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クソみたいなPK戦を終えて


 瞬殺だった。

 接敵したと思ったらあっという間に決着が付いた。

 敗者は無様に地面に転がっている。

 勿論、俺だ。


 先頭の三人が美月に飛び掛かって行ったのを目で追っている内に、逆さまサイクリング少女が襲いかかってきた。

 変な声を上げたその刹那で攻撃を食らい、動揺に全身を蝕まれてしまった。

 続けざまに攻撃を食らってHP0まで追い込まれてしまった。


 そんな俺は地面に倒れ伏したまま、美月の戦いを見守っている。

 このゲームは、死んでも即セーブ地点に飛ばされたりはしないようだ。


 死んだ瞬間、視界にはセーブ地点に戻るかどうかの選択肢が浮かんだ。

 美月がちょっと待ってて、と言ったから放置している。

 多分、これで≪はい≫を選べば飛ばされる仕様なんだろう。


 死んだまま残ってるのは、生き返らせる為の猶予かな。

 スキルかアイテムで復活させるものがあるんだと思う。

 美月も持ってるのかもしれない。

 だけどそういうのって大体レアだよな。消費型のアイテムだったりしたら使わせるのも勿体ないか?


「秋の五月雨切り!」

「ぐああああ!! む、無念……!」


 PK達の最後の一人が糸の切れた凧のように、ボトリと地面に落ちた。

 これは、空中を転がってた魔法少女みたいな恰好の女の子だな。

 装備もピンクのフリフリで、アニメキャラみたいだ。


 後の三人も系統は違えど美形の女キャラだ。

 ロリ、ロリ、美女。

 全員でロリ3、美女1というバランスだ。

 良いのか悪いのか、意見が分かれるところだ。人によっては永遠に決着が付かないだろう。


 二尾のサンマを腰の鞘にしまった美月がこっちへ歩いてきた。

 なんとなく、自慢げな表情だ。可愛い。


「お待たせー。ふっふーん、マーサー、無様だね」

「全くその通りだな」


 返す言葉も無い。まさに瞬殺だったからな。

 反面、美月は強かった。

 俺が倒されてる間に一人撃破し、三人相手でも引けを取らず、一人ずつ順番に倒していった。

 最後の奴はそこそこ粘ったけど美月の敵ではなかった。


 なんとうかもう、動きが異次元過ぎてついていけなかった。

 空中で横たわった相手が脚を振ったら起きる、剣での攻撃判定を美月は捌いていたが、意味が分からん過ぎる。

 俺は相手の何が攻撃の動作か分からないまま死んだぞ。


「み……フルムーンは強かったな」

「まぁね。伊達にやりこんでないよ!」

「俺も早くあのくらい動けるようになりたいところだ」

「実はあのPK達とは何度も闘ってるからね。過疎が酷くって、よくぶつかるんだよねー」


 なるほど、確かに手馴れてる感じはあった。

 しかし、相手の攻撃への対処も見事だったが、美月の攻撃も素晴らしかった。

 相手の動作だけじゃなく、意識から生じる隙。美月はそこを的確に突いていた。

 クソみたいな奇怪な動きに惑わされてるようじゃ美月に並び立つことなんて夢のまた夢だ。

 

 俺は強くなる。絶対にだ。


「それじゃあ俺はセーブ地点に戻るとするよ」

「あ、待ってて」


 美月に待てと言われればいくらでも待つ。

 幸い明日は休日だ。

 いくらでも待ってられるぞ。


 美月が何かを取り出した。

 何の変哲もない草に見えるそれを、美月は俺の上に落とした。


 草が緑色の光を放ったかと思えば、消えてしまった。

 そして、俺のHPも満タンになった。

 おお、身体が動く!

 立ち上がるのは普通に≪立ち上がる≫だけでいいんだな。良かった。 

 立ち上がれないんじゃないかと、結構本気で心配した。本当に良かった。


「感謝する」

「どういたしまして!」

「今のは蘇生アイテムか?」

「そうだよー」

「それって、高かったりしないか?」

「だいじょぶだいじょぶ。これ、その辺に一杯生えてるから」

「マジか」


 どういうことかと思ったら、このクソゲーではアイテムの性能がおかしなことになっていて、デスペナルティを打ち消すデメリット無しの蘇生+全回復のアイテムがただの雑草レベルで生えまくっているらしい。

 確かに、さっき美月が使った草と同じようなのが足元に大量に生えている。

 もしかしてこの草原の草が全部そうだったりするのかもしれない。

 流石クソゲー。そういうこともあるんだな。


「それじゃああの連中が消えずにずっと残ってるのも……」

「仲間に蘇生してもらうのを待ってるんだろうね。セーブ地点に帰ると所持金とストレージの中身をランダムでばら撒いちゃうし、生き返らせてもらわないとデスペナで経験値減っちゃうから」


 なるほど。

 あいつらが死体のまま反省会をしてるのはそういう理由だったのか。

 それって復活するまで待って延々と倒したり出来るのかな。

 こんなに可愛い美月に襲い掛かった罪は大きい。


「あいつらは放っておいていいのか?」

「私達がいなくなるまで仲間も出てこないだろうし、放置だよ放置! もうそろそろ寝ようかと思ってたところだから相手にしてられないよ」


 美月がそう言うなら仕方ない。

 選択肢を選ばなければ一度ログアウトしても死体のままらしいので、待とうと思えばいつでも待てるらしい。

 それは確かに相手にしてても仕方ないな。

 強くなって、俺も撃退できるようにならないと。


 軽く駄弁りながら、街まで戻ってきた。

 今日はここまでのようだ。


「それじゃあそろそろ落ちるね。おやすみ!」

「ああ、おやすみ」


 美月が光に包まれて消えた。

 ロウアウトするとこんな風に見えるんだな。

 

 美月が落ちてもしばらく一人で狩りをしようと思ってたが、今日はもうやめだ。

 PKに襲われたら瞬殺されるのが分かってるからな。

 今は力を蓄えておきたい。

 美月のいる世界を追いかける様に、俺はこのクソゲーからログアウトした。



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