表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/15

クソじゃないものに触れることで、クソがより一層引き立つ


 ゆっくりと瞼を開くと、そこは薄明るい自分の部屋だった。

 もう朝か。

 もやもやしたまま寝る態勢に入ったけど、中々寝つけなかったのがいつの間にか寝られたようだ。


 昨日はPKに襲われて、俺は瞬殺されてしまった。

 反面、美月は華麗に返り討ちにしていた。

 攻撃モーションは多分敬礼だと思う。

 俺のと似てるけど微妙に違うようだ。

 移動モーションが同じなのは偶然だったんだな。


 まあ、始めたばかりだし経験者よりも弱くて当然だよな。


 そうは思っても、やっぱり悔しい。

 美月の前で良い格好が出来なかったというのも大きい。

 こうなったら修行だ。

 強くなって、PKなんかに負けないように、返り討ちに出来るように鍛えるしかない。


 幸い今日は日曜日だ。

 丸一日時間がある。

 根暗で対人関係が苦手な俺は、友達も予定も、縛るものは何も無い。

 自由だ。言っててちょっと悲しいけど。


 美月は、今日は予定があるらしくて夜までは頼れない。

 そうなると独学で対人を学ばないといけない訳だ。

 マジか。

 あのクソゲーでの対人戦に慣れようと思うと、一人ではどうしようもない。


 仕方ない。まずは普通のVRゲームで、VRゲーム自体に慣れていくか。


 その前に朝ごはんだな。

 あまり不健康なことをしていると、母親に何を言われるかわかったものじゃない。

 最悪せっかくのVRゲーム機を没収されるからな。

 印象は出来るだけ良くしておかないといけない。


 休みはほぼ家に引きこもってる時点で印象は良くないが、これは前からだし大丈夫だろう。多分。


 時計を見たらもう9時だった。

 結構寝ていたようだ。ゆっくり出来るなんて、日曜様様だな。


 一階に降りて母親に挨拶すると、すぐに朝食を用意してくれた。

 ご飯に目玉焼き、ハム、キャベツの千切り、みそ汁。

 今日も美味しかった。


「ご馳走様でした」

「お粗末様。今日も仕事でおそくなるかもしれないから、晩御飯は適当に外で食べてね。お昼は炒飯作っておいたからチンして食べなさい」

「わかった」


 いつもと変わらないやりとりをして、俺は部屋に戻った。

 トイレや歯磨きも済ませたし準備は万端だ。


「さて、どんなのがいいかな」


 ヘブンズゲートを被ってネットに接続する。

 ショップを開くと、色んなタイトルが並んでいる。

 

 同じようなファンタジー風味の、剣とかがあるやつ。

 VRゲームに慣れる為の特訓だから、あのクソみたいな変なのは避けたい。

 だけど多すぎて何が何やら分からない。


 どれがいいのかは説明と、レビューなんかを見るのが手っ取り早いが、こういうのは参考にならない場合が多い。

 よく見せる為に企業側が良い評価を付けてることも多いらしいからな。

 売る為なのは分かるけど、正直やめてほしい。

 VRじゃないが、それでクソゲーを掴まされた時は殺意が溢れて大変だった。

 

 新しいタブを開いて、大手の検索サイトを開く。

 困ったときはネットで聞けばいい。

 VRゲーム、アクション、おすすめ、っと。

 後は出てきたページを参考にするだけだ。


 ブログや掲示板の書き込みも、本当かどうかは分からない。

 だから最終的には自分を信じるしかない。

 情報を掬い上げて繋げて形にするのは、自分でしかないからな。


 ざっと目を通した結果、≪ブレイブ・ブレイド・オンライン≫というタイトルのゲームに決めた。

 理由はシンプルだ。

 世界観があのクソと似てる中でも評判が良さそうだった。

 王道、基本、無難、言い方は違えど、どれも普通に良い、みたいな感じ。

 これあらどう足掻いてもクソにはならないだろうし、VRゲームに慣れるのに最適だろう。


 あのクソはVRゲームとはまた別の次元に位置してる、というのが俺の素直な感想だ。

 独特過ぎて意味が分からん。

 それでもまずはVRゲームに慣れようと思うのは、どれだけクソでも、VRゲームには違いないからだ。


 現実と同じ感覚で身体を動かせるとは言っても、やはりゲームだ。

 多少の誤差はある。

 俺の場合は現実の身体が貧弱すぎて、ゲーム内の方が動けるくらいだ。

 だからこそ、少し戸惑ってしまう。

 思ったよりも身体が早く動いてタイミングがずれる、とかね。


 それに慣れる為の他ゲー。

 その中でも一定の好評価を得ているBBOが、きっと相応しい筈だ。

 ステータスとかはなくて、アバターの性能は全員一律らしいからな。

 その点も、あのクソに近い。

 丁度良いのが見つかってよかった。


 早速購入の手続きを済ませ、インストールする。

 待ってる間に、もう少しどんなゲームか調べておくか。


 ふむふむ、なるほど。

 このゲームは短めのオフラインシナリオが用意されているのか。

 十時間程度でクリア出来るらしいし、とりあえずそっちをクリアしてみるか。


 VRゲームに慣れる為だし、オンラインモードに出る必要もないだろう。

 ……でもこのソフト、八千円近くしたんだよな。

 俺の中の貧乏性が、元が取れるくらい遊べと囁きかけてくる。


 でもそうすると、オフラインだけでは遊びつくしたとは言えない。

 だけどオンラインゲームってのは基本終わりが無い。

 それはこのゲームも同じだ。

 飽きるまでやるとなると、あのクソはしばらく放置することになる。


 流石にそれは本末転倒だ。


 俺の目的は、ゲームをやることでも、クソを堪能することでもないからな。

 美月と仲良くなる。

 それが一番の目標であり、目的だ。

 クソゲーは手段でしかない。それは忘れてはいけない。


 お、インストールが終わったな。

 いざ、初めての普通のVRゲーム!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ