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クソゲーの所以


「……マジか」


 初めてのVRゲーム。

 俺の淡い恋心の為に始めたそれは、思ったよりも辛く厳しいものになりそうだ。

 だってこれ、歩いてるのに前に進まないんだぜ?

 クソゲーっていうかもうゲームのていすら整ってない。

 

 だけど諦める訳にはいかない。

 歩けないからなんだ。

 それでも前に進まなければいけない。


 永遠の片思いを脱出するべく、俺はこの一歩を踏み出すんだ。

 今までの俺の人生を表すような……こんな足踏みじゃなく、本当の一歩を!







 今俺の目の前には、一つの機械が置かれている。

 簡単に言ってしまえば、ゲーム機だ。

 しかしただのゲーム機じゃない。国内ではまだ流通数の少ない、VRゲームを遊ぶためのゲーム機の最新機種だ。


 見た目は分厚いヘルメット。

 これを被って起動すればあら不思議、一瞬で意識はゲームの世界へと誘われる。

 今のご時世、VRといえば五感を引っ提げてゲーム世界にダイブして、身体を動かす感覚で操作するのが当たり前。

 それでも技術の進歩は止まらない。


 原理は同じでも、画質、再現性、反応速度なんかを少しずつ更新しては新型が発売される。

 なんたって売れるからな。

 昔はガチのゲーマーはゲームの為に人生を賭けるくらいの勢いだったなんて話を聞くが、もっと酷くなってるんじゃないだろうか。


 今やゲームだけの話じゃないからな。

 なんでもかんでもフルダイブフルダイブ。

 ある程度の加速機能なんてのもあるせいで、電脳世界で電脳パソコンを16時間打って実働8時間、なんてこともビジネスマンの間では常識らしい。

 大人って怖いね。


 まあ、そんな話はどうでもいい。


 俺は今からこの機械を使って、とあるゲームを始める。

 ……始めようと思うんだけど、ちょっと尻込みする。


 何故か。

 ここで、今朝の回想に入る。


「あっ、公輝まさきじゃん。おっはよー!」

「フンフンフーン、と、おはよう。今日も朝から元気だな」

「朝は元気なものじゃない?」

「はは、お前は昼でも夜でも元気だろ」

「だいせいかーい! 流石、よく分かってるね」

「何だかんだ付き合いが長いからな」


 にへへ、とだらしなく笑う、サイドテールの良く似合うこいつは城嶋美月じょうしまみつき

 背は小さく、顔も小さく、でも目は大きく、髪は黒くてサラッサラ。

 全てが『可愛い』で出来ている!


 同じ高校に通う高校二年生。

 ついでに言うと、何故かずーっと同じクラスの幼馴染。

 密かに好きな相手でもある。


「でもなんか公輝も機嫌良さそうじゃない?」

「お、分かる?」

「付き合いが長いからね」

「実はだな、なんとあのヘブンズゲートMk-Ⅴが手に入ったんだよ!」

「えっ!? あの、ヘブンズゲートの最新型を!? どうしたのそれ!?」


 美月はぐいっと乗り出してくる。

 うおお近い近い!

 こいつってば距離が近いからドキドキしっぱなしで困る。

 肩を押して距離を離して、なんとか落ち着かせる。

 ちくしょう可愛いぜ。

 いっそ抱きしめてしまいたかった。

 いや、さすがにキモい。我慢だ我慢。


 なんとか平静を保ちながら、説明する。

 母親が懸賞で当てたこと。

 世間と機械に疎い母親が扱いに困っていたのを、もらったこと。


「うえー、いいなー! 私も欲しーい!」

「ドンマイ」


 聞き終わった後、美月はすごく羨ましそうに喚きだした。

 羨ましがってる姿も可愛いなぁ。

 あげてしまいたくなるが、それは出来ない。


「ちょうだい!」

「やだ」

「ケチ!」


 美月のお願いを即答で切って捨てる。

 美月もすかさず罵倒を返してきた。

 この程度のやりとりで俺が怒ったりすることはない。

 むしろ幸せだ。

 不機嫌な顔も可愛いからな。


 回想終了。

 と言う感じのなんやかんやがあって、俺は一つのゲームをプレイすることになった。

 それが≪トライアンドエラーオンライン≫。

 伝説のクソゲーだ。


 美月曰く、


「発売直前に致命的な不具合が発覚したけど、価格を五百円にして販売を強行したんだよ! それに合わせて名前も変更! 安いし、怖いもの見たさもあって結構な数の人が手を出したんだけど、やっぱりダメ。動かすことすら満足に出来ないクソゲーだったの!」


 ということだ。

 チラッとネットの評価なんかも漁ってみた。

 値段のせいか数はやたら多い。

 色々書いてあったが、要約すると美月の言う通り移動出来ないクソゲーという感想がほとんどだった。


 一部、キャラメイクもクソって書いてあるのが気になる。


 何故そんなゲームを購入したのか。

 それは、美月に薦められたからという、ただそれだけのことだ。


 なんとこのゲーム、美月もプレイしているらしい。

 元々、美月は結構なゲーマーだ。

 だからもっと近づくために、俺もVRゲーム機が欲しかった。


 しかし、値段が高すぎる。

 一介の高校生に手を出せる額じゃなかった。

 それが今回、棚から牡丹餅ぼたもちの如く降って湧いた。オカンから最新機器だ。

 この機会を活かさない理由が無い。


 動けない?

 きっとやり方が悪かっただけだ。

 美月がプレイしているということは、絶対に移動できないというわけではない筈だ。

 動けたという感想がネットにないのは謎だけど、出来るのは間違いない。


「よし、やるか」


 ヘブンズゲートを被る。

 そのままベッドに横になる。

 起動すると意識がゲームの世界に旅立つ。

 つまり現実では意識を失う。

 だから横になって使用するように、しっかりと注意書きがあった。


 ゲームを起動。

 キャラクターの作成も結構凝っているようだ。

 目の前に、俺と同じ体系と顔のモデルが現れた。


 今の俺が着ているのと同じ、シンプルな布の服に簡素な鎧を付けている。

 茶色いし、多分革だ。


 これが俺のキャラクターになる。

 確定するまでは好きに弄れるようだ。


 ちなみに、変更しなければそっくりそのままの姿で決定される。

 俺の場合は現実と同じ姿だな。

 これは、所有者登録の時に使った写真が元になってる筈だ。


 目が死んでるのは実際に操作すれば変わるんだろうな?

 どうせ弄るけど。


 せっかくなので長めの髪を短くして、色は紫に。

 顔に傷でも入れておくか。

 目は角度を上げて鋭い感じ。

 体格もでかくして、脚や腕の太さも足す。



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