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刺激を求めてクソにハマる


 今日も美月は可愛かった。

 視界に入るだけで幸せだし、なんなら入らなくても幸せになれる。

 存在が眼福だ。

 でも視界にいなければ眼で見てないな。

 心福?


 トライアンドエラーオンラインは確かにクソゲーだが、あれを初めてから美月との距離は縮まった……気がする。

 今日だってすごい食いついてくれた。

 近かったし。

 ああ、今思うとすごい良い匂いしたな。

 

 ……よし、頑張るぞ!


 制服を脱ぎ捨ててジャージとTシャツに着替えた。

 これが俺の部屋着だ。

 すごい楽だし、VRゲームをするのにも最適な格好だと、俺は確信している。


「トイレよし、水分補給よし、とりあえず夕飯前までだな」


 今からなら四時間くらい出来る筈だ。

 さーて、攻撃のモーションを把握出来るまでどのくらい掛かるかな。


 不安しかないがゲームにログインする。

 すぐに見慣れた草原へと降り立った。


 いざ、動作を探る作業開始だ!

 俺はやるぞ!


 ひたすら緑色のねずみ相手に色んなポーズを決める。

 しかし反応はない。

 なんだこれ。

 ただただ虚しい。

 いや、これも美月と仲良くなる為。

 負けるな俺。


 ――ダメだ、虚しすぎる。

 二時間も経ったところで力尽きた。

 俺は何が悲しくて緑ねずみ相手に変態シャドー何かを披露してるんだ?

 むしろよく二時間持ったと自分を褒めたいぜ。

 

 やる気が出ない時に頑張ったって効率も良くないし、ちょっと気分転換でもするか。


 ちらりと視線を丘の方へ向ける。

 そこには小さな一軒家がポツンと建っている。

 最初は丁度真後ろの方向にあったせいで、歩けるようになった時に見つけたものだ。


 ある程度操作が出来るようになってからと思ってたが、行ってみよう。

 刺激かもしくは癒しが欲しい。

 これが普通のオンラインゲームなら、美月に楽しく教わってたんだろうに。

 ああ、癒しが欲しい。

 厳密に言うと美月の存在を感じたい。


 よし、刺激の前に癒しだ。

 一度ログアウトして美月にメッセージを送っておこう。


 実は今日、美月にゲーム内の連絡先を教えてもらえた。

 チュートリアルエリアからでも問題なくメッセージを送れるとは思っていなかったから、超嬉しい。


 ログインしてすぐ送りたい気持ちもあったが、その、なんだ、きっかけが無いと送りづらかった。

 いえーい、へたれてるぜ俺。

 分かってはいるんだけどね。 


 その為のクソゲーだ。

 その為のクソゲー?

 何かが引っかかるが、気にしても仕方ない。俺にはこのクソゲーしかないんだ。


 ……さて、なんでもない内容でも送って問題ないんだろうか。

 大丈夫、美月なら邪険に扱わない、筈。

 愚痴でも送っておくか。


 攻撃モーションが分からないんだけど! っと。

 

 返事を待ってる間に小屋に突撃だ!


 この腰振り移動にも慣れてきたな。

 ただ、傍目から見たらどんな感じなのか気になる。

 オンラインエリアに行ったらどんな光景が繰り広げられてるんだろうか。


 ――オンラインエリアに行けば美月の腰振りがみられる!?

 これは、なんとしてでも行かねば。

 迅速にだ!


 その前にまずは息抜き。

 刺激を求めて小屋だ小屋!


 腰を振っている内に小屋の前に到着した。

 ドアを開けようと思うんだけど……これ、開くのかな。


 試しに手を伸ばしてみる。

 案の定、ドアノブを手がすり抜けた。

 やっぱりか。

 そのままドアを通り抜けてやろうかと思ったが、残念ながらそうはいかなかった。

 ドア自体は全く通り抜けない。

 変なところはちゃんとしてやがるなクソめ。


「すみませーん! 誰かいませんかー?」


 開けられないなら開けてもらうしかない。

 大きな声で呼びかけてみる。

 ……特に反応はない。

 もう一回呼んでみるか。


「すみませーん!」

「なんじゃー!?」

「うべしっ」

「おおう、大丈夫か?」


 突然ドアが開いて顔面にぶち当たった。

 ダメージは無かったが、痛みはしっかりと感じた。

 顔面がヒリヒリする気がする。


「だ、大丈夫です」

「すまんすまん。……なんじゃお主、ごつい見た目の割に貧弱な感じじゃのう」


 出てきたのは、小学生くらいの可愛い女の子だ。

 右半分は緑の長髪なのに左半分は紫の短髪に見える。

 なんだか不思議な髪型だ。

 長いローブを着ていて体系は分からないが、小さい。


 その女の子は呆れたような顔をしている。


 しまった、素が出てしまった。

 せっかくのガタイが良くてワイルドで渋いかんじの見た目のキャラなのに、俺のままじゃイメージが違い過ぎる。

 ロールプレイを楽しまなければ損だ。

 気恥ずかしい気もするが、ここはチュートリアルエリア。

 人目も無いし、少なくともここではキャラを貫こう。


「気のせいだ」

「涙目に見えるんじゃが」

「気のせいだ」

「そ、そうか。こんなところに客人とは珍しいのう。して、一体何の用じゃ? 」

「ん? あー……」


 用、用と言われても、何も考えてなかった。

 まあゲームだし、難しく考えても仕方ないか。

 NPCだろうしな。正直に話そう。


「迷い込んでしまったみたいでな。一軒家を見つけて訪ねたところだ」

「ああ、そうかい、お前さん、挑戦者じゃな?」

「挑戦者?」

「他の世界から時折来るんじゃよ。≪挑み戦う世界へ渡る者≫、即ち挑戦者がのう」

「はあ」


 挑み戦う世界?

 もしかしてオンラインエリアのことなんだろうか。

 謎のNPCはドアを開けたまま家の中へと入って行く。


「挑戦者を教え導くのが儂の役目でもある。はよう入って来い」

「は……ああ」


 

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