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クソ満ちて開眼、心の眼

主人公は悟りを開きました。


 俺、四十くらいのダンディー&ワイルドなナイスガイ。

 年季の入ってきた顔には一つの大きな傷がある。

 髪は短くてツンツンしていて紫色。

 野性的な渋かっこいい感じを目指してみた。


 俺の前に立つこいつ。

 二十手前くらいのワイルド&ワイルドなナイスガイ。

 イケメンだけど素で悪そうな造形になってて、獰猛な感じがする。

 銀髪で半端な長さだけど妙に似合っている。


 二人ともが身長190cmは越えてるし、腕も脚も太い。

 ムッキムキだ。

 どうしてこんなむさ苦しいことになっているのかと言うと……。


「マーサーのキャラ、かっこいいね! 私のこのキャラも負けてはないけど!」


 興奮気味に可愛い声で話すこいつがそう、美月だったからだ。

 実際フレンド登録する時にフルムーンという名前も表示された。

 正真正銘美月だ。

 この声を俺が聞き間違える訳もないし。


 美月の作った可愛いキャラとキャッキャウフフが出来ると思っていた。

 美月のことだしいっそキャラメイクなんてせずに、素の状態も有り得るんじゃないかと期待していた。

 それがまさかのマッチョとは。


「ああ、ありがとう。み……フルムーンは、そんな感じのキャラが好きなのか?」

「うん。昔から逞しい男キャラがお気に入りなんだよねー。勿論イケメンなのも好きだけど、ひょろっちいのはあんまりかな。筋肉こそパワー、みたいな?」


 ムキッ! っとでも聞こえてきそうな見事なポーズを取ってくれた。

 キャラと動きは合ってるんだけど、中身が美月だと思うと目を背けたくなる。

 声が美月のままのせいで一層ギャップが際立っている。やばい。


「ボイスチェンジャーは使わないのか?」

「ボイスチェンジャー? あー、マーサーはちゃんとキャラに合った声にしてるもんね。私も合わせようとしたんだけど、選んだボイスがボイチェンオフになってたらしくてさー。このキャラを作るのに一日かけてたからやり直す気力が沸かなくって」


 えへへ、と照れたようにフルムーンが笑う。

 その顔でやられても可愛くはない。むしろ怖い。

 だけど声は美月。

 可愛い。

 そうだ、中身は美月だ。

 ちょっと見た目が変わったくらいでなんだ。

 心の目で見ろ俺。

 そこには変わらない、いつもの美月がいる筈だ。


「確かにそれはやる気も失せるよな」

「だよねー。それに、私自身の声なら可愛いしいっかなーって、ね!」

「ははは」


 自信たっぷりに笑う美月。

 おお、見える、可愛い美月の姿が俺には見える!

 VRくらいじゃ俺の愛は覆せない。

 どんな姿になってもやっぱり美月は可愛いなぁ!


「それじゃあまずは、装備でも揃えに行こっか」

「ああ、そうだな。……そういえば何一つ持ってなかった。ストレージの中も空っぽだ」

「チュートリアルエリアでもらえるのは知識だけだからね。お金はいくら持ってる?」

「えーっと……2000(コク)だな」

「それならそれなりの武器が買えるね。付いてきて!」


 前を歩き出す美月の後へ続く。

 武器。武器かぁ。

 歩くだけ、攻撃するだけで精一杯だったからそこまで気が回らなかったが、無いと困りそうだ。

 クソ過ぎて忘れてたけど、このゲームよくある剣と魔法のファンタジー風味のゲームだからな。


 ヘルプやネットを読み漁った感じだと、PKも出来るらしい。

 実際にやった人の話ではないが、ゲームの紹介やテストプレイのレビューなんかにあるってことは出来るんだろう。

 そんな中武器も持たずにノコノコ歩いていたらただのカモだ。

 初心者だろうとPKするとメリットはあるみたいだしな。


 街並みを眺めながら美月について歩く内に、一軒のお店の前に到着した。

 美月がくるっと振り返って右手をお店の方へ向ける。

 得意げな顔がまた可愛い。


「着いたよ!」

「ソレナリ武具店……?」


 それなり? なんとなく微妙な店名だ。

 だけど美月が自信満々に連れてきてくれた店だし、悪いところじゃないだろう。


「そう、ここはそれなりの武器が買える、この街では上から四番目くらいの品揃えのお店だよ!」

「それは良いのか?」

「品質的にはやっぱりそれなり、かな。だけど今のマーサーには丁度良いと思うよ」

「そうか。それじゃあ入ろう」


 店内は割と広々としていた。ゲームだし、外観と違うくらいよくあることなんだろう。

 壁にいくつもの武器が飾ってあり、反対側には防具類が掛けてある。


 武器がいっぱいある光景は心が踊る。

 VRゲームってすごいな。本当にファンタジー世界のお店に来た気分だ。


「ほら、こっちこっち」

「お、おう」


 思わずじっくりと眺めていると、後ろから美月が追い越して行った。

 と思ったら俺の手を取って引っ張っていく。

 ああ、美月の小さな手が俺の手を……!

 ありがとうVR! このクソゲーをやってて良かった!


「店員さんにお願いしたら好みの武器を出してもらえるよ。自分で決められなかったらおススメで頼むのもありだね」

「分かった」


 店の奥にはカウンターが設置されている。

 その向こう側には、一人のNPC。

 それはオッサンじゃなく、細身で髪の毛がすごく長い、キリッとした感じの美人さんだった。

 服装もシュッとしたワンピースみたいな感じで、武具店には不釣り合いに見える。


「いらっしゃい。見ねぇ顔だな、今日はどうした?」

「えっ」

「なんだその面は。ここはソレナリ武具店だ。購入、作成、鑑定、冷やかし、どれか一つ選びな」


 見た目と違い過ぎる口調に思わず固まってしまった。

 えっ、この見た目で口調は武具店にぴったりな感じなの?

 ついでに言うと声は見た目にぴったりのクール美女ボイス。

 なんだそれ。

 キャラの癖が強すぎる。


「ごめんごめん、私のツレなんだけど人見知りが激しくてさ。今日は武器を買いに来ただけだから、怖がらせないであげてよ」

「ったく、一緒にいるからそうなんだろうとは思ったがな、それならもうちょっと面倒見てやれ。固まっちまってたら買い物なんて出来やしねぇぞ」


 言葉が出ないでいると、美月がフォローを入れてくれた。

 二人の様子を見るに顔見知りのようだ。

 なんなんだこのNPCは……。



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