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第6話 そして出会いは巡る

「…………」


 重苦しい空気が流れる、会社帰りのファミリーレストラン。

 それもそのはず、正面に座っているのは、半年前にここで別れを告げた由美子だ。

 しかも誘ったのは僕の方。なかなか本題を切り出せずにいる。


「相談を持ち掛けるなんて、虫の良すぎる話だと思うんだけど……」

「どうしたの? 何かあったの?」


 だが由美子は、過去の経緯など気にも留めていない素振りで、親身になって聞き役に徹する。

 その言葉に少し安堵した僕は、今抱えている悩みを由美子に打ち明け始めた。


「例のプロジェクトの根幹を設計した君に聞きたいんだけど……」

「何かしら?」

「ソフトをアンインストールしたっていうのに、今でもみーたんからの嫌がらせが続いて困ってるんだ……」

「みーたんねぇ……」


 由美子の表情に、薄ら笑いが浮かぶ。

 甘ったるすぎる彼女の呼び名は、二人の間では愛情の表れでも、第三者には寒々しかったか。みーたんの名前を口にしたことを、僕は後悔した。

 だが事態は深刻。スマホを取り出し、今の被害状況をさっそく由美子に伝える。


「これを見てくれ。これは多分、消去したはずの彼女が作成したSNSのアカウントだ。こうして今でも僕に粘着してくる。インスタントメッセージだって、毎日頻繁に届く。どうしたらいいかわからなくて、おかしくなりそうなんだ……」

「ユーザーは何十万人といるけど、そんな被害報告は受けたことがないわね」


 由美子の答えはいたってクール。

 だが手渡した僕のスマホをしげしげと眺めると、由美子はバッグからノートパソコンを取り出し、テーブルの上で開く。

 続けて由美子は眼鏡を取り出すと、それをかけてパソコンの操作を始めた。


「あれ? 由美子、目悪かったっけ?」

「度は入ってないわ。ブルーライトをカットする、作業用のやつよ。とりあえず、サーバーに変なデータがないか見てみるわ」

「頼むよ。僕の権限じゃ見られないし、そこまでの技術もないから」


 由美子は、眼鏡の赤いフレームをクイっと人差し指で持ち上げると、その奥の眼光を輝かせた。


「きっとこれね……」


 由美子は一言つぶやくと、大きく息を吸い込み、怒涛の勢いでキーを叩き始めた。

 だがそれも一瞬。次の瞬間には優しい笑みで、僕を見つめた。


「悪さをしていそうなデータの残滓は、完全に消去したわ。もう大丈夫よ」

「本当に? ありがとう、助かったよ」


 由美子の凛とした所作は、まるで手術を成功させた執刀医のよう。

 その自信たっぷりの言葉に、ここ数日僕の心を覆いつくしていた分厚い雲が、みるみると晴れていく。

 自分でも変化がわかるほど、固い表情を緩めていく僕に、由美子が一言釘を刺す。


「こんな電子データに、うつつを抜かしてちゃダメよ? わかった?」

「ああ、もう懲りたよ。これからは気を付ける」

「じゃあ、帰りましょうか。今日はあなたのおごりでいいわよね?」


 そう言って、伝票を差し出す由美子。そういえば前回支払ったのは彼女だったっけ……。

 僕がレジで清算を済ませると、店の出口で待っていた由美子はそのドアを開く。

 店内に吹き込んだ風が、随分と伸びた彼女の髪を揺らした。




「――君もポニーテールなんてするんだね。とっても似合ってるよ」


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