クソが蔓延したこの世界では、見た目を信用出来なくなる
本日二回目の更新です
「1500cくらいで良い武器ある?」
「1500か。ウチはそれなりな武具しか扱ってねぇからな、その辺りならそれなりに揃ってるぜ。どんな武器を使うんだ?」
「だってさ、マーサー」
「え? ううん」
武器か。考えてなかったんだよな。
オーソドックスなのは剣だけど、ありきたりな気もする。
結構種類はあるみたいだし、ここは任せてみよう。
オススメで出してくれるって美月も言ってたし。
「オススメで頼む」
「おススメ一丁、頼むね!」
「あいよ。ちょっと待ってな」
俺の注文と美月の可愛いお願いを聞いたソレナリ武具店の主人は、店の更に奥へと消えていった。
どうやら倉庫か何かになっていて、在庫が仕舞ってある感じのようだ。
現物があるかどうかは分からない。
ゲームだからな。
いやそれよりも、もっと気になることがある。
「あの店員さん何かおかしくない?」
「うん?」
美月は可愛く小首を傾げている。
可愛い。可愛いが、分からないのか。そうか。
「口調や仕草が妙に男らしいというか、なんというか……」
「ああ、そっか! 当たり前になってて忘れてた! このゲームではNPCの外見も全部入れ替わってるんだよ」
「マジ?」
「マジマジ」
「マジかぁ……」
まさかNPCまで入れ替わってるとは。
クソをどこまで極めるつもりなんだこのクソは。
中身じゃなくて外側っていうのがあれだよなぁ。
美人なのに中身が武具屋のおっさんのままとは……。
逆パターンよりはマシなのか?
あ、もしかしてあのバルムも?
……多分そうなんだろうな。
やけにジジイ臭かったし。ただのロリババアじゃなかったのか。
「待たせたな。こいつなんてどうだ?」
「え?」
「どうだ、こいつが1500なんてのはかなりの掘り出しもんだぞ」
「そうなの!?」
「何せ適正のある奴が中々いなかった、売れ残りだからな。本来の値段は3000だ」
「いや、あの」
「おー、そう言われると使ってる人最近見ないような? お買い得だね!」
「すみません、ちょ、ちょっと待ってもらっていいですか?」
「ああん? 年季の入った風貌の割に腰が低い奴だな」
「どうしたのマーサー?」
思わず素で割り込んでしまった。
店主には訝しげな視線を、美月には不思議そうな顔を向けられた。
それも仕方ない筈だ。
俺の目の前に置かれたその武器とやらは、どう見ても武器じゃない。
「これ、武器、なのか?」
「おいおいあんた、何言ってんだ?」
「武器だよね?」
「武器だな」
二人共にキョトンとされてしまった。
しかも武器と断言されてしまった。
いやだってこれ、どう見てもバナナなんだけど。
しかも一本とかじゃなくて、五本連なった状態の。
しかも熟してない緑色。
それが二セット。
何故これが武器?
「んで、どうすんだ、買うのか? 買わねぇのか?」
「これはちょっ――」
「買う買う! ね、マーサー?」
「買う買う! 買います!」
「あいよ、毎度あり」
こうして俺達はソレナリ武具店を後にした。
俺の手の中にはバナナが二房。
これが1500c……つい買っちゃったけど、美月が自信たっぷりだったから大丈夫だろう。
もし大丈夫じゃなくても、美月を信じて取った行動だから大丈夫だ。
どうとでもなる。
さて、今日はまだ時間もある。
美月も余裕があるそうで、早速武器の試し切りにフィールドへ出ることにした。
機嫌の良さそうな美月の案内で街を歩く。
道中のNPC達もよく見ると動きに違和感がある。
いかついおっさんが子供と井戸端会議をしていたり、怪しげな占い師みたいなお婆さんが爽やかに焼き鳥を売っている。
違和感しかない。なんで気付かなかったんだろうか。
まぁ、気にしてても仕方ない。
おじさんの見た目で中身がおばちゃんなNPCはもうオネエにしか見えないが、気にしない気にしない。
そんなこんなで街の外へやってきた。
門にいた兵士がロリとロリだったのは絵面がまずくない?
「ほら、外についたよ!」
「ああ、着いたな。……どうした?」
美月が何かを促している気がして、聞いてみた。
「武器は装備しないと意味ないよ?」
「あ、ああ、そうだったな」
とても不思議そうに言われてしまった。
ああ、うん。
それはそうなんだろうね。ゲームでは常識と言っていい当たり前のことだ。
ただ、俺はまだこのバナナを武器だと認識出来てなかった。
いやだってただのバナナだし。
でも武器、そう武器なんだ。
美月が武器だと言ったら武器だ。
よし、理解出来た。
これは武器だ。
一度ストレージに仕舞う。
そこから、ダブルタップで装備する。
すると、俺の両手の甲を覆うようにバナナが出現した。
なるほど?
これって爪かもしくはナックル的な装備なんだな。
絵面が間抜け過ぎる。
「ここはまだ街のすぐ近くだから弱いけど、ほとんどがノンアクティブだから気を付けてね」
「え、いや、それは?」
「これ? 街の外だとPKがよくあることだから警戒しとかないとね。街のすぐ近くが案外油断しやすくて危ないんだから」
「ああいや、そうじゃなくって――」
言葉を続けようとして気付いた。
なるほど。
武器のグラフィックもおかしなことになってるんだな。
美月がかっこ可愛く腰から二匹のサンマを引き抜いたのを見て、更に数秒かけてやっと理解出来た。
クソゲーが過ぎない!?