迫りくる、クソに塗れた者達
バナナが貼りついた手でピースを作る。
顔のすぐ横でやるせいで、バナナが視界を塞ぐのが少しばかり鬱陶しかったがもう慣れた。
システム上ではしっかり装備されたこのバナナ。
見た目は手の甲に張り付いただけに見える。
よく見ると少し浮いてるしな。
だけどどれだけ腕を振り回してもずれたり飛んで行ったりはしない。
不思議な光景だ。
理不尽なバナナの一撃を食らった≪グリーンラット≫がポリゴンになって四散した。
同時に鳴り響くファンファーレ。
「お、レベル上がった」
「おめでとー!」
このクソゲーはレベル制だ。
レベル制と言われて思い浮かべるのは、ステータスを振り分けたりスキルを取得したり。
何が出来るのかまでは調べてないけど、ステータス振るくらいは出来るだろう。
「今レベル3になったんだが、ステータスとかどうしようかな」
「ないよ」
「え?」
「実はねー、ステータスとかは無いんだよねー」
「うわぁ……」
美月が可愛く微笑む。
なるほど、このゲームにはそういうのは無いようだ。
ステータス画面を開く。
特に操作する項目は見当たらない。
ヘルプを開く。こっちにはあったような名残はあるが、実際には綺麗さっぱりなかった。
「ヘルプに微妙に形跡が残ってるのは、何か変更とかがあったのか?」
「それはねー」
簡単な理由だった。
超低価格で投げ売りすることを決めた時に一切を削除したらしい。
開き直り過ぎだろ。
でも、レベルが上がって何も変わらないというわけでもない。
他のゲームに比べればほんの少しではあるが、成長は確かにあると、美月は合わせて教えてくれた。
ステータスの微増。
所持数の上限増加。
装備の強化。
と、三つもある。
上二つは普通だな。意味もそのままだろう。
すぐに理解出来た。
だけど最後の、装備の強化は今一ピンと来なかった。
どういう意味だ?
「レベルアップで装備の強化? もう少し詳しく聞いてもいいか?」
「いいよー。あのね、武器の強さはそれぞれで勿論違うんだけど、同じ武器でも使い手によっては同じ威力を発揮しないの」
「ほうほう?」
「んー、分かりやすく説明するのって難しいよね! 分かりにくいかもしれないけど、頑張って理解して!」
「ああ」
美月は必死に可愛く説明してくれた。
自分で言っていた通り所々分かりづらかったが、必死に説明する姿が可愛かったから問題ない。
もっとじっくり時間をかけてくれても良かったくらいだ。
聞いた話を簡単にまとめる。
武器にはそれぞれ、装備してるプレイヤーのレベルに応じて解放される能力がある。
それはスキルだったり、ステータスボーナスだったり、もっと特殊な効果だったり、様々だ。
解放されるレベルも武器によって違う。
見た目は同じでもそういう部分で個性があるから、種別も含めて自分にあった武器を見つけるのがこのゲームの醍醐味だそうだ。
動作周りが粗大ゴミじゃなければもっと良かったんだけどな。
いや、美月と一緒にゲームで遊べるんだ。これ以上の贅沢は無い。
「ありがとう、よく分かった」
「いえーい」
お礼を言うと、美月はピースで返してくれた。
俺がするのと違ってたいそう可愛い。
攻撃範囲内だと思うけど、意思がないからか特にダメージはない。
強いて言うなら可愛さと尊さのダブルパンチで俺のハートは大ダメージだっぜ。
しかし、レベルで武器の性能解放とは中々珍しい。
レア度とか性能によってはそこまで良い効果は無いらしいが、逆に弱い効果の方が解放レベルが低かったりするそうだ。
俺のこの武器もそれなりの性能だからか、レベル3で何か効果が発揮するようだ。
スキル、≪ダブルスラッシュ≫使用可能?
「それじゃあ今日はそろそろ――構えて!」
「えっ、え?」
「PKだ、来るよ!」
テキストを呼んでいると突然、美月の鋭い声が飛んできた。
何だ、何何?
状況について行けない。
美月は既にサンマを構えて、街の方へ一歩分前に出ている。
その横顔は美しい。
こんな真面目な顔も出来るんだな。初めて知った。感動する。
クソゲーありがとう!
「死ねやああああああ!!」
「うおおおおおらあああああああ!!」
「ここで会ったが三か月目ぇぇぇぇええええ!!!」
「死にさらっせえええ!!」
絶叫というか、やけに可愛らしい雄叫びが草原に響き渡った。
声のした方、街の門の方から四人の……何だ? 女の、子? が走っ……走って? え、いや、なんだあれ?
そこまで離れてないからよく見える。
一人は空中で横になっていて、そのまま転がって来ている。
空中浮遊!?
一人は同じように空中に浮かんで、顔をこちらに向けている。
その状態で行っているのは、腕立て伏せだ。
一人は直立したまま、片腕の筋肉を強調するかのようなポーズを交互に繰り返している。
あれは確か、サイドチェストっていうんだっけ。
一人は仰向けになって、自転車を漕ぐかのように脚をバタバタしている。
勿論空中に浮いている。
全員が全員、走る為の動作には見えない。
というか正気とは思えない。
だけど実際に、走る速度でこっちに向かって来ている。
みんな顔をこっちに向けてるせいで狂気しか感じない。
完全にホラーだよ。気持ち悪いを通り越していっそ殺したい。
ていうか、歩く動作ってみんな同じじゃないのか!?
「あれがPK? もっとやべー連中にしか見えないんだが。神話生物とかじゃなくてか?」
「PKだよ。マーサーも死にたくなければ構えた方がいいよ。大丈夫大丈夫、説明なら後でちゃんとしてあげるから」
「わ、分かった」
たったそれだけのやりとりで、もう距離はかなり詰まっていた。
近づくとより一層キモイ。
キャラがどいつも可愛い女の子につくってあるのがキモさを引き立てている。
怖すぎて引くけど、ここで退く訳にはいかない。
例えクソゲーだとしても、俺は美月に並び立つって決めたんだからな!
「かかってこい」
バナナを貼り付けた手を構える。
そして一歩、踏みしめられないから腰を振って前に出る。
これで美月と同じ位置だ。
始めたばかりでどのくらい闘えるか分からないが、やれるだけはやってやる。
さあ、戦闘開始だ。