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攻撃モーションが可愛すぎてクソ


 家の中は外観通りの広さと古さだった。

 小さな部屋の中央に、小さなテーブルとそれを挟んで椅子が二つ。

 奥にも部屋があるようだが、扉は閉まっていて様子は分からない。


「ほれ、まずはそこに座れい」


 言われるがままに椅子に座る。

 普通に座れた。

 座れてよかった!

 腰を下ろせなかったり椅子をすり抜けたりしたらどうしようかと思ったぜ。


 言われるがままに椅子へと腰掛ける。


「よっこらっしょっと」


 向かいには、不思議な髪型の少女が座る。

 良く見るとオッドアイのようで、左右の瞳が髪の色と反対になっている。


 声はとても可愛らしいのに、掛け声はかなり年季が入って聞こえる。

 そういえば喋り方もそんな感じだったな。

 よくあるロリババアってやつなんだろうか。


「儂は次元の賢者バルムじゃ。お主の名は?」


 この見た目で賢者なのか。喋り方は合ってるんだけど、やはり見た目とのギャップは激しい。

 あと名前もあまり可愛い感じはしない。

 賢者だからだろうか。


「マーサーだ」

「ふむ、中々良い名じゃな。さて、お主の能力がどの程度のものなのか、見せてもらおうか」

「能力?」

「むむむむむ」


 思わず零れた疑問も華麗にスルーされた。

 可愛らしく唸っている。

 一体どういう立ち位置のキャラなのかよく分からないな。


「はっ! ……見えたぞ。お主、まだモンスターを一度も倒しておらんな? レベルどころか経験値も空っぽじゃぞ」

「ああ」

「堂々としおってからに……。向こうの世界に渡るにはまだまだ経験不足じゃな。せめてレベルを1上げてから出直してくるのじゃ!」


 ロリが叫ぶのと同時に、気付けば家の前に立っていた。

 一体何が起きた!?

 こういうイベントなのか?


 仕方ない。

 刺激にも癒しにもなったし、模索を続けよう。


 お、美月から返事が来た。

 キャラクター名は≪フルムーン≫となっている。

 確か満月のことだったか。

 美月だから満月って、安直だけど可愛い。流石美月だ。


 内容は一言、『ファイト!』と書かれていた。

 よっしゃあ! 滅茶苦茶やる気出た!

 うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!

 やってやらああああああああああああああああああ!!!







 こうして、八日が過ぎた。

 

 攻撃するだけで、まさかこんなに日数がかかるとは思わなかった。

 クソゲー恐るべし。

 だが、来る日も来る日も色々な動作を試したお陰で攻撃のモーションを発見した。

 心が折れそうになりながらもよく頑張ったぞ俺! ありがとう美月!


 後、時々バルムも様子を見に来てくれた。

 とは言っても、変な動きをしている俺を見て笑っていただけだったが。

 笑い過ぎて時々ローブの隙間から見える生脚はちょっと刺激的だった。


 今は、一人で草原に立っていた。

 レベルアップ目前の、最終試験中だ。


 近くにいたグリーンラットに走り寄り、攻撃体勢に入る。

 相変わらず呑気に草を齧っている。

 もう拳の届く範囲だ。


 俺の経験値になれ! 


 腕を素早く振り上げる。そして、振り下ろす。

 三本の指を高らかに伸ばし、顔の真横に持ってくる。

 そう、まるでギャルのような、可愛らしいキメポーズ。


 ポーズを取った瞬間に、グリーンラットの身体が沈む。

 まるで上から何かに殴られたかのようだ。

 続け様に左手も同じ動きでキメッ!


 またしてもグリーンラットがダメージモーションを取る。

 トドメだ!


「うおおおおお!!」


 既に振り上げていた右手を、加速させながら弧を描く。

 上から下へ。下から上へ。

 流れるように突き上げた右手で三度キメッ!!


「ギッ!?」


 グリーンラットはまるで下から突き上げられたかのように、空中にカチ上げられた。

 HPバーを削り切ったようで、地に落ちることなくポリゴンになって四散した。

 そして鳴り響く、レベルアップのファンファーレ。


「やった! レベルアップ!」

「おお、見違えるようになったのう。昨日までは素振り一つ満足に出来んかったというに」

「……ごほん、このくらい、どうということはない」


 素振りが出来なかったのは仕方ない。何が攻撃のモーションなのか分からなかったんだからな!

 まさかあんな可愛いポーズとは俺も思わなかったよ。

 気分転換に見たアニメのポーズをヤケクソ気味に試したのが良かった。

 だけどこれってこのキャラに合わな過ぎるんだよな。


 幼女キャラだったら良かったかもしれないけど、そこは仕方ない。

 俺はこのキャラで美月と並び立つって決めたんだ!


 って、あまりにも綺麗に決まったから、バルムがいるのを忘れてしまっていた。

 慌てて取り繕ったけど、間に合っただろうか。


「カッコつけるのは別に構わんのじゃが、しばらく一緒におればお主の性格なんぞバレバレじゃぞ」

「あはは……」


 ダメだった。

 そもそもばれてた。

 こんなことじゃダメだな。

 もっとロールプレイの完成度を上げないと。


「さて、レベルアップもしたようじゃし、向こうの世界に渡る資格は得たわけじゃな」

「そうですね」


 チュートリアルエリアからオンラインエリアへ行く為の条件はたったの二つ。

 レベルを上げること。

 そしてバルムのクエストをクリアすることだ。


 レベルは今上がった。

 クエストは、採集クエストだった。少し離れた場所に生えている薬草を採ってくるだけの簡単な内容の筈が、採取のモーションを見つける必要があったせいで無駄に難易度が高かった。


 攻撃モーションを見つけるのに八日もかかったのはそのせいもある。

 息抜きのつもりのクエストが追い苦行だなんて予想してなかったよ。

 ちなみに、採取のモーションは太ももの付け根に添えた両手を、股関節の線に沿って下から上にずらす動作だった。

 かなり昔の有名なギャグだったような気がする。


「ではそろそろ説明せねばならんな。向こうの世界と、お主の使命についてを」



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