックだ。
攻撃と違ってひたすら試すことが出来ないから時間が掛かり過ぎる。
そういった事情で俺は諦めた。
大丈夫大丈夫。≪弾き≫が出来ないくらいどうとでもなるさ。
さて。
ゆっくりと立ち上がる。
遂にこの時が来た。
「行くんじゃな」
「ああ」
「最近は誰も来なかったからのう。割合、楽しかったぞ」
「またいつかな」
「うむ」
バルムは悪そうな、勝気な笑みを浮かべた。
ネットにはバルムの存在については何の情報も無かった。
歩けたという話も一切見なかったんだから予想はしてたけど。
こんな存在感のあるキャラをチュートリアルだけで使い捨てるだろうか。
きっと、いつかまた再会出来る。
こんなにゲームのキャラを気に入ったのはいつぶりだろうか。
流石VR。会話してると愛着が沸いてしまうな。
可愛いし、性格もちょっと意地悪なだけで良いし。
このクソゲーの中での癒し的な要素だったのも大きいな。
またいつか会いたいところだ。
バルムに背を向けて歩き出す。
向かう先には、光の円柱のようなものがある。
あれが、向こうの世界への入り口なんだろう。
美月からの返事も届いている。
これでオンラインエリアへ移動すれば、美月に会える。
いざ、オンラインエリア。
円柱の中へと、足を踏み出した。
視界が光に包まれる――。
光が収まる感覚に、思わず瞑っていた目をゆっくりと開ける。
そこは、洋風の街並みだった。
気付けば喧噪のようなものも聞こえてくる。
石造りの建物や露店が乱雑に立ち並んでいる。
それなりに賑わっているようだ。
プレイヤーの姿は見えない。
NPCは黄色アイコン、プレイヤーは青アイコンが頭上に表示されるとヘルプに書いてあったから一目で分かる。
歩いてるのを見たら一発で分かるんだけどな。
プレイヤーは歩いてるように見えないだろうし。
とりあえず邪魔にならないところへ移動して、美月にメッセージを送る。
『オンラインエリアに移動したけど、どこにいる?』
っと。
これですぐ分かるだろう。
しばらく待ってみると、NPCの間からガタイのいい、野性的なナイスガイが現れた。
その頭上には緑のアイコン。
プレイヤーだ。流石に存在感がやばい。
俺と同じかそれ以上のムキムキ加減に、体格の良さ。
このキャラよりも設定年齢が低いのか、エネルギッシュな獰猛さを感じさせる顔つきだ。
俺は四十前後を想定してるのに対して、あのプレイヤーは二十手前って感じがする。
そして、やはりと言うべきか、腰を左右に振ってのスライド移動だ。
両脚は動いていないのに、スイーっと進んでいる。
うっわ気持ち悪!
傍から見るとあんな風になるのか気持ち悪!!
NPCをスイスイ避けてるのを見るにかなりの熟練者だ。
お陰でぬるっとした気持ち悪さがとんでもない。
あんなの人間の動きじゃないよ!!
呆然と眺めていたせいか、そのプレイヤーと目が合った。
まだ距離があるのに、にやりと、凶悪な笑みを浮かべた、気がした。
やべぇしかもこっち来る!
逃げるか!?
でも美月と待ち合わせしてるし、っていうか逃げるのおかしくないか!?
俺は何もしてないし、向こうもまだ何もしてないし。
ああでも怖いあんな厳ついの無理無理無理無理しかも顔めっちゃ怖い!
「お待たせ公……じゃなかった、マーサー!」
「は――?」
このゲームは、相手を見ただけで名前を判別する方法はない。
システムメッセージが流れたり、何かしらのやりとりを経ないと目にすることもない。
ということは、まさか……。
この見た目と全く合ってない可愛い美月の声がするこのナイスガイは……!
「も、もしかして」
「フルムーンだよ!」
美月だった。
まさかのナイスガイ被り……!!
運命の神様って奴は畜生過ぎるぜちくしょう。